企画記事
[インタビュー]「三國志」40周年企画! 歴代の“武将イラスト”の変遷を,実際に描いてきた人たちと眺めてみた
「左慈」の場合
4Gamer:
一方,亀井さんが挙げた「左慈」は「三國志12」仕様ではあるものの,ニュートラルなどどこ吹く風とばかりに過去一はっちゃけてますね。
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亀井氏:
その理由は短めに話したいところです(笑)。
4Gamer:
なにかあるようで。
ではまず,左慈には逸話が多いものの,そもそもの姿形はどこから着想を得たんでしょう。見た目はチラホラと変遷してきたようですが。
亀井氏:
着想の根底には,“豆本”などと呼ばれる「中国劇画 三国志」(中公コミックス)という書籍があります。
これは中国作家さんが代わる代わる描いてきた伝統的なイラスト集で,三国志関連の資料としては数十年と重用されています(※)。
※中国では「連環画(れんかんが)」と呼ばれる絵本。物語を挿絵と見出し文だけの1ページで表現している。かの横山光輝氏も,これら三国志の連環画を参考に,マンガ「三国志」を描いていったのだとか
4Gamer:
アメコミ的な作りなんですね。
亀井氏:
似てますね。
そして昔はこれ以外に参考にできそうな資料がなかったので,会社にそろえられた全巻をみんなで読んでいたんです。
カメラマン:
私も周りの三国志ファンも,昔はみんなこれ見てました。
4Gamer:
ほえー,そんなに。
となると,三国志の(二次資料ではあるが)一次資料的なものを探すときは,この本が原点になっていたと言っても過言ではない?
亀井氏:
そうですね。「三國志」シリーズのデザイン面は,この本を公式の参考資料として扱ってきたといって差し支えないです。
各人物の姿形だけでなく,ヒーロー的なのかヒール的なのかといったキャラクター性も参考にしましたし。ずっと見てると「この作家さんのこういう感じ,好きだなあ」ってファン心も湧いてくるくらいです。
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4Gamer:
三国志の種子保管庫みたいな存在なんですね。
それを踏まえてイラストの話に戻ると,やはり「三國志12」の左慈はハジケっぷりが目を引きます。関羽の場合,人物に目がいかないからと青龍偃月刀を控えた反面,こっちはもう魚が主役ってな構図ですよね。
亀井氏:
これはもうですね,当時「三國志12の左慈はどんな感じにしよっか?」とディレクターと話し合っていたんですよ。
そしてそのころ,私も彼も趣味の釣りに熱中していましてね。
4Gamer:
あっ(お察し)。
亀井氏:
左慈には,曹操が宴席で「松江の鱸(すずき)があれば」と言った際,その場で竹竿で鱸を釣り上げてみせたという逸話があります。
さらに制作当時,「中国からやってきた鱸がいる」と釣り界隈で話題になっていて,ならばということで描きました。
なんの脈絡もないわけじゃなくて,ちゃんと逸話とも関連があるわけですが,はい。ただ私が魚を描きたかったというね。
4Gamer:
シンプルで分かりやすい。
まあでも,これが趙雲や周瑜でなら絶対に無理でしょうが,「左慈だからこの構図でもいい」って判断はありそうですね。
亀井氏:
まさにそうです。これは左慈という人物だからできた絵です。
4Gamer:
ちなみに,今回はなぜ左慈を選んだのでしょう。
亀井氏:
左慈は「三國志III」から登場しました。最初のころは武将として登用できない,町に出てくる系のNPCでしたが,これまでのイラストはすべて私が手がけてきたので愛着があるんです。
「三國志12」のころはデザインの分業体制もできあがっていましたが,この左慈に関しては原案から校了まですべて私が手がけたので,そういう意味でもちょっと思い出に残っています。
前回の「信長の野望」のときもお伝えしましたが,私は黒田官兵衛とか松永久秀とか,とにかくクセのある人物が好きなんですよ。だから仙人も好きですし,南蛮の武将とかもめちゃくちゃ好きなんです。
4Gamer:
南蛮武将となると,兀突骨とかパンチ強めな人が多いですが。
亀井氏:
兀突骨,大好きです。名前の時点で好きです。これは12の画集ですが,えっと孟獲じゃなくて,祝融じゃなくて,沙摩柯でもなくて……。
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4Gamer:
南蛮武将には,南蛮武将というほかないギトギトさがありますねえ。
亀井氏:
あっこれです。私が描いた兀突骨。
これはもう「俺の代表作だ!」って言わんばかりに力を込めました。
