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コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」
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印刷2023/05/11 12:00

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コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」

 早めに咲いた今年の桜がまだ残っている春先に,サウジアラビアのフェサール王子から久しぶりに連絡が入った。

画像集 No.001のサムネイル画像 / コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」
 聞けば,近々来日予定があるので,ぜひ小島監督に会いたいのだがアテンドできないかとのこと。さすがに相手が相手だけに「お任せください」と即答はできなかったが,とりあえず聞いてみますとお答えした。
 さて正面からコジマプロダクションに聞いてみようとは思ったものの,なんて言えばいいのだろうか。「サウジの王子が小島監督に会いたいそうです」「サウジの王子が時間くれないかと言ってます」 ……どちらもなんか違う気がする。

 フェサール王子が大変にゲーム好きなのはよく存じているし(メタルギアもメタルギアソリッドもかなりやりこんでいたはず),そもそも王子はゲームを国の産業として確立させて世界に出ようとしている方なので,単なるご挨拶で会いたいわけではないはずだ。
 変な気を回すよりは素直に聞いてみようと思って,長いメールを書いて正面から連絡してみたところ,なんと小島監督に快諾いただけた。しかも,昨年12月に新しくしたばかりの“あの”新オフィスに王子を招いて,監督自ら説明してくれるとのこと。

これがコジマプロダクションのオフィス内部だ!
画像集 No.002のサムネイル画像 / コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」 画像集 No.003のサムネイル画像 / コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」

 そんなわけで,小島監督とコジマプロダクションの皆さんのご厚意で,今回の「フェサール王子,コジマプロダクションに行く」が成立することになった。4Gamerもそこに同席したので,コジマプロダクションのオフィスの写真を交えつつ,スタジオ訪問の様子を皆さんにもお届けしよう。

画像集 No.004のサムネイル画像 / コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」

 ところでフェサール王子は,自分自身も割とコアなゲーマーでもあるが,正真正銘サウジアラビアの王子であってやんごとなき人なので,毎回のことだがキチンと紹介させていただきたい。
 正しい名前は「His Royal Highness (HRH) Prince Faisal bin Bandar bin Sultan Al Saud」。報道では普通「ファイサル王子」「ファイサル・ビン・バンダル王子」と書かれることが多いが,初めてお会いしたときに日本語での表記はフェサール王子でよいと言われているので,そう記す。
 お父様は,スルタン(皇太子)家に生まれて長く駐米大使を勤めたことで有名なバンダル王子(HRH Prince Bandar bin Sultan bin Abdul-Aziz Al Saud)で,お母様は第三代国王(ファイサル国王)の娘であるハイファ王女。バンダル王子は,総合情報省長官、国家安全保障会議事務局長を歴任し,前国王の特別顧問として積極的に外交交渉を行ったことでも有名だ。そればかりか,お姉様であるリーマ王女は駐米大使で,お兄様であるカリード王子は駐英大使という,もはや庶民にはよく分からないレベルのご家庭だ。
 フェサール王子自身は米国で学んでいたが,2005年に米国よりサウジアラビアに戻り, 2017年にはサウジアラビアeスポーツ連盟の会長にも就任している(アラブ連盟諸国が参画するeスポーツ連盟の会長でもある)。そして,ゲーム業界をサウジアラビアに立ち上げて,その開発力を世界レベルにしたいと願う若き王族でもある。
 そればかりではなく,「SASUKE」のアラビア語版(関連記事)を作ったり,「風雲!たけし城」のサウジ版(関連記事)を作ったり,日本大好き,エンタメ大好き,ゲーム大好き(そしてしゃぶしゃぶ大好き)の人でもある。

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 そんな王子をまず出迎えてくれたのは,コジマプロダクションのプレジデントをはじめとするスタッフのみなさん。ひとしきりの歓待が終わったあとは,いよいよオフィス内に案内された。

 まずお目にかかるのはカフェテリアゾーン。ここで王子はついに小島監督と挨拶を交わし,しばし歓談。「世界の小島監督」とお会いできた王子は,最初はちょっと緊張した面持ちだったが,小島監督が途切れることなく色々な説明をしてくれて,緊張がほぐれたご様子。
 現在のビルには全然空きがなかったのだが,コロナになってたくさんの企業がここから引っ越しをしたので,昨年12月にようやく1フロア丸々使うことができたそう。ちなみにこちらのカフェテリアからは,東京タワーとレインボーブリッジとスカイツリーと富士山という観光名所が一望できるとのことで,確かに素敵な立地条件。

画像集 No.006のサムネイル画像 / コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」
 さてそこから移動したのは暗闇が覆う廊下で,真っ暗な中にひと筋のラインが床に。それを辿っていくと……少なくともゲーム業界の中で,世界一有名な「エントランス」であろう,“ルーデンスの部屋”だ。白一色で左右合わせ鏡という(過去と未来を表しているという),無限に続くかのように思える独特の空間。王子も入るなり「素晴らしい」と感嘆。

※歴史学者ヨハン・ホイジンガが提唱した「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)が元になっている。「人間の活動の本質は遊びであり,それこそが文化を生み出す」というホモ・ルーデンスの考えが,コジマプロダクションを表現しているので使われているとのこと。「常に遊びを創造し続ける」という思いを込めたシンボルキャラクターが,この「ルーデンス」なのだ。

 写真で見たことはあったが,実際に足を踏み入れて左右を見渡すと,なんだか足元がふわりとする,なんともいえない感覚に襲われる。
 宇宙船のエントランスをイメージしているとのことで,確かにこの現実から乖離したような不思議な空間は,日常からクリエイティブに切り替えるスイッチの役割を果たしてくれそうだ。

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 そこから奥の隠し扉に入ると,そこは「アーカイブ」。アートの原画や初期のコンセプトアート,制作資料,マッツ・ミケルセンが着ていた服など,過去の貴重な情報がずらりと展示されているスペースだ。ごく普通にさらりと置いてあるが,当たり前に貴重な展示が多く,王子も興味津々で見入っていた。

※デス・ストランディングにおけるクリフォード・アンガー役

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 続いて見せてもらったのは「応接室」だ。真っ白で普通にカッコいいのだが,なんだかGパンで座るのを躊躇してしまいそうなクリアさ。クッションにはルーデンスロゴがエンボス加工してあって,これは普通に欲しい。
拡大して見ると,うっすらとロゴが
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 ちなみに小島監督の説明によると,ここにあるモニターを使ってオンラインミーティングをしたときに,向こうの画面に映る風景を月面のようにしたかったとのことで,なるほど,それでこのデザイン。モニターの向こうから見る機会はなさそうだが,興味津々だ。

 そこから移動すると,見えたのはフレキシブルルーム。フィットネスなどのクラスが毎朝実施されているとのことで,過酷なゲーム開発をする人達にとっては大事なことなのかもしれない。

 そしていよいよ「スタジオエリア」だ。ゲームの音声やラジオ,Spotifyの収録などを行う部屋「レコーディングブース」や,グリーンバックでスチルやビデオが撮影できる「撮影スタジオ」など,すべて内製ができるようになっていると説明していた。大きなゲームスタジオをサウジアラビアに作りたいと思っている王子にとっても,とても新鮮な体験だったのではないだろうか。
 「コントロールルーム」は,ミキシングコンソール完備で立体音響にも対応した部屋なのだが,そこに案内されて,昨年12月に公開された「DEATH STRANDING 2(Working Title)」(以下,DS2)のティザーを大迫力で鑑賞させてもらった。大画面で観るDS2のティザーは,音響も相まって迫力が尋常じゃない。

※「Hideo Kojima presents Brain Structure」(Spotify)


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 次の「スキャンルーム」は,3Dモデル素材用の撮影設備が集まった,独特の雰囲気を持った部屋なのだが,「王子の顔モデルを撮りませんか。もしかしたら何かの作品で使わせていただくかも」とのことで,王子にサプライズイベントが発生。でも撮影担当の人に「ヒゲは撮れないんです。あとから手で植えます(笑)」と言われて「申し訳ありません。剃ってくればよかった!」と返す一幕も。

 無数のデジタルカメラをシンクロさせて,あらゆる方向から一斉に撮影してモデリングデータの“元”を撮影するのだが,「普通の顔」「怒った顔」「驚いた顔」「悲しい顔」「微笑んだ顔」と結構なパターンを撮影していた。「あんまり怒らないから怒った顔は難しいな(笑)」とは王子の言だが,確かに王子が怒ってるイメージまったく湧きません……。聞くと,ゲームをしてるとき以外では怒ることはないらしい。
 今回は顔だけの簡易的な撮影なので10分程度で済んだが,これが主役級ともなると,もっと緻密に撮影できる海外のスタジオでやるとのこと。歯形のデータまですべて取るらしい。

画像集 No.017のサムネイル画像 / コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」 画像集 No.018のサムネイル画像 / コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」

 もしかしたらゲームに使われるかも? の話の徒然で王子曰く,「僕の兄弟(編注:つまり別の王子)も,スター・ウォーズにストームトルーパーとしてエキストラ出演したことあるんだけど,もしコジマプロダクションの作品に出られるようなことになったら,兄弟にドヤ顔できる!」と。

 まるで映画館のようにポスターが並ぶ廊下から,再びカフェテリアスペースへ。奥のほうにあるグッズスペースを見たあと,デスストグッズが入ったカプセル自販機が置いてあったので,王子に1つプレゼント。

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 そしてここでは,王子が壁にサインして写真を貼られるというイベントが発生。まさか自分がここにサインをすると思ってなかったのか,「いいの?」と王子はさっそく大きいサインを。
 書いたあとで本人も「大きすぎた!(笑)」と笑っていたが,小島監督に「豪快でいいですね」と言われてまんざらでもないご様子。ところでアラビア語は横書きで右から左に向かって書くので,何度見ても新鮮で,脳がちょっとだけバグる。そのときの様子は小島監督のTweetにもあるので,ぜひ合わせてどうぞ。

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 最後に,座って少し歓談の時間。それぞれの周辺情報などを話したあと,王子が小島監督に「ぜひサウジに一度来てください。毎年夏には8週間ほどやってる長いゲームイベントがあるので,それにぜひお越しいただきたい」とコジマ監督を招待し,未来都市NEOMについてもお話された。
 ちなみに王子が触れた“夏に8週間やってるゲームイベントとは「Gamers8」のこと。
 eスポーツ大会のほか,世界的な音楽アーティストによるパフォーマンスとフェスティバル,ショー,ゲーミングコミュニティ,ビデオゲームの制作の裏側を学べる教育プラットフォームなど,すべての年齢層で存分に楽しめるアクティビティで構成され、8週間にわたって,サウジアラビアの首都リヤドで開催されるエンターテイメントの祭典……と4Gamerに書いてあったのでぜひ一度お読みいただきたい。

※NEOM(ネオム)とは,サウジアラビアの経済を多様化させて石油からの脱却を計るプロジェクトである「サウジビジョン2030」の1つである。サウジアラビア北西部に建設される計画都市で,都市の総面積は2万6500平方キロメートルに及ぶ。東京ドームで換算してみたら57万個分で,だいたい群馬県3個分くらいだった。……それは「都市」なんだろうか。


 スキャンしたモデルデータの話が出た際には王子が小島監督に「カッコよくしておいて!」とリクエストする一幕が見られるなどユニークなやりとりも交わされ,意義ある訪問は終了となった。

 帰りのエレベータで,王子にオフィスの感想と,小島監督がどうだったか聞いてみたところ,

 いやもう,オフィスも小島監督も,どちらも素晴らしかったです。メタルギアからのファンで,もちろんメタルギアソリッドも大好きです。小島監督の思考やゲーム作りに対する考え方など,作品から色々なインスパイアを受けているので今日は本当に素晴らしい経験でした。彼のゲームは,ただのゲームではなくて映画などに近くて,ストーリーが重要であることがすごく楽しめているんです。
 監督も,期待通りの人でした! 一度だけじゃなくて,また会える日を楽しみにしてます。

王子と皇太子(皇太子もゲーム好きなのだ),そして読者の皆さんのために,PS5版「デス・ストランディング」と,著書「創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち」にサインをお願いしたら,快くサインしていただけた! それぞれ,4が付く日にやってる「“4”の付く日は4Gamerプレゼントの日」と,Weekly 4Gamerでプレゼントとして出すので,お見逃しなく
画像集 No.031のサムネイル画像 / コジマプロダクションに,サウジの王子がやってきた――「もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」
とのご感想。NPCとして出られるかもしれないことについても「自分の期待値を上げすぎないようにします(笑)。もし小島監督のゲームに入れたとしたら,僕がやったことの中で一番素敵な経験になると思います」とのこと。

 この2人の出会いが,将来ゲーム業界にどういう影響を及ぼすのかは分からないが,もしかしたらまたいずれ会う機会がありそうなお二人だな,と思わせる訪問だった。

 ところで,今回の訪問のお話をコジマプロダクションの担当の方と詰めているときに聞いたのだが,なんとコジマプロダクションでは現在積極的にスタッフ採用を行っているとのこと。我こそはと思う腕自慢の人は,ぜひ応募してみよう。応募は下記URLから!

コジマプロダクション採用サイト


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