
インタビュー
[インタビュー]モノトーンの名作「カラス」が現行機で復活。RS34が貫く,作家性むき出しのシューティングゲーム作り
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「カラス」は,元々2006年にアーケード版が発表された縦スクロールシューティングゲームだ。天界と地上が分かれ,地上人が天界へ手を伸ばす世界で,天界人と地上人のハーフである少女「カラス」は,父が言い残した「神の血」を求めて地上へと赴く。
本作の物語は謎が多いが,断片的にしか語られない。世界の成り立ちや天界と地上の間で進む陰謀,カラスの機体に込められた秘密などは,ステージ開始時に一瞬だけカットインする細切れの言葉やキャラクターたちのやり取り,プレイ中に流れるメールニュースといった情報から考察するしかないのだ。
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プレイは爽快でありつつ,物語はダークな鬱系シューティングとして「カラス」はコアなファンを獲得した。開発元であるマイルストーンが休止したのち,IPは同社スタッフが立ち上げたRS34が継承し,移植が熱望され続けた。そんな中,2024年11月に「カラス」移植のクラウドファンディングが行われ,300%の達成率を記録。2025年11月27日に現行機版の発売が決まり,「新規アレンジBGMとオリジナル曲の切り替え機能」「縦画面モード」を実装,限定版にはフルカラー64ページの設定資料集と特典CDが付属,さらにはプレミアが付いているサントラ「KAROUS ORIGINAL SOUNDTRACK - SPRING RAIN -」も復刻されることになったのだ。
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RS34のシューティングゲームは,システムもかなり独特である。操作していないと自機がシールドを構え,敵弾を防いでくれる。攻撃のメインはショットよりも近接武器のソードであり,一定時間無敵化する特殊装備を頻繁に使える。システムを理解すると,無敵で突っ込みソードで斬りまくり,敵弾はシールドで反射して攻撃する……といった独特のプレイ感を楽しめる。
「カラス」ではドラムンベースとピアノが効果的に使われた激しくも美しいBGMが鳴り響き,設定とプレイ感と楽曲が合わさった独特の世界に浸ることができるのだ。個性の塊のようなRS34のシューティングについて,RS34の代表取締役社長である増渕佳人氏と,サウンドやアートワークを手掛ける永田大祐氏に,気になるところを聞いてみた。
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4Gamer:
よろしくお願いします。ついに現行機に移植される「カラス」と,RS34作品についてお話を聞ければと思います。
増渕佳人氏(以下,増渕氏):
RS34の増渕です。弊社はシューティングゲームを主に開発していて,今年は「イルベロスウォンプ ハッピートゥギャザー」,昨年は「ラジルギ2」といったシューティングゲームを発売しています。おかげさまで「カラス」は目標額を大きく上回るご支援をいただいて発売にこぎつけることができました。
永田大祐氏(以下,永田氏):
サウンドとデザイン全般を担当している永田です。ゲーム内のキャラクターデザインからマップなど,すべてのデザインをしてる感じですね。
4Gamer:
今回「カラス」を移植しようと考えたきっかけと,クラウドファンディングで支援を募った理由を教えてください。
増渕氏:
過去作の移植を続けるなか,「ラジルギスワッグ」の次は「カラス」をやろうということになりました。ただ,弊社は非常に小さい会社です。「カラス」が現在に通用するのかどうかを確かめたかったため,クラウドファンディングを行いました。
4Gamer:
クラウドファンディング中に思い出深いできごとはありましたか。
増渕氏:
支援をお願いしている期間中は「毎日,夜の12時からラジオを放送する」目標を立てました。30分のラジオではありますが,とても大変で,1日も休まずにやり切れたのが思い出深いですね。いまだに12時が近くなるとソワソワします(笑)。
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4Gamer:
クラウドファンディングを走り切るだけでも難しいのに,ラジオも休まず放送し,さらに支援が目標額の300%を達成できたのは大きな成功といえるのではないでしょうか。
増渕氏:
初期段階では100%を達成できるかどうかドキドキしていたくらいなので,300%は夢物語のように感じられます。各種のネクストゴールは達成すると思わずに考えたものなので,今は嬉しい悲鳴を上げていますね。
ご支援いただいたからには,皆さんを裏切らないようにしようとは常々考えていました。もう少しこうすればよかったかなというのはありますし,もっといろいろできるのではないかとも思います。
4Gamer:
クラウドファンディングの返礼として2025年3月にシークレットのミニライブも行われていますね。プレイヤーと直接触れ合ってみていかがでしたか。
増渕氏:
ミニライブでは限定情報を公開し,皆さんと秘密を共有できました。弊社は,開発とプレイヤーとの信頼感は強いほうなのではないかと思います。現状を報告するのは「もうちょっと好きでいてね」とお願いする側面もありました。
4Gamer:
会社の規模は決して大きくないとは思いますが,クラウドファンディングと各種返礼の制作,ラジオの放送にミニライブ開催と大活躍ですね。
増渕氏:
その辺りは,弊社メンバーが以前勤めていたマイルストーンという会社で鍛えられた側面もあります。人数が少ないため1人が手掛ける範囲がとても広く,永田のように音楽とデザイン全般を手掛ける者もいれば,私のように販売から進行までやる者もいる……といった状態でした。RS34でもこうした雰囲気が受け継がれています。1人が手広くやるからこそ,やりたいことをコンパクトながら形にしやすく,お客様との信頼感にもつながっているのではないかと思います。
4Gamer:
今回の移植版は,当時の「カラス」をそのまま楽しめるものと考えていいのでしょうか。
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そう考えていただいて構いません。解像度を現行機に合わせたものとし,BGMをアレンジ楽曲に変えるモードや縦画面でプレイできるモードも加えましたが,基本的には当時のままの雰囲気を再現した移植版です。ただ,解像度が上がったせいで細かい部分までクッキリと見えるようになってしまい,ノイズ的に感じられるところがあったのは確かなので,当時の開発者に話を聞いて修正するかどうかを決めていきました。
4Gamer:
解像度の向上で“見えすぎてしまう”のはゲーム移植や映像作品における,あるあるですね。
増渕氏:
現在は細かい部分の不具合について,目で見て修正している段階です。幸いにも当時の開発者が弊社にいますので,プレイ感としては変わらないものを提供できると思います。ただ,当時から「カラス」は開発者の想定を越えてプレイする人が結構いまして,この辺りをどう再現しようかと悩んでいるところです。例えば,敵弾を得点アイテムに変える「化」アイテムを使った稼ぎは,思った以上の使い方をされましたし。
4Gamer:
フリーズ問題がありましたしね。でも,オリジナルスタッフが目で見て修正するのであれば安心です。公式番組で進捗が出ているので,やきもきしないで済む辺りも現代的ですね。
公式チャンネル「株式会社RS34広報部」
少数精鋭で作家性をむき出しにし,尖ったシューティングを作り続ける
4Gamer:
オリジナルの「カラス」は極彩色のグラフィックスが溢れるゲームセンターでモノトーンのビジュアルが注目を集めていましたが,なぜモノトーンだったのでしょうか。
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その前に作ってた「ラジルギ」が色数の多い派手なビジュアルだったので,単純に「次はまったく色がないヤツにしよう」ということです。マイルストーンの社風的に,セールス的な視点や世のトレンドなんて一切関係なく決められたんです。我々はマイルストーンの初回作である「カオスフィールド」を除き,ずっと少人数でシューティングを作っていた気がします。だから,少人数であることは我々の特徴でしょうね。
4Gamer:
「カラス」といえば,謎めいていてダークなムードが魅力的ですが,こうした世界設定にした理由を教えてください。
永田氏:
