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[インタビュー]ガンホーが次に挑戦するものは?――同社の20周年を記念してCEO森下氏と4Gamer編集長の対談をお届け
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印刷2022/12/29 09:00

インタビュー

[インタビュー]ガンホーが次に挑戦するものは?――同社の20周年を記念してCEO森下氏と4Gamer編集長の対談をお届け

 2022年12月1日に,ガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下,ガンホー)の運営するMMORPG「ラグナロクオンライン」(以下,RO)が20周年を迎えた。その事実も驚きであり,とても喜ばしい話だが,実はROサービス開始の4か月ほど前は,ガンホーが現在の商号となった創業のタイミングである。つまり,同社としてもいまがまさに20周年イヤーの真っただ中なのだ。

ガンホーと共に20周年の「ラグナロクオンライン」。2022年11月末には4次職が実装されるなど,しっかりと現役のタイトルだ
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 そんなガンホーは,ちょうど10年前の2012年2月に「パズル&ドラゴンズ」iOS / Android。以下,パズドラ)をリリースするとこれが大人気となり,「RO」のガンホーから,「パズドラ」のガンホーにイメージが変わってしまうほどのインパクトを世間に与えることになった。
 思い返せば,オンラインゲームの黎明期にROを日本で展開し,ソーシャルゲーム全盛期にスマートフォンにおけるネイティブゲームを開発するという,なんとも挑戦的なメーカーなのだ。

日本における2022年9月のモバイルゲーム収益が5300万ドル(約80億円,発表日時時点)超えを記録(関連記事)し,11月には国内6000万ダウンロードを突破した「パズル&ドラゴンズ」。2月に10周年を迎えたいまも“強さ”は健在だ
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 今回,ガンホーのCEOであり,ゲーム制作にも携わることが多い森下一喜氏に,20周年を記念して,4Gamer編集長Kazuhisaとの対談をお願いした。実は,10年前にも対談を行っている2人。両者はこの10年を,そしてこれまでの20周年をどう思い,次の10年をどう見ているのか。そんな興味深いテーマでの対談をお届けしたい。

(文:Nobu)
――2022年11月30日収録


なにはともあれ,ガンホーもROも20周年おめでとうございます


Kazuhisa:
 お久しぶりです。何気なく「明日,森下さんと会うんだ」と思っていろいろと調べていたんですが,ROは明日(※11月30日収録)で20年なんですね。

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森下氏:
 そう。実は,商用サービスを開始する時間は発表していたんだけど,ちょうど20年前のこのタイミング(夕方)よりあとだったかくらいで,フライングスタートしてるんだよね。

Kazuhisa:
 あれ,フライングスタートでしたっけ?

森下氏:
 普通は(βテストの)サービスを一旦落としてから開始するんだけど,落とさないで「いま商用サービスが始まりました」っていうのにしちゃったんだよ。サーバーを落とすとトラブるんじゃないかと思って……。

Kazuhisa:
 あー,サーバーの再起動は本当に怖いですよね……。

森下氏:
 もう恐怖。だから前日に思いついて,「そのまま行けるようにしちゃおうぜ!」って言った(笑)。

Kazuhisa:
 しちゃおうぜって(笑)。でも分かります。(再起動を行うと)本当に立ち上がるのかなと不安になるんですよね。

森下氏:
 サーバーと言えば,(ゲームクライアントの)ダウンロードは4Gamerのサーバーを借りてやったんだよね。

Kazuhisa:
 あれは怒られましたよ,本当に(笑)。

森下氏:
 あのときは4Gamerとベクターで(ゲームクライアントを)配布していて,4Gamerのサーバーが飛んじゃって。それで「ごめん!」という話は別のところでしたけど,(サーバーが落ちる可能性は)だいたい予測できてたじゃない。

Kazuhisa:
 まあ,そうですね(笑)。

森下氏:
 でも,びっくりしたのが,ベクターからめちゃくちゃ怒られて。たぶんだけど,どれくらいの接続があるのか分からないままで貸したものだから……。

Kazuhisa:
 ああ,フリーウェアくらいのつもりだったのでは?

森下氏:
 そう。「だって言ったじゃん!」と返したら,そんな説明は聞いてなかったと言われて。ベクターのサーバーはいままで一度も落ちたことがないのに,と。

※2002年の12月は,現在のような高速回線はもちろん,ADSLもまだ一般に普及する以前で,ISDN(64Kbps)やアナログ電話回線(54Kbpsなど)が主流だった。フルサイズのゲームクライアントを最初にパッケージで購入して(もしくは配布された)メディアからインストールしていた時代に,それをすべて通信でまかなおうとしたわけで……同時接続の大渋滞が起こるのは目に見えていた。そしてサーバーダウンへ