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4Gamer:
もう顔からして,ザ・兀突骨って感じで(笑)。
亀井氏:
兀突骨は当初,違う子に描かせたんですが,ちょっと大人しかったんですよね。「これだとまだ普通の人だよね。もっとこう,もっといこうよ」って表情を詰めていったら,ちょっと人間離れしました。
4Gamer:
南蛮武将は資料的にも,創作感がより強いんですかね。
亀井氏:
はい。彼らは想像で補う部分がとくに多いです。
ただ,ファンタジーな武将たちのなかでも,さらに+αのファンタジーみを足しつつ,「ちゃんと三国志らしいファンタジー」にしないといけないと考えて,人間の迫力みたいなのを軸に据えています。
4Gamer:
異民族系はだいたい同じですかね。
亀井氏:
ですね。異民族も中国文化も豆本に頼りはしましたが,見た目の大半は創作が占めています。ですが,豆本も今ではあくまで原点的な扱いで,最近の実態としては豆本で描かれた人物像から,コーエーテクモゲームスの武将キャラクターへと独り立ちさせています。
例えば,昔の日本では「曹操が悪役。劉備が正義の味方」といった見方が普遍的でしたが,今はそういう見方も合わなくなってきましたからね。そのときどきの我々なりの解釈は,常に足してきました。
「曹操」の場合
4Gamer:
ちょうど話が出たので,木村さんが2人目に挙げた「曹操」を見ていきましょう。なぜ曹操を選んだのか,と聞くにはあまりに疑問のない選出ではありますが,そのへんいかがでしょう。
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木村氏:
私,三国志の主役は曹操だと思ってるんです。
もちろん,劉備や孫権など名の挙がる人物はほかにもいますが,三国時代の主役は曹操と言っていいんじゃないかなと。
4Gamer:
中国ではそう考えるのが多数派と聞きますし,日本でもここ20年は主役化の傾向が強かったですしね。
木村氏:
その影響で,私のイメージもだいぶ揺れてしまいました。
分かりやすい例は「三國志13」の曹操。これは私の担当で,このときは背景デザインも含めて英雄感をイメージしたんですが,前後の曹操はどちらかというと“怖さ”が先立ってますよね?
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4Gamer:
ああ。13の曹操はヒーローっぽいですが,12や14は怖めですね。
木村氏:
世間では「信長と曹操は人物像的に似ている」と言われますが,コーエーテクモゲームス作品の場合,信長は怖さよりも英雄感を強め,対して曹操は英雄感よりも怖さを強めてきた伝統がありました。
ですから,13ではキャラクター像がすこしブレたと言えます。
4Gamer:
事実,並べると差がくっきりと。
木村氏:
ここのブレを自覚したのは制作後のことで,時が経って「三國志14」のとき,方向性を戻すべきだろうと考え直したんです。
14のあと,「三國志 覇道」で描くことになったときも,怖さを感じてもらえるようにと描いていました。
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4Gamer:
三国志という題材を知ったばかりで,当時のコンテンツで曹操のイメージをつかもうとすると,捉え方が異なってもおかしくないのかも。てか,大きくはマンガ「蒼天航路」の影響だと思いますが。
とはいえ,結果的にブレとして修正されたにせよ,「こうした発想をしてくれる」だけでも新しい血の価値がうかがえます。
亀井氏:
おっしゃるとおり。ほんとそうなんですよ。
なにより曹操自体,振り返って眺めるとけっこう変遷していますしね。私が「三國志V」で描いたときは豆本の影響が強くて,官僚的な俗物みたいなイメージで描きましたし。続く「三國志VI」からは実際,蒼天航路の影響がなかったとは言いきれませんし。
木村氏:
「三國志IX」以降は固まってますよね。今の曹操とほとんど同じで。
4Gamer:
そこも「真・三國無双2」の気配をかげそうな。
亀井氏:
あと,劇的な変化なら見てのとおり,「三國志VII」ですよね。
このときはゲーム内容も含めて,「三國志のあり方を変えるべき」と社内で議論がありましたので。デザインも水彩タッチに一新したりして,シリーズとしても一気に変化していった時期でした。
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4Gamer:
7について,武将プレイの企画者にも話を聞いたことが。
亀井氏:
おっ,誰にですか?
4Gamer:
中山さんです。
亀井氏:
あー,中山さん(笑)!
[インタビュー]ゲーム業界でがんばっ定年! コーエーテクモゲームスの“生きる三国志事典”中山茂樹氏(55歳)
成熟したゲーム業界では,徐々に「定年退職者」が増加している。その多くは誰もが知る有名人ではない。ゆえに,1%の有名クリエイターにならずともゲームの最前線で戦ってきた,99%の“名もなき戦士たち”に話を聞いた。
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- 編集部:楽器
- カメラマン:永山 亘
亀井氏:
でも,数十年と曹操のイメージが固まりきらなかったのはある意味,「当人の逸話の捉え方を,デザイナーがどう調理するか次第」だったからですね。この傾向は昔ほど根強かったので。
4Gamer:
デザイナー当人の個性を受容していた,みたいな?
亀井氏:
そういう方針というよりも,昔は単純にゲーム開発の規模が小さくて,「任された人がけっこうな権利を持っていた」からですね。
結果,デザイナーは開発や企画のメンバーとも話し合うものの,その人がこう描くと決めたら,周囲も「あの人はこう描くようです」くらいに,自然と受け止める感覚でいたといいますか。
私自身もそうやって描くことがありましたし,ほかのデザイナーのやり方にはあまりに口を出さない風潮がありました。「三国志V」あたりまでの武将イラストは基本,そうやって手がけられました。
4Gamer:
お仕事的な効率はよさそうですね。余計な折衝もないですし。
亀井氏:
効率っていうより,プライドかな。
現代のゲーム作りは大規模かつ合議性といいますか,いろんな人が関わって作っていきますが,昔は一人親方な感じも強かったので。
木村氏:
個人的には,ちょっと羨ましさもありますね。
ある程度の自由を与えられて,自分のやりたいようにやらせてもらえる環境は,現代のゲーム作りしか知らない私には羨望です(笑)。
「姜維」の場合
4Gamer:
次は私からリクエストさせてもらった「姜維」です。
姜維が好きというより,姜維が好きな人に姜維姜維いわれて染みついてしまった愛着ですが,昔の作品のエンドゲームではよく「蜀に姜維しかいない……」な事態と遭遇したので,印象深い1人ではあります。
亀井氏:
昔はありましたね(笑)。
4Gamer:
しかし,姜維はまさに「おじさんからイケメンに変わった例」ですね。むしろ初代からいたことも知らなかったです。
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木村氏:
「三國志V」あたりからはもうイケメンですね。
亀井氏:
それ以前もおじさん系ではあるものの,「三國志III」「三國志IV」で顔が整ってきてますよね。「三國志V」でヒゲをなくしたのは,当時の上長世代のデザイナーの判断だった気がしますが。
木村氏:
そのとき,なんでヒゲをなくしたんでしょうね。
亀井氏:
なんでだろうね。いやでも,「人形劇 三国志」に登場した姜維が完全に爽やかフレッシュイケメンの路線で,そこからダンディに走っていった気がするので,その影響はあるのかも。
役どころも若いしね。諸葛亮が蜀を託す,最後の頼みの綱だし。
4Gamer:
同じような変化を見られそうなのは,呉の「陸遜」とかも。
亀井氏:
陸遜はね〜。陸遜は同じ系統。だいぶ変わりましたね。
個人的には,関羽を追い詰めた宿敵ということでニクいんですが。後々に劉備にもあんなことしちゃうし(夷陵の戦いで大敗した原因)。
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4Gamer:
そういえば,劉備と関羽の結末にホロリとくる人はよく聞くかたわら,張飛の最期に涙する人って,あまり聞かないような。
亀井氏:
そこもすみません。また人形劇の話になるんですけど,あれの張飛の最期が本当に悲しいの。だいたい番組の司会兼ストーリーテラーを務めていた,漫才コンビ「紳助・竜介」さんの影響です。
