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ゲーム開発者に朗報? SIEがマスターモニターの画質を市販のブラビアで実現してしまう方法を提供
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印刷2019/04/04 00:00

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ゲーム開発者に朗報? SIEがマスターモニターの画質を市販のブラビアで実現してしまう方法を提供

 以前,筆者の連載で,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)とMicrosoftが,2018年8月にゲームグラフィックスのHDR(ハイダイナミックレンジ)表現のための出力ガイドラインを取りまとめるための活動グループとして「HGIG」(HDR Gaming Interest Group)を発足したことと,その基本コンセプトと具体的な仕組みについて解説したことがあった。今回のGDC 2019のSIEブースでは,これに関連した新しい取り組みについての展示を行っていたので,本稿ではそのあたりを紹介することにしたい

SIE・PlayStationブース
画像集 No.001のサムネイル画像 / ゲーム開発者に朗報? SIEがマスターモニターの画質を市販のブラビアで実現してしまう方法を提供


HDR表示にまつわる問題とHGIGの取り組みをアピール


 SIEブースのHGIG関連展示コーナーでは,HDRコンテンツを制作するにあたって「なぜHDRキャリブレーションが必要なのか」ということの解説と,これを踏まえての「HDRコンテンツ制作のに不可欠となる基準HDRディスプレイに関する新ソリューションの提案」を行っていた。
 「なぜHDRキャリブレーションが必要なのか」は冒頭で示した記事でも詳細に記しているが,本稿でも簡単に解説しておこう。

 現状,ゲームグラフィックスにおけるHDR映像表現は,SIEの全PlayStation 4シリーズ,MicrosoftのXbox One SおよびX,そしてWindows 10でサポートされており,具体的には「HDRゲーム映像規格のデファクトスタンダード」ともいえるHDR10規格に対応している。このHDR10規格は,規格上,最大輝度1万nitを上限としているものの,現在市販されているHDR対応ディスプレイやテレビの最大輝度は超ハイエンド機でも4000nitまでであり,一般モデルのテレビ製品となれば1000nit未満が大半で,PC向けになると400nit前後のものも多い。
 そのような状況で,ゲームをはじめとしたHDR対応映像コンテンツを制作する側としては,何を基準にして輝度設計を行っていいのかとても難しい。なので,映像制作側は市場に出回っているHDR対応ディスプレイやテレビ製品で表示したときに,それほど飽和しないであろう1000nit上限あたりでマスタリングしているものが多い。UHD(4K)ブルーレイの映画などは大体がそうなっている。

 一方,ディスプレイやテレビ側としては,HDMIケーブルを伝ってやってきた1000nitの輝度情報が最大1000nitで輝度設計された1000nitのピクセルなのか,上限1万nitでの1000nitのピクセルなのかを判別する手立てがない。いや,正確にはそうした情報をメタ情報に仕込む規格がHDR10に定められているのだが,なぜかこの仕組みがほとんど利用されていない。
 そこで,ディスプレイやテレビ側は自分の上限輝度を知っているので,HDMIケーブルを伝ってやってきたHDRピクセルを「適当に」変換して表示している。なので,同じHDR映像が,ディスプレイやテレビ製品ごとにかなり違って見えることが多い。

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開発者としてはこのようにトンネルの出口先の右カーブをうっすら見せたいという意図があったとして……
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現在のHDR対応ゲームグラフィックスの表示環境では,同じゲームでもプレイヤーの環境によってはこのようにトンネルの出口先のコースが白飛びしてよく見えないことがありえる

 ゲーム機やPCといったゲームグラフィックス送出側としては,接続されているHDR対応ディスプレイやテレビの最大輝度(輝度性能特性)が分かれば,それに合わせたコンテンツ作りができるのだが,それを調べる手立てがない。そこで,今接続されているHDR対応ディスプレイやテレビの表示能力を調べることに相当するキャリブレーションの仕組みと,その調整データをシステムデータとして保存して利用する仕組みを提案した……というのが昨年のHGIGの発表というわけである。

