
インタビュー
[インタビュー]音楽活動再開! 再び走り出した作曲家・東野美紀氏の想い
今回は東野氏に,音楽活動を再開したきっかけや,コンサートの注目ポイントなどについてお話をうかがった。
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「NEVER ENDING MELODIES」公式サイト
元同僚からの声かけで音楽活動を再開
4Gamer:
本日はよろしくお願いいたします。
東野さんは長らく音楽活動を休止されていましたが,2024年に活動を再開されました。まずは,そのきっかけをお聞かせいただけますか。
東野美紀氏(以下,東野氏):
KONAMIさんを退職後に子供が生まれてからも,「ツキヨニサラバ」という作品でフリーランスとしてお仕事を受けたことはあったのですが,子育てと作曲を両立させることが難しく,いったん機材一式を手放して子育てに専念することにしたんです。
4Gamer:
活動休止には,そういう事情があったんですね。
東野氏:
子供が中学受験を終えたタイミングで,そろそろまた音楽活動を再開しようかなと思い立って,機材や楽器をまた一式買うために働きだしたんです。そうやって資金を貯めて,目標額に達したらお仕事をやめて音楽活動に戻ろうと決めていました。
ちょうど2年ほど前に目標額に達したんですけど,そのタイミングで,KONAMIさんで同僚だったTECHNOuchiさん(竹ノ内裕治氏)から「『バウンティシスターズ』というシューティングゲームでご一緒しませんか?」と声をかけていただきまして,「やります!」とお答えしました。
4Gamer:
TECHNOuchiさんからのお声がけがあったんですね。
東野氏:
はい。TECHNOuchiさんはすごく先輩思いで,私を気にかけてくれて,それまでも「またやりませんか?」とちょくちょく声をかけてくれていたんですよ。
私がそろそろまた活動を始めようかなと思ったタイミングと「バウンティシスターズ」の制作のタイミングが合った形です。
4Gamer:
久々にゲーム音楽を作られてみて,いかがでしたか?
東野氏:
ゲームのお仕事に久しぶりに携わって,やっぱり曲を作るのは私の強みが生かせる仕事だなというのをあらためて思いました。ですが,やっぱりそれ以上に課題も多くありました。
4Gamer:
例えばどういったことでしょう?
東野氏:
まずは,自宅の制作環境ですね。今も最低限のものしかなくて,その中で作ると表現に制限がありますので,誰かのサポートが必要なこともあります。
あとは,実戦感覚がまだ完全には戻っていないので,記憶を手繰りながらやっていますね。そして体力的な問題もあります。昔は平気で徹夜していたけど,今はあまり無理できないなとか(笑)。
4Gamer:
長いあいだゲーム制作の現場から離れられてからの復帰ですが,かつてとの違いなどで戸惑いなどはありませんでしたか?
東野氏:
いろいろありますね。今はフリーランスなので,自宅で作曲するんですけど,会社の中で制作するのとはまったく違いますね。オンライン上でミーティングをするのも当たり前になっていますし,今ってこういう制作現場なんだなって,驚くことばかりです。
ゲームの内容的にも,「ああ,BGMに歌が入れられるんだな」とか,「こんなにしゃべるんだな」とか(笑)。「バウンティシスターズ」はインディーゲームなので,最初は「8bitサウンドなのかな?」と思っていたんですけど,まったくそんなことはなくて。
「大丈夫かな? できるかな?」と少し心配になったんですけど,TECHNOuchiさんの温かいフォローによって,私の作業は無事アップできました。
4Gamer:
今回は何曲ほどお作りになったのでしょう?
東野氏:
メインのコンポーザーが仲野さん(仲野順也氏)なのですが,最初,私はヘルプという形で1,2曲だけの参加というお話だったんですよ。なにせ私は今年の3月末まで別の仕事をしていて,働きながら曲を作る形でしたので。
でも,作っているうちにもう1曲,もう1曲とご依頼いただいて(笑),最終的には5曲作りました。
4Gamer:
作っているうちに,「もっと作りたい」という気持ちが増したりもしたのでしょうか?
東野氏:
そうですね。とにかくボツを恐れずに作るだけ作って,「これどう? これどう?」とTECHNOuchiさんにお聞かせしました。やっぱり古い付き合いなので,TECHNOuchiさんは感想を率直に言ってくれるんですよ。
「ちょっと古いなぁ」とか「ジュリアナみたい」と言われて,ガーン! ってショックを受けたり(笑)。その感想を謙虚に受け止めつつ,違うアプローチで「じゃあこんな感じでどう?」という風に作っていきました。
4Gamer:
試行錯誤の繰り返しだったんですね。
東野氏:
なのでボツもたくさん出ているんですけど,それがまるで,KONAMIさんでのアルバイト時代に作るだけ作って,その中から採用されるような形で作曲していた頃を思い出して,ちょっと懐かしくなりました。
「沙羅曼蛇」の曲を作っていたときも,担当の社員の方から「グルーヴがないんだよなぁ」ってしょっちゅう言われて,「グルーヴって何ですかね?」って聞いていましたし(笑)。とにかくじゃんじゃん書いて,感覚を戻そう! という気持ちでした。
4Gamer:
作っているうちに,感覚は戻ってきましたか?
東野氏:
ええ。ハード的な楽器やコンピュータの使い方を思い出したのもありますし,作曲をする感覚はどんどん戻りつつあります。
それは「バウンティシスターズ」だけではなくて,10月25日に開催予定のコンサート「NEVER ENDING MELODIES」に向けてのアレンジもそうですね。
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感謝の気持ちを持って演奏したい
4Gamer:
さて,「NEVER ENDING MELODIES」ですが,開催のきっかけについて教えていただけますか?
東野氏:
いろんなゲーム音楽の作曲家の方が,還暦記念コンサートや周年記念コンサートなどを開催されているとお聞きして,楽しそうだなぁ,私も身内でこじんまりとでもいいから,そういうコンサートをやれたらいいなと思っていたんです。
その時点で私は別のお仕事をしていましたし,漠然とそういうイメージを持っていただけなんですけどね。
4Gamer:
とくに具体的な案があるわけではなかった,と。
東野氏:
そんな折,2024年2月に突然,「幻想水滸伝」の生みの親の村山吉隆さんがお亡くなりになったとお聞きして……,その後,私のクラスメイトも,同じ年の4月に倒れて亡くなったんです。同窓会の直前だったんですけど。
4Gamer:
そうだったんですね……。
東野氏:
それで,私の今後の人生を考えて,「やれるときに何かやっておいたほうがいいのかな」と急に思ったんです。
その後,コンサートを開催するにあたってのライセンス面についてKONAMIさんにお話を聞いていただこうと思いまして,去年の8月に先方にお邪魔してお話をしたところ,快く許諾してくださいました。
直後に,親交があったMUSICエンジンの河合さん(河合晃太氏)にコンサートの開催の仕方についてお聞きしたところ,すぐに会場を押さえてくださって,あれよあれよとお話が進んでいきましたね。
4Gamer:
いろいろなタイミングが急にかみ合ったんですね。
東野氏:
ええ。今年(2025年)は,「幻想水滸伝I&II HDリマスター」や「ときめきメモリアル」のリマスター,それから「グラディウス オリジン コレクション」と,私が作曲で関わった作品が立て続けに発売されると知って,本当にタイミングが良かったんだなって。
4Gamer:
ご自身が関わった作品が続々とリマスターされ,世代を超えて多くのファンに愛されていることについて,どんなお気持ちですか?
東野氏:
まず,私の作曲のキャリアは1985年からスタートして,KONAMIさんでは2000年の「幻想水滸外伝」が最後に携わった作品です。それだけに,プレイヤーさんの年齢層も幅広いんですよね。
さらに,メーカーの皆さんがリマスターなどのいろんな形で息を吹き込んで,何度もムーブメントを起こしてくださって,同じゲームが何十年と遊び継がれているということに驚いていますし,とても感謝しています。
ゲームの思い出というのは,ゲームの中身だけではなくて,遊んだ当時に楽しかったことやしんどかったことなど,一人ひとりの方にさまざまな記憶があると思います。SNSを通じて「こういう思い出があります」と聞かせていただくこともあるんですよ。それは本当に,作り手としては大切にしなければいけない,大事に受け取らなければいけないことだと思っています。
4Gamer:
そういった思いも,今度のコンサートには込められているのでしょうか。
東野氏:
ええ,もちろんです。10月のコンサートでは,聴きに来てくださるプレイヤーの皆さんにも,メーカーの皆さんにも感謝の気持ちを持って演奏したいと思っています。
4Gamer:
東野さんが作曲された当時は,ゲームのリメイクやリマスターが行われて,また同じ楽曲が使われることなんて,想像するのも難しかったですよね。
東野氏:
そうですね。もっとちゃんと作っておけば良かったです(笑)。
でも本当にいろんな方がいろんな形で私の曲をアレンジしてくださっていますけど,オーケストラからロックからいろんな形になっていて楽しいですよ。聴いてみて「こんな風になるんだ」って。