当時,紳助・竜介さんはまだ若手扱いで,三国志のこともよく知らずに任されたかと思うんですが,番組後半になると紳助さんが入り込んじゃって。台本かは分かんないけど,のどから絞り出すような「なんちゅうこっちゃ。百戦錬磨の張飛ともあろう武将が,戦いならまだしもこんなところでやられるなんて,悔しい,悔しい」みたいな語り。
あれがもう,ほんとに感情がこもってて印象深いです。あれは人形劇を見ていた子供たちとまったく同じ目線だったからでしょう。
4Gamer:
なるほど。私も横山光輝「三国志」で悲哀や哀愁を感じたクチですが,人形劇ファンの原体験とは温度差がありそう。
亀井氏:
私は紳助・竜介さんのことまで大好きになりましたしね。彼らはただの芸人さんじゃなかった。一般の人が三国志の世界に紛れていくみたいな役割で,番組途中からどんどん身を入れていって,我々と同じ目線で語ってくれる。そういう最高の狂言回しでした。
木村氏:
私も人形劇を最後まで見ておくべきですかね(笑)。
亀井氏:
私も小学生のころだったからね。再放送もあったから,もうちょい下の世代でも見たことはあったかもだけど。
個人的には諸葛亮役の森本レオさんもステキすぎて。
4Gamer:
ほんと,特定年代の方々と三国志関連の話をすると絶対出てくるので,そのうちひも解いていかなければと思わされます……(笑)。
覇道とか,姫とかも
4Gamer:
とまあ,この座組は「パッと思いつく武将」を挙げていると,話が一生終わらないんですよね。まだまだ諸葛亮に趙雲に,夏侯惇に張郃に,孫家三代に周瑜に,呂布に董卓にと,お題にキリがなく。
亀井氏:
夏侯惇は眼帯がね。カッコいいよね。
木村氏:
カッコいいですね。眼帯なしはもう考えられない。
4Gamer:
そういえば,シリーズの最新作は「三國志8 REMAKE」ですよね。
亀井氏:
そうですね。ここにもアートブックだけは用意しましたが。
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4Gamer:
(パラパラとめくりながら)劉備は昔,蜀っぽい緑色のイメージが強かったんですが,2000年代以降はよく赤い着物を着せてますよね。
個人的には,なんか急に印象が変わった気がしてたんですが。
亀井氏:
あれ,変わりましたっけ?
4Gamer:
なんか急に赤くなったイメージがあったような。
たぶん,蜀が緑,魏が青,呉が赤って印象のせいでしょうが。
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亀井氏:
あーあれ。その三色分けはそもそも「真・三國無双」からなんですよ。無双が作られるとき,分かりやすいイメージカラーとして正式に設定されたんです。それまではむしろおぼろげな感じでしたし。
4Gamer:
え? そうだったんですか。いや確かに……という言うにはこちらもおぼろげですが,私は無双に記憶を引っ張られてたんですね。
亀井氏:
昔も大別はされていましたが,勢力としての色分けは無双以降です。
あのゲームは大量のザコ敵を刈り取る遊びだったので,視覚的に「どれが敵か」を一瞬で判断させるために,色を際立たせたんです。それから「三國志」シリーズのほうも勢力色を意識しはじめたので。
木村氏:
私が劉備を担当したときは,赤い着物を描きつつも「一番中側の肌着を緑にして」と注文されましたね。蜀っぽさのワンポイントで。
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4Gamer:
曹操に劉備ときたので,ついでに孫家三代の小ネタはどうでしょう。
木村氏:
あります。すごくエモいのが。孫家は「三國志12」のとき,親子三代で同じ剣を持たせているんですよ。
あのあれ,当社オリジナルの架空武器で,なんでしたっけ?
コーエースタッフ:
「古錠刀」(こていとう)?
木村氏:
それですそれ,古錠刀。孫堅から孫策へ,孫策から孫権へとイラスト上で受け継がれていて,そこに気付くとエモい絵なんですよね。
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4Gamer:
一方で,スマホゲーム「三國志 覇道」はどうでしょう
こちらはコンシューマ版との描き分けを考えたのか。
木村氏:
これも前回お話ししましたが,覇道はモバイル展開とあり,どの武将もカッコいい方向性でまとめています。
それと基本的に戦うゲームなので,剣を突き出すなど,コンシューマ版よりも激しめのポーズを意識しています。
4Gamer:
こう見ると,見た目はやはり変えていませんね。
木村氏:
顔は基本的に変えませんね。表情は変えますが。
あくまでコンシューマ版と同じように描いています。
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4Gamer:
しかしスマホゲームの宿命上,RからSSR,覇道の場合はURの上にさらにLRもあるわけですが,同じ武将の描き分けは大変じゃないですか?
木村氏:
そうですね。そこも「信長の野望」よりはやりやすいですが,描き分けようとしても「ちょっと違いが分からない」とダメ出しされることもしばしばで,装飾品や演出で差別化を図るケースが多いです。
スマホで見せる都合上,馬を構図に取り込むパターンも少なめですが,できる範囲でなんとか工夫してやっています。
4Gamer:
では,おじさん一色のなかに映える華「女性武将」はどうですか。
ここも戦国時代と同じく,資料のなさが悩みの種でしょうか。
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亀井氏:
戦国時代と比べると資料は少ないですが,ファンタジーの余白を踏まえると,やっぱり「三國志」はバリエーションを出しやすいです。
戦国の場合は時代に翻弄される姫が大半ですが,こちらは祝融など,バリバリの武闘派女性も描きやすいですから。
4Gamer:
個人的には長安にいる蔡琰がヒロインでしたが,参加歴が長いキャラクターでいうと,貂蝉や孫尚香ですよね。
亀井氏:
貂蝉は連環計の逸話があるため,ゲームシナリオ的にも欠かせませんからね。絶対に外せない女性ですし,私も大好きです。
孫尚香は打って変わって,自力で劉備を試そうとするなど,強い女性として描けますから。木村の言うように差別化もしやすいです。
木村氏:
髪型もそこそこファンタジーでも許されますしね。日本の戦国時代の姫たちと比べると,見た目を自由に仕立てやすいのがいいです。
亀井氏:
まあ,2000年代以降の女性武将はやっぱり,「真・三國無双」の影響を受けている人物も多いですけどね。
この王元姫とか,無双シリーズで人気になったからこちらにも登場させるようになりましたし。12くらいからだったっけな。
4Gamer:
呂玲綺とかも。
木村氏:
呂布の娘ですね。完全にうちの架空の人物の。
亀井氏:
呂玲綺も人気だよねえ。
コーエースタッフ:
さっきからこの王元姫を見てるんですけど,前髪の描き込みがすごいですよね。これ亀井さんが描いたんですか?
