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[インタビュー]ゲームをめぐるバリアフリーの現在地はどこか? Xboxのアクセシビリティ・コントローラ開発者,ケイトリン・ジョーンズ氏に聞いてみた
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印刷2024/12/07 12:00

インタビュー

[インタビュー]ゲームをめぐるバリアフリーの現在地はどこか? Xboxのアクセシビリティ・コントローラ開発者,ケイトリン・ジョーンズ氏に聞いてみた

 過去から現在にいたるまでさまざまな形で進化を続けているゲームだが,この5〜6年ほどで飛躍的な進化を遂げた分野がある。それが「アクセシビリティ」だ。文字通り「アクセスのしやすさ」を意味するこの言葉は,障碍を持つプレイヤーなどが,感覚機能・身体・心理・認知などさまざまな制約に囚われることなくゲームを楽しむための概念として,近年のゲーム業界で広く扱われるようになった。

 今では多くのタイトルで初回起動時にアクセシビリティ設定のメニューが表示されるようになり,年末の風物詩でもあるThe Game Awardsでは優れたアクセシビリティ機能を搭載した作品を表彰する「Innovation in Accessibility」が用意されるなど,アクセシビリティはすっかり一般的な概念としてゲーマーの間でも定着しつつある。

 こうした流れにおける大きなブレイクスルーとなったのは,2018年(日本では2020年)にMicrosoftが「Xbox アダプティブ コントローラー」(以下,Adaptive Controller)というXbox / Windows PC向けのアクセシビリティ・コントローラを発売したことである。従来の「コントローラ=両手に持って使うもの」という概念を塗り替えたAdaptive Controllerの登場は,ゲーム業界全体に対してアクセシビリティとそのニーズを印象付けるとともに,以降のアクセシビリティ推進の流れを大きく勢いづけるきっかけとなった。現在もMicrosoftはハードとソフトの両面においてアクセシビリティを推進する活動を続けている。

 一方で,アクセシビリティという分野は(その向こう側にある障碍がそうであるように)誤解されることが少なくない。例えば,読者の中には「目の見えないユーザーが◯◯をクリアした」や,「手足が不自由なプレイヤーがeスポーツ大会で活躍した」という話題を見たことがあるという方もいるのではないだろうか。

 これらは一読して「今はどんな人でもゲームを楽しめるんだ」と思ってしまうエピソードだが,それはあくまで一つの事例である。確かに分野自体は飛躍的な進化を遂げたとはいえ,「今のビデオゲームはどんな障碍のある人でも楽しめる」と断言することはできない。なぜなら,障碍には一つとして同じものはなく,全てのプレイヤーのニーズを叶えられるような絶対的な解決法は存在しないからである。

 むしろ,現在のアクセシビリティを巡る状況は,Adaptive Controllerの登場などを経て,実際に利用した当事者からのフィードバックを元に,さらに前へと進むための試行錯誤を続ける真っ最中だ。また,そもそもアクセシビリティというトピック自体が「自分には関係のない話題」として扱われ,「そんなことに労力を費やすくらいなら,別のところに注力してほしい」という意見を目にすることも少なくない。

 そこで,12月3日の国際障害者デーならびに同日から9日までの「障害者週間」に合わせた特集として,今回は,Xboxのゲーミングアクセシビリティチームでシニアアクセシビリティプロダクトマネージャーを務め,自身も作業療法士としての経歴を持つケイトリン・ジョーンズ氏へのメールインタビューを実施した。

 また,次回はアクセシビリティデバイスなどを活用しながらゲームを楽しむ障碍を持つゲーマーへのインタビューや,(本稿でも触れている)新進気鋭のアクセシビリティ・コントローラー「Proteus Controller」を手掛けるByoWave社とのコラボレーションを実施しているePARA(バリアフリーeスポーツを通して,障碍当時者の活躍支援を行う会社)による,両社の共創活動を振り返ったコラムの掲載を予定している。企業と当事者,それぞれの目線を通して,アクセシビリティの現在地に迫っていきたい。

 アクセシビリティに関心のある方はもちろん,初めて知るという方にとっても,本稿が前述のような状況と向き合いながら「ゲームには大きな可能性がある」と信じ,企業やコミュニティ,そして一人ひとりのユーザーが今も一歩ずつ確かな前進を続けているアクセシビリティの世界を,より深く知るきっかけとなれば幸いだ。

ケイトリン・ジョーンズ氏インタビュー


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ケイトリン・ジョーンズ氏

2018年のAdaptive Controllerの登場について


4Gamer:
 2018年のAdaptive Controllerの登場は,ゲーム業界にどのような影響を与えたと思いますか?

