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噂の100円ゲームブックを,6歳の娘と遊んでみる。DAISO発「きみが決めるストーリーブック」の実力やいかに
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印刷2023/05/30 10:42

プレイレポート

噂の100円ゲームブックを,6歳の娘と遊んでみる。DAISO発「きみが決めるストーリーブック」の実力やいかに

 100円ショップDAISOを運営する大創産業の子会社・大創出版から,ゲームブックの新シリーズ「きみが決めるストーリーブック」が発売された。「ドラゴンカリバー とりもどせ!巨人の宝物」(以下,ドラゴンカリバー)と「ふしぎ探検キミ&ユメ 〜消えた人形事件〜」(以下,ふしぎ探検)の2タイトルで,価格は共に110円(税込)だ。

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 4Gamer読者にとってはいまさらかもしれないが,ゲームブックとは読者自身が主人公となり,物語を読み進めていくスタイルの本のことを言う。通常の小説などとは異なり,本文はそれぞれに番号が振られたいくつものパラグラフ(段落)で構成されており,これを前から順番にではなく,選択肢に応じて指定されるパラグラフへと移動しながら読み進めていくのが一般的なゲームブックの形態となっている。
 当然,どのルートを辿るかは人によって異なるわけで,プレイヤー自身の物語を体験できるのがゲームブックの魅力といえる。ちょうどデジタルのアドベンチャーゲームにも通じる発想だろう。
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 100円ショップでお馴染みのDAISOにて,ゲームブック「ドラゴンカリバー とりもどせ!巨人の宝物」「ふしぎ探検キミ&ユメ 〜消えた人形事件〜」が販売される。執筆は藤浪智之氏が,イラストは佐々木 亮氏が担当しており,ゲームブックの未経験者や,久々に遊びたくなった人にとっても最適な本といえそうだ。

[2023/05/01 20:31]
 本稿では,そんな両作をじっくり遊んだ様子を,プレイレポートの形で紹介したい。のみならず,子供向けのタイトルと言うことで6歳の娘と一緒に遊んだ様子も合わせてお伝えするので,子育て世代の4Gamer読者にも参考にしてもらえたら幸いだ。

DAISOではボードゲームや推理ゲーム,トレーディングカードゲームなどが安価で販売されており,アナログゲーマー間でしばしば話題になる
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「大創出版」公式サイト

「DAISO」公式サイト



藤浪智之氏&佐々木亮氏のゴールデンコンビが贈る“ストーリーブック”


 ではまず,両作の概要から見ていこう。
 今回の2冊はそれぞれ本文が128ページあり,「ドラゴンカリバー」が130パラグラフ,「ふしぎ探検」が107パラグラフからなるゲームブックだ。2冊合わせて文庫本1冊ほどの厚みなので,ゲームブックとしては中編といったところだろうか。
 対象年齢は8歳以上で,つまり小学校の中学年(3〜4年生)あたりをターゲットとしている。総ルビなので漢字が苦手でもなんとかなるし,大人が読み聞かせたり,噛み砕いて説明を加えたりすれば,それ以下の年齢でも楽しめるに違いない。

裏表紙には作中の一場面が例示されている。ゲームブックに初めて触れる子供でも,これがどんな本なのか分かりやすい
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 作者は本文を藤浪智之氏,イラストを佐々木亮氏が担当している。藤浪氏はテーブルトークRPG「ファー・ローズ・トゥ・ロード」を始め,数々のアナログゲームを手がけてきたデザイナーであり,佐々木氏とのタッグでは初代PS用ソフト「だんじょん商店会 〜伝説の剣はじめました〜」や,漫画「マンションズ&ドラゴンズ」などを生み出してきた,ベテランのクリエイターコンビでもある。

