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しげるのゲーミング子育て日誌:第4回は「父親の自覚」について。「メタルギアソリッド2」と育児の交差点って……何?
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印刷2024/09/04 08:20

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しげるのゲーミング子育て日誌:第4回は「父親の自覚」について。「メタルギアソリッド2」と育児の交差点って……何?

画像集 No.006のサムネイル画像 / しげるのゲーミング子育て日誌:第4回は「父親の自覚」について。「メタルギアソリッド2」と育児の交差点って……何?

 ゲーマーにしてライターのしげるさんが,頭を悩ませつつも楽しんで子育てに向き合う過程をエッセイにする企画「しげるのゲーミング子育て日誌」。不定期でお子さんの成長とともに起こる悲喜こもごもを連載していきます。

 第4回は,「父親の自覚」概念がテーマです。巷ではよく聞く表現ですが,いざ向き合ってみると何を指すものなのか不明瞭に感じられる言葉です。果たして「自覚ある父親」になるためには何が必要なのか? 「METAL GEAR SOLID 2 SONS OF LIBERTY」を通じて考えます。

 どうも世の中には「父親の自覚」という概念があるようだ。グーグルで「父親の自覚」で検索したところ,ヒットした件数は約9,680,000件。これだけヒットするのなら,言い回しとしてはしっかり世の中に根付いていると言っていいと思う。

 しかし,グーグルで「父親の自覚」のあとに検索候補としてサジェストされる単語は,なんだか不穏である。なんせ「父親の自覚」と打ち込んで一発目に来る検索候補が「父親の自覚がない」。その下が「父親の自覚が芽生えない夫」である。

画像集 No.001のサムネイル画像 / しげるのゲーミング子育て日誌:第4回は「父親の自覚」について。「メタルギアソリッド2」と育児の交差点って……何?

 その下にも「父親の自覚 いつから」「父親の自覚を持たせるには」「父親の自覚がない 離婚」と,穏やかでない感じの検索候補が並んでいる。父親の自覚,どうも世間的には「ない」のが問題視されており,どうやって男親に父親たる自覚を持たせようか……というのが一大トピックになっているらしい。

 「父親の自覚」とは果たしてなんなのか。試しに「自覚」を辞書で引いてみると,「自分の状態をわきまえること。かくご」とある(新選国語辞典 第七版 小学館)。父親であるという自らの状態をわきまえ,覚悟を固めた状態というのが,父親の自覚をもった状態であるということらしい。ふ〜ん? 「おれは父ちゃんだぞ!」と認識していれば「自覚がある」ということになるのだろうか。どうもなんかそういうことでもなさそうな感じがするんだよな……。

 この定義だと「父親だぞ! おれは父親なんだ!」と心で思いながら毎晩外で飲み歩いて遊びまわっていても「父親の自覚がある」と言えちゃいそうだが,おそらくそれでは「自覚がある」とみなされないだろう。父親の自覚とは,一体なんなのか。

 かくいう自分も,「父親の自覚」があるかどうかと言われると,甚だ自信がない。子育てを始めて2年半ほどになるけれど,「お前は! 父親として! 覚悟を! 固めているのか!」と問われると,「ど,どうなんでしょう……」と言わざるを得ない。

 もちろん子どもを持とう,育ててみようという夫婦の意思決定に関わったのは間違いないが,なんだか自覚をうながす通過儀礼的なものを経ずにヌル〜ッと父親というポジションについた感じがものすごくある。自覚が生まれるようなイベントを経ていないので,いまだに育児に関して無免許運転みたいな状態なのではないか,という不安があるのだ。

 なぜ「父親の自覚」に通過儀礼が必要であるような気がしているのか。よく言われることではあるが,多くの母親は自ら出産する場合,妊娠・出産というプロセスを踏むことになる。

 自分は妊娠も出産もやったことがない(やってみたくはあった。体内で巨大な別の生物が動き回っている状態というのはどんな感じなのか,いまだに気になっている)ので憶測になるが,これは通過儀礼として非常に強烈な体験だろう。なんせ自分の体内から子どもが出てくるのだ。親子の形やつながりにはいろいろなスタイルがあるものの,その中でも「この子は自分の子どもだ」という自覚の契機として,出産という体験が強烈なものであることは想像がつく。

 そういう強烈な体験を経ている以上,母親の方が一般的に「うおお,子どもだ! 育てなければ!!」という気持ちになりやすいのは,納得できる話だと思う。妻を見ていても,産前と産後でスイッチが切り替わった感じがあり,明らかに行動の優先順位が変化している。強烈な通過儀礼によって「自覚」が生まれたわけである。

 一方で父親にはそういった強烈な体験はない。極端な話,パートナーが妊娠して経過が無事であれば,父親がボケっとしていても子どもは生まれてくる。現代の産科における妊娠から出産までのプロセスはそれはそれはよくできており,ちゃんと通院してちゃんと母体が栄養をとっていれば,父親のやることはほとんどないと言っていい。

 もちろん精神的なケアとか,動けないパートナーに代わっていろいろ作業をするとか,父親学級に行って出産・育児について学ぶとか,いろいろやることがあると言えばあるのだが,正直「絶対に父親以外にはできない」という工程は最初に精子を提供するところだけである。身もふたもないが,出産・育児のサポートは血縁者以外でも可能だし,最悪父親不在でも出産自体はできてしまう。それでいいのかと思わないでもないが,実際そうなんだから仕方ない。

 さらに言えば,自分の場合は子どもが生まれたタイミングも難しかった。というのも,我が子が誕生したのは2022年。コロナ禍真っ最中だったのである。今は多少緩和されているのかもしれないが,当時は入院病棟に外部の人間が入ることは原則認められておらず,出産の立会いはおろか産後の見舞いにすら行けない状況だった。

 というわけで,自分の場合の出産プロセスは,「父親の自覚をもたらす,すごい体験・通過儀礼」としてはちっとも機能しなかった。陣痛が来た深夜に病院まで妻を送っていき,妻はその場で即入院となったので,そこで別れてすぐ帰宅。以降はLINEなどで連絡をとりつつ,入院翌日の夕方には生まれたと連絡が来て,その後一週間ほど経ってからいきなり我が子とご対面,というのが自分から見た出産のプロセスである。

 もちろん入院中の妻からちょいちょい写真や動画を送ってもらっていたものの,それらを見るたびに「これが? 本当にこれがおれの子どもなの?」となんとも不思議な気分になるばかり。なんせ生まれてくるところをまったく目撃していないので自覚ゼロ。退院時にいきなり産後一週間が経過した我が子と対面しても,かわいいとは思うものの同時にまったく現実感がなかったことを今でも覚えている。

 その状態からいきなり怒涛の子育て実戦投入だったので,それはそれは大変だった。母親はすでに一週間子どもと過ごしているが,こちらはまず抱っこの仕方からわからない状態である。

 グニャグニャしてどこを持っていいかわからない新生児をおっかなびっくり抱えつつ,3時間おきにミルクをちょびちょびと飲ませてゲップをさせ,おっことさないように注意しながら寝かせ……すぐ泣くので寝られず……記憶が途切れ途切れになり……あまりに夜中に起こされるので試しにミルクをやりながらアニメでも見るかと思って見始めた「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」を数日で全話鑑賞……と,「新生児を育てるのってこんなに過酷なのかよ」と呆れてしまうような生活を送ることになった。自覚ゼロなのに……。

 そういう新生児期のめちゃくちゃな暮らしをなんとか乗り切った現在から振り返ると,そもそも「父親の自覚」って本当に必要なのだろうか……という疑問が湧いてくる。もちろん自分一人で乗り切ったわけではないし,どちらの負荷が強かったかと言えば確実に妻の方だ。

 しかし「自分もできることはやれる限りいろいろと頑張ったのではないか」という気持ちはある。自覚ゼロでヌル〜ッと父親になったにしては,100点満点とは言えないまでも,なんか案外やれたのではないか。子どもも今では2歳半とデカくなったし……。

 話は飛ぶが,自分が好きなゲームである「METAL GEAR SOLID 2 SONS OF LIBERTY」(以下,「メタルギアソリッド2」/なぜ「2」が好きなのかという話をすると長いので割愛)に,「S3計画」というプランが出てくる。ゲームの途中で「S3」とは「Solid Snake Simulation」の略であり,伝説の英雄であるソリッド・スネークのような戦闘員を人為的に作り出すための実験であると説明される。

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 「Solid Snake Simulation」の要旨は,前作「METAL GEAR SOLID」で描かれたシャドーモセス島事件と同等のハードなシチュエーションや戦闘を新兵に体験させることで,スネークのコピーのような能力を持つ兵士を作り出すことにある。

 この「Solid Snake Simulation」自体が偽情報であり,物語の黒幕の目的は別にあることが終盤で明かされるのだが,自分はこの「特定の条件・シチュエーションを用意して(半ば無理やり)体験させることで,人間の能力を急速に向上させる」というプランが強く印象に残った。実際,そういうことはけっこうあるのではないか,と思ったのである。

 「メタルギアソリッド2」において,雷電に「俺はスネークだ!」という自覚があったかというと,そういう描写は全然なかった。むしろ,終始状況に乗せられて振り回されていたのが雷電だったように思う。この雷電とS3計画みたいな感じで,特に自覚も何もないままゆるゆると状況に適応して,なんとなく父親としてやっていくことはできないだろうか。

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 育児に関する作業は,観念的なものではまったくない。自分にはまだ2歳半まで育てた経験しかないが,基本的に育児に関する作業は実践の連続である。

 頭で「自分は父親だ!」と思っていようがそうでなかろうが,オムツの交換はしなくてはならないし,寝ない子どもは無理やり寝かさなければならない。保育園が休みの日には子どもの相手をせねばならないし,言葉がある程度理解できるようになればこれまで以上にしつけの必要も発生するだろう。

 いずれも実作業であり,やるかやらないかしか選択肢がない。そう考えると,「自覚」の存在自体はそこまで重要ではないのではないか,と思うのである。

 自覚がなくてもオムツは交換できるし,離乳食を食べさせることはできるし,子どもと遊ぶこともできる。自覚なき父親に無理やり自覚を持たせるよりは,「お前がやらねば誰がやる」という実践の場で実作業を担当させ,父親の意向関係なしに状況に慣れさせるほうが話が早いのではないかと思う。

 自覚はなくとも,新米の父親が実践の繰り返しの中で勝手に成長し,気づけば育児版ソリッド・スネークに仕上がっているというのが理想なのではないだろうか。まあ,自分がスネーク並みの敏腕パパかと言われると,まったく自信がないですが。

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 そう考えると,「自覚の前にまず実践」という形でしか,父親が父親らしく振る舞う方法はないように思う。なんせ,自分で産んでいないのだ。そうである以上,時に叱られながら後付けでなんとかやっていくか,それともロクに子育てに参加せず子どもやパートナーに迷惑をかけるか,の二択しか,父親には選択肢がないのである。

 そしてそうやってヒーヒー言いながら子育てに関わるうちに,いつしか周囲からは「あの人には父親の自覚がある」とみなされるのではないか。つまり,父親の自覚というのは,字面に反して父親の内心にはあまり関係がなく,絶え間ない実践の積み重ねによって周囲から「こいつは父親業を頑張っている」「あの人は父親の自覚がある」と認定されることで発生するものなのかもしれない。

 となると,「父親の自覚」には辞書的な意味での「自覚」自体はあんまり関係がないことになる。それは,コロナの影響もあってロクに自覚を持つチャンスがなかった自分にとっては,都合の良い結論である。自覚ゼロで状況に流されて子育てしているだけのおっさんが,いつしか周囲から「父の自覚に溢れている」と思われ,育児無免許運転の偽物が本物の父親になる瞬間が,ひょっとしたらやってくるのかもしれない……。それがいつになるかわからないが,そんな日が来てドヤることができたらいいな……とぼんやり思っている。

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