とても優秀なアレンジャーの方が多いので,本当に作曲者冥利に尽きるというか,うれしくて仕方ないですね。
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全力で頑張ってきて良かった
4Gamer:
オーケストラといえば,「幻想水滸伝」の音楽は近年オーケストラコンサートで演奏される機会が多いですよね。
今度のコンサートを主催されるMUSICエンジンさんも,過去に「幻想水滸伝II」の曲を何度か演奏されていましたが,東野さんはお聴きになられましたか。
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はい。お声掛けいただいて,毎回必ず聴かせていただいています。作曲当時はオーケストラで演奏されるとは思っていなかったので,最初は信じられない気持ちでした。
4Gamer:
お聴きになっての感想はいかがでしたか。
東野氏:
私の頭の中にあった「オーケストラではこうなるだろうな」というイメージを膨らませてくださっていて,すごく心地いい演奏でした。
4Gamer:
物語の流れに沿って演奏されると,音楽でまたゲームをプレイしたかのような感覚を味わえますよね。
東野氏:
そうなんです。没入感がすごいですね。それはもう,聴きに行かれたプレイヤーの皆さんもそう感じていらっしゃるのが伝わってきました。すすり泣きも聞こえてきますし,ゲームをプレイしている感覚になっていらっしゃるなというのを,私は演奏を聴きながらも会場を見渡しつつ,そのリアクションを楽しんだりもしました。
私はどちらかというと,「この曲を作ったときは本当に大変だった」とか,「夜中に泊まり込んで作った曲だったな」「村山さんがこんなこと言ってたな」とか……そういうことばっかり思い出されて,別の意味で泣いていましたね。
4Gamer:
大変な思いをして作られた音楽が,今も多くの人に愛されているというのは,素敵なことですよね。
東野氏:
あのとき,全力で頑張って本当に良かったです。制作チームみんなで大変な思いをして,でもそんなイヤイヤじゃなくて,当時にしかできなかったほど,みんなですごい熱量で作っていた記憶があります。作って良かったなと思いますし,それをやらせていただけた環境も,本当にありがたかったなと今になって思いますね。
2台ピアノアレンジで奏でられる名曲たち
4Gamer:
さて,そんな東野さんが手がけてきた楽曲が演奏される「NEVER ENDING MELODIES」では,東野さんは選曲や2台ピアノ用の編曲も行われているそうですね。選曲や編曲にあたって,心掛けられたポイントがあれば教えてください。
東野氏:
まず選曲で悩んだのは「幻想水滸伝」ですね。IとIIで合わせて170曲くらいあるので,どう選ぶかいろんな案が出たんですけど,コンセプトを決めて選曲していったり,人気の曲をピックアップしていったりして,なんとか収めました。
今回のコンサートは全部で70数曲ほど演奏する予定ですが,少しずつ顔を出す曲もありますし,メドレーになっている曲もありますし,アレンジとして世に出ている曲をさらにアレンジし直したものもあります。
基本は2台ピアノアレンジですが,1台で連弾にするものもあれば,片方ずつを1人で弾くというものもありますね。
4Gamer:
今回演奏されるプログラムで,東野さんがお気に入りの曲はありますか?
東野氏:
お気に入りはほとんど全部なんですけど(笑),とくに2台ピアノで演奏するとかっこいいだろうなと思ったのは,「幻想水滸伝II」の戦争シーンで流れる,「光のない戦場」という曲ですね。
4Gamer:
あの曲を2台ピアノで演奏するんですか!
東野氏:
はい。例えばラフマニノフの2台ピアノ組曲の中に第2番「タランテラ」という曲があるんですけど,すごくかっこいい曲で,そんな風にかっこよさが出せればいいなと思っています。
もうアレンジはできているんですけど,コンピュータで鳴らしてみてもグッとくるというか,かっこいいですし,ちょっと自分でゆっくり弾いてみても武者震いがしますね。そんな感じに仕上がっています。
4Gamer:
演奏の難度は高そうですよね。
東野氏:
そうなんです。コンサートでご一緒する川村さん(川村紀子氏)というピアニストはプロの方なので,早いパッセージなどの難しいところは川村さんにお願いして(笑),私はメロディーなどの部分を頑張って弾けるように,練習しています。
4Gamer:
先日,東野さんがXでポストされていた「ナルシーのテーマ」も演奏が難しそうです。
2台ピアノのための作業は快調に進んでいます♪今日は谷口博史さんが作った「ナルシーのテーマ」を耳コピアレンジしました。とても複雑で楽しくて大好きな曲です?この曲は「幻想水滸外伝」にも吉田孝志さんアレンジで収録されています。
— MIKI HIGASHINO 東野美紀 (@mkhgsnofficial) July 16, 2025
どれくらい複雑かというと…こんな感じです↓
私弾けるのかな? https://t.co/AGBQBq3c2Q pic.twitter.com/47ju7kZf8F
東野氏:
谷口さん(谷口博史氏)が作曲した曲ですね。あれもアレンジはもうできてるんですけど,いろんな音が鳴っているので,楽しいですよ(笑)。どうぞお楽しみに!
あと,今回は全部耳コピでアレンジしてるんですけど,ほかの人が作った曲をアレンジするほうが楽しいですね(笑)。岩瀬立飛さんの曲も,コードがジャズの方なので,「こんなことしてるんだ!」って分析しながらアレンジしています。すごく勉強になりますね。
4Gamer:
ほかにコンサートの聴きどころや,注目してほしいポイントはありますか?
東野氏:
演奏するプログラムの情報は,少しずつSNSでもお知らせしていこうと思うんですね。ただ,何曲かについては当日発表する予定です。“ワイルドカード曲”という風に名付けてるんですけど,何曲かは当日会場に来てみて「これやるんだ!」と分かる曲があります。
「ときめきメモリアル」の曲では,藤崎詩織さんの歌もので,「夏に、まだ少し…」という私が作曲した曲をピアノ2台で演奏しようと思います。歌は歌いません(笑)。あまり知られてないんですけど,「ときメモ」のゲーム中の曲は16〜17曲ほど作ったんですよ。
4Gamer:
「ときメモ」では,古式さん,清川さん,如月さんのテーマ曲,遊園地の曲,ショップ系の曲などを東野さんがお作りになったそうですね。
東野氏:
そうです。それらはほとんど全部演奏する予定です。「こんなに作ってたんだ!」って,今さらながら思い出しています。
きっと,会場にいらっしゃる皆さんにとって,遊んでいないゲームの曲もあると思うんです。そういったゲームの曲でも,曲として楽しんでいただけるようなアレンジをしようと心がけています。
シューティングのファンの方も,「幻想水滸伝」に興味を持っていただけたらうれしいですし,逆に「幻想水滸伝」ファンの方がシューティングに興味を持ってくださるきっかけになるといいですよね。
再び走り出したランナー
4Gamer:
今後の東野さんの音楽活動で,現時点で決まっていることがあれば教えてください。
東野氏:
今年は10月の「NEVER ENDING MELODIES」の準備に全振りしていますね。12月18日に「バウンティシスターズ」が発売予定なので,こちらもお楽しみいただければと思っています。
来年に関してはまだ漠然としか決まっていませんが,どんな形であっても自分ができることや,いただけるお仕事を愚直に頑張ろうと思っています。
4Gamer:
今後,いただけるお仕事だけではなく,こういう音楽活動に挑戦してみたいなと思っていることはありますか。
東野氏:
「NEVER ENDING MELODIES」を無事に終えられたら,その先に何か見えてくるものがあればいいなと思っています。
私は今まで,ステージに立って何かを表現するということを,本当にやってこなかったので……。私が習っていたピアノの先生は発表会をやらない主義だったので,人前でピアノを弾く経験があまりなかったんです。
それでも実は先日(5月5日)開催された「幻想水滸伝」のオーケストラコンサートでピアノを演奏させていただいたんですけど,昔,ポプコン(※)の神戸大会で優勝して以来の演奏経験でしたね。しかもいきなり2000人近くのお客様の前で弾いたので,この大きな変化はどうなってるのかなって(笑)。
でも,オーケストラをバックにピアノを弾くという経験は,音が空から降ってくるような感じがして,すごく気持ち良かったですね。なので,また機会があったらピアノを演奏させていただければいいなと思っています。
※ポプコン……1969年から1986年まで,ヤマハ音楽振興会が開催していたアマチュア音楽コンテスト「ヤマハポピュラーソングコンテスト」の略称
4Gamer:
最後に,ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします。
東野氏:
周りの人に伝えていることなんですけど,今の私の心境は“周回遅れのランナー”なんです(笑)。現実と理想のギャップに気付いて途方に暮れることもありますが,回り道をしてきて得た経験値もありますので,それが音楽に反映できればいいのかなと思っています。
とにかく,また走り出しましたので,ぜひ応援をよろしくお願いいたします!
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