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亀井氏:
これは中国人デザイナーだね。中国のクリエイターは三国志となると,デザインへの気合の入れ方が違うんだよ。題材的に。
4Gamer:
あーありそう。どの国でも起こりうる故郷題材ブースト。
亀井氏:
彼らすごいんですよ。これまでのシリーズでもバリバリにお世話になっています。めちゃくちゃうまい人が何人もいるので。
4Gamer:
その点,日本人デザイナーと中国人デザイナーでなにか違いはあったりしましたか。なにかこう,手癖とか技法とかで。
亀井氏:
一概には言えないんですが,傾向としては「劇画的なキャラクター絵ではなく,写実的な人物画に寄る印象」はあります。
そのうえでも,彼らの表現力は際立ってすごいんですけどね。
4Gamer:
まあこの王元姫とか,宮廷画って言われても納得しそうですし。
亀井氏:
日本のデザイナーだと,マンガやアニメで育った描き方が土台にあり,そこにリアルさをくっつけて整える考え方の人が多いです。対して中国人デザイナーは,最初からリアルにものを見て描きます。
その違いから,キャラクターとして垢抜けない人物画に感じることは実際あって,ゲームキャラとしての統一感を出すために,チェック時は我々の感性でバランス取りの手を入れます。だからまあ,彼らとはいいとこ取りし合ってるというか,お互いに補い合ってる感じです。
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4Gamer:
「三國志」もまた,ゲーム業界におけるパブリックイメージを形成してきて,競合作にしても御社ライセンスアウト作品が多いほどです。
だからか,「同じような絵柄で真っ向勝負してくる例」はけっこう少ないですよね? これは独走状態で個性を発揮できたと言える反面,競合がいないゆえの五里霧中な1人レースでもあったのではないかなと。
亀井氏:
ええ。中国の歴史である三国志を,限られた資料のなかで独自の表現を探ってきた私たちなので。向こうの人から見たら,デザインが受け入れられないじゃないかという不安は過去にもありました。
けれど,現代の三国志はあちらでもファンタジーに楽しまれていて,なかには「コーエーテクモゲームスの三國志武将のほうが昔から見慣れている」という方々も多数いらっしゃいます。
インターネット上にもゲーム画像がいろいろなところに貼られていて,手前味噌ですが,今の影響力にはうれしい驚きがあります。
4Gamer:
40年支持されてる独走ともなると,そりゃ溶け込みますよね。
亀井氏:
「信長の野望」が日本で長く続いたように,「三國志」が同じ座組でずっとやれているのは,日本のファンのみならず,海外の方々にも親しんでもらえてきたからだと思うので。本当にありがたい限りです。
私たちとしては,必死に仕事して,とにかく目の前の業務をこなして,落ち着いて振り返るとようやく見えてくるくらいですけどね(笑),
4Gamer:
がむしゃらにやっていて,あるとき,ふと実感が追いついたと。
亀井氏:
本当,そんな感じの日々でした。
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4Gamer:
ではでは締めに入るとして,「三國志」シリーズも40周年。
この先も「三國志15」「三國志16」「三國志3594」と新作が予感させられますが,今後のデザインの展望はいかがでしょう。伝統を継続する。新しい表現を探る。そうした抱負はありますか。
亀井氏:
今まさに,チームで挑戦してるよね。
木村氏:
そうですね。何十年とやってきた歴史の積み重ねも,そのままにしていては古く感じさせてしまいます。だから柱となる表現に,最新のトレンドや技術を付加していくことで,より高みを目指す。今後はそうやって「三國志」というIPをデザイン面で支えていければと考えています。
4Gamer:
実際,すでに挑戦をはじめているのでしょうか。
木村氏:
はじめています。試行錯誤に頭に悩ませている最中です。
2Dデザインの流行や技法は,国内でも海外でも常に向上し続けているので,私たちも研鑽を続けなければ時代に取り残されます。その不安感に襲われないためにも,勉強は欠かせません。
なにより,シンプルに,ここは「クリエイターとして負けたくない」ところですので。我々なりにがんばっていくつもりです。
4Gamer:
今後も進化がとどまらなさそうで。
こんな頼もしい後輩を見て,亀井さんはいかがですか。
亀井氏:
頼もしいですよね。新しい「三國志」を描いていく原動力は,彼のような若い世代に委ねます。それが私の楽しみですから。
そのうえで,シリーズの守っていかなきゃいけない伝統と,変えなきゃいけない方法。それらを見誤らないよう,口出ししすぎず,大半を任せつつも,古い私にしかできない判断をすこしだけさせてもらう。そうやってこれからもチームを支えていきたいです。
もう完全に任せてもよさそうなんですけどね(笑)。これくらいなら,私にもできることがあると思いますので。
4Gamer:
デザインチームの40年を味わわせていただいた気分です。
本日はありがとうございました。今後の挑戦にも期待しております。
亀井氏&木村氏:
ありがとうございました!
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