かわいい動物の「リズム天国」風ゲーム「リズムアニマルカフェ」は，中国ミーム盛りだくさん。プロデューサーに話を聞いた［WePlay2025］

　X.D.がパブリッシング，Salt Game Studioが開発する「リズムアニマルカフェ」が，中国・上海で開催されたインディーゲームイベント「WePlay Expo 2025」に出展されていた。
　シンプルな操作でリズムに乗れる「リズム天国」に着想を得たタイトルで，かわいい動物たちのビジュアルと，音楽に乗る気持ちよさが魅力だ。


　ステージは動物を選択してスタートする形式だ。最初の主人公は犬の会社員で，第1ステージでは，上司から餅を口に突っ込まれていた。


　各ステージは，最初にチュートリアルから始まる。ひし形のマークは，上司やほかの社員がアクションをするタイミングを示し，実際にボタンを押すのは，キーが書かれたタイミングである。


　中国には「画餅充飢」という故事成語がある。絵に描いた餅で空腹を満たそうとする，という意味だ。そこから転じて，従業員を空想的な言葉で慰め，実利をもたらさない経営者の行為を，俗に「画餅」と呼ぶようになったという。
　こうした背景もあってか，中国語における「餅」という言葉には，聞こえはいいが実際には何の実体もない空虚なもの，というニュアンスが含まれているようだ。


　音楽に乗るだけで十分楽しく，キャラクターの動きもかわいい。元ネタを知らなくてもまったく問題ない一方で，あちこちに小ネタが仕込まれているんだろうと思うと，知識欲も刺激される。


　本作を開発するSalt Game Studioの本体であるSalt Sound Studioの創設者で，本作のプロデューサーを務める一罐塩氏（以下，ソルト氏）に話を聞いた。なお，ソルト氏の名前の由来は，本名に中国語で塩を意味する発音の漢字が入っているらしく，そこからひとつまみの塩という意味の活動名にしたそうだ。

ソルト氏

4Gamer：
　先ほど，X.D.の方からもともと音楽スタジオだったとお聞きしています。会社について教えていただけますか。

ソルト氏：
　Salt Sound Studioは，私が立ち上げた会社です。ゲーム関係のサウンド制作やアフレコなどの音声収録といったことまで，音楽関係を幅広く手がけているスタジオです。


4Gamer：
　音楽会社として活動してきた中で，なぜゲーム制作にチャレンジされたのでしょうか。

ソルト氏：
　私自身がもともとゲームが好きで，ゲーム音楽制作に携わってきたのもそれが理由です。
　音楽制作を通じて，ゲーム開発の流れや作り方を理解していくにつれ，自分でゲームを作りたいと強く思い，実際に挑戦してみることにしました。

4Gamer：
　これまで音楽で携わってきたゲームは，どのようなジャンルが多いですか。

ソルト氏：
　ジャンルは幅広く，PC，モバイル問わず，インディーゲームもあれば，大型プロジェクトもあります。自分たちが面白い，好きだと思えるゲームに参加して音楽を作りたい，という気持ちが強いですね。

4Gamer：
　リズムアニマルカフェは，ポップなビジュアルですが，音楽の方向性はどうなりますか。

ソルト氏：
　基本は，ゲームに合う音楽を優先して作っています。私の好みは，ホラーだったり，激しかったりするものですが，自分が作るゲームでみんなにハッピーになってほしい，という思いがあり，明るくポップな楽しい雰囲気をテーマにしています。

4Gamer：
　デモ版の範囲だけでも，中国のミームがけっこう入っているそうですね。中国人のスタッフから元ネタのヒントを聞いて，なるほどと思いました。どのようにミームを入れていますか。

ソルト氏：
　深い政治ネタのような難しいものではなく，誰でも経験しそうな職場ネタ中心のエンタメミームを入れています。
　インスピレーション元である「リズム天国」も日本固有のミームや言葉遊びが多いゲームで，それに対するリスペクトやオマージュの気持ちもあります。もちろん元ネタを知らなくても楽しめますが，元ネタを調べるとさらに面白くなる，というバランスを狙っていますね。

4Gamer：
　リズム天国だとどういうネタがありますか。

ソルト氏：
　たとえば，「あかちゃん」「あおくん」みたいな，名前と見た目が連動していて，知っている人だけ分かるような言語ネタとかですね。

※「トスボーイズ」のことだと思われる。海外では「Aka-chan」「Ao-kun」「Kii-yan」という表記で，それぞれ赤色，青色，黄色の服を着ており，日本語が分かれば，名前の由来に気づけるというものだ

　本作も，文化の違いがあっても，雰囲気でノれるように作っているので，もしネタを理解できた人はより深く笑える構造となっています。

4Gamer：
　中国と日本で，職場文化は違うと思いますか。

ソルト氏：
　かなり通じる部分が多いと感じています。日本発祥の「社畜」という言葉が，中国でもそのまま使われることもあるくらいです。
　感覚が似ている部分があるので，逆に，中国ミームも日本のプレイヤーに刺さる可能性があると思っています。

4Gamer：
　最初のステージでは，犬の主人公が出てきました。これは，どんなミームが込められていますか。

ソルト氏：
　中国では，社畜的な存在といえば，犬が結びつくようなところがあり，採用しました。


4Gamer：
　上司も犬なのも，理由がありますか。

ソルト氏：
　はい。社畜に対してガミガミいうボスやリーダーのことを，皮肉交じりに「犬が，吠えるように何か言ってる」というミームがあり，それをゲームに落とし込んでいます。
　ボスが何を言っているか分からない，理解しづらい命令を出すという意味も含みます。

同席したスタッフ：
　うちのスタジオ内では，逆にボスがよくいじられる立場なので，その雰囲気もゲームに入っていると思います（笑）

4Gamer：
　いじられ役なんですね（笑）
　2人目の主人公はパンダですが，こちらはどんなキャラクターでしょうか。


ソルト氏：
　何でも屋的な役割ですね。設定は開発中に何度も練り直していて，初期は怠けがちだけど，大きな目標だけはある，みたいなパンダでした。普段は配管やテレビなどの修理をしていて，いつかは宇宙船を直したいと思っているような，ギャップを入れて。

　ただ，中国文化では，パンダは神秘的なイメージが強く，そのイメージを反映した方が面白いと思い，設定を逆にしました。
　昔は，飛行機レベルのハイテク機械の修理など，高度な仕事をしていた達人だけど，今は落ち着いて，街やカフェで人助けをしながら生きている感じです。
　元超一流シェフが，今は屋台でチャーハンを振る舞っているような。でも，ゲーム内の別ステージでは，元のすごさを感じられる演出も用意しています。

4Gamer：
　なるほど。キャラクター同士のつながりもあるんですね。

ソルト氏：
　基本はカフェにやってきたキャラクターたちの別々の物語が展開されますが，ゆるやかなつながりやイースターエッグを用意しています。
　先に来た犬が，あとに来た猫の悩み解決を手助けする，というイメージで。カフェのお客さん同士が友達になり，温かい関係を築いていきます。

　会話とかで直接説明するというよりは，演出でプレイヤーに想像力を発揮してもらいたいですね。二次創作的な余地も残したいです。


4Gamer：
　収録ステージはどれくらいを予定していますか。

ソルト氏：
　リリース版は，5人の動物キャラクターが登場し，それぞれ7ステージ，全35ステージを予定しています。
　リリース後もDLCなどの形で，新しい動物を追加したり，カフェのカスタマイズを増やしたりする予定です。

4Gamer：
　プレイしていて，複数のキーを使い分けるシーンもありましたが，どのくらい複雑になりますか。

ソルト氏：
　操作は最大3キーまでです。3つのキーはそれぞれ「ド」「ミ」「ソ」のような3つの音に対応させ，リズムだけでなく，音程も合わせるような体験を目指しています。
　第1章から複数キーで操作するステージが出てきますが，誰でも楽しめる難度に調整し，直感的な気持ちよさを感じてほしいです。

4Gamer：
　現在はPC向けですが，ほかのプラットフォーム展開は考えていますか。

ソルト氏：
　将来的には，PlayStationやSwitchなどのコンソール，モバイルも視野に入れています。Steam版を最初にしたのは，Steamワークショップに対応させて，Modや自作ステージを公開できるようにしたいからです。
　プレイヤーの二次創作で，より長く楽しめる作品になればいいなと。

4Gamer：
　とんでもなく難しい譜面とかも生まれそうですね。

ソルト氏：
　はい。人間がプレイできないほど難しいけど，見る分には面白いような鑑賞譜面とかも生まれたら，動画投稿もより広がりそうだなと期待しています。

4Gamer：
　2026年リリース予定とのことですが，開発は順調ですか。

ソルト氏：
　開発自体は順調ですが，スケジュールがタイトで，チーム全体がかなり精一杯な状況です。
　もっと良くしたい，という改善アイデアが次々と出てきやすいジャンルなのもあり，良い意見はいろいろとありますが，時間とのバランスで焦りも出ているのが本音ですね。

4Gamer：
　現在の開発体制について教えてください。

ソルト氏：
　ゲームを開発するSalt Game Studioには8人，Salt Music Studioには20人ほどのスタッフがいます。ゲームはSalt Game Studioが主体となって開発していますが，サウンド関係についてはSalt Music Studioのメンバーも協力しています。

4Gamer：
　現在，Steamでデモ版が公開されていますが，製品版ではどのように変わりますか。

ソルト氏：
　正式版では，キャラクターやステージ数が増えるだけでなく，リズムゲーム以外の要素も大幅に強化する予定です。
　デモ版のステージの完成度は高いのですが，カフェの体験がまだまだで。コーヒー店らしさがまだないのもあり，正式版でお店の外観やUIを全面的に作り直して，よりかわいく魅力的なお店にします。

　また，プレイを通じてカフェの装飾を手に入れて，カスタマイズできる要素も追加します。ステージだけでなく，キャラクターとの交流でも入手できる予定です。

　また，マンガやADVパートなど物語要素も増やし，動物たちがカフェで交流する要素も強化します。
　XのようなSNS演出も入れて，キャラクターの投稿を見たり，ストーリーと連動させたりしていく仕組みを目指しています。

4Gamer：
　かわいいキャラクターが多いので，正式版が楽しみです。本日はどうもありがとうございました。

――収録日：2025年11月22日