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Adaptive Controller

ケイトリン・ジョーンズ氏(以下,ケイトリン氏):
 Adaptive Controllerは,それまでになかった形でゲームにおけるアクセシビリティの重要性に対する認識を高め,注目を集めたと思います。Microsoftのような企業がアクセシビリティの革新に対して大きく投資をしたことで,その影響は業界全体へと波及し,ほかの企業もすべてのユーザーのニーズを考慮するように促すきっかけになりました。

 また,Adaptive Controllerは意識的に「Xboxエコシステムの一部」であると感じられるようにデザインされたのですが,これは“支援技術が医療機器のように見える必要はない”ことを示すための良い前例になりました。アクセシビリティは,クールで洗練された,より広いゲームコミュニティを構成するためのいち要素になり得るのです。

 さらに,ゲーム開発者にとっても,Adaptive Controllerは実際のプレイヤーがどのようにゲームをプレイし,どのような障壁に直面しているのかを理解する手助けとなりました。例えば,ボタンを足や肘,口で操作するなど,プレイヤーが従来とは異なる体の部位を使ってゲームをプレイしている様子を知ることで,開発者はボタンを素早く連打したり,長時間押し続けたりするといったアクションがプレイヤーにとっての負担になることを知れましたし,そうした課題を解決するための方法を検討できます。

 こうした動きは,結果としてAdaptive Controllerを必要としないようなユーザーに対するサポートにもつながりました。例えば,関節炎を抱える方のように,標準的なコントローラを使用しているけれど,ボタンを連打することで痛みを感じてしまうようなユーザーに対しても,アクセシビリティの発展を通して補助ができたのです。

4Gamer:
 2018年当時,Adaptive Controllerはどのような背景や経緯から生まれた製品だったのでしょうか?

ケイトリン氏:
 以前から,私たちはコントローラとその入力における障壁をよりよく理解し,学ぶために,ゲームアクセシビリティの慈善団体や非営利団体との連携を続けていました。そこで,多くのユーザーがそれぞれの身体に合った,より大きなボタンやジョイスティックなどを使用するために,既存のコントローラのカスタマイズに膨大な時間を費やしていることを知ったのです(筆者注:コントローラを巡っては,長きにわたって,直接改造したり,独自にデバイスを作るような動きがコミュニティ内で一般的となっていた)

 私たちは,こうした団体を支援するとともに,その協力を得ることが難しかったり,そうした知識がまだ共有されていなかったりするような,多くのユーザーをサポートしたいと考えました。そこで,何度もハッカソンを実施し,当事者との共同作業を続けていく中で,Adaptive Controllerのコンセプトが結実したのです。

 Adaptive Controllerは,ユーザーが自分に合ったボタンやジョイスティックを簡単に接続できるよう,さまざまな入力ポートを備えた「ハブ」として機能し,カスタマイズの知識を必要とすることなく,ユーザーや介護者など,自宅にいる人々がそれぞれに合ったゲーミング・セットアップを作成できるデバイスです。

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Adaptive Controllerはさまざまなデバイスと接続が可能だ

 結局のところ,このコンセプトは障碍のあるユーザーのコミュニティとのつながりを通して,彼らが経験している障壁について学び,その手助けをしたいと思ったことを起点にして生まれました。だからこそ,その経験やフィードバックを最後まで製品に反映させるため,開発プロセス全体を通してコミュニティからの協力を頂きました。

4Gamer:
 実際に製品を発売したことによって得られた学びや変化などはありましたか?