1990年代末期の空気を引きずって作ったのは確かです。当時のクリエイターや作品は「新世紀エヴァンゲリオン」の影響を避けて通れないところがあるじゃないですか。だから「カラス」も暗い雰囲気の世界から意味深なワードがいっぱい出てくる。今ならもっと詰めて作っただろうし,ここまであからさまにしなくても作品を完成させるやり方もあったとは思います。でも,質感や言葉の選び方なんかは,当時できた精一杯だったんです。
4Gamer:
関わる人数が少ないから,作家性をむき出しにできるわけですね。私も「カラス」の世界に引き込まれ,一瞬しか表示されない単語を見ようとして目を凝らしましたし。ここまで作家性やエゴを押し通して作品作りに没頭できたというのは,作り手としてある意味幸せだったのではないでしょうか。
永田氏:
当時はこれが正解だったと思いますし,当時にしかできなかったものです。20年経つと僕自身もほとんど違う人間になってますから,当時を思い返せば「もうちょっといろいろな人の話を聞いたほうが良かったかも」とも感じます。だから,今回移植作業をしていても,「ああ,こういう風に作っていたのか」と,ある意味他人事のように見てしまうところはありますね。
4Gamer:
移植作業を進めつつ,当時の思い出がよみがえってきたりもするのでしょうか。
永田氏:
よみがえってきますね。ストーリーにしろ,意味深な言葉にしろ,適当に考えたものではなく,当時の自分が置かれていた状態から出てきたものですから。今はメッセージの言葉を整理していて当時の自分を「若いなぁ」と思いますし,ちょっと引いた視点から「人間って変わるんだな」と感慨があります。
実はこの当時,子供が生まれているので,今だったらこんなストーリーにはしないし,こんな言葉は使わないだろうと感じるのも確かです。今作るならこうじゃないな,とは思いますが,消し去りたい黒歴史というわけではないです。
これは年を取ってから感じることなんですが,作品ってリリースした瞬間から,買ってくれた人や好きになってくれた人のものになると思うんですよ。確かに「カラス」はダークな世界設定ですが,ミニライブでは「私は『カラス』に救われたんです」という人もいました。だから今は,作品を大切にしなければならない責任のようなものを感じますね。
4Gamer:
お二人が手掛けられているシューティングには独特の味があると感じられます。例えば「カラス」に出てくる「D.F.S.」や「ラジルギ」の「アブゾネット」など無敵化できるシステムが気軽に使えます。さらに,敵弾を破壊する手段が豊富にあり,自機がシールドを構えていて何もしなくても前方の弾を防いでくれ,敵弾を斬るソードがあり,プレイ中に世界観を設定するメールの文章が流れたり……と,一目見てRS34のシューティングであると分かりますよね。
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永田氏:
最初に作った「カオスフィールド」だけは,多くの人が関わって好き勝手やるので迷走して,一貫性がなかったです。これがフラストレーションになったので,2作目の「ラジルギ」からはデザインを全部僕がやることにしたんです。そして,ゲームシステムの弊社らしさや敵の硬さなどのプレイ感は,メインプログラマーである松本(学氏)の味です。
少人数で作っているからこそ,「ラジルギ」以降の作品はソードとシールドで敵弾を斬ったり防いだりし,プレイ中にはメールが届くんですよ。
4Gamer:
メールのシステムも面白いと思います。シューティングも物語を重視するようになったなか,ゲーム内でスムーズに世界設定を伝えられる。なぜ画面内に情報を流そうとしたのでしょうか。
永田氏:
「画面で常に何かが動いている」だけでなく,「無駄なものを含めて,情報が常にガチャガチャ動いている」ものにしたかったんです。そこで,新幹線の車内に流れる文字ニュースからヒントを得て,プレイの邪魔にならないようウインドウの透明度を調整するなど試行錯誤して現在の形になりました。
4Gamer:
「画面で何かが動いている」だけではダメで,「無駄なものを含めて,情報が常にガチャガチャ動いている」ものにしたかったというのは興味深いですね。画面に動きがあり,それに何らかの意味が込められていなければならない……というようにも感じられます。それは「ラジルギ」や「カラス」がプレイヤーの目を惹かなければならないアーケードゲームだからというところも大きいのでしょうか。
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永田氏:
それもあります。プレイヤーだけでなく,後ろで見てる人の目も惹きたくて,いろいろなやり方を考えましたね。
例えば「ラジルギ」の制作中は,自機の「羽根」「本体」「ソード」「シールド」をカスタマイズ可能なものにしたいというアイデアがありました。「俺の自機はこれだ!」と後ろで見てる人に自慢できたら楽しいんじゃないかと考えたんです。
また,「ラジルギ」でメールが届いたり,「カラス」のステージ間で意味深なワードが短時間で表示されるのも後ろで見てる人向けです。当時はガラケーの時代で,今のように動画を撮れないですよね。だから,一瞬だけ何かが表示されると記録はできないけれど,記憶には残るんです。
4Gamer:
なるほど。アーケードならではの工夫ですね。そして記録できないことが前提になっているのも面白い。
永田氏:
だから「カラス」の意味深なワードもできるだけ表示時間を短くして読めないように調整してました。「まだ長い」「まだ読めちゃう」って感じですね(笑)。そうすれば,プレイヤーさんも気になって次のプレイにつながりますし,後ろで見てる人も「今の何!?」ってちょっと楽しくなるんですよ。
「ラジルギ」や「カラス」ではタイトル画面の上部に毎回変化する短文を出してますが,これも同じ考え方によるものです。「ラジルギ」のときは百数十種類も準備したんですが,「カラス」では「倍にしよう!」って256種類仕込みました。
4Gamer:
そんなにあったんですね。どうりで毎回違う言葉が出るわけです。
永田氏:
本当は何千種類か入れて,同じものは絶対に見られないという位にしたかった(笑)。今回の移植に当たって,データを整理するのもいろいろと大変でしたよ。今では言っちゃいけない言葉や,当時の会社の名前といった使えないものも混ざっていますから。
増渕氏:
自機のカスタマイズは「Karous-The Beast of Re:Eden-」,横から流れる文字は「ラジルギ2」,いろいろなもののボリュームは「イルベロスウォンプ ハッピートゥギャザー」でそれぞれ実現することができました。
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4Gamer:
その時点では実現できなかった構想も,ちゃんとゲームに昇華できているわけですね。現在ではメールやタイトル画面のメッセージをAIに作らせてボリュームを増やすという手も考えられます。毎回生成させれば,それこそ「同じものは絶対に見られない」という位になると思いますが,やはりご自身の言葉でなければならないのでしょうか。
永田氏:
AIを否定する気はないですけど,「カラス」に出す言葉は全部自分で書きたいですね。何千個の言葉を出すなら,その何千を全部書きたい。これはもうこだわりなのでしょうがないです。そうしないと自分が納得できないですから。マップの自動生成は許せますが,言葉を始めとした「直接意味が生じるもの」は絶対に自分で書きたいです。
増渕氏:
「らしさ」がないとダメなんです。だから永田が出してきたものについても,らしさがなければリテイクをかけます。らしさについて言語化するのは結構難しくて,それができればAIにそれっぽいものを生成させられるかも知れませんね。でも,ゲームの中に出すものには全部目を通したいんです。
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4Gamer:
少人数制作で,個人のこだわりを最大限にまで打ち出すのがRS34のシューティングというわけですね。
永田氏:
「カラス」も,今見るとタイトル画面に出てくるワードも少ないし,ゲーム中に飛んでくるメッセージも少なくて,1回のプレイ中に同じものが出てきたりもする。当時の自分には「もっとこだわれよ!」といいたいですよ。
増渕氏:
こだわりといえば,永田のこだわりがいかに強烈であるかを感じたできごとを覚えています。
私が永田と出会ったのは,学生のときにマイルストーンでバイトをしていた頃です。ドリームキャスト版の「カラス」ではハイスコアが保存されないバグが発覚し,回収するかどうかを決める会議が行われました。そこで真っ先に「回収すべし」と手を挙げたのが永田と私だったんです。
私は学生だったので,回収にかかる費用を考えていませんでした。でも社会人の永田はお金の重さを十分知ったうえで,ゲームへのこだわりから回収を主張したわけです。そんな永田とずっと一緒に仕事を続けてきて,しかも「カラス」を移植しているというのは運命的なものを感じますね。
