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来たるべき時代のために,ゲームエンジンへの投資は今後も欠かさない――中国発,日本でも名高いゲームエンジン“Cocos2d-x”のChukongは,いまのゲーム業界をどう見ているのか
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印刷2016/08/31 12:50

インタビュー

来たるべき時代のために,ゲームエンジンへの投資は今後も欠かさない――中国発,日本でも名高いゲームエンジン“Cocos2d-x”のChukongは,いまのゲーム業界をどう見ているのか

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ChinaJoy会場のエントランス。仕事で世界のいろんなゲームショウに行くが,“混みっぷり”という意味では中国とドイツがダントツだ

2016年の7月28日から31日まで,上海で行われた「ChinaJoy 2016」の話題の中心は,なんといってもスマホとVR。コンシューマもいまから花開こうかというタイミングではあるが,まだまだマーケットとしては小さく,ChinaJoyで存在感を示すほどではない。

わざわざここで書くまでもないが,中国という国のゲームエンターテイメントの成長カーブは半端なく,PCとスマホ合わせたオンラインゲームの市場が,2015年時点ですでに2兆2000億円を超える。最新のデータである2016年Q1時点では,すでに約6500億円ほどになっていて(→こちら参照),成長はまだ続いている。ここにコンシューマとVRが参戦し,今後さらに伸びていくことになるのだろう。

さてそんな中国ゲームマーケットについて何か聞いてみようと思ったときには,誰に聞けばよいのだろうか。政府のお役人? プラットフォーマー? ……いや,やはり現場でゲームを開発して運営/経営している人に聞くのがよいだろう。彼らは肌感として,数字として,熱量として,マーケットに対峙しているのだから。

2兆2000億円という前述の数字の半分を叩き出すモバイルゲームの会社達は,現状と未来をどのように見ているのだろうか。それを聞いてみたく,何社かの会社にインタビューの打診をしてみた。そのインタビューの模様をお伝えしよう。


 2016年7月28日〜31日まで行われていたChinaJoyで,何社かに送ったインタビューオファーのうち,受けてくれた中の一社がChukong Technologiesだ。

日本人の細やかなモノ作りと,中国人のエンジニアリングパワーは融合するべき―――DeNA Chinaの若き社長は,日本と中国のゲームマーケットをどう見ているのか

「違いを理解すること」と「理解した部分を中国向けに修正する」ことは全然別なこと――2年で急激な成長を遂げたHeitaoのやり方とは

ゲーム業界がどんなに変わっても,我々が成すべきことは「良いゲーム」を作ることだけ――LINEの信用を得た中国のゲーム開発会社「Longtu」とは


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 社名を見てもいま一つピンと来ないかもしれないが,日本では「Cocos2d-xエンジンの会社」として名が通っている。なにぶんゲームエンジンの話なので,一般読者の皆さんにはあまり関わりがないことではあるが,「ドラゴンクエストモンスターズスーパーライト」「モンスターストライク」「ファイナルファンタジーレコードキーパー」「LINE:ディズニー ツムツム」「ブレイブフロンティア」……名の知れた多くのスマホゲームが,このエンジンで作られている。
 一般の“ゲーム開発”ではなく,ゲームエンジンという,ある意味最も最先端のものを作っている会社がChukong Technologiesであるわけだが,彼らは昨今のゲームマーケットをどのように見ているのだろうか。

 灼熱の上海で話をしてくれたのは,海外パブリッシング事業部 部長のViivi Li氏。前職である崑崙時代からずっと海外パブリッシングに携わっているベテランだ。

Viivi Li氏。持ってたスマホはiPhoneで,時計はApple Watchだった。根っからのApple党だろうか
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「Chukong Technologies」公式サイト

「Cocos2d-xエンジン」公式サイト


4Gamer:
 本日はお時間をいただき,ありがとうございます。Chukong(チュウコン)は,日本の開発者の間ではそれなりに知られた名前だと思うのですが,まずはこれまでの会社の歩みと強みを教えてください。

Chukong Technologies 海外パブリッシング事業部 部長 Viivi Li氏(以下,Li氏):
 Chukongは,設立してからすでに6年が経ちますが,メインは技術系です。ご存知かもしれませんが,以前よりCocosというゲームエンジンのサービスを展開しており,開発者をサポートしたり,自分達でも新作ゲームを開発してリリースしたりということをやっています。
 ですのでChukongは,ほかのゲーム開発会社とはちょっと違っていて“ゲームの生態系”を作っている会社といえるでしょう。作品ではなくて主に「技術」に投資していますので,そういった技術開発のサポートであるとか,開発者に向けてのサービスといったところでは,ほかの会社に比べて知名度も高く有利になっていると思います。

4Gamer:
 日本でも確かにCocos2d-xエンジンは有名だと思います。私は開発者ではないので割と基本的なことからお聞きするんですが,Cocosを使うのは有料なんですか?

Li氏:
 いえ。開発者に対しては,このエンジンをずっと無料で使ってもらおうと思っています。むしろ今私達が真剣に考えているのは,付加価値をどこに付けていこうかという部分です。たとえば,日本やアメリカの開発者が自分達で作ったゲームをどうやって中国でリリースすれば良いか分からないとか,リリースのときにどういうビジネスモデルを作ればよいのか分からないとか,そういったところをサポートしたりですとか。

4Gamer:
 なるほど,文字どおり「環境」の提供を目指してるんですね。

Li氏:
 Cocosを使えばワンストップで海外向けに配信できたり,その時の支払いなどもすべてChukongを通してできるような,そういうリソースを皆さんに提供して,そのレベニューシェアをいただくという形ですね。

4Gamer:
 レベニューシェアの比率はどれくらいで考えてますか?

Li氏:
 ここではご容赦ください(笑)。でもレベニューシェアの比率に関しては,自分達だけがすごく儲かるモデルではなくて,できる限り開発者さんに利益が落ちるような数字でやっていると思っています。

4Gamer:
 素人的視点で申し訳ないんですが。ゲームエンジンと聞いてパッと思いつくのは,やはりUnreal EngineだったりUnityだったりするわけです。しかしCocosは,それら“開発”に特化したエンジンとはちょっと違っていて,ワンストップ・ソリューションみたいな形を目指しているということでしょうか。

Li氏:
 言葉だけで言うとそのとおりですが,ワンストップ・ソリューションとは言ってもそれはあくまでも付加価値であって,エンジンそのものの性能が魅力になっていると信じています。なにしろすでに,1万以上ものゲームがCocosエンジンで開発されていますから。

Cocos2d-xエンジンの公式サイト。一般のゲーマーにはあまり知られていない名前かもしれないが,スマホのゲームエンジンとしては結構有名。本文にも登場するように,名の知れた作品でも結構使われている
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4Gamer:
 “性能”というのはどのあたりを指しているんでしょうか。

Li氏:
 Cocosは中国で作られたエンジンなので,そもそもの発想コンセプトが違います。特徴としては,まず幅広い端末に対応しているという点。そしてそれに少し関連するんですが,ゲーム自体の容量が小さく済むうえ,ゲームをプレイしている時のメモリ使用量も少ないんです。幅広くあらゆる端末をサポートしなくてはならない中国のややこしいところが,ゲームエンジンの制作においては良い部分になっているといえるでしょう(笑)。

4Gamer:
 確かに中国のユーザーのモバイル端末環境は,日韓などと比べて上下差が半端ないですからね……。

Li氏:
 ええ。中国のAndroid携帯は非常に複雑で,それぞれの端末にどのように合わせていくかということが非常に難しいので,Cocosのように性能が高く,いろいろな端末にも対応できて,搭載メモリが少なくても遊べるということは大きなメリットであり,非常に使いやすいエンジンになっているのではないかと思っています。

4Gamer:
 ガリガリの3Dゲームとかを作るためのエンジンではないので,使うときにも障壁はそんなに高くなさそうに思えます。

Li氏:
 そうですね。普通の開発者であれば2か月ほどあれば学べるはずなので,確かに障壁が小さいといえますし,それも1つの魅力になっているのではないでしょうか。

4Gamer:
 なんだかんだ言っても,日本の端末スペックは――むろんそれなりの差はあるとはいえ――みな一様に高いので,あまり下の方を見なくてもよいんですけど,そのあたりも全部含めてエンジンがフォローしているというのは,少なくとも中国国内においては大変な強みですよね。

Li氏:
 おっしゃる通りで,中国市場では65%以上のスマホゲームがCocosエンジンで作られています。

4Gamer:
 ……65%?

Li氏:
 とはいえその一方で,ヨーロッパなどですと25%程度なので,そこは今後の課題ですね。

中国版パズドラ。ミクシィの中国撤退(=モンストの中国撤退)以降の,久々の大物。運営発表時にTencentの株価はハネ上がり,中国での期待の高さも感じられた
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4Gamer:
 日本でも割と名だたる作品がCocosで作られてますよね。モンスターストライクや,ファイナルファンタジーレコードキーパー,ディズニー ツムツムやブレイブフロンティア……。

Li氏:
 パズドラも,中国ではTencentの運営なんですが,そのとき中国用にアレンジしたパズドラはCocos2d-xを使って開発されています。

4Gamer:
 おや,そうだったんですね。ところでバッテリーの持ちはどうなんでしょうか。重たいゲームエンジンは,開発者がキッチリ手を入れないと「大変な電池喰い」なので,ちょっと閉口します……。

Li氏:
 それもCocosのウリの1つで,ほかのエンジンに比べるとかなり省電力に仕上がってますよ。

4Gamer:
 となると,やはり2Dだけでなくて3Dに関しても性能を期待しちゃうんですが。

Li氏:
 いまCocosは,3DもVRもありますよ。

4Gamer:
 存じています。しかし2d-xに比べるとあまり名前を聞かないな,と思いまして。

Li氏:
 そこは否定できません。ほかの有力なエンジンと比較すると,レンダリング能力が劣っていたりする部分もありますし。ただ,こちらも引き続き投資/開発をしていくつもりですので,すぐに改善できると思います。

4Gamer:
 2d-xにしても完全にベタな2D絵というわけでもないですしね。

Li氏:
 ええ。背景が2Dでキャラクターは2.5Dや3Dで作りましょう,みたいな場合でも,2d-xは大きな強みを持っていると思います。完全にすべてを3Dで作らなくても,ユーザーさんとしては満足は得られると思いますし。なにより,2Dをうまく組み合わせることによって,作りやすく,実行速度も速く,消費電力も少なくなりますから,そういうことを実現できるのがCocosエンジンなのです。


発展途上のマーケットこそが,これからの注目エリア


4Gamer:
 しかしスマホのゲームの描写はこのあとどんどんハイレベルになっていく傾向もあると思うのです。

Li氏:
 確かにこれからは,中国に限らず世界すべてで,グラフィックスのレベルはどんどん高くなっていくでしょう。もちろん,一番大事なのはゲームとしての創意工夫というか,新しいオリジナリティのある遊び方であるとか,そういったところだと思っていますが。

4Gamer:
 そうですね,そこは確かに。

Li氏:
 現在中国でも,3Dのゲームではすでに非常に綺麗な画面のものも出てきているので,将来的にはPS Vitaレベルのものが出てくる可能性はあると思います。
 しかし一方で,技術的な観点で言うならば,2Dも3Dも共に存在し続けるでしょうし,混在してマーケットに存在すると考えているので,会社としては両方のゲームエンジンを維持していきたいです。

4Gamer:
 先ほどの話では,中国以外ではまだそこまでマーケットに浸食できていないとのことでしたが,このあとワールドワイドでどのような展開をしていこうとお考えですか?

