ディストピア面接シミュレーション「ご応募ありがとうございます」をプレイ。搾取まみれの社畜生活に耐えきれるか［WePlay2025］

　中国のインディーゲーム開発チーム・IceLemonTea Studioが手がける面接シミュレーションゲーム「ご応募ありがとうございます」が，WePlay Expo 2025にプレイアブル出展されていた。本稿では，その試遊版の遊んだインプレッションをお届けする。


　本作の舞台となるのは，「空島」と呼ばれる都市だ。空島最大級の企業に新卒として採用されたプレイヤーは，見習い面接官となり，正社員として登用されることを目標に，日々の面接業務を淡々とこなしていく。なにせ，この社会では仕事を失うと家賃が払えず，ホームレス状態になると不法滞在者として強制排除（！？）されてしまうのだから。


　グラフィックスはレトロなドット絵だが，ノスタルジーよりも冷たさが際立つ印象だ。アパートの窓の外では雨が絶え間なく降り続いていて，帰宅しても息抜きできる雰囲気はほとんどない。この乾いた質感は，入国審査シミュレーションの「Papers, Please」を彷彿とさせるものがある。



　ゲームプレイもまた「Papers，Please」からの影響が色濃い。業務開始後，プレイヤーは会社が提示する採用基準に沿いながら候補者の履歴書を精査していく。面接といっても会話はほとんどなく，判断材料は渡された書類のみ。不採用と判断した場合は，その理由を選択し，「応募感謝」ラベルを印刷して返却するのみである。


　選別にミスがあれば警告が入り，給与の減額という形でペナルティが科される。失敗が続けば家賃を払えず，ホームレスまっしぐら――つまりゲームオーバーだ。なお今回の試遊版はイベント仕様のため，給与バランスはかなり緩和されているようだった。


　応募者の中には，基準を突破するために書類を偽造する者もいる。見抜けなければミス扱いだが，裏を返せば“見破られなければ採用される”という皮肉にもなっている。このあたりは，本作のディストピアな世界観が強く出ているところだ。


　物語が進むにつれ，会社の要求は次第にエスカレートしていく。卒業証書の提出から始まり，インターン経験の必須化，さらに「感情評価書」といった謎めいた書類まで求められるようになる。扱う資料が増えることで，より冷静かつ迅速な書類判断が求められるわけだ。

時折，妹から「お金を貸してほしい」というメールが届くこともある。ストーリーにどう影響するかは不明だが，ぎりぎりの生活の中での送金は大きな決断であり，プレイヤーの心情に重くのしかかる

　また，この高圧的な社会は応募者に限らず，面接官であるプレイヤー自身も蝕んでいく。“崩壊指数”が上昇すると業務効率が落ち，最終的には会社をクビになってしまうため，定期的なストレスケアが欠かせない。


　アパートの端末ではメールや掲示板をチェックでき，世界の裏側や社会状況が垣間見られる。部屋のインテリアやストレス軽減グッズを購入し，なんとか心の安定を保つ必要がある。


　物語の進行に伴い，スペシャル応募者が現れることもある。面接で何度も落とされ続けている不遜な男や，学生時代の親友など，物語の節目で重要な役割を果たすキャラクターたちだ。彼らにどう対応するかによって展開が変化するようなので，本編でどれだけルートが分岐するか期待が高まる。

　余談だが，現代中国における就職環境は日本とは大きく異なる。近年の新卒者数は1000万人を超え，圧倒的な買い手市場になっているからだ。そのため理想の仕事に就くには，高い学歴に加えてインターン経験までが求められる，非常にハードルの高い社会構造となっている。

開発チームは就活に苦しんでいた卒業生で，趣味でゲーム開発をはじめたそうだ

　加えて多くの企業（とくに大手IT企業）が35〜40歳前後を境に人員整理を進めており，若年層へと入れ替える動きも珍しくない。本作の世界観を生み出した要因の一つには，こうした過酷で複雑な社会背景があるのかもしれない。