HDRは素晴らしい技術なのだが,ゲーム開発者側が表示対映像と,プレイヤー側で表示される映像の乖離が起こりやすくなってもいる
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 そして,HGIGの提唱する手法でキャリブレーションして得られた値は,ゲーム機なりPCなりのシステム値として保存しておくのだ。代表的なテレビなどについては値が用意される模様だが,ユーザー自身がキャリブレーションを行うこともできる。
 この値による調整は,実質的なHDRディスプレイの抽象化層となる。映像制作側はHDR10規格の範囲内で自由なHDR輝度設計が行えて,映像出力時にはこのシステム値をもとに,開発者が作ったHDR映像の輝度を,表示先のHDR対応ディスプレイやテレビの表示能力に最適化して出力することができるようになるわけだ。
 もし,プレイヤーがより高輝度な表示を行えるディスプレイやテレビに買い替えた場合は,キャリブレーションをやり直すだけで,再び新しいテレビでの最良の表示が得られる。ゲームプログラム側はそのままでいい。プレイヤーは手持ちのディスプレイやテレビで常に最適な表示が得られ,ゲーム開発側はプレイヤーのディスプレイやテレビ表示性能を気にすることなくHDR10規格内でゲームグラフィックスを開発すればいいのである。

SIEが取り組んでいるHDR関連技術
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 HGIGの発足は昨年8月だったので,GDCへの出展は今回が初ということもあり,SIEブースではこの仕組みの重要性を解説する展示を行っていたわけである。


市販のブラビアをマスターモニター化してしまう方法を提供?


 HDR10規格では,輝度表現だけでなく表現可能な色域も拡大されており,自然界に存在する色の99%を表現できる「Rec.2020」色空間にも対応している。ちなみに,余談ながら補足しておくと,HDR10に採用されたHDR表現カーブ「PQカーブ」(ST.2084)と,その広色域な色空間Rec.2020を合わせた映像規格は「BT.2100」と規定されている。
 ゲームグラフィックスに限らずHDR時代の映像コンテンツを制作するには輝度特性だけでなく色に関しても注意を払って設計する必要がある。そこで問題となるのは,制作の際に基準とするディスプレイやテレビだ。

 映像制作スタジオや放送スタジオでは,そうした映像設計の基準とすべき表示デバイスとして「マスターモニター」と呼ばれるディスプレイ機材を導入している。現在,業界で広く導入されているのはソニーの「BVM-X300」だ。
 これは30インチの4K有機ELパネルを採用したもので,価格は税別428万円。一般消費者向けの有機ELテレビは,白色有機EL画素にRGBカラーフィルタを適用したLG製の有機ELパネルを採用したものばかりだが,BVM-X300はソニー自社製のリアルRGBサブピクセルの有機ELパネルを採用しているのが最大の特徴である。
 そして2019年1月には「BVM-HX310」が登場している。こちらは31インチサイズの4K液晶パネルを2枚重ねて1ピクセル単位でローカルディミングを行う究極の液晶ディスプレイになる。スペックは,ほぼBVM-X300に準じながら価格は税別398万円と,若干安価になっている。
 なお,ほぼ同発想で同スペックの「ColorEdge PROMINENCE CG3145」がEIZOからりリースされており,こちらはマスターモニターとしては税別285万円とかなり安価となっている。

 まぁ,要するにマスターモニターはとんでもなく高価な機材なのである。それこそ中小系ゲームスタジオではマスターモニターの導入はコスト的に困難であり,大手ゲームスタジオですらも何台も導入するのは難しい。
 そこでSIEが,PlayStationプラットフォーム向け開発者用に提供するのが,一般消費者向けのテレビ製品をマスターモニター的な表示特性にしてしまう「画質調整フレームワーク」だ。

 この仕組みの実現にあたっては,ディスプレイ用ソフトウェアメーカーであるPortrait Displays傘下で,業界の標準的な色校正ツールであるSpectraCalの「CalMAN」フレームワークを利用する。
 CalMANフレームワークを使ったディスプレイやテレビの調整はザックリこんな流れとなる。

  1. テストパターンジェネレータで測定用のテストパターンを調整対象とするディスプレイやテレビに表示して,SpectraCALの測色計で計測する
  2. 計測した測色データを,PC用の専用ソフトウェアで分析。
  3. 分析データを考慮しながら,調整対象のディスプレイやテレビをどう調整するかに相当する表示特性プロファイルを作成する
  4. 実際に調整対象のディスプレイやテレビにおける適当な画質モードに書き込む