Li氏:
 2Dの性能においてはもっとも優秀なエンジンだと思っていますので,これからもその立ち位置を維持できるように開発を続けていきます。そしてグローバル化に向けて,やはり今後は3DやVRがどんどん発展していくなかで,これらの開発者達に対して素晴らしいエンジンを提供できるようにがんばろうと思っています。

4Gamer:
 引き続きブレずに,エンジンへの投資をたゆまずやっていく,と。

Li氏:
 ええ。今現状で考えているのは技術面での投資であって,ゲームエンジンにおけるビジネスモデルの構築というよりも,これをどうやって開発者に使っていただくかという部分が大きいです。使いやすいとか,他社より優れているとか,そういう部分が何よりの強みになるので,そこにしっかり投資していいものを作ることで,多くの方に使っていただこうと考えています。

4Gamer:
 それは個人の考えではなくて,会社の方針?

Li氏:
 そうです。会社として,エンジンへの投資という部分ではそういった考えのもとやっています。

4Gamer:
 では次は個人的な考えで構わないのですが,これからもっとも注力して売り込みたいと思っている国はどこですか。

Li氏:
 うーん……私は,グローバルは3つの市場に分類できると考えています。1つは,日本やヨーロッパ,アメリカといった成熟している市場。もう1つは,市場としては成熟しているのですが,人数などがあまり多くない国。3つ目は,発展途上でこれから新興国として出てくるようなところです。そして,今私が注目しているのは1番と3番です。

4Gamer:
 1番は,過当競争状態で厳しい市場じゃないですか? レッドオーシャンと言い換えてもよいですが。

Li氏:
 そうですね,確かに。でもすでに成熟しているので,逆にちゃんとした規則があるというか,高いクオリティや,レベルの高いサービスがあれば,ちゃんと売れていく国々です。そういったところをちゃんと押さえて研究することによって自分自身を高めることもできるので,そこはしっかりと注目していくというのが重要なポイントです。

4Gamer:
 なるほど。では3番については?

Li氏:
 これから登場するマーケットに関しては,確かに発展途上かもしれませんが,現状ですでにダウンロード数であったり収益であったりという部分で数字が出てきていて,今後非常に伸びてくる可能性を秘めているところです。ここもしっかりと押さえておきたいと思っています。

4Gamer:
 ……ちなみに中国はどこに該当するんですか?

Li氏:
 中国はちょっと特殊な国なので,どこかに当てはめるのが非常に難しいのですが,「1つの国だけど,すごく多国的」なのが特徴です。

4Gamer:
 いろんな要素を内包してるということでしょうか。

Li氏:
 ええ。世界的に見てもハイスペックのものだったり,とてもオリジナリティのあるものだったり,そういったものが突如出てくる半面,国内には一級都市,二級都市,農村,みたいなランク分けみたいなものもあって,住んでいる人達の趣向もさまざまです。必ずしも1つの認識ですべてをまかなえるということではありません。1つの国が非常に複雑な構造になっており,多国的な面を持っているので,なんとも言い難いです。

4Gamer:
 形を変えたヨーロッパみたいなものですからね……。ちなみに,3番目の国として注目しているのはどのあたりですか?

Li氏:
 トルコ,ブラジル,インドネシア……でしょうか。もう少しあとになると思いますが,インドもそうですね。

4Gamer:
 インドはフィーチャーフォンの時代にすでに携帯電話のゲームが盛んでしたが,スマホ時代においてはまだマーケットが小さいんでしょうか。

Li氏:
 インドはなにしろユーザーが多いので,すでにいろいろな人達が遊んでくれているのですが,デジタルコンテンツに対する消費量はまだまだです。これは中国も通ってきた道なんですが,やはり作品に対してお金を払うという意識があまりないので,たとえば人気のあるゲームであっても,ARPUがすごく低かったり,誰もお金を払わなかったり,そういう感じです。

4Gamer:
 ベースの底上げがまだなされていないんですね。

Li氏:
 そこが変われば一気に大きな市場になるとは思っています。

中国のゲーム運営も,カスタマーサービスが結構重要


4Gamer:
 先ほどのお話だと,日本は「すでに発展している国」に入っているとのことですが,そうはいっても――使っている金額はさておき――プレイヤーの数としては中国に遥かに劣るマーケットですよね。それを踏まえたうえで,日本のマーケットについてどのように考えていますか?

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Li氏:
 これは誰もが知るところですが,日本はゲームの歴史であったりユーザーのレベルであったり,そういうのが非常にしっかりしている国で,やはり高品質で付加価値の高いものが売れています。さらに,ユーザーのロイヤルティが高く,普通にお金を払ってくれるので,確かに人数は中国より少ないかもしれませんが,ゲームマーケットそのもののクオリティは非常に高いと考えています。

4Gamer:
 適切な認識だと思います。

Li氏:
 しかし裏を返せば,これは中国だけでなくほかの国もそう思っていると思うのですが,日本市場に入るには非常に高い障壁があります。遊び方であったり,ゲームの設計であったり,グラフィックスレベルであったり,マーケティング手法であったり,そういうものが他国とはちょっと違っており,挑戦をしなくてはいけない市場だからです。

4Gamer:
 それはどの国の人もそう言いますね。中にいるとちょっと分かりづらいのですが,そういうものなんですね。

Li氏:
 逆に日本のユーザーに認められれば,私達が世界レベルのサービスをちゃんとできるようになったという証明にもなります。そういった意味においても,日本市場は挑戦するに値するところなんです。

4Gamer:
 具体的に日本で何かサービスをローンチしようと思った時に「これはどうすればいいんだろう」と思ったことってありますか?

Li氏:
 実は何から何まで「これはどうすればいいんだろう」なので,なんとも答えづらいです(笑)。しかしまずは,どのゲームが日本に合っているのかの選択が非常に難しいです。どういうシステムがいいのか,どういったデザインが好みに合っているのか,どうすれば初心者にも親切なゲームに見えるのか,どうすれば新鮮な楽しさを提供できるように見えるのか……そういったプロモーション部分に関してもまったく違う市場なので,かなりのチャレンジです。

4Gamer:
 カスタマーサービスについても結構違うと聞いたことがあります。

Li氏:
 確かに一番難しいと思っているのが,カスタマーサービスです。こちらは素直に日本の企業に委託して,日本に合ったシステムでやってもらうのが一番かな,と。

4Gamer:
 カスタマーサービスといえば,少なくとも日本では,大手に限らずスマホのゲームって頻繁にイベントを行うんです。しかし欧米などでヒットしている,例えばクラッシュ・オブ・クランとかクラッシュ・ロワイヤルとか,あれだけのユーザーがいてセールスランキングの常連ですが,メーカー主導のイベントって一切やらないですよね。バージョン管理の問題などもあって,あれが普通のやり方なんだと思いますが,中国はどちら寄りなんですか?

クラッシュ・ロワイヤルは,「スマホにおけるMOBA」の一つの完成形を示したタイトルだろう。人気の高さはさすがだ
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Li氏:
 そこはちょっと日本的かもしれません。ゲームのアップデートであったりイベントだったりというのは,結構頻繁にやります。アップデートに関しては,1か月に1回,おそくとも6週間に1回は行います。イベントに関しても各種の記念日は必ずやりますし,とくに最近の中国では欧米系の記念日みたいなのも認知されはじめてきていますので,それに準じた特別なキャラやヒーローが出てきたりとか。
 クラッシュ・オブ・クランのようなグローバルなものがどうしてそういうイベントをやらないかというと,おっしゃるように作品がグローバルバージョンなので,各国や地域に合わせたイベントとかが逆にやりにくいからだと思います。

4Gamer:
 あんなに何もイベントをしないのに,世界中であんなに売れ続けるのって,それはそれでスゴイことだと思います。純粋にゲーム性だけで勝負しているという。
 私は,プライベートで中国製のゲームを遊ぶことも多いんですが,割と頻繁にイベントをやっているので,もし運営方針が日本に近いのであれば,そこの障壁はあんまりなさそうだな,と思いまして。

Li氏:
 カスタマーサポート絡みで言うならば,日本にはVIP機能がないんですよね。

4Gamer:
 あぁ,あれはないですねえ……。

Soul Clash(日本に輸入された時にVIP機能が廃止されたタイトルの一例として)
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Li氏:
 中国人の多くは,やっぱりゲームで自慢したいというところが大きくて,そういう環境の中でVIPシステムは非常に有効に働いていると思います。

4Gamer:
 言葉がちょっと悪いですが,VIPレベルによって「あからさまな対応の差」があって,あれはあれですごいですよね。

Li氏:
 そうですね。単に毎日もらえるアイテムが違うとかだけでなく,カスタマーサービスにおいても,例えばVIPレベル10以上だと24時間サービスでいろいろ受けられて,VIPレベルが低いとEメールだけの対応です,みたいなものもあります。それが中国という国です。

4Gamer:
 お金を払った人が,払っただけのより良いサービスを受けられるというのは,とても当たり前で自然なことなので,私個人としてはVIPシステムは――ゲームとして良いか悪いかは別として――否定しません。ガチャよりはよっぽど理にかなっていますし(笑)。
 ただ,例えば私が2万円,3万円と払っていくと,VIPレベルがどんどん上がっていて,日本人的にはそれがとても恥ずかしいんです(笑)。VIPシステムって,ほかの人からもVIPレベルが丸見えですし,「オマエこんなに払ってんの?」みたいな。

Li氏:
 友達であってもそうでなくても,ユーザーの情報は全部見えるようになってますしね,普通。

4Gamer:
 ……あぁそうか。日本でサービスするときは,逆にVIPレベルの表示を隠す課金アイテムを売るといいかもしれません。

Li氏:
 なるほど,それは考えつかなかったです(笑)。

今後出てくるであろう“プラットフォームを越えたゲーム”への対応が重要


4Gamer:
 ところで先ほど注目している国として,インドだったりインドネシアだったりの話をしていましたが,2年くらいまえにガンホーが御社の株を買いませんでしたっけ

Li氏:
 はい。

4Gamer:
 あれってまだそのままですか?

Li氏:
 変わってませんね。

4Gamer:
 そのあたり両者で何か話は進んでいるんでしょうか。あの時のリリースの文面を見ると,ASEAN諸国に進出する意図があるようなないような空気感を出していたので,そういうことが何か進んでいるのかなというのが少し気になりまして。

Li氏:
 戦略的な投資パートナーということで株式の購入をしてもらったのですが,現状東南アジアを一緒に攻めましょうというお話にはなっていません。むしろ昨年8月にタイで,中国の他社のゲームをChukongが代理でリリースして,iOSとAndroidでトップ5に入る成績を収めてます。

4Gamer:
 おや。それはガンホーとは関係ないんですね。

Li氏:
 はい,別の会社です。今年も3タイトルをタイで配信する予定になってます。
 ガンホーさんとの間に細かい話はまだ何も出ていないんですが,戦略的な投資ということで今はやっていますので,たとえば東南アジアではなく中国で,IPの提供であるとか,新プロモーションであるとか,新規に開発をやるとか,もしかするとVRとかARとか,これから出てくるであろう技術とかゲームに対して,一緒に戦略的な投資をしていきましょうという感じになるかもしれませんけれど。でもとくに現状で何かが動いているということはありません。

4Gamer:
 ところでガンホーといえばコンシューマも割と多くのタイトルを出しているんですが,CocosはPlayStation 4とかコンシューマ用のエンジンは作らないんですか?

Li氏:
 現状ではコンシューマゲームに対してそういった計画はないです。

4Gamer:
 それは会社として,少なくとも中国におけるコンシューママーケットはそこまで拡大しない,もしくはあまり需要がないだろう,ということなんでしょうか。

Li氏:
 自分達の強みはやっぱりモバイルにあるから,です。自分の強いところを極めていくというか,積極的に攻めていくべきだと考えているというのが大きな理由の1つです。
 ちなみにコンソールゲームにマーケットがないかというと,個人的にはそんなことはないと思っています。もともとは政府の規制があったんですけど,コアユーザーは並行輸入だなんだといろいろな方法でやっていましたし,この規制も2年前に解除されました。ただ,やっぱり固定ユーザー数が非常に少ないという問題はあると思います。コンテンツの消費量として見ても,やはり少ないと言わざるを得ません。マーケットシェアの増加にしても,2014年から2016年にかけて7%しか増加していないというデータもありますし,伸びているジャンル……とは言い難いのが正直なところです。

画像集 No.019のサムネイル画像 / 来たるべき時代のために,ゲームエンジンへの投資は今後も欠かさない――中国発,日本でも名高いゲームエンジン“Cocos2d-x”のChukongは,いまのゲーム業界をどう見ているのか

4Gamer:
 7%は確かにちょっと厳しいですねえ。

Li氏:
 ただ一方で,それを遊んでいる人はコアユーザーがメインですので,中国のゲームであろうと違う国のゲームであろうと,クオリティの高いゲームであれば飛びつくでしょう。これからのVRとコンシューマゲームの融合は非常に刺激的な話題ですので,タイミングとしては悪くないな,と感じています。

4Gamer:
 なるほど。ではお時間もないので最後の質問になりますが,広い意味でのゲームマーケットを見た時に,中国という巨大マーケットでコンソールが本格的に動き出しており,一方でモバイルゲームは世界中どこでもどんどん競争が激化しています。そんな状況にさらにVRという新しいテクノロジーが登場して,ここ数年は新しいトピックにこと欠かないゲーム業界なんですが,3年後に世界のゲームマーケットはどういう方向に進んでいると思いますか。

Li氏:
 3年後,ですか。
 今は非常に多くのプラットフォームが自由に使えるようになってますよね。PCであったりコンソールであったり,モバイルであったり,VRであったり,PCにしてもクライアントなのかブラウザなのか,最近脚光を浴びているHTML5なのか。これからは,新しい技術をうまく使いこなして,どういった体験をユーザーに与えられるか,どれだけの時間を使ってもらえるか,どれだけのお金を使ってもらえるか,というところがポイントになると思っています。
 そしてさらに,今後はおそらくプラットフォームを越えたゲームが出てくるのではと考えています。今後中国市場においても,作品の内容のクオリティの高いものがどんどん求められていくと思いますし,ユーザーもそれに慣れてきます。ユーザーの趣味趣向も,我々メーカーの作るものも,それに合わせてクオリティの高いものに動いていくのではないかと思います。

4Gamer:
 なるほど。

Li氏:
 ですので私達も,そういうゲームを作るための創造性を存分に発揮できたり,グラフィックスを作り出せたりするようなものを提供していくことが,3年後の自分達の生き残る道なのだと考えています。
 またこれは,世界的に見ても中国で見ても同じことが言えると思うのですが,ゲームが発展して20年以上が経過して,当時はメインターゲット層が18〜30歳くらいだったのが,今ではどんどん広がっていっています。

4Gamer:
 そうですね。かつてのユーザー達の年齢が上がっただけでなく,彼らが親になったことによって,下の世代もゲームに抵抗がなくなってきています。

Li氏:
 ええ。上を見ても,以前は30歳くらいまでの人しか遊ばなかったものが,今は40歳,そしておそらくそれ以上の人も遊んでいると思いますし,若い人もどんどん入ってきています。そんな風にユーザーの年齢層が広がることが,ゲーム業界の発展にとってどんどんいい方向に動いていくのではないかと考えております。

4Gamer:
 確かにユーザーの広がりによって,新しいエンターテイメントも生まれてくるんでしょうね。本日はありがとうございました。

ーーー2016年7月28日収録
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