Kazuhisa:
 いま初めて聞きました(笑)。そうか。Vector()でも耐えられなかったんですね。

※ベクターが運営するソフトウェアのダウンロードサイト

森下氏:
 耐えられなかった。だって,どこかが落ちれば,次(のサーバー)に集中して向かうから。

Kazuhisa:
 それこそイナゴのように(笑)。

森下氏:
 大群が一斉に追いかけていくわけで,Vectorですらね。フリーウェアも含めて,あれだけのダウンロードをできるようにしているサーバーを,初めて吹っ飛ばした。

Kazuhisa:
 あの時代のソフトウェア配布を一手に担ってましたからね。それこそ,Vectorか窓の杜か,くらいでした。

森下氏:
 そのうちの1つが落ちたことは,結構な衝撃でしたね。

Kazuhisa:
 すごいな……。そして,あれから20年も経つんですよ。

森下氏:
 でも,あの頃はワクワクする時代だったよね。何か可能性がすごくある世界という意味でね。

Kazuhisa:
 分かります。何かをすれば何かが返ってきたから,面白かったんですよ。

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森下氏:
 お金もなくて広告宣伝もできないから,4Gamerとかあらゆるメディアに……いまで言うとそれこそスパムのような状態で,ニュースをFAXで送ってみたりね。何でもいいからニュースになるネタを探して,なければ作る。それこそネガティブな情報でも,とにかくしつこく送り付けて,毎日露出していれば広告と一緒じゃんくらいのことを言ってた。

Kazuhisa:
 やばい,めちゃくちゃだ(笑)。あの,しつこいプレスリリースの発端は森下さんだったんですね。

森下氏:
 そう。あんなプレスリリースの出し方は,実は誰もやってなかったんだよね。

Kazuhisa:
 1日に何回来てたっけ……。

森下氏:
 2〜3回とか……? 記事がつねに出ていれば,別の記事が出てきても新しいのが(ページの)上に載るじゃん。だから続報とか言って小分けにするんだよ(笑)。

Kazuhisa:
 それを学んだ韓国のメーカーさんが真似をして,何年か大変な目にあいましたよ(笑)。

変革のなかった10年。停滞した空気を打ち破るのは?


森下氏:
 そっか,あれからもう20年だもんね。

Kazuhisa:
 そうです。

森下氏:
 みんな白髪が多くなってない?(笑)。

Kazuhisa:
 20年経ってますから(笑)。それで当時を振り返ろうと思ったんですが,最初に会ったときは,まだオンセール()だったじゃないですか。そのあとにうちと兄弟会社になったので,近すぎて当時のガンホーってよく分かんないですよね。よくケンカもしてましたし。

※ガンホー・オンライン・エンターテイメントに商号が変わる以前,ネットオークション事業を手掛けていた

森下氏:
 夜中に電話で怒鳴りつけたりね(笑)。

Kazuhisa:
 國枝さん()めっちゃ困ってましたよ(笑)。森下さんが怒ってるけど,何やったの!?って。

※当時,4Gamerを運営するAetasの親会社MOVIDA HOLDINGSの代表取締役社長だった國枝信吾氏(現・ピクシブ代表取締役)

森下氏:
 あー(笑)。

Kazuhisa:
 だから自分にとって発端となるのは,前にも話したように「オンラインゲーム=ROのガンホー」なんですよ。そのインタビューもちょうど10年前なんですよね。もうそんなに経つんだと思って。


森下氏:
 その10年前にどんなことを言ったのかと思ったんだけど,最後に今後の開発体制として,10年後はもう会社に来なくなってるかもね,みたいなことを言ってたんだよ。

Kazuhisa:
 予言ですね。

森下氏:
 そんな予言は当たらなくていいよ! 別のところで当てたかった(笑)。ただ,10年前,20年前のときは本当に時代が変わる感じがあったんだよね。いろいろなものがバンとドラスティックに変わっていった気がするんだけど,この10年は大きく変わらなかったなって。

Kazuhisa:
 そうですね。

森下氏:
 iPhoneとかスマートフォンが出てきて,人々の生活だったり,細かいことだったりはいろいろあると思う。でも新型コロナ感染症は置いておいたとして,ゲーム市場そのもの自体にドラスティックな変革はなかったかな。
 本当は10年周期でそういうものの移り変わりがあるんだけど,いい意味で言えば安定しているなという感じで。だから余計に「もう10年なの?」という感じがする。

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Kazuhisa:
 確かに。

森下氏:
 VRだとか,いろいろ出てきたけど,そうは言ってもまだまだという感じがするし。

Kazuhisa:
 そうですね。エポックメイキングというほどではないです。

森下氏:
 なので,この10年はいい意味で言えば,落ち着いていたんだなって。

Kazuhisa:
 でも,業界としては落ち着く=緩やかな死ですよね。

森下氏:
 そうだね……でも,そういう変革がとくになかった。

Kazuhisa:
 なるほど。一方,ガンホーから見ると,この10年はパズドラの10年だったと思うんです。10年前のインタビューを見返したら,ちょうどパズドラが出てどうのこうの,みたいな話をしていました。

森下氏:
 スマートフォンでゲームを出すと言っても,「それは……」みたいな感じのタイミングだったね。20年前のPCにおけるオンラインゲーム創生期もそうだったし,まだ誰もがそんなものがうまくいくとは思っていない市場で,いろいろなものに変革が起きたタイミングだから。
 ただ,繰り返しになるけど,そこからの10年は何か新しい,そういう変革が起きるプラットフォームもちょっとなかったね。だから,これからの10年は……。

Kazuhisa:
 そう,その話が聞きたいんですよ。

森下氏:
 もう,プラットフォームが牽引していくとか,何かが牽引していくとかからは変わっていくタイミングで,いまのままやるのか,自分たちで変革を起こすかのどっちかしかないと思うんだよ。それで言うと,スマートフォンでやれることは,ほとんどやったかな,と。

Kazuhisa:
 そうですね。ガンホーって思い返してみると,ROの10年,パズドラの10年じゃないけど,20年いろいろ最先端なことをやっていて,そこで意外とすごいなと,ようやく気付くんですよね。実は,メーカーの皆さんってそんなに最先端なことはしないんです。当たり前ですがリスクが大きいから。

森下氏:
 やらないだろうねぇ。

Kazuhisa:
 だから,あの時代にスマホのネイティブゲームなんかよく出したなって思うんですよ。

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森下氏:
 まだ,ソーシャルゲーム全盛期だったからね。でも,ソーシャルゲームにするのは嫌だったから。

Kazuhisa:
 そのように挑戦的であるからこそ,次にガンホーが何をするのかというのは,気になるんです。投資家じゃないけど,次にこの人がやるものは当たるんじゃないか,だからいま何を考えているのかをと。

森下氏:
 投資家向けに言うんだったら,メタバースとかNFTとかになるよね。

Kazuhisa:
 ブロックチェーンとか。

森下氏:
 そう。そのあたりを言えばいいんでしょうね? と思うけど,そこにはまったく興味がない。

Kazuhisa:
 あったらビックリします(笑)。いずれもゲーム業界の1つの柱にはなると思いますが,あくまでファイナンスの文脈でしかなくて,どこまで行ってもエンターテイメントではありませんよね。

森下氏:
 あくまで娯楽は娯楽であるというのは変えたくない。そこにユーザーがお金を儲けるためのツールになるという話が入ってくると,ちょっと主旨が変わってくると思うんだよね。

Kazuhisa:
 それは,そうですよね。

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森下氏:
 その趣旨を自分たちは失いたくない。そこは自分たちがゲームを作ることの意味とか,意義を失ってまでやるようなことじゃない。もちろん,個人的な気持ちだから,やりたい人はやればいいし,こちらの価値観を強要するつもりもないからね。

Kazuhisa:
 でも,森下さんの考え=会社の考えでしょう?

森下氏:
 それはそうだよ(笑)。うちの会社としてはやる気がないけど,よそがやることに対しては否定するつもりはないということです。

Kazuhisa:
 とはいえ,いま威勢のいい話題の1つじゃないですか。VRも元気がないですし。

森下氏:
 いや,VRのほうが,まだやろうとしていることに意義はあるよ。まだあの大きさだから,なかなか難しいということで。

Kazuhisa:
 まあ,そうですね。

森下氏:
 俺が前から言っているのは「VRは出たてのVHSカメラです」なんだよね。昭和50年代とかに家電マニアの親戚が買ってきて,でかいカバンみたいなのを肩にぶら下げながら,カメラを構えて撮ろうとするんだけど,撮られるみんなは動きが固まっているみたいな(笑)。

Kazuhisa:
 想像できます(笑)。

森下氏:
 それで「なんでこんなものを買ってきたの?」と親族みんなに怒られてたね。でも,時代が変わるとハンディカムになって,スマホになって,どんどん小さくなって一般的になる。だからVRがもっと小さく,軽く,本当にスマートグラスぐらいでできるようなのが出てきたら,全然変わるでしょ。だからVRは,技術を進歩させていく意味で,まだ意義があるんじゃないかと思っている。

Kazuhisa:
 でも,意外と進歩が遅いんですよね。

森下氏:
 そう。昔ほど家電というか,そういったメーカーが競争しようという市場性がないからね。

Kazuhisa:
 ああ,それが「この10年は」というさっきの言葉につながるんですね。

森下氏:
 それに対して,NFTとかブロックチェーンは,確かに革新性へのアプローチとして1つの手法かもしれないけど,そこに合う会社の考え方と,合わない会社の考え方があるわけで。日本のメーカーでも,みんながそうだと言っているわけではないと思うし,それぞれの考え方でいいんじゃないかと思うよ。俺は結果的に面白くてなんぼの世界,だと思っているからこういう反応なの。

Kazuhisa:
 それはそうですね。

森下氏:
 間違っても(NFTを)否定しているわけじゃないからね?(笑)。

Kazuhisa:
 分かりました(笑)。

森下氏:
 実際,NFTが合うものってなんだろうと考えたこともあって。ゲームで言えば,音楽やサウンドがあるじゃない。「LET IT DIE」のときに101組