 「ドラゴンカリバー」は,中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台にした冒険活劇ものだ。ゲームデザインとしては,場面を移しながらゴールに向かって一直線に進んでいくタイプで,マルチエンディングのすごろく的な構造となっている。
 一方,「ふしぎ探検」は現代の街を舞台にした探偵もので,タウンマップを介して各地を行き来しながら情報とアイテムを集めていく,フラグ管理が重要なタイプだ。それぞれコンセプトが異なっており,おそらく意図的なものだろう。

 ゲームブックにはダイスを使ってキャラクターを作成したり,戦闘を処理したりするものも多いが,本作はダイスを必要とせず,基本的には二つの選択肢からどちらかを選ぶだけで進行していく形となっている。本作がゲームブックではなく“ストーリーブック”と銘打たれているのは,もしかするとこうした点にあるのかもしれない。
 ただし謎解きやパラグラフジャンプ――飛び先のパラグラフを自分で探り当てるギミック――といった要素はちゃんと盛り込まれており,さらにバッドエンドもしっかり用意されている(しかも,お馴染みのあの番号だ)あたりは,正しくゲームブックと言っていいだろう。

パラグラフの構成も,関連する内容は連番など近い位置に置かれていて,不慣れでも本の中で“迷いすぎない”配慮が感じられる
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6歳の娘と「ふしぎ探検キミ&ユメ」に挑戦!


 というわけで,ここからは実際に遊んでみた様子を紹介してみたい。とはいえ,せっかくの子供向け作品だ。子供に遊んでもらわなければ意味がない。そこで小学校へ上がったばかりの6歳の娘に白羽の矢を立てることにした。

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娘「ゲームの絵本? 楽しそう。表紙がかわいいし,文がドラクエみたいだね〜」

 娘はノリノリの様子だ。まずは「ふしぎ探検」から,筆者が読み上げながら一緒に遊んでみることにしよう。

筆者「きみの名は『キミ』。小学四年生。どこにでもいるような,ふつうの小学生だ……こんな『事件』にかかわる以外は」
娘「小学四年生なんだ。お姉さんだね〜」

 続いて進んだパラグラフ1で,主人公は「渡守希美(わたもりきみ)」という名前で,だから“キミ”と呼ばれていることが説明される。

娘「あ,“きみ”ってことなんだ。ダジャレだね〜」
筆者「単なるダジャレじゃなくて,自分が主役になって話が進んでいくんだって仕掛けなんだろうね」
娘「そうか,“きみ”ってわたしのことなんだね」

 呑み込みが早い。続いてキミは本が好きで,妖怪やユーレイのような不思議なものが見えてしまう女の子であることを伝える。本の見え返しに,妖怪や精霊のイラストがあるのでそれも見せてあげる。

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娘「どの子もオバケなのにかわいいね。友だちになれるかなあ」

 なれると思うよ,と答えながらパラグラフ2へ。ここでは不思議なものが見えるようになった理由が紹介され,パラグラフ3では表紙に出てくる“ユメ”が登場する。神社のお社から出てきた女の子で,どうやら神様みたいだ。でもフレンドリーで,すっかりキミの家に居着いてしまっているらしい。

娘「次はどうなるの〜」

 娘が急かすので,パラグラフ4へ。ここではスマホのツクモガミである“ツクポ”が出てきて,街の駅前広場にある人形が消えてしまったことを教えてくれる。これが「ふしぎな事件」というわけだ。戸惑う人々の様子を,ちょっとしたロールプレイを交えて伝えてみる。

筆者「なんてことだ。商店街のシンボルが!」「楽団の人形達が消えてしまうなんて!」
娘「人形がなくなって困ってるんだ。たしかにふしぎだね〜」

 娘もノリノリである。


いよいよタウンマップが登場


 続くパラグラフでは,いよいよタウンマップが登場となった。ここから好きな場所を選んで進めるらしい。テーブルトークRPGでいうシティアドベンチャーというやつだ。

筆者「このタウンマップにある,好きなところに行けるんだよ」
娘「こんなところに100円ショップがある〜」
筆者「本当だね(でも行き先のパラグラフが書いてないから,直接には行けなそうだな)」
娘「あ! ここに小学校があるね〜」