4Gamer:
小さな会社だからこそ回収は避けたいけれど,それではクリエイターとしての責任を果たせないと考えた。
増渕氏:
マイルストーンには永田以外にも強いこだわりを持つ者たちがいて,そこに就職を決めたからには,こだわらないと生きていけなかったんです。
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今でなければ作れないものを作り続けたい
4Gamer:
「カラス」の新作「カラス2 - 乱反射のサンギス -」も開発決定のアナウンスが行われました。PVには「月面での新たなフロゥトの建設」「日本再開発計画」など,謎めいた単語が次々にカットインしてきて,期待も高まっています。
永田氏:
そんなところまでは誰も見てないだろうと思ってたんですけどね(笑)。「カラス」から作りたいものややりたいもの,質感やテーマはそんなには変わってないのかなと思います。すごく悲惨に見えるストーリーでも,希望がどこかにあればいい。
新作を作る際は「当時は若かったからできてた」「今はもう年を取ったからできない」という気持ちに引っ張られないようにしたい。僕の創作の原動力は怒りで,いろいろなものにたいする怒りを結晶化するような作業です。だから常にさまざまなことに怒っていますが,当時と今では怒る対象が変わってるんですよね。
4Gamer:
そうした変化は,例えばPVだとどこに現れていますか。
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「日本再開発計画」なんて単語が入ってますが,これは若いころの僕だと興味を持てなかった分野です。「カラス」の2006年当時は「新世紀エヴァンゲリオン」の影響が大きくて,大きな謎や「ゼーレ」「ネルフ」といった組織が暗躍するような話を作ってました。
今は僕の目線にももう少し現実的な見方が加わってます。主張を直接表現できなくても,プレイした人の心に何かが残り,ご自身で何かを考え始めるきっかけになってくれればいいなと思うようになりました。
今から作ったらどうなるかは自分たちでも興味がありますから,新作は本当に作りたいです。でも,PVを一コマ一コマ見ている人がいるというのは,ちょっと恐怖を感じますね(笑)。
増渕氏:
いや,見た人はPVをコマ送りにしますよ。僕もコマ送りにはしますし。とはいえ,コンプライアンス的に引っかかるものがたまに混ざっていても「まあいいだろう」と(笑)。
永田氏:
そんな単語は混ぜてないつもりなんだけどな(笑)。でも,「こりゃマズいですよ」というようなものが出なくなったらダメだと思いますよ。それは悪い意味で大人になっていて,作品が作れなくなってるということですから。
増渕氏:
「カラス」も「ラジルギ」も「イルベロ」も,絶望的で嬉しくない話ではあります。けれど,プレイして救われたといってくれる人もいて,それが我々の救いにつながっているんです。
4Gamer:
当時から描きたいものが変わっていないというのも,ファンにとっては嬉しいことだと思います。
永田氏:
「ラジルギ」「カラス」「イルベロ」は全然違う作品に見えるけど,根底にある世界観は全部僕が作っているから,同じものが流れてます。
「ラジルギ」には表面に明るいものがあるけれど,「カラス」はそこを取っ払ってるからシリアスに見える。だけど,どの作品も言っていることや,気持ち悪さみたいなものは同じなんです。
これから新作を作るのであれば,そうした部分を高解像度に描ければいいなと思います。あとは,生きているうちにあと何本のゲームを作れるかですね。
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増渕氏:
昔は僕も二徹三徹してましたが,今はもう無理ですしね。「イルベロ」の文章を書くときは,テンションを上げるためにわざと二徹してましたが,「カラス」や「ラジルギ」のような勢いではもうやれなくなっちゃってますから。あと何本作れて,どれくらいの予算でどれくらい売れるかは常に考えているところです。
4Gamer:
今後,新規タイトルは作っていくのでしょうか。
増渕氏:
RS34は常に新作やシューティングの新しいウェーブを作りたいと思っています。我々は「カオスフィールド」を出した2004年からシューティングを作り続けてきて,シューティングに関わらなかった期間はないといってもいいメンバーが集まっています。シューティングを進化させ,弾幕系以降の「その先」が生まれるきっかけになればいいと思います。
4Gamer:
「カラス」ではPC(Steam)版も配信されますが,世界へのアプローチは続けますか。
増渕氏:
英語に対応することで多くの人に遊んでいただきたいですね。例えば「イルベロ」は海外のファンが多く,いただくメールは大抵英語です。全世界にいる1人でも気に入っていただけるタイトルを作っていきたいです。
永田氏:
ウチのゲームももう少し売れてくれると嬉しいんだけどね(笑)。やっぱり売れるほうが嬉しいけど,何がヒットするかは正直分かりません。こうすればヒットするという決まりがあるわけではないですし,ずっとプロを続けていれば分かるようになるわけでもない。どこかに「RS34って凄くいいじゃん!」っていってくれる石油王いないですかね(笑)。
増渕氏:
そうしたら世界一のシューティングを作れるね,とはいつも冗談でいってるんですよ(笑)。
永田氏:
そのためにはまず世界に向けて作品を出し,石油王の目に触れさせるしかない。ここはマジで考えていますよ。
4Gamer:
ゲーム内メールの文章もあるので,ローカライズは大変なんじゃないでしょうか。
増渕氏:
確かに大変です。海外の方から「何を書いてあるか分からないから,翻訳したデータをくれ」というメールをいただいたこともありますしね(笑)。
永田氏:
ウチのゲームのメッセージは日本語だからこそ成り立つといった側面も強く,そのまま訳しただけだと意味が全然分からなくなるんですよ。
増渕氏:
おかげさまで,弊社ではファンの方に翻訳を担当していただけることになりました。しっかりと意味を汲み取ったうえでの訳文になっていますので,「カラス」を海外の方にプレイしていただいた際の反応は凄く気になります。
永田氏:
自分たちが考えてることを全然違った文化圏の方に届けられるというのは夢がありますね。
4Gamer:
メールの内容は現代でも通用するものなので,確かに海外の反応が気になります。RS34のシューティングに初めて触れる人が「カラス」をプレイしても大丈夫でしょうか。
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大丈夫です。「カラス」は初心者でもプレイしやすくて,イージーモードは「アーケードシューティングの中で一番簡単」といわれることもあります。敵弾は多いですが,避けるゲームではないんですよ。敵弾を防ぐシールドや,無敵化するD.F.S.といった対処法が多いのが特徴なので,見た目に怖じ気着かずプレイしてほしいです。
永田氏:
「カラス」を始めとしたウチのシューティングは,ショットを撃たないと勝手にシールドで身を守るものが多いです。防いだ敵弾を跳ね返したりもできるので,避けないほうが有利になるくらいです(笑)。
世界設定やキャラクターの表現に,2000年代の質感がすごく出たゲームになっていますから,若い人にあの時代特有のにおいや雰囲気に触れてみてほしいですね。
あと,ドラムンベースに徹したシューティングはあまりないですから,音楽や雰囲気が気になった人はぜひ触ってほしいです。
ゲームは上手くないと好きと言えないというか,「雰囲気が好き」「音楽が好き」といったろころから好きになるというのがあまり許されてない感があるじゃないですか。でも,僕にもそういう作品はいっぱいあります。「カラス」もそういう風に好きになって全然OKだということも発信していきたいですね。
増渕氏:
昔のゲームを移植して終わり,という場合もありますが「カラス」は違います。弊社はカラスというキャラクターをずっと描き続けていて,「カラス」関連の「THE CLEAN ROOMS PROJECT」は続けていこうと考えていますので,なにがしかのコンテンツは提供できます。
今後の展開が現在PVを公開している「カラス2 - 乱反射のサンギス -」になるのか,「カラス」にまつわる別のタイトルになるのかは分かりません。「ラジルギ」や「イルベロ」の続編を望む声をいただけるかも知れないので,状況を見ながら作っていきたいですね。
4Gamer:
「カラス」世界にはさまざまな設定が存在しており,断片的に明かされていますが,今後は全貌が公開されるようなことはあるのでしょうか?
永田氏:
限定版には設定資料集がつきます。過去作のために新しく描き下ろすというのはちょっと違うと思うので,当時の資料はほぼすべて載せています。
ただ,設定資料集に載っていないようなことを今後明らかにすると,そこで終わりな気がするので,あんまりそうしたくないなと思ってます。
とはいえ,突き放しすぎるのも良くないので,バランスを取っていきたいですね。僕が死ぬまでには,全作品の世界に共通して存在する設定や,その中で「ラジルギ」の相田タダヨや「カラス」のカラスはどういう位置にいるのかを何らかの形にしたほうがいいのかなとは思います。
ただ,タイミングが難しいですね。分からないことがもてはやされた時代があり,分からないとダメな今がある。僕は分からない風にしたいし,少なくとも作品ではすべてを明らかにはしないと思います。
4Gamer:
現在はタイトルでほぼすべての内容を解説するようなものもありますし,時代の変化を感じますね。やるとしたら,どういったところで情報を明かしていくのでしょうか。
増渕氏:
折角興味を持ってくださったつながりを無駄にしたくないので,イベントのディスプレイやサントラのライナーノーツとかに大事なことが書かれてる感じにするかもしれません
ゲームが面白かったところで終わるのではなく,受験や就職などの折に触れて作品で言ってたことを思い出して励みにしてもらえれば嬉しいです。
4Gamer:
ずっと心の中に存在している作品であって欲しいということですね。
永田氏:
「当時の作品のキャラクターを描く」のではなく,「皆は実在していて,今も生きている」ということは凄く意識してやっています。僕が作った世界ではなくて,僕がその世界に行って,見てきたことを描いている。「ラジルギ」のみんなも「カラス」のみんなも,ずっと僕と一緒にいる。だから,入り口がどこでも全然かまわないのがRS34の作品なんです。
実は,僕自身も作品のことを全部分かってるわけではないです。作品全体やキャラクターがずっと生きていて,そこにあるというか,そんな作品になってほしいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
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2006年に生まれた「カラス」は,「新世紀エヴァンゲリオン」の影響を色濃く受け,謎めいたワードで表現される鬱屈とした世界観を持っている。しかし単なる時代の模倣ではなかった。少人数開発だからこそ実現できた,むき出しの作家性。それは永田氏が語る「怒りの結晶化」という創作の原動力によって,プレイヤーの心に深い傷跡を残す作品となったのだろう。
興味深いのは,約20年の時を経て移植される今,開発者自身が「他人事のように」当時の自分を見つめ直していることだ。子供が生まれ,人生観が変わり,それでも「黒歴史ではない」と言い切る。作品は発表された瞬間から,作り手の手を離れ,プレイした人々のものになる――そんな永田氏の言葉には,クリエイターとしての成熟と,作品への深い愛情が感じられる。
RS34の作品群に共通するのは,徹底したこだわりと,プレイヤーとの信頼関係だ。一瞬しか表示されない200を超える意味深なワードも,すべては「記録」ではなく「記憶」に残すための仕掛け。AIが台頭する時代にあって,なお「全部自分で書きたい」と語る永田氏の姿勢は,ある意味で時代に逆行しているかもしれない。しかしそれこそが,RS34のシューティングが持つ唯一無二の個性を生み出しているのだろう。
「カラス」の移植は,単なる過去作の復刻ではない。クラウドファンディングで300%の達成率を記録したことが示すように,この作品には今なお多くの人を惹きつける力がある。そして「カラス2」の開発決定は,この独特な世界がまだ終わっていないことを告げているはずだ。
シューティングゲームの新しい波を作りたい――そう語る増渕氏と永田氏の挑戦は続く。弾幕系以降の「その先」がどんな形になるのか,少人数開発の強みをいかしたRS34の次なる一手に期待したい。そこにはきっと,今の時代にしか作れない新たな「怒りの結晶」が待っているはずだ。
―――2025年8月29日収録