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ゲームの「利用規約」って……読む? 私たちは普段なにを同意し,昨今はなにを破るとダメなのか。弁護士に教えてもらった
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印刷2025/03/13 08:00

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ゲームの「利用規約」って……読む? 私たちは普段なにを同意し,昨今はなにを破るとダメなのか。弁護士に教えてもらった

 よっしゃあ! 待望の新作ゲームが出たぜ!

 まずはインストールとかして,さあやるぜ!

 最初は利用規約か! 流し見もせずに同意!

 俺はゲーム開始前にオプションを確認教団!

 よっしゃあ! 未知の世界にいざいくぜっ!




 なんて感じで,「利用規約」をまともに読まずにゲームをはじめる人,多いどころか限りなく十割に近いじゃなかろうか。じゃない?

「モンスターハンターワイルズ」じゃ,当たり前のように即行で流して同意したぜ!
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 ゲームスタート前に利用規約が提示されるタイトルは概して,大手ゲーム会社のオンライン機能を搭載したものや,スマホゲームだ。

 しかし,新作というのは買って起動してゲームをはじめるまでの時間に異様な興奮作用をもたらす。一秒でも早く操作したいとき,長ったらしいうえ,なにが書かれてんのかよく分かんないテキストにじっくりと目をとおすなんてこと,死にゲー以上に難度が高い。

 もちろん,規約や契約と名のついたものは“見なかったほうが悪い”のが契約社会というもの。実際,ここまでで「いやいや俺はちゃんと見てるし。一緒にすんなし」としたり顔で言える賢人がいるのも分かる。だが,言われたところで私には難しすぎるのである。

 けれど,一度同意してしまったアレには,いったいなにが書かれていたのか? 社会人としてはなんとなく分かるが,詳しくはやっぱり分からない。なのに同意してしまっている。極上のエサを目の前にぶら下げられて,ゾンビのようなIQで約束だけを交わしている。

 果たして,私はなにを“同意”してるのか?

そこで,弁護士事務所「CITY LIGHTS LAW」所属の前野孝太朗氏に聞こう!
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[2024/12/02 14:09]

 今回は,ゲーム開発者向けカンファレンスにもたびたび登壇している,弁護士の前野孝太朗氏に,利用規約について尋ねてきた。

 ついでに,昨今は「動画利用」だったり「ネタバレ禁止」だったりのガイドラインも多いが,あれらは利用規約とは別物なのか。破ってしまったらどうなるのか。昨今の事情についても聞かせてもらった。

 先生,分かりやすくお願いします。


原則「勝手に使っちゃダメ」


4Gamer:
 本日は,何十回と見てきたはずなのに内容を知らない,ゲームの利用規約について教えてもらいにきました。よろしくお願いします。

前野孝太朗氏(以下,前野弁護士):
 はい。よろしくお願いします。

4Gamer:
 最初に,前野さんのプロフィールを教えてもらえますか。

前野弁護士:
 私は弁護士をやっていて,普段はゲームを含むエンタメ系や,IT系の企業さんの案件を中心に取り扱っています。
 私自身,ゲームに関わる法律はもっと周知されるべきだと考えていて,これまでもテキストで発信したり,CEDECなどの講演に登壇させてもらったりして,ゲーム界隈で活動してきました。

4Gamer:
 なぜ,ゲームだったんでしょうか。

前野弁護士:
 私が毎日ゲームをしないと死んじゃうタイプだからですね。小さいころからゲームとともに生きてきた感じですので。
 小学生のころから「ポケットモンスター 赤・緑」で友だちとポケモン交換をしたり,スマブラで仲良くなったりしていました。

4Gamer:
 そうした幼少期から,どうしてまた弁護士に?

前野弁護士:
 中学生のとき「逆転裁判」と出会ったからです。当時は弁護士という存在すら知りませんでしたが,逆裁で法律を扱うこの職業のことを知り,「弁護士っていいな」と思ったのがきっかけになりました。

4Gamer:
 成歩堂龍一に憧れたと。

前野弁護士:
 まあ,いまだに「異議あり!」なんて言うことないですが(笑)。

4Gamer:
 キャリア的には,弁護士資格を取ってどれくらい経ちましたか。

前野弁護士:
 弁護士登録をしたのは,2015年12月ですね。

4Gamer:
 となると約10年前として。
 10年前のゲーム業界における法務面って,どうだったんでしょう。

前野弁護士:
 当時はスマホゲームが盛り上がりだした時期ですが,ゲーム業界でのトピックとしては,それまでアンダーグラウンドで黙認されていた「ゲーム実況・配信」の問題が,徐々に表面化していました。
 あのころはゲーム会社側もユーザー側も,なにがよくて,なにが問題なのか。線引きがきちんと整理されていませんでしたからね。

4Gamer:
 あたり一面がグレーゾーンって感じでしたもんね。
 正確な時期は覚えていませんが,ゲーム開始前に利用規約ってものが平然と提示されるようになったのも,そのころですよね。

前野弁護士:
 そうですね。オンライン機能を有するコンシューマゲームやスマホゲームでは,当たり前の要素になってきていました。PCオンラインゲームについては,もっと前の時代からあったかと思いますが。

4Gamer:
 なぜ,それらには利用規約があるのでしょう。

前野弁護士:
 端的に,ゲーム会社とユーザーが「継続的な関係を築くゲーム」は,利用規約がないと困る場面が多くなったからだと思います。
 例えば,買い切り型の1人用RPGは,ユーザーがゲームソフトを購入した時点で,ゲーム会社との契約関係がいったん終わります。
 一方で,マルチプレイや有償サービスを備えた運営型のオンラインゲームは,購入後にもさまざまな問題が想定されます。
 そこで「これはやっちゃダメ」と提示しておけると利用規約がないと,以降のユーザーとの関係性に支障が出る恐れがあるわけです。

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4Gamer:
 あらためてですが,利用規約ってなんなんでしょう。

前野弁護士:
 すごく分かりやすく言うと“契約書”です。ゲームを遊ぶうえでの条件に対して,同意した時点で契約を交わしていると思ってください。

4Gamer:
 契約書となると,利用規約は法廷での法的根拠になるんですか。

前野弁護士:
 なります。契約ですからね。明確な根拠です。

4Gamer:
 でも,ユーザーは「同意する」しかないですよね?
 同意しないとスタートできないゲームもあるわけですし。

前野弁護士:
 そうですね。原則は同意するしかないです。同意したくない場合は,そのゲームを使わなければいいとなります。ここは皆さんが任意で選べるため,契約の自由も侵害されていません。
 それに同意しないとはじまらないゲームの多くは,いわゆる基本プレイ無料のタイトルかと思いますので,使用前の不利益もないはずです。

4Gamer:
 利用規約に同意したくないからプレイを諦める,といった選択はまあ,ポリシーがよっぽど強固じゃないと普通ないですしね。それに「娯楽品の契約を強いられてる!」と反論したところであれですし。
 ただ,買い切り型のオンラインゲームだとしたとき,「商品を購入したのに,利用開始直後に契約を提示されて,断ったら利用できない」というケースの場合は,事後承諾的というか,不義理なのでは?

前野弁護士:
 おそらくですが,現状,多くの買い切り型ゲームでは「同意せずにはじめると,ネットワーク機能が利用制限されるオフライン状態」になると思うので,同意しないと進められない,という状況にはならないはずです。
 といっても,昨今はゲーム配信などでゲームの利用が増えていることもあり,業界でも利用のルールをしっかり定めることが当たり前になりつつあります。今後は,一般のソフトウェアなどと同じように,ゲーム利用に関する禁止事項も含めた最低限のルールに従ってもらえないのであれば,スタートすらできない買い切り型ゲームも増えるかもしれませんね。



※カプコン「モンスターハンターワイルズ」で,利用規約に同意せずにスタートしたらどうなるかを試した。こちらは厳密には利用規約ではなく「使用許諾契約」であったが,ゲーム起動後に最初に提示されるこれに同意しないと,ゲームはスタートせず,永久に問答するハメになった。

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 また使用許諾契約のほか,プレイデータの処理・送信に関わるプライバシーポリシーが2つ設けられていた。これらは同意せずともゲームプレイに影響はないと明言されていた。

 いずれもPS5版の解禁2月28日0:00,スタートダッシュで気持ちがはやるとき,サーバー状況もゴッタゴタのときに試したケースのため(サーバー接続不可やマルチプレイ不可などいろいろあった),想定された挙動かは不明。

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4Gamer:
 一例として「俺は利用規約に同意せず,オフライン状態でしか遊んでないから,規約に従わずにゲーム素材の二次利用とかもやっていいんだぜ」なんてケースは,どう判断されるのでしょう。

前野弁護士:
 どうなるかというとですね,まず“ゲーム自体が著作物”なので,ゲーム会社には著作権があります。そのため,ユーザーは前提として「そもそも他者の著作物を無断で二次利用できない」わけです。
 だから,原則としてコピーも改編もダメですし,SNSでゲーム画像を発信することもダメ。利用規約やガイドラインは“そのうえでやってもいいこと”を記載しているだけで,規約があろうがなかろうが無断利用は著作権侵害にあたり,差止めなどの法的措置や刑事罰の対象になります。
 ゲーム業界ではここ10年,さまざまな事柄の許可・不許可が整備されてきましたが,この前提が抜けている方もたまにいらっしゃいます。なので,まずは原則を確認することが大事ですね。

4Gamer:
 あー。なんていうか,やっていいことばかりに目を向けていて,私も「そもそもやっちゃダメよ」の前提が抜けていました。となると30年前の利用規約がないゲームだろうと,ダメなもんはダメなんですね。
 つまり,大前提となる著作権法のうえで,双方の最低限の認識をすり合わせるためのルールブックが,利用規約というわけですか。

前野弁護士:
 そうなります。

4Gamer:
 ちなみに,利用規約にはなにが書かれているのでしょう?
 いやなんせ,ちゃんと読んだ記憶がございませんゆえ……。

前野弁護士:
 こちらは一例として印刷してきたものですが,なにが書かれているのかはまちまちですね。このゲームの場合は最初に定義があります。未成年者は(保護者同意のうえでなければ)利用しないでください,サブスクリプションの申し込み時は以下に注意してください,などです。
 なかでも見るべきは「禁止事項」です。知的財産権を侵害していけないとか,許諾していない改ざんを加えてはいけないとか,サーバーに侵入してはいけないなどの注記で,ユーザーの皆さんが守るべきルールが書いてあります。これらに違反した場合に,ゲーム会社はこういったペナルティを課すことができる,といった一文も多いです。

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4Gamer:
 どれも常識の範疇だけれど,口頭だと全部は答えられなさそう……。

前野弁護士:
 禁止行為では,ゲームに応じた内容が定められることも多いですね。一例として,コミュニケーションを取れるオンラインゲームでは,ユーザー間の交流に関わる禁止事項があります。例えば「つきまとい行為」。
 こうした迷惑行為は,それ自体が著作権侵害には該当しないため,著作権法を用いても法的には戦いづらいです。しかし,利用規約で提示することで,著作権法ではカバーできない部分も含められるため,迷惑行為の発覚に伴い,アカウントへのペナルティも正当化されます。

4Gamer:
 ユーザーコミュニティの問題を「いやいや,当人で解決してください。私たちは知ったこっちゃないです」なんて言ったら,それも1つの正論とはいえ,ゲーム会社の信頼性が底を打つのは確実ですもんね。
 利用規約というのは,ユーザーを取り締まるためだけのものではなく,権利者側のリスクマネジメントでもあると。

前野弁護士:
 そうなんです。なにより利用規約が存在することで,「その行為は規約に禁止と書いています」と胸を張って言えるようになります。
 世の中,クレームに対して「民法の〜〜に抵触しているので違反です」などと返しても,多くの人は飲み込めません。
 けれど“任意で同意した規約の禁止事項”を示されると,渋々ながら納得する人も多いのではないでしょうか。
 そうした抑止力があるため,利用規約は契約のみならず,法的なコミュニケーションツールとしての役割もあるわけです。

4Gamer:
 ゲームに限らず,法的な紛争で,ユーザーが「利用規約なんて読んでなかった」などと主張することはあるんでしょうか。

前野弁護士:
 ありますが,最初に申し上げたとおり,同意した時点で契約を交わしていますので,読んでいなかったから法的に拘束されないというものではありません。
 ただ,世の中の大多数の方々は,やはり利用規約を読んでいません。規約の多くは文面の硬い法的文書のため,読み解くのも困難ですしね。
 私は職業柄,興味を持った規約はたまに読んでいますけれども,プライベートではやっぱり読みませんし。

4Gamer:
 読まないですよねえ。

前野弁護士:
 読まないですねえ。

4Gamer:
 余談ですが,ゲーム以外の利用規約ってなにがあるんでしょう。

前野弁護士:
 あらゆるサービスにありますよ。それこそAmazonや楽天もそうですし,オンラインやオフラインも問わず,会員登録などを設けているサービスにはほぼすべて利用規約があります。
 金銭のやり取りがなくとも,利用規約では「このサービスを使うんだったら,この条件を守ってね」という契約が必要ですから。規約がないと問題が起きたとき,企業側も戦いづらくなってしまいます。

4Gamer:
 あっ,そうでしたね。あまりに即行スクロールでチェックを入れて次の画面に進めるのが当たり前すぎて,自然と忘れていました。

前野弁護士:
 それと補足として,ここまで利用規約はユーザーを制限する契約として話してきましたが,ゲーム会社側も「消費者契約法」を考慮しなくてはなりません。これは,消費者を保護するための法律で,いくら利用規約に書いていても,消費者側が一方的に不利な内容は消費者契約法によって無効にされ,裁判でも根拠として使えなくなります。
 つまるところ,ゲーム会社側が有利すぎる規約を設けていた場合は,ユーザー側も消費者契約法で守られる可能性があるというわけです。

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4Gamer:
 なるほど。まとめると,ゲームはそもそも著作権法によりあらゆる二次利用が禁じられていて,そのうえで利用規約という注釈に対して契約しないとならないが,不公平な条文は消費者契約法で守られる可能性がある。消費者契約法に抵触するような条文を出せば,ゲーム会社側も条文が無効になってかえって不利益を被るので,あまり攻めすぎないのが最善。
 といった,双方が自然と公平性を保てる構図なんですね。

前野弁護士:
 そのとおりです。
 私が弁護士になった当時,ゲームに限らず,対消費者の利用規約には「とりあえず全部入れておけ」とばかりに有利な条文を盛り込む風潮があり,消費者契約法で無効にされるケースが散見されました。
 最近は,一方的な規約が発見されることで炎上するリスクも増大したため,権利者側も公平性に配慮しているはずです。

4Gamer:
 確かに。直近でもアメリカの“Disney+利用規約の訴訟問題”は,まさにその話が焦点だったのでしょうし。
 10年前の日本でも「未成年のスマホゲーム課金問題で,消費生活センターとゲリラコラボ」は多かったですしね。

前野弁護士:
 ありましたね。
 さまざまな過去のトラブルや問題提起から,現在の利用規約やガイドラインなどのルール作りにつながっている部分もあると思います。


遵法 or 違法? グレーゾーンは?


4Gamer:
 次の話の前に聞いておきたいのですが,著作権法の前提があるうえで,「同意を求められる利用規約」と「同意を求められないガイドライン」に違いはあるのでしょうか。おもに法的根拠的な意味で。

前野弁護士:
 著作権を侵害していれば権利者は権利を行使できるのが法律のルールですが,その2つだと若干の差はあります。
 まず,同意を得ている利用規約は,前述のとおり契約になります。一方で,実況配信やネタバレを禁止するガイドラインはサインを求めず,あくまで告知であることが多いため,契約にはならないという考え方が自然です。まあ,ここは議論もある話ですが。いずれにせよ,契約が成立していなくても,著作権侵害があれば権利者は権利行使が可能です。

4Gamer:
 ガイドラインを見ていなくても,侵害は侵害であると。
 ゲーム外で利用規約などに同意させるにも,サービスのあり方としてはイマイチですしね。なにより「どこで同意させるのか。公式サイトか?」といった契約場所の課題もあるでしょうし。

前野弁護士:
 ええ。ですから個人的には,ガイドラインは「この条件下で利用するなら,私たちは権利を行使しません」という,意思表明として見るべきと思います。

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4Gamer:
 それでは微妙なラインの具体例を聞かせてください。
 まず「ユーザーが大好きなゲームの感想を発信したいと,ゲーム素材をSNS上で無断利用したとき」は,どんな観点と解釈がありますか。

前野弁護士:
 再三になりますが,ゲーム画面のスクリーンショットやキャラクター画像などはすべて著作物に当たるため,これらも自己発信に使ってはなりません。この考え方がデフォルトの状態となります。
 そのうえで,ゲーム会社の許諾の範囲では利用ができるわけです。昨今のゲーム機にはスクリーンショット機能やSNS機能が標準搭載されていますし,これらの機能の禁止区間以外であれば,自由にSNS投稿できるタイトルが大多数です。つまり,禁止区間以外で,ゲーム機の機能を使って発信することは,許諾の範囲内といえるでしょう。

4Gamer:
 典型例が,スクショ画像に自動で「コピーライト(権利表記)」が追加されるパターンですかね。私は仕事柄よく扱う文言ですが,ときどき「権利表記さえ書いていれば無敵!」と考える人も見たりして。

前野弁護士:
 当然そんなことはないです。コピーライトは法的に「引用」のときに入れる表記です。あれはなにかを引用した証明であり,表記を入れることで引用と認められる(可能性を高める)というものです。
 また,勝手にコピーライトを入れたところで,引用の権利を認められるわけではありません。

4Gamer:
 では,コピーライトの追加機能がないゲーム画面の投稿は?

前野弁護士:
 コピーライトがなくとも,ゲーム機の機能によってスクリーンショットやSNS投稿をするのであれば,ゲーム会社の許諾があると言えますので,問題ないでしょう。
 また現在では,ガイドラインで素材利用をセーフにしている作品も増えています。このような場合も,ガイドラインに従う限り問題はないと言えます。場合によっては,ガイドラインを出していなくても権利行使しない例もありますが,ここは権利者のさじ加減ですね。

4Gamer:
 正直,2000年代以降の日本の宣伝戦略は,バイラルマーケティング(リアルやネット問わずの口コミ)がもてはやされましたしね。一律ですべて禁止するのは自滅につながるなど,法律的にも心情的にも“私的利用”の解釈が千差万別なんでしょう。双方の善意に任せるほかない的な。

前野弁護士:
 そこは非常に難しい話で,代表例は「同人誌」ですよね。
 日本では昔からゲーム,マンガ,アニメの権利者側が二次創作の文化を許容してきた背景があります。同人誌もまた法的に見れば権利を行使できる対象ですが,これまでは明示的に許諾しておらずとも,“権利を行使しない”ことで受容してきた。その結果,同人文化が花開きました。
 ただし,昨今は動画コンテンツへの対処の一環で,二次創作全般に関わる条文も規約・ガイドラインに盛り込まれてきつつあります。
 そのため,各作品の要領に従えば,双方に問題のない二次創作もできるようになっています。

4Gamer:
 二次創作についての課題は語られ尽くしてきましたが,いまだに双方の出方が難しいラインも多く残っているんですよね?

前野弁護士:
 そうですね。とくにニコニコ動画の黎明期に流行していた「MAD動画」など,原作の素材を切り抜いてコンテンツに仕立てたものは,知的財産権の侵害がよく主張されてきました。ですが現実問題,それらに対して“意図的に権利を行使していないもの”も多いはずです。
 その理由は,宣伝効果などを期待してあえて見逃している場合や,侵害品のパトロールを行うコストをかけることが難しい場合など,さまざまです。かといって,MAD動画の制作者は「あの動画が訴えられてないから,自分だって大丈夫」と主張することはできない。それらは法的にはいつでも権利を行使されてしかるべき状態ではあります。

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4Gamer:
 関係者は難しいですよね。権利者としては消させるべきですが,「認知されてしまった人気」まで消すことにはジレンマも出てくる。
 手法は違法でも,効果は提供者側の誰もが追い求めるバイラルを達成しているわけですから。違法は違法! と断じるのは痛し痒しでと。

前野弁護士:
 ある種,作品人気に直接つながったケースもありますしね。権利者も,必ずしもすべて潰したいとは思っていないでしょう。
 だけど,そうしたさじ加減だけでは判断しづらい二次創作が増えすぎてしまった。それが動画コンテンツの全盛時代の問題でした。

4Gamer:
 表に出てくる数が爆増しましたしねえ。

前野弁護士:
 ちょうど10年前の動画サイトでも,ゲーム動画に対して「これ許可取ってんの?」といったコメントが増えて,視聴者側に突かれやすくなっていました。すると配信者は無許可で利用しづらくなり,権利者側も「問題ない利用」について安心して利用してもらうにはどうするべきかを検討した結果,「配信ガイドライン」という形に落ち着きました。現在では,多くの人がこの配信ガイドラインというルールに沿って利用しています。
 とはいえ,やはり一線を越えたものもたまに出てきています。ストーリーがすべて分かってしまう動画や,映像や音楽を切り抜いた動画を見かけることもありますね。

4Gamer:
 ゲーム動画だと,「アドベンチャーゲームのストーリー全部見せ問題」は,定期的に話題に挙がってきましたしね。
 RPGでも,直近だと「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」でストーリー後半部分に配信禁止区間が設けられるなどありましたし。
 このネタバレ禁止の告知もまた,ユーザーは同意を求められてはいないけれども,やってしまったら著作権の侵害になるんですよね。

前野弁護士:
 そうです。ガイドラインに反しているのであれば,原則どおり著作権侵害に当たります。

4Gamer:
 この点,なぜネタバレ禁止を利用規約に含まないのでしょう? いや,含んでいる例も多いのかもしれませんが,こうしたガイドラインってだいたい,プレスリリースやSNSでわざわざ別途で告知しますよね。

前野弁護士:
 そこはシンプルに「みんな利用契約を読まないから」が理由かと思います。規約のように読み飛ばされるものに記載すると,許可・禁止の基準の周知がしづらいため,あえてガイドラインなどを作り,周知しているのだと考えられます。

4Gamer:
 ああ。わざと切り分けて,より伝わりやすくしていると。
 本当に注目してほしい禁止事項のための告知戦略なんですね。

前野弁護士:
 なにより,ガイドラインは利用規約と比べると,文章的に“読みやすく作られている”ことが多いです。
 代表例は,任天堂が2018年11月に公開した「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」です。あれは最初の一文で「ユーザーの皆さんに寄り添いますよ」というスタンスを提示して,そのために以下の条件を守ってほしいとお願いしています。
 こうした平易な書き方の文面だと,皆さん読んでくれるんですよ。

4Gamer:
 「甲と乙は〜」ではじまる文章って,それだけでキツいですしね。

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前野弁護士:
 ちなみに海外のゲームだと,利用規約に「動画配信もOK」と最初から書いてあるパターンがわりとあるんです。

4Gamer:
 それは,日本と海外では利用規約の性質が違うってことですか?

前野弁護士:
 性質が大きく違うといったことはありませんが,ゲームの場合,動画配信に対する考え方はだいぶ違いますね。
 日本では「許された範囲で使う」という考え方が主流です。これは権利者やクリエイターを尊重しているからこそだと思います。
 対して海外では「自分の購入物だから,自分の好きにしていい」といった考え方をする地域もあります。ですから,地域によってはユーザー優位で,ゲーム会社が制限をかけづらいという状況もありますね。

4Gamer:
 ああ。ありそう。国民性が現れそう。

前野弁護士:
 とある大作RPGでも,発売前に配信禁止区間が提示されましたが,一部地域では「制限するなんて何事だ!」となり,炎上をきっかけに権利者側が,配信禁止区間を縮小したケースがありました。
 日本では「制限されれば守る」「破った人が悪い」と考えられるので,こうした炎上はほぼ聞きません。だけど海外では違うわけです。

4Gamer:
 日本への輸入物の炎上例だと,中国の一部ゲームで「利用規約に同意すると個人情報が抜き取られる!」といった類いですかね。
 あちらは個人情報がそれこそ名刺よりも安いですが,日本における個人情報は世界遺産くらい厳重に守られるべきと考えられていますし。

前野弁護士:
 地域性の違いはよくある問題ですね。
 今のゲームはSteamなどで比較的容易に全世界に配信できますし,今後もそういった問題は増えてくるかもしれません。

4Gamer:
 ほかの例に移ると,「ゲームの大会利用」はどうでしょう。
 仮の設定条件だけでも話は変わりそうですが。

前野弁護士:
 変わりますね。大会利用もまた,前提としては違法です。
 ゲームの多くは“家で個人で遊ぶこと”を基本的な条件としており,ゲーム画面を大きなスクリーンに映して,人を呼んで遊ぶなどとすると,それだけで著作権侵害の可能性が浮上してきます。
 また,ゲーム業界にはまだ「ゲーム大会のガイドライン」自体があまり存在しません。そのため自主的な大会を開きたいときは,ゲーム会社側も「個別に問い合わせてください」と定めているパターンが多数派です。

4Gamer:
 絶対にダメな例は,やはり「お金を賭ける」やつですか。

前野弁護士:
 はい。それをすると賭博罪に該当します。
 一例として,大会参加者が参加費を出し合い,優勝者が総取りするなどは典型的な賭博のため,普通に犯罪となります。

4Gamer:
 昨今では当たり前になった公式の賞金制eスポーツ大会も,成立するまでにいろいろと紆余曲折があったでしょうしね。
 破れば,権利者よりも足の速い法の番人が出張ってきてしまうしで。

前野弁護士:
 こちらも任天堂の一例ですが,2023年10月に公開された「ゲーム大会における任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」は,ガイドラインと呼ばれるもののなかでは,やや細かく複雑に条件が書かれています。
 それもすべて,賭博に該当させないことも含め,ユーザーの方々が法令に違反しないよう配慮されているからです。

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4Gamer:
 あとは,キャラクターの名前や外見の模倣はどうでしょう。BtoC(企業:ユーザー)よりもBtoB(企業:企業)の話になりそうですが。

前野弁護士:
 そこは著作権法の前提から説明しますが,著作権は表現を保護する法律であり,「抽象的なアイデアは保護されない」と言われます。
 実際はこれまたケースバイケースですが,線引きとしては「抽象的な“キャラクター”自体はアイデア」とされます。そのため,アイデアの段階だと,誰が使っても著作権侵害に当たらないとされます。
 そうしないと,年月が経つほど,生み出せるキャラクターがどんどん限定されてしまいますからね。

4Gamer:
 では「見た目は違うが,名前が同じ人物」はどうですか。

前野弁護士:
 著作権の対象となる著作物には“ある程度の分量”が求められます。文字であれば,俳句や短歌ほどの長さがギリギリとされますので,5文字くらいの名称は著作物になりづらいです。厳密にしすぎると世の中で使える文字が限られすぎてしまいますしね。名前程度の長さですと,基本的には著作権で保護することは難しいと思います。
 ただし,言葉自体は「商標」というアプローチがありますので,該当の文言の商標を保有していれば,その限りではありません。

4Gamer:
 おー。ここで商標って手があると。

前野弁護士:
 商標は,文字や図形などの“信用を保護する法律”です。
 例えば,無地のペットボトルのお茶はただのお茶と見られますが,ブランド名やロゴが入ると,それが特定のお茶であると分かる。
 そうしたものは,名称や見た目だけでおいしさや品質に対する信頼を与えます。これを保護するのが商標権です。このようなブランド名やロゴを模倣して,似た商品に使えば商標権の侵害になります。他者の信用にフリーライドしているということですね。

4Gamer:
 逆に「名前は違うが,見た目は同じ人物」はどうでしょう。

前野弁護士:
 例えば,電気を発する黄色いネズミ。この段階ではアイデアです。これがだんだんと,赤いほっぺで,細長い耳があって,ギザギザの尻尾でと具体化されていくと,最終的に表現と呼ばれます。
 こうした表現を模倣すると,ものによっては著作権侵害の対象となり得ます。キャラクターの名前が違っていても関係ないですね。
 これは絵に限らず,音楽なども同様です。

4Gamer:
 音楽で言うと,日本にはJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)があるじゃないですか? 音楽って著作権法の対象のなかでもとくに厳しく見られるというか,「厳しいルールがあることが周知されている」のは,こうした包括的な団体がある影響なんですかね。
 同じような団体がゲームやアニメの業界にもあったとしたら,また違う争点が生まれることは置いといても,昨今のコンテンツ利用で「使っちゃダメの意識」がより広まっていたのかなあ,どうかなあって。

前野弁護士:
 そういう考えもあると思います。
 ゲーム業界は確かに,著作権が特定の団体に一括管理されているわけではないため,ゲーム会社ごとの対応となってしまいます。それが権利行使のしづらさにもつながっている部分もあるかもしれません。ただ,ゲームについては,その内容や特質によって対応は変わるものですし,ゲーム会社ごとの対応スタンスにも差が生まれやすいと言えます。そうすると,特定の団体で一括して対応するのは難しいとも思いますね。
 また,ゲームは動画の形式で利用されることが多いため,対処するとしても「コンテンツの削除」という手段が大半です。これは法的には行使できる権利だとしても,ファンとのコミュニケーションのあり方で考えると,ゲーム会社にとってはやりづらいという一面もあると思います。

4Gamer:
 それでは最後に,ゲーム業界では昨今,今日話したような問題の訴訟が増えていたりするのでしょうか。

前野弁護士:
 いえ,今日お話しした範囲はあくまで“権利者とユーザーとの関係”です。この例の多くは,訴訟して裁判で争うまで行き着くことはまれです。例えば,権利侵害をした人が配信者ならば「プラットフォームに通報し,アカウントにダメージを与える」ほうがはるかに効果的でしょう。
 裁判を起こすのはただでさえ時間と費用がかかりますし,ケースバイケースですが,勝訴したところで損害賠償請求も大した額にはならないことも多いですしね。

4Gamer:
 ああ。利用規約を破るケースは,うっかりから計画的までパターンはいろいろあれど,常識的な利用の範疇を踏み越えていく人は極論,(愛があふれるがゆえにいきすぎたファンを除けば)生計に利用しようとする二次創作者やインフルエンサーですもんね。

前野弁護士:
 生計に利用しようとする方は各プラットフォーム上で活動していますからね。それだけにプラットフォームへの通報や削除の請求が,最も迅速で効果的なんです。
 ここ10年,ゲーム業界では啓蒙が進み,動画利用やSNS発信も安心してできるものが多くなりました。おかげで多くの人たちは自然とルールを守れるようになりましたし,違反している人も,その多くは分かってやっている方々でしょう。
 ゲームの利用規約は読み飛ばされてしまっているかもしれませんが,個人的には,規約やガイドラインを通じて,ゲーム会社とユーザーとの関係はいい方向に向かっているように思いますし,今後もそれをサポートできればうれしいですね。

4Gamer:
 勉強になりました。私も今後,利用規約をちゃんと読んで……いけるかは未定ですが,ルールについてはきちんと注意を払っていきます。


★本日のまとめ

・利用規約への同意は「契約」である

・ゲームは著作物。勝手に使ってはダメ!

・ガイドラインも守らないと手痛いことに!

・最近はゲーム業界もしっかり整備されてきた

・今日から1枚,利用規約を読んでみては?

画像集 No.002のサムネイル画像 / ゲームの「利用規約」って……読む? 私たちは普段なにを同意し,昨今はなにを破るとダメなのか。弁護士に教えてもらった

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