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 自分が小学生になったばかりなので,小学校が気になるらしい。小学校のパラグラフへ進むと,子供達がなにやら,噂話をしている。新しいオモチャを買ってもらうとか,夕暮れの人のいない学校にはトイレの花子さんみたいなオバケが出るとか……。

娘「トイレの花子さんってなあに?」
筆者「うーん,説明が難しいんだけど,トイレに出てくるオバケというか……」
娘「女の子なの?」
筆者「そうみたいだよ」
娘「なんでトイレにいるの? オバケなのにうんちしてるの?」
筆者「えーと,それはね……」

 子供だけあって,トイレの話には興味津々だ。花子さんの詳しい説明は本文になかったので,よくある学校の怪談をここで少し教えることにした。本文の選択肢としては,夕暮れまで待つかどうかだが……

娘「よく分からないけど,日が暮れるまで待つ〜」

 飛び先のパラグラフの描写は念入りだった。教室にも校庭にも誰もおらず,静まり返っている。窓から差し込む夕日で,そこらじゅうがまっ赤っ赤になっていて……。

筆者「キミはトイレに入った。窓から差し込む赤い夕日で,ここもまっ赤だ」
娘「なんだか,ブキミだね〜」

 顔を曇らせる。いちいち反応が分かりやすい。

筆者「……すると,いきなり。コン,コン,コン!――トイレの個室のなかから,ノックの音がしてくるよ。外じゃなくて,なかからノック。そう,ふつうと逆だ」
娘「えっ,こわい〜! 逃げる〜」

 即断。思えば,娘は赤ん坊のときから怖がりだった。離れた廊下まで逃げると,ツクモガミのツクポがヒントをくれる。どうやらもう一度トイレに戻ってやり直すか,それともタウンマップに戻って別の箇所を調査するかが選べるらしい。

筆者「花子さんは昔からいる情報通のオバケで,『なにか役に立つことを教えてくれたかもしれませんですポ』って言ってるよ」
娘「うーん,どうしようかなあ。トイレのオバケはやっぱり怖いし……」

 しばらく悩む娘。大人が見るとヒントがあるから誘導してくれているのだと分かるが,なにぶん娘はまだ,6歳なのだ。ここで時計を見ると,けっこうな時間が経っていた。今日は近くのショッピングモールで,買い物をする日なのだ。

筆者「あ,もうお出かけの時間だ。どうする? この本持っていく?」
娘「うん,お出かけしながら遊ぶ〜」

 さっそくお気に入りのシマエナガのポーチに,本をしまった。


図書館嫌いの娘が,自分で本を読むように


 ショッピングモールで小一時間,買い物をした後,お昼が近くなってきた。

筆者「そろそろご飯だね。なに食べたい?」
娘「スパゲッティ。カルボナーラ!」

 娘の希望を汲んで,モール内のパスタ屋さんで昼食をとることにする。ただ,すでに待機列ができていて,待たねばならない。

娘「たいくつだね……。あっ,さっきのゲームの本があったね〜」

 思い出した娘は,そそくさとポーチから本を取り出し,タウンマップのページをめくる。こういうとき,サッと取り出してサッと読めるのが,紙の本の強みだろう。

娘「やっぱりオバケは怖いから,別の場所に行ってみたいね。お,も,ちゃ,屋……。か,ら,く,り,仕,か,け,時,計……」

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 マップに記された拠点の文章を,一字一字,自分でゆっくり読んでいく。ルビがあるので,たどたどしいながらも,なんとか文字を追えるようだ。大きい声を出したり走ったりしたら叱られるからと,図書館に行くのを嫌がる娘としては異例の食いつきのよさだ。

娘「今度は,かっぱ池に行ってみようかな〜」

 かっぱ池では,アヒルのオモチャや大事な人形がこの池でなくなった,カッパのせいだと人々が話していた。娘は心なしか悲しげな顔で,大事にしていたコキンちゃん(「アンパンマン」のキャラクター)のぬいぐるみをなくしたときのことを思い出したみたいだ。

娘「お人形さんだって。みんなお人形さんをなくしてるんだね」
筆者「大丈夫だよ。見つけてあげればいんだからさ」
娘「それもそうだね。――あ,『カッパのしわざだ!』と叫ぶか,『本当かな?』とつぶやくか,選ぶように,だって〜。パパ,どうしよう?」

 一人で読んでいるのに,懇願したかのようにこちらを見てくる。

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筆者「さっき,カッパがぷんぷん怒ってたってあったよね。なんで怒ってたのかなあ」
娘「もしかして,カッパのせいだって言われたから?」
筆者「そうかも。じゃあ,どう行動する?」
娘「『本当かな?』と言ってみるよ〜」

 ページをめくると,しばらくカッパとのやりとりが続いていく。言葉少なめに,じっと文字を目で追いながら,「ここ読んで」とか「教えて」とか訊いてくる。カッパの好きそうなものを買うために100円ショップへ行く場面なんかもあって,ここで100円ショップが出てくるのかと筆者としても腑に落ちた気分だ。


子供向けだが,子供だましではないゲームブック


 昼食を挟んで家に帰ってからも,娘は「ふしぎ探検」に夢中だった。マップのあちこちをめぐって情報やアイテムを集め,事件の真相に迫っていくというゲームの構造も,読み進めるうちになんとなく分かってきた様子だ。とはいえ,すでに通過したパラグラフに戻って読みなおしたり,関係ないパラグラフの絵を見て「かわいい〜」なんて言ってたりもする。

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 そんな様子を眺めながらも,リドル(謎解き)やパラグラフジャンプといったシーンでは,筆者も一緒に参加したりもして,なんとか夕方になる前には事件を解決できた。この心地よい疲労感は,テーブルトークRPGを1セッションこなしたくらいの感覚だろうか。娘もご満悦のようで,その日は夕食やお風呂でもゲームブックの話題で持ちきりだったくらいだ。

 後日「ドラゴンカリバー」にも挑戦し,そちらも見事クリアした娘に,どっちが好きだったか聞いてみると……。

娘「どっちも好き〜。かわいいし,ワクワクするもん〜」

 ニッコリしながら楽しそうにしている姿を見ると,こちらとしてもパワーをもらえた気持ちになる。娘の初めてのゲームブック体験は,どうやら大成功だったようだ。親としては,これが優れた物語やゲームとの出会いとして記憶され,ひいては少しでも自己肯定感を高めることにつながればいいと願うばかりである。

 思い返せば,筆者が娘くらいの年齢だった1980年代,ゲームブックは大きなブームを巻き起こしていた。「火吹山の魔法使い」関連記事)をはじめ多数のベストセラーが登場し,子供向けの雑誌や漫画でも,ゲームブック的なものを目にする機会が,頻繁にあったのを覚えている。
 21世紀に入ってからもゲームブックは出続けてはいるが,大人の読者に向けた高価なものが多いのも,また事実だ。子供向けで言えば,迷路やパズルの要素を入れた児童書こそあれど,あくまでも知育目的のものが中心で,小学生のお小遣いで買える本格的なゲームブックはほとんど,ない。

 今回の2冊は,その隙間を補完するものとして,非の打ち所のない作品と感じられた。仮に児童書レーベルから1冊1200〜1500円くらいのハードカバーで売られていたとしても,違和感はないに違いない。特筆すべきは,子供向けの記述や簡略化を行いながらも,ゲームブックとしてのコアの部分に手抜きがないことだ。廉価でありながら粗製乱造ではなく,子供向けの体裁ではあるが,子供だましではない。
 こうした良質なゲームブックがきちんと評価され,新たな流れにつながることを願っている。

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