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ボストン コンサルティング グループ,ゲーム業界に関するレポートを公開。日本のゲームへの支払い意思額は世界平均を下回る
本レポートは,ゲーム業界の市場規模や業界動向に焦点を当てている。
ゲーム業界の収益は,2017年から2021年にかけてCAGR(年平均成長率)13%を記録したが,その後の成長は大幅に鈍化し,2021年から2023年にかけてのCAGRはわずか1%にとどまった。
原因として,金利の上昇や,巣ごもり需要の終了,いくつかの注目タイトルが期待外れに終わったことが挙げられている。
今後はCAGR5%で成長し,2028年には収益が2660億ドルに達すると予想されている。
一方で,AAAタイトルの開発費が収益の成長を上回るペースで増加していることも指摘され,2017年から2022年にかけてのCAGRは6%だったが,2022年から2028年にかけてのCAGRは8%になる見通しだという。
また,日本を含む8か国の消費者を対象として,支払い意思額の調査も行われた。
最も高かったのは中国のプレイヤーで,AAAタイトルの1人用ゲームに対して82ドル(約1万2800円)支払ってもいいと考えているそうだ。しかし,中国で人気のあるAAAタイトルは37〜45ドルで販売されている。
一方で日本のプレイヤーは,最適価格を45ドル(約7000円)と考えており,これは世界平均の53ドル(約8300円)を下回るという。
レポートでは,さらなる成長を求める業界関係者に向けて,AIの活用,サブスクリプションモデルの導入,PC/コンシューマゲームへの広告モデルの導入などが提案されている。
英語の全文は以下のリンクを,日本語解説の全文は以下のリリース文を参照してほしい。
「The Gaming Report:Leveling Up for the New Reality」
ゲーム市場はコロナ禍後に減速、今後は年平均5%で成長し、2028年に2,660億ドル規模へ〜BCG調査
成長の鍵はAIの活用、広告の検討、支払い意思額に応じた価格戦略
経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、ゲーム業界の市場規模や業界動向について解説したレポート「The Gaming Report:Leveling Up for the New Reality」(以下、レポート)を発表しました。
ゲーム市場は急成長から緩やかな成長へ モバイルや広告の成長率がPC、コンソールを上回る
ゲーム業界の収益は2017年から2021年の間に1,310億ドルから2,110億ドルへと成長し、この間の年平均成長率(CAGR)は13%でした。しかし、その後の成長は大幅に鈍化し、2021年から2023年にかけてのCAGRはわずか1%でした。金利の上昇に加え、コロナ禍後に巣ごもり需要が終了したことや、いくつかの注目作品が期待外れに終わったことが要因だとレポートでは分析しています。今後は一桁台の成長が続く見通しで(2028年までのCAGRは5%と予測)、2024年には収益が2,210億ドル、2028年には2,660億ドルと予測しています。
タイプ別にみると、モバイルゲームへの消費(ゲームアプリ購入費やアプリ内課金など)や広告による収益が、PCゲーム(2028年までのCAGR 2%)やコンソール(家庭用ゲーム機、同3%)を上回るペースで成長を続けるとみられます(図表1)。
成長の鈍化に加え、ゲーム開発予算の増加が業界の大きな懸念事項です。PCおよびコンソール市場向けのAAAタイトル(多額の開発費を投資した大型作品)の開発予算は収益の拡大を上回るペースで増加しており、2017年から2022年にかけてのCAGRは6%、2022年から2028年にはCAGR 8%に加速する見通しです。
日本のゲームへの支払い意思額は他国と比較しやや低め
著者らは、ゲーム業界の成長につながる要因を探るため、日本を含む8カ国の消費者を対象とした調査結果をさまざまな観点で分析しています。国別に支払い意思額を調査した結果、中国のゲームプレーヤーはAAAタイトルの1人用ゲーム[注1]に対して82ドル支払ってもよいと考えており、調査対象国中最も高い水準でした。しかし、中国で人気のあるAAA作品は37〜45ドルで販売されていることが多く、価格設定を見直す余地があるといえます。
一方日本では、1人用ゲームの最適価格は45ドル、ライブサービス型ゲーム[注2]では44ドルと考えられており、いずれも世界平均(53ドル、54ドル)を下回っています(図表2)。
ゲーム業界の成長機会を探るアプローチ
ゲーム業界の成長スピードは鈍化しているものの、成長の機会がなくなったのではなく、変化しただけだといえます。新たなトレンドを取り入れ、さらなる成長につなげるために、レポートでは業界関係者に次のアプローチを検討するよう提案しています。
・AIと自動化の活用: 生成AIを利用してゲーム開発の効率化とコスト削減を実現する。そのコスト削減分を、より没入感があり、他作品と差別化できるゲームの開発に投資する。
・サブスクリプション(定額課金)モデルの導入: 継続的かつ安定した収益を生むサブスクリプションモデルを採用し、単発の販売に頼らない収益構造を構築する。
・価格戦略の精緻化: プレミアム版の提供やマイクロトランザクション(少額課金)、バトルパス[注3]などを通じて柔軟な価格設定を可能にし、収益性を高める。
・広告を新たな収益源に: 従来広告が導入されていなかったPCやコンソール市場に広告モデルを組み込み、新たな収益源とする。調査によると、広告収益は2028年までにPC・コンソールゲーム市場に20〜30億ドルの増収をもたらす。
・新興市場の収益化: 支払いオプションを多様化し、支払い意思額に合わせて柔軟に価格を設定することで、中国や中南米など、新興だが規模の大きい市場で収益向上を目指す。
BCGのマネージング・ディレクター & パートナーでレポートの共著者であるエルネスト・パガーノは次のようにコメントしています。「業界の長期的な未来は画期的なイノベーションにより左右されるかもしれませんが、短期的な成長の道筋は、新たな収益化戦略を採用し、未開拓の市場や消費者層にリーチすることにあります。パンデミック前の成長率に戻ることは難しいものの、ゲームは今後も、最も没入感があり、息の長いエンターテインメントであり続けるでしょう」(ボストン発、2024年12月12日)
[注1] 1人でストーリーや世界観を楽しむオフライン中心のゲーム。
[注2] 複数人でのプレーを基本とし、継続的に新コンテンツが追加されるオンライン中心のゲーム。
[注3] プレーヤーが一定期間の間にゲーム内の特定の目標を達成することで、報酬を獲得できる仕組み。
■ 調査レポート
「The Gaming Report:Leveling Up for the New Reality」
■ 日本における担当者
市川 博久 マネージング・ディレクター & パートナー
日本におけるメディア&エンターテインメントセクターのリーダー。
BCGテクノロジー・メディア・通信グループ、マーケティング・営業・プライシンググループ、およびコーポレートファイナンス&ストラテジーグループのコアメンバー。
大阪大学経済学部卒業。NTTコミュニケーションズ株式会社を経て現在に至る。
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