ニュース
Google DeepMindのデミス・ハサビス氏がノーベル化学賞を受賞。「テーマパーク」をデザインし,「Evil Genius」などを生み出した過去を持つ
機械学習や神経科学の研究者であり,AIを使ったタンパク質設計の研究に大きな役割を果たしたとして,Google DeepMindの協業者であるジョン・M・ジャンパー(John M. Jumper)氏,そしてワシントン大学タンパク質設計研究所所長のデイヴィッド・ベイカー(David Baker)氏とともに共同受賞している。
ハサビス氏の名前を聞いてピンときたゲーマーは多いと思うが,氏はゲーム業界とも縁の深い人物だ。1976年生まれのハサビス氏は,イギリスで4歳からチェスの神童として名声を獲得し,12歳でグランドマスターになった。
16歳で高校を卒業してから大学に入学するまでの期間は,自分で学費を賄うために同国のゲーム業界ではすでにレジェンドだったBullfrog Productionsのピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏に師事。RTS「シンジケート」(1993年),そして経営シム「テーマパーク」(1995年)の開発にデザイナーやプログラマーとして関わったことで,無数のNPCを制御するAIシステムに興味を持ったとされる。
復学して1997年にはケンブリッジ大学クイーンズカレッジのコンピューターサイエンス学部を主席で卒業すると,モリニュー氏が新たに起業していたLionheads Studiosに戻り,ゴッドゲーム「Black & White」(2001年)のリードAIプログラマーとして参加。さらに1998年には独立してElixir Studiosを起業し,政治シム「Republic: The Revolution」(2003年)や,悪の帝国経営シム「Evil Genius」(2004年)を手掛けている。
その後,ハサビス氏はゲーム業界を離れ,2009年には認知神経科学の博士号を取得。2010年には,研究者の仲間たちとともにAIスタートアップ企業であるDeepMindを設立すると,彼らが開発した囲碁解析プログラム「AlphaGo」(アルファ碁)を以て韓国棋院に勝負を挑み,イ・セドル九段(当時)との5番勝負で4勝1敗の成績を残している。
さらに,より複雑な人工知能を必要とするRTS「StarCraft II」に挑戦したAIプログラム「AlphaStar」については,本誌連載の「奥谷海人のAccess Accepted第609回:StarCraftでも人類陥落。AIの進化は止まらない」で紹介したとおりだ。
なお,2011年に掲載した「奥谷海人のAccess Accepted第335回:科学の進歩に貢献するゲーム」で紹介しているが,生物の体を作るタンパク質は,アミノ酸が長く連結した高分子化合物であり,アミノ酸の順番(一次構造)によって,多様な立体構造を作り上げている。
これがタンパク質フォールディング(折り畳み)と呼ばれるものであり,2014年にGoogleにより買収されてGoogle DeepMindという社名になっていたハサビス氏らのチームは,2018年にAIプログラム「AlphaFold」を開発して,タンパク質の折り畳み構造を,原子の幅に合わせて高水準で予測する深層学習システムの設計に成功し,これが今回のノーベル賞の受賞理由となっている。
ちなみに,上記連載にもあるワシントン大学が開発したパズルゲーム「Foldit」には,共同受賞者であるベイカー氏が関わっているなど,科学者がゲームを土台にして研究を重ねたことは,我々ゲーマーコミュニティにとっても注目すべきことだろう。
- この記事のURL: