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[GDC 2025]AIエージェントで実現するゲーム翻訳の革命──DMM GAME Translateが描く「Neo-Localization Company」の未来像
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印刷2025/03/20 19:33

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[GDC 2025]AIエージェントで実現するゲーム翻訳の革命──DMM GAME Translateが描く「Neo-Localization Company」の未来像

 アメリカのサンフランシスコで開催中の「Game Developers Conference 2025」で,AlgomaticのDMM GAME Translate General Managerである野田克樹氏とChief Translatorの矢澤竜太氏が,「Faster, Cheaper, Smarter: Revolutionizing Game Localization with AI Agents」と題した講演を行った。

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 この講演では,DMMグループのAI専門企業Algomaticが展開するDMM GAME Translate(DMM GAME翻訳)が,AIエージェントを駆使してゲームローカライゼーションの常識を覆す取り組みについて詳細に解説された。本稿では,その講演内容をお伝えする。

DMM GAME Translate(DMM GAME翻訳)公式サイト



AI主導のゲームローカライゼーションが目指すもの


 冒頭,自身がCXO(Chief Experience Officer)および共同創業者であると紹介した野田氏は,DMM GAME Translateのビジョンについて「ゲームローカライゼーションの民主化」を掲げた。
 そして「今日のゲーム業界ではグローバルリリースが標準となっていますが,ローカライゼーションは依然としてコストがかかり,時間を要し,多くの障壁があります。私たちはAIを使ってこれらの障壁を取り払い,より速く,より安価に,一貫して高品質な翻訳を実現することを目指しています」と説明した。

DMM GAME Translate General Manager野田克樹氏(左),DMM GAME Translate Chief Translator矢澤竜太氏(右)
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 具体的には,次の3点が実現したいこととして挙げられた。

1. AAAゲームのローカライゼーションコストを劇的に削減し,対応言語を拡大する。
2. インディーデベロッパがより容易にグローバル市場に参入できるようにする。
3. これらによりゲームエコシステム全体を活性化させる。

 「シンプルに言えば,私たちはゲームローカライゼーションに革命を起こそうとしています。あらゆる翻訳をAIエージェントで完了させることを目指しているのです。これまでのMT(機械翻訳)+PE(ポストエディット)のようなアプローチではありません」と野田氏は述べた。
 この考え方を自動運転車になぞらえ,「完全自律型の翻訳サービス,いわばローカライゼーション版のWaymoを目指しています」と表現した。


機械翻訳の歴史と課題──なぜゲーム翻訳はAIにとって難しいのか


 過去25年以上にわたりゲームローカライゼーションに携わってきた矢澤氏は,機械翻訳の進化の歴史を振り返ることから講演を始めた。

 「機械翻訳は劇的に進化してきました。まず最初に登場したのはルールベース翻訳です。Babel Fishを覚えている方もいるでしょうか」と笑いを誘いながら,矢澤氏は機械翻訳の三段階の進化を解説した。

1. ルールベース翻訳(1990年代〜)
 文法規則を使用した翻訳。品質はそれほど高くなかったが,大まかな意味を理解するのに役立った。

2. 統計的機械翻訳(SMT)(2006年〜)
 当初のGoogle Translateで使用されていた技術。既存の翻訳データを大量に使用して,統計的に正確な翻訳を見つけ出す。品質は大幅に向上したが,「このタグは翻訳しないでください」といった指示を与えることができなかった。

3. ニューラル機械翻訳(NMT)(2016年〜)
 わずか6〜7年前に広く利用可能になった。現在のGoogle TranslateやDeepLがこの技術を使用している。


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 「NMTは日常会話や一般的な文書には素晴らしいですが,ゲーム翻訳は依然として困難とされています。なぜでしょうか?」と矢澤氏は問いかけ,その理由を以下のように分析した。

矢澤氏:
 ビデオゲームは,独自の架空世界を持つインタラクティブなソフトウェアで,深い設定や広範な歴史を持っています。ソフトウェアとして,翻訳は適切な機能を確保するために特定のルールに従う必要があります。
 そしてゲームの物語は,さらに別の複雑さをもたらします。本や映画とは異なり,ゲームは厳密に線形ではありません。代わりに,ダイアログライン,UI要素,アイテム説明といった断片化されたテキストを扱います。そのため,意味は文脈に大きく依存しています。

 そして「十分な文脈なしでの翻訳は,人間にもAIにも難しい課題です」と強調した。

 矢澤氏はさらに,ゲーム翻訳の特殊性として「用語集とスタイルガイドラインの遵守」を挙げた。従来の機械翻訳ではこれが困難だったと説明する。
 専門的なCAT(Computer-Assisted Translation)ツールでさえ,動詞の活用(do, does, doing, doneなど)や単数・複数の区別に苦戦していたという。一方,現在のLLM(大規模言語モデル)はこうした課題を処理できるようになった。

 「LLMは『apple』が果物を指しているのか,テクノロジー企業を指しているのかさえも,文脈が提供されていれば区別できます」と矢澤氏は指摘する。AIはスタイルガイドラインの遵守も驚くほどうまく処理できるようになり,タグ,数値変数,改行,文字制限,プレースホルダーなどのルールにも対応可能だと述べた。

 しかし,矢澤氏は「正しく設定しなければ,今のLLMでもこれらに失敗します」と警告し,「適切な設定があれば,AIが実際に用語集やスタイルガイドラインを遵守できることに,多くの人がまだ驚いています」と付け加えた。


ゲーム翻訳における「文脈」の重要性──マクロコンテキストとマイクロコンテキスト


 矢澤氏は「ゲーム翻訳はすべて文脈をマスターすることに関わっています」と強調し,文脈を2つのカテゴリに分類して説明した。

 「ゲームローカライゼーションに携わった経験がある人なら誰でも,『もっと文脈を提供してください』というメッセージを300万回くらい書いたり読んだりしたことがあるでしょう」と会場の笑いを誘った後,次のように続けた。

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矢澤氏:
 一般的に,文脈とは登場人物,会話の目的,話題などを指します。熟練した人間の翻訳者は経験から直感的に文脈を読み取りますが,LLMは確率的に動作するため,明確な指示がない限りどの解釈も排除しません。
 言い換えれば,生成AIは人間のように勝手に「これが正解だろう」と文脈を推測せず,むしろそうしないほうが望ましいのです。なぜなら,私たちが正確な文脈情報を提供することで,より精度の高い翻訳が可能になるからです。

 この課題に対処するため,矢澤氏は文脈を以下の2種類に分類した。

1.マクロコンテキスト
 「この世界とは何か」という問いに答えるすべての情報。
・ゲーム世界の設定
・ルール
・ゲーム内の修正
・どのような国家が存在するかなど

2.マイクロコンテキスト
 「ここで何が起きているのか」という問いに答えるすべての情報。
・このキャラクターは誰か
・主人公の周囲には何があるか
・誰が誰に話しかけているかなど

 「なぜマクロコンテキストがそれほど重要なのでしょうか?」と矢澤氏は問いかけ,「人間はテキストを読んだり場面を見たりするとき,無意識に世界設定を想定します。しかし,無数のジャンルやドメインで訓練されたAIは,明示的に指示されない限り,自身を制限することに苦労します」と説明した。

 例として,AIがキャラクターの性別すら決定しない問題を挙げ,「『彼』がしばしば『彼ら』になるケースを経験した人も多いでしょう。彼らはキャラクターの性別を決めたくないのです」と述べた。
 さらに極端な例として,「技術的には,AIがハイファンタジーの物語を読んでいても,突然アサルトライフルが登場する可能性を完全に排除しないでしょう。まだ可能性として残るのです」と説明した。

 この問題に対処するための単純な方法として,矢澤氏はプロンプティングを提案した。世界設定構築文書や要約されたストーリーの詳細を提供し,「これらの世界設定のみを考慮するように」と明示することで,AIの考慮範囲を絞ることができるという。

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 マイクロコンテキストについては,「誰が何を誰にしているのか,どのような状況下で」を明確にすることが重要だと指摘。キャラクターの背景情報や場面の詳細情報をAIに提供することで,翻訳の質が向上するという。

矢澤氏:
 プロの翻訳者として認めますが,AIはこのデータを人間よりも速く,時にはより徹底的に参照して処理できます。重要なのは,話者の名前やシーンの詳細がAIにすぐに利用できることです。これがなければ,AIは最高品質の結果を提供できません。


文脈理解の重要性を示す具体例


 矢澤氏は,文脈の重要性を示す具体例として「I saw her duck」という文を挙げた。追加の文脈なしでは,「彼女のアヒルを見た」のか「彼女が身をかがめるのを見た」のか,正解率は約50%に留まる。しかし,前後の会話を読ませることで,AIはシーンにアヒルが存在するかどうかを理解できるという。
 さらに,マクロコンテキストがゲーム設定内にアヒルが存在しないことを示している場合(例えば絶滅したか,ねずみに進化したなど),AIはその文が「彼女が身をかがめた」を意味することをさらに確信できるという。

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 微妙な文脈の例として,矢澤氏は以下のケースも挙げた。

1. 多義性
 「fire」は日本語では複数の方法で訳せる(火事,発射する,解雇するなど)。文脈がなければ,Google翻訳より良い結果は得られない。

2. 一人称代名詞の多様性
 日本語の「私」だけでも十数種類以上も選択肢があり,適切なものを選ぶには文脈が必要。矢澤氏は「日本語チームがほかの言語チームよりも翻訳について,不満を言うように見える理由を不思議に思ったことはありませんか? これがその理由かもしれません」と冗談めかして言及していた。

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3. 東アジア言語の特殊性
 多くの東アジア言語には文法的な複数形がない。例えば日本語の「卵(たまご)」が1つの卵を指すのか,複数の卵を指すのかの区別がない。また,兄弟に言及する場合,年上か年下かを明示する必要がある。つまり,「I have a brother」という英語の文を東アジア言語に翻訳するには,その兄弟が年上か年下かを知る必要がある。

 最も印象的な例として,矢澤氏はLLMの能力を示す「隠しメッセージ」の例を紹介した。各行の最初の文字が「たすけて」(help)という言葉を形成し,英語翻訳では「Help me」と読める例だ。
 「正直なところ,これを実現できることに私自身も驚きました。これには手動による人間の介入が必要だと常に考えていたからです」と述べつつ,「これは単にボタンを押しただけで得られたわけではなく,エンジニアと協力して事前翻訳分析を行った結果です」と補足していた。


DMM GAME Translateの革新的アプローチ──「Neo-Localization Company」とは


 野田氏は矢澤氏の発表を受け,DMM GAME Translateのビジネスモデルと実際のワークフローについて詳細に解説した。

 「皆さんは,私たちの以前の議論から,すべてを行うAI翻訳SaaSソリューションを提供していると思うかもしれません。しかし,明確に述べておきたいのは,我々は単なるAI翻訳SaaSサービスを提供しているのではありません」と野田氏は強調し,次のように説明した。

野田氏:
 矢澤が言及した問題を解決するために,我々はAIネイティブな翻訳会社を構築しています。これは日本で私たちが先駆けている「Neo-Localization Company」と呼ぶコンセプトです。
 具体的には,従来の翻訳会社をAIで変革するのではなく,AIエージェントを中心に新しいワークフローをゼロから設計しています。

 野田氏はまず「AIエージェント」について説明した。Anthropicの概念図を参照しながら,「簡単に言えば,人間がLLMに目標を提供し,LLMが自律的にタスクを分解,環境と相互作用し,継続的なフィードバックを提供しながらタスクを完了に導くものです」と定義した。

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 翻訳に関しては,目標は特定のコンテンツをローカライズすることだが,必要なタスクは直面する状況(既存の用語集が利用可能かどうか,どれだけの文脈データが提供されているか,データがクリーンかどうかなど)によって大きく異なるという。
 「私たちはこれらの変化する条件に応じて,タスクを動的に適応させ,各プロジェクトを独自かつ有機的に処理しています」と野田氏は説明した。

 現在,DMM GAME Translateでは,ワークフローの約半分でAIエージェントを活用しているという。「多様なゲーム開発データを単一のAIで管理することは根本的に難しいため,SaaSソリューションは採用していません」と理由を述べた。


実際のワークフロー──AIと人間のコラボレーション


 野田氏は実際のワークフローを詳細に説明した。まず,クライアントから開発データを受け取る。これはスプレッドシート形式やテキスト形式に抽出されたゲームデータを想定している。

野田氏:
 私たちはまず,この開発データをAIエージェントに入力し,どのデータが必要か評価し,LLMのファインチューニングに最適化されていることを確認し,Web検索や用語集の生成が必要かどうかを決定します。

 この準備段階が非常に重要であると野田氏は強調した。「AIと人間のコラボレーションを含むこの準備は基本的なもので,それによってゲームタイトル固有の翻訳AIファミリーが作成されます」

 文脈とデータが整ったら,アプリケーションはキャラクターの個性,シーンの文脈,対話の相手に基づいて,すべてのスクリプトを効率的に翻訳し,瞬時に翻訳テキストファイルを生成する。
 矢澤氏のような翻訳専門家は,文脈の適切さ,用語集,スタイル翻訳,翻訳プロンプトエンジニアリングについてフィードバックを提供する。「翻訳者が自分自身のAIを管理するこのアプローチは,現在のところ最適な結果をもたらしています」と野田氏は述べた。

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 タイムラインに基づくワークフローでは,クライアントが好みと要件を入力し,それをAIエージェントと協力して解釈し,データ準備,AI訓練,用語集適用,翻訳レビューを行う。「もちろん,クライアントのレビューは私たちの範囲を越える決定には不可欠であり,私たちはクライアントとAIエージェントを橋渡しする人間の仲介者としての位置付けです」と野田氏は説明した。

 翻訳自体は非常に迅速に行われ,100万語でもわずか数時間で完了することが多いという。野田氏は「私たちの人間チームによる綿密な準備と設定により,AIはピークパフォーマンスで動作し,前例のない品質とスピードを実現しています」と語る。

 「シンプルで直接的なプロセスのように聞こえるかもしれませんが,この人間とAIのフィードバックループは最も重要で複雑な要素です」と野田氏は強調した。そのため,プロセスの半分だけがAIエージェントに基づいていると説明する。

野田氏:
 しばしば,最初はAIなしで,いくつかのタスクを処理し,その後徐々にそれらをAIに移行しています。
 このハンズオンアプローチが必要なのは,ゲーム翻訳がコンテキスト,タイトル,タイミング,会社によって劇的に異なるためです。そのため,1つのワークフローですべてに対応することはできません。


従来の翻訳会社との違いと成果


 「伝統的な翻訳会社と私たちはどう違うのでしょうか? 私はそれをネオ・トランスレーション・カンパニーと呼んでいます」と野田氏は述べ,主な違いを以下のように説明した。

1. 翻訳の大部分をAIが担当
 文字通りで,ほとんどの翻訳は人間によって完了する。MTポストエディットのような従来の方法ではない。

2. 超高速な翻訳処理
 AIが設定されると,100万語でも超人的なスピードで翻訳が完了する。

3. 文脈知識の永続的保存
 重要な文脈データは個々の翻訳者に依存しなくなる。AIは忘れることも退職することもないので,文脈的知識は文字通り永遠に保存される。

 トレードオフとして,「初期設定が重要で時間がかかります。ゲーム固有の翻訳データはデータ形式でのファインチューニングが必要です」と野田氏は説明したうえで,「しかし,現在は1〜2週間で設定を完了し,比類のない翻訳速度を実現しています」と付け加えた。

 具体的な成果として,野田氏は以下のKPIを紹介した。

・AIエージェント設定後,100万語を1日で納品
・最低3セント/語からの競争力のある料金設定
・サービス開始から6か月で50タイトルの翻訳を完了
・日本語を含まない10以上の言語ペアをサポート
・ポストエディットなしでAI翻訳をそのままリリースするクライアントも存在

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翻訳者の未来とゲームローカライゼーションの展望


 講演の最後に,野田氏と矢澤氏は翻訳者の未来とゲームローカライゼーションの展望について意見を交わした。

 矢澤氏は翻訳という仕事が2つの部分から成り立っていると説明した。「まず,テキストをA言語からB言語に変換します。次に,それを発行します。これまでは一人の頭の中で行われていました。しかし今,AIは変換部分を印象的な精度ととてつもないスピードで処理でき,それは改善し続けています」と矢澤氏は述べた。

 「AIが変換部分を引き受けることは実質的に避けられません」と矢澤氏は認めつつも,「だからといって人間の翻訳者には磨き上げる作業だけが残るわけではなく,言語スキルはAIと協働するうえで強力な資産になります」と強調した。

 翻訳者という職業は再定義され,まったく新しい役割が進化するだろうと矢澤氏は予測する。「多くの翻訳者がある意味でローカライゼーションディレクターへと進化すると思います。また,独立して働き,本当に好きなゲームにのみ焦点を当てることを選ぶ人もいるかもしれません」と矢澤氏は楽観的な見方を示した。

 ゲームローカライゼーションの未来については,「ローカライゼーションコストが販売を正当化するかという問題は,すぐに過去のものになるでしょう」と矢澤氏は予測した。
 そして「それは少し素朴に聞こえるかもしれませんが,私は退屈で反復的な作業を減らし,本当に気にかけている部分の質の向上にだけ集中できる未来を作りたいのです。本当に大切にしている部分だけに時間を費やすことができれば,それが私の目標です」と矢澤氏は語った。

 これに対して野田氏は,「AIは単に安価な翻訳を提供するだけではなく,翻訳者がより本質的なタスクに集中できるようにすることで,ローカライズされるゲームの数とサポートされる言語が劇的に増加し,それがゲームローカライゼーションの民主化につながると信じています」と締めくくった。


ゲームローカライゼーションの未来を変えるAIエージェント


 DMM GAME Translateの講演は,単なる機械翻訳の改良にとどまらない,AIエージェントを活用したゲームローカライゼーションの新しいパラダイムを提示するものだった。

 従来の機械翻訳+ポストエディットのアプローチから脱却し,AIと人間の協働による「Neo-Localization Company」としての新しいビジネスモデルを構築。マクロコンテキスト(世界設定)とマイクロコンテキスト(個別の場面や状況)をAIに適切に理解させる方法を確立し,ゲーム翻訳特有の複雑な要件に対応している点が画期的だ。

 「完全自律型の翻訳サービス」という未来像に向けて,着実に歩みを進めるDMM GAME Translateの取り組みは,ゲーム開発者にとって,より多くの言語へのローカライズを手頃なコストで実現する可能性を示唆している。これは限られたリソースで世界市場を目指すインディーデベロッパにとって重要な意味を持つだろう。

 一方で,翻訳者の役割は「テキストを変換する人」から「翻訳プロセスとAIを管理するディレクター」へと変化していくことが予想される。この変化を受け入れ,人間とAIがそれぞれの強みを生かし協働することで,ゲームローカライゼーションの未来はより速く,より安価に,そしてより高品質になっていくのかもしれない。

DMM GAME Translate(DMM GAME翻訳)公式サイト

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