ケイトリン氏:
 Adaptive Controllerは,柔軟性とカスタマイズ性によって,ユーザーそれぞれのニーズに合わせたゲーミング・セットアップを作れる環境を実現しました。これにより,既存のユーザーが自分の体験をカスタマイズする機会が増えただけでなく,新たなユーザーもXboxへ集まってきたのです。

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Adaptive Controllerは,さまざまなプレイヤーにとってゲームにアクセスするための重要なアイテムとなった

 その中には,Adaptive Controllerを誰かのために導入しようと検討しているような,親や介護者,セラピストといった方々も含まれていました。そこで私たちは,従来のユーザーはもちろん,ゲーム初心者でもAdaptive Controllerの使い方をより理解できるような,従来よりも包括的なリソースが必要だと気付いたのです。

 こうした経験を元に,Xboxの公式サイト上に,Adaptive Controllerのユーザーガイドを用意しました。このガイドには,コントローラの設定方法のような基本的な内容に加えて,より高度なカスタマイズ オプションを活用するためのハウツービデオなども用意されています。また,「ユーザーのスポットライト」と題したビデオシリーズでは,障碍を持つ実際のユーザーを紹介し,彼らがどのようなゲーミング・セットアップを作ったのか,また,なぜそうしたのかについて語っています。

 私たちは,障碍を持つユーザーの中には,Xboxのセットアップのために最適な方法を学んだり,自分のゲーミング・セットアップのアイデアを考えるために,自分と同じような障碍を持つほかのユーザーの取り組みを参考にしたいと思っている方が数多くいるとを学びました。だからこそ,このような取り組みは非常に重要なのです。

Adaptive Joystickについて


 Adaptive Controllerを起点としたアクセシビリティ・コントローラの流れは,ケイトリン氏が語ったようにほかの企業へと波及し,現在ではNintendo Switch用の「Flex Controller」(テクノツールとHORIの共同開発)や,PlayStation 5用の「Access Controller」(SIEによる純正コントローラ)が登場したことによって,どのプラットフォームでもアクセシブルなコントローラの選択肢が用意されるようになった。

 また,当初のアクセシビリティ・コントローラは,Adaptive Controllerのように利用者の環境に合わせた「ハブ」として機能するものが主流となっており,実際にユーザーが操作するボタンやスティックについては個々人で用意する必要があったのだが,近年では「Access Controller」「Proteusコントローラー」(詳細は後述)のように幅広いカスタマイズ性を用意することによって,デバイス単体でアクセシブルな役割を実現するコントローラも台頭している。Xboxが来年に発売を予定している新たなアクセシビリティ・コントローラ「Xbox Adaptive ジョイスティック」も,そうした「カスタマイズ性によるアクセシビリティ」の系譜にあるデバイスの一つだ。

4Gamer:
 来年発売予定のXbox Adaptive ジョイスティック(以下,Adaptive Joystick)はどのような製品なのでしょうか?

ケイトリン氏:
 Adaptive Joystickは,Adaptive ControllerやXbox ワイヤレス コントローラーなど,ほかのXboxコントローラを補完することを目的に設計された,単体の有線ジョイスティックです。これは,主に身体の不自由なユーザーのニーズを満たすために作られたもので,手に持って使用することも,卓上に設置して使用することも,手以外の体の一部を使って使用することもできるように,汎用的に設計されています。

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Adaptive Joystick

 ユーザーはAdaptive JoystickをAdaptive Controllerに接続して使用することもできますし,コンソールやWindows PCに直接接続して,「コントローラー アシスト」機能(2台のコントローラをリンクし,1台のコントローラとして使用できる機能)を活用して,単独でプレイしたり,別のユーザーと一緒に操作したりすることもできます。また,ボタンのリマップを行ったり,複数のプロファイルを作成したりして,ゲームや状況に応じてプロファイル間を切り替えることも可能です。

4Gamer:
 Adaptive Joystickは,どのような背景や経緯から生まれた製品なのでしょうか?

ケイトリン氏:
 障碍を抱えるゲームコミュニティからのフィードバックとして,Adaptive ControllerやほかのXbox向けコントローラと一緒に使用できるような,手頃な価格のジョイスティックを求める声を多く頂いたからです。そこで,私たちは2022年にAdaptive Joystickの設計を開始しました。

4Gamer:
 Adaptive Joystickの開発に際して,どのような困難や課題がありましたか?

ケイトリン氏:
 ハードウェアデバイスを設計する以上,ユーザーに影響を与える膨大な選択肢の中から,一つに絞り込まなければならないということですね。例えば,搭載するボタンの数やその配置については,それぞれのユーザーが異なる好みやニーズを持っていると考慮する必要がありますし,形状についても,手持ち型のデバイスにするべきか,テーブルの上に平置きできるようなデバイスにするべきかを決めなければなりません。

 そうした検討を重ねていく過程で,最終的にはカスタマイズ性こそが最も重要であると考え,そのために最善を尽くしました。例えば,ユーザーが(Adaptive Joystickの)一部のボタンだけを使いたいけれど,配置の都合でほかのボタンを使いたくない場合があることを考慮し,それぞれの好みに合わせてボタンを完全にリマップできるようにしました。これには,ボタンを誤って反応させないよう無効化することも含まれます。

 また,デバイスの底面に1/4-20インチのねじ穴を用意し,ユーザーがジョイスティックをアームや三脚などに簡単に固定できるようにしました。これにより,ジョイスティックを手で持てるユーザーはもちろん,手でデバイスの重さを支えられない場合や,足やあごなどのほかの部位で使用したいユーザーにも対応できるようになっています。

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あごでの操作にも対応している

4Gamer:
 Adaptive Controllerの開発時と,今回の開発において,考え方や取り組み方の変化などはありましたか?

ケイトリン氏:
 Adaptive Joystickの開発にあたって,私たちはAdaptive Contollerの経験から得た学びを多く活かしましたが,同時に,2つのデバイスがまったく異なるニーズを満たすものであると認識する必要がありました。

 Adaptive Contollerは,ユーザーがそれぞれのニーズに最適な方法で,外部のジョイスティックやボタンをコントローラに接続できる「ハブ」として機能することを目的としたものです。一方で,Adaptive Joystickは,Adaptive Contollerのセットアップの一部,あるいは従来のXbox向けコントローラを補完する役割として使用できるような,低価格でよりパーソナライズされたジョイスティックを,ユーザーに提供することを目的としています。

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 ですが,こうした違いはありつつ,アクセシブルなデバイスを作る上での基本的な考え方は変わりませんでした。私たちの哲学の一つとして,「私たちのことを,私たち抜きに決めないで(nothing about us without us)」という言葉があります。どちらの開発においても,私たちは障碍を持つユーザーのコミュニティと共にこれらのデバイスを設計し,デザインを決定し,フィードバックを提供して頂きました。また,手頃な価格であるという点も,開発を通じて重視した部分ですね。


4Gamer:
 障碍には一つとして同じものはなく,全てのユーザーの要望を叶えることは極めて困難であるという現実があるかと思います。その前提の中で,どのように最終的な製品としての着地点を決定しているのでしょうか?

ケイトリン氏:
 Xboxでは,一人にとってのアクセシブルなソリューションが,必ずしも全員にとっての解決策であるとは限らないということを理解しています。だからこそ,さまざまな障碍のあるユーザーからの視点を求め,ユーザーがゲームを遊ぶ上でのさまざまな方法を考慮し,ゲームをプレイする際に直面するさまざまな障壁を調査することが非常に重要だと考えています。これらの障壁を理解し,それを取り除く方法を見つけることで,ユーザー一人ひとりの持つニーズに対応できるようになるのです。

 その前提のもとに,私たちはフィードバックを通してプロセスを改善することに加え,Adaptive Joystickのように,できるだけカスタマイズ性の高い柔軟なデバイスと体験を作り出すことを目指しています。

Adaptive サムスティック トッパーについて


 Adaptive Joystickがボタンのリマップや,手持ちや据え置きに対応できる形状などを通して,“大枠としてのカスタマイズ性”を実現しているのに対して,今年の8月からWebサイト上で提供されている「Adaptive サムスティック トッパー」は“細部におけるカスタマイズ性”を実現するための取り組みであると言えるだろう。

 いわゆる左/右スティックに相当するサムスティックの先端部分の形状や幅,高さを自分に合った形にカスタマイズして,3Dプリンター用のデータ(STLファイル)を無料でダウンロードできる同サービスは,細かな精度で操作性を調整する必要があるユーザのために用意されたものであり,同時に,アクセシビリティにおいては細かなパーソナライズが重要であるという事実を示す存在でもある(実際に使うためには,別途個人でファイルを3Dプリンターによって出力し,Adaptive JoystickやXbox ワイヤレス コントローラーのサムスティックに取り付ける必要がある)。

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Adaptive サムスティック トッパー

4Gamer:
 Adaptive サムスティック トッパーの提供に至った背景や経緯について教えて下さい。

ケイトリン氏:
 元となるアイデアは,2021年に行われた社内のハッカソンイベントで生まれました。開発チームは従来のカスタマイズコントローラのコストの高さに関するフィードバックと,3Dプリントの普及に触発され,ユーザーのニーズに合った,手頃な価格で3Dプリントできるような周辺機器を作ろうと考えていました。

 私たちが出会った多くの人々は,完全なアダプティブ・セットアップ(Adaptive Controllerと任意のボタンやジョイスティックで構築されるような包括的なゲーミング環境)ではなく,既存のコントローラに対するちょっとした改良を求めていたのです。そこで私たちは,どのユーザーでも自分のニーズに合わせてサムスティック トッパーのサイズを簡単にカスタマイズできるような手段を作ることにしました。

4Gamer:
 現在,「Adaptive サムスティック トッパー」では6種類の形状を選ぶことができますが,これはどのような理由から選出されたのでしょうか?

ケイトリン氏:
 ゲームや3Dプリンターの経験を持つ慈善団体や病院と協力し,障碍のあるユーザーによって特によく求められていたり,ユーザーにとって最適とされる形状を学ぶことで,最終的な6つの形状を決定しました。また,いくつかのユーザーから,手や指の形にぴったりと合うような形状が必要だというフィードバックを受けて,「カスタム」トッパーオプションのための3Dプリント用ファイルも追加しました。これを使えば,プリントしたサムスティックに対して,成形可能なプラスチックや粘土を付着させることもできるようになります。

サード・パーティとの連携について


 Xboxにおけるアクセシビリティ・コントローラの取り組みは,現在ではファースト・パーティに限らず,サード・パーティに相当する他企業との連携にも及んでいる。今年発売された8BitDoの「Lite SE 2.4Gワイヤレスコントローラー」は,59.99ドル(日本では約9000円)という低価格帯でありながら,すべてのボタンがコントローラ上部に配置されていたり,抵抗の少ないボタンや高感度のジョイスティックを採用したりすることで,ユーザーの負担の軽減を実現している。

 また,同じく今年発売のByowaveによる「Proteusコントローラー」は,サイコロ型のモジュールを複数つなぐことで,それぞれのユーザーに合った形のコントローラを自由に作れるというユニークなデバイスだ。どちらもXboxが協力しており,公式のXboxコントローラとして,既存のゲーミング環境にシームレスに導入することができる。

4Gamer:
 8BitDoやByowaveといった会社に対して,Xboxはどのような形で協力しているのでしょうか?

ケイトリン氏:
 私たちはDesigned for Xbox(パートナーと協力し,様々なカテゴリーのXbox周辺機器を,可能な限り最高のものを作ることを目指すプログラム)を通じてパートナー企業と協力し,Xbox製品とシームレスに連携できるよう,デバイスの開発を支援しています。アクセシビリティに重点を置いた製品については,社内のXboxアクセシビリティチームのサポートを提供していますし,アクセシビリティデザインに関する質問に答えたり,外部の障碍者コミュニティと連携してユーザーのフィードバックを求めたりすることもありますね。

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コミュニティとの連携は欠かせない

4Gamer:
 ほかの会社と協働することによるメリットについて教えて下さい。

ケイトリン氏:
 各ユーザーのニーズは大きく異なっており,そのすべてを満たすものは1つも存在しません。だからこそ,Designed for Xboxのパートナーによるアクセシビリティの取り組みには本当に感謝しています。8BitDoのLite SE 2.4GワイヤレスコントローラーやByoWaveのProteusコントローラーのようなデバイスが登場することによって,Xboxのアダプティブ・エコシステム全体が拡張し,ユーザーが選択できる手段をより多く提供できるようになります。

 また,こうしたコラボレーションの利点は,それぞれのデバイスがXboxプラットフォームでシームレスに動作することを,ユーザーが容易に理解できる点ですね。XboxやWindowsで動作することが保証されているため,ユーザーは,自分が購入するデバイスが,遊ぼうと思っているゲームや既に所有しているデバイスと互換性があるかどうかを心配する必要がありません。

アクセシビリティ全般について


 こうしたXboxの取り組みや,他企業の動きによって,今では冒頭で書いたような充実した(少なくともそう見える)アクセシビリティ環境が整いつつある。何よりも重要なのが,インタビューでもケイトリン氏が強調していた「選択肢が増える」ことであり,それは実際に遊ぶゲームにおいても同様だ。

 これまでは長きにわたって「買って実際に遊んでみるまで,遊べるかどうか分からない」という状況が続いていたが,今ではゲームの発売前にアクセシビリティ情報を公開するスタジオが増えたことで,購入する前にゲームがアクセシブルかどうかを調べられるようになった事例が増えている(Xboxでも,ユーザーが購入前にゲームで利用可能な機能を確認できるよう,公式サイトなどでゲームアクセシビリティ機能のタグが用意されている)。まさに,「やっと選ぶことができるようになった」のだ。

 とはいえ,アクセシビリティはまだまだ発展途上の分野であり,「誰もが平等にゲームを楽しめる」理想の状態には程遠い。一方で,筆者自身も取材などのライター活動や当事者との交流を通して,アクセシビリティという分野を広めたり,推進していくことの困難を感じているのも現実である(また,インタビューでも指摘している通り,どうしても日本と海外のギャップを感じてしまうことも少なくない)。

 インタビューの終盤では,改めてケイトリン氏に「そもそも,なぜアクセシビリティは重要なのか」という話を伺った。そこから見えてくるのは,障碍の有無を問わない,アクセシビリティ,あるいはゲーム自体が持っている大きな可能性である。

4Gamer:
 ビデオゲームのアクセシビリティを広めていく中で,どうしても健常者のユーザーには,こうした取り組みが「障碍を持つ人のためのもの」と早々に判断されてしまい,関心を得られず,認知を広げることが難しくなってしまうという課題を感じています。そこでお伺いしたいのですが,こうしたアクセシビリティの取り組みは,障碍を持たないユーザーにとって,どのような価値や意味をもたらすと思いますか?

ケイトリン氏:
 私は,アクセシブルなデザインが優れたデザインであると確信しています。きっと誰もが,障碍の有無にかかわらず,アクセシビリティがより良い体験を生み出す上で役に立つと感じられるような立場や状況に遭遇することがあるのではないでしょうか。

 例えば,キャプションや字幕は,本来は聴覚に障碍のあるユーザーのサポートを目的としたものですが,多くの人は混雑した空港やバスの中でも,必ずしもヘッドフォンを使わなくても,キャプションや字幕があることによって,スマートフォンでゲームをしたり動画を見られたりしますよね。このように,アクセシブルな体験を作ることは,障碍の有無にかかわらず,特定の環境や状況に合わせてカスタマイズできる体験を作ることを意味しているのです。

 また,アクセシビリティの発展は,単純にユーザーの選択肢を増やすことを意味しています。例えば,ボタンのリマップは,障碍を持つユーザーにとってはもちろんですが,単純に異なるコントローラ構成を好むような別のユーザーにとっても役に立ちますよね。

4Gamer:
 現在のビデオゲーム業界におけるアクセシビリティの現況について,率直なご意見を伺えますでしょうか。また,その中でXboxはどのような立ち位置や役割を持つと思いますか?

ケイトリン氏:
 アクセシビリティは長い道のりであり,どの企業もその道のりの異なる場所にいます。個人的には,近年,ゲームのアクセシビリティへの取り組みと認知度が飛躍的に向上しているのを目にして,非常にうれしく感じています。スーパーボウルで放送されたAdaptive Controllerの広告から,The Game Awardsでの「Innovation For Accesibility」部門の開催まで,ゲーム業界におけるアクセシビリティの認知度はますます高まっているように思います。

 Xboxでは,「上げ潮はすべての船を浮かせる」という言葉を支持しています。つまり,アクセシビリティを競争の対象として見なしていないということです。例えば,ある企業が新たなアクセシビリティデバイスをリリースし,ほかの大手企業などが同じようなことをしたとして,それはさらに多くのユーザーがゲームの楽しさにアクセスできるということを意味しています。どのプラットフォームやデバイスでプレイしているのかは関係なく,そのような環境を作り出すこと自体が,私たちにとっての目標なのです。

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4Gamer:
 個人的に取材などを通して,アクセシビリティを巡っては,(主にビジネス的な判断から「ボランティア」と捉えられることによって)企業側で対応の優先度が下がってしまうという現状を残念ながら感じています。その中で,なぜXboxはアクセシビリティの取り組みを積極的に続けているのでしょうか?

ケイトリン氏:
 まず,世界には何らかの障碍を抱える4憶2500万人以上のユーザーがおり,さらに一時的または状況的にアクセシビリティサポートを必要とするユーザーが数百万人以上いるため,インクルーシブなゲーム体験を構築・提供することは非常に重要です。

 その上で,私たちのアクセシビリティの取り組みは,プラットフォームに参加したいと思うすべての人を歓迎し,ゲームの楽しさから誰も排除されないようにしたいという願いによって推進されています。私たちはアクセシビリティに投資することによって,誰もが参加し繁栄できる,多様で包括的なゲームコミュニティを支援することを目指しています。

4Gamer:
 率直な意見として,これまでのXboxのアクセシビリティの取り組みについては,Adaptive Controllerの発売におけるタイムラグや,「Forza Motorsport」のaudio description機能の日本語非対応など,どうしても海外と比較して優先度が下がっているという印象を感じてしまっています。こうしたギャップは今後埋められていくのでしょうか?

ケイトリン氏:
 私たちの目標は常に,世界中のユーザーにとってゲームをより身近なものにすることですが,その体験が国や地域によって異なる可能性があるとも認識しています。また,障碍のあるユーザーに最高の体験を提供するために,それを正しく行う重要性も理解しています。残念ながら,現時点では追加の言語サポートに関する情報の提供はできないのですが,コミュニティからのフィードバックはサポートの優先順位を決定するうえで非常に重要です。

4Gamer:
 ビデオゲームのアクセシビリティにはどのような価値や可能性があると思いますか? ぜひ,これまでのケイトリン様の作業療法士としてのご経験なども踏まえた上で語って頂けますと幸いです。

ケイトリン氏:
 ゲームのアクセシビリティには無限の可能性があります。私が病院で作業療法士として働いていた時,セラピーセッションに参加する意欲を無くしてしまった患者が数多くいる一方で,痛みや疲労,怪我,障碍などがあっても,病室を出て交流する患者がいました。こうした状況で,ゲームが彼らの考え方や,回復へと向かうためのアプローチを変えるきっかけになったことは何度もあります。病院でのゲームナイトは,普段は控えめな患者にとっても,部屋を出て,笑って楽しむことを促すものだったのです。

 また,ゲームは,障碍などによって,外出をしたり,公共の場で友人と遊んだり,といった経験が簡単にはできないユーザーのためのコミュニティを築き,アクセスするための素晴らしい方法でもあります。ゲームを通して,ユーザーは快適な環境にいながらにして,古い友人とつながったり,新しい友人を作ったりできます。アクセシビリティを考慮せずにゲームを設計してしまうと,障碍のあるユーザーがこれらの社会的利益を享受できなくなってしまう可能性があります。ゲームにアクセスできなければ,これらの体験を楽しむことはできません。ゲームとアクセシビリティは表裏一体なのです。


Xbox Adaptive Controller 公式サイト

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