ここまでの流れを図解したスライド。破線の部分は,ブラビアの場合はLANケーブルとなるが,別のテレビでは違う伝送路が採択される場合もある。パターンジェネレータにPS4が用いられるというのが,今回の発表されたフレームワークの最大の特徴である。というのもパターンジェネレータは専用機で用意するととても高価な機材だからである
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調整はテレビのリモコンで手動調整するのではなく,PC用の専用ソフトウェアと測色計を用いてオートマチックに行う
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ブースでは測色計として「SpectraCAL C6-HDR2000」が用いられていた。CalMAN専用ソフトウェアと測色計はPlayStationライセンシーであっても別売りである
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 ここで,「どう調整したいか」のプロファイルを「マスターモニターと同等な表示特性」とすれば,調整対象としたディスプレイやテレビをそのように調整できるわけである。

 ちなみに上では「マスターモニターと同等な表示特性」と書いてしまったが,実際にはBVM-X300といった製品名のプロファイルがあるわけではない。マスターモニターは「映像規格通りの表示を行う」機械なので,実際の「どう調整したいか」プロファイルとは,上で少し触れた「BT.2100」といった規格名のプロファイルとなる。

 なお,この「CalMANフレームワーク」とは既存のソリューションなのだが,今回SIEは,SpectraCalと共同開発してPlayStation 4(ただし,開発機やデバッグ機)をパターンジェネレータとして使った調整フレームワークをPS4ライセンシーに提供することとしたのだ。
 ここの調整フレームワークで調整を行えるテレビ製品としては,ソニーの4K液晶ハイエンド機であるZ9Fシリーズや4K有機EL機のA9Fシリーズが挙げられていた。

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左の55インチのブラビアZ9Fと,右側の30インチのBVM-X300が極めて近い表示特性となっていることをアピールした展示
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 ブラビアシリーズにはほかのモデルもあるのだが,この2シリーズに限定しているのには理由がある。まず第一にこれらのテレビがCalMANフレームワークに対応できるからだ。第二の理由は,本来の目的である「マスターモニターに近い表示特性を得る」という目標を実現するためには,本質的に高い表示能力を持っていなければならないためだ。Z9FシリーズやA9Fシリーズでは,工場組み立て時に輝度均一性(ユニフォミティ)の調整を行っているという。さらに両機が搭載する映像エンジンの「X1 Ultimate」は,そうした高度な調整も高速に処理できるアーキテクチャとなっているからである。

工場での組み立て時に映像パネルのユニフォミティ調整を行っていることをアピールしたスライド
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Z9F/A9F両機に搭載される映像エンジンの「X1 Ultimate」は,そうした高度な調整にも対応できる設計になっている
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今回の調整フレームワークに対応するテレビとしてはソニーからはマスターシリーズのブラビア2機種が選択された
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 まあ,Z9F/A9Fシリーズはブラビアのなかでもハイエンドモデルなので,ほかのブラビアよりも高価なのだが,それでも直販価格で35万円から買える。マスターモニターの10分の1の価格だ。これはコストメリットとしては大きいだろう。

 ちなみに,CalMANフレームワークはソニー以外のテレビ製品にも対応しており,今回のPlayStation 4をテストパターンジェネレータとして活用してブラビア以外のテレビ製品を調整してもなんら問題ないとのことだ。
 また,この仕組みを使って一度,疑似マスターモニター化したテレビは,その後,PCにつなごうが,Xbox Oneにつなごうが問題なく疑似マスターモニターとして利用することができるとのこと。これは複数プラットフォームに向けてゲームを開発しているスタジオには嬉しいことだろう。筆者も,ブラビアを買って,知り合いのゲームスタジオに持っていって疑似マスターモニター化してもらおうかと思ってしまった(笑)。
 それにしてもこうした取り組みは,グループ内にテレビメーカーもあるSIEらしいものであり,さすがといったところである。

左は今回の説明をしてもらったソニービジュアルプロダクツ TV事業部 技術戦略室・主幹技師の小倉敏之氏。いってみればブラビア開発チームのリーダーだ。普段はテレビ製品の技術説明でよく会うお方だが,GDC 2019で出会うとはお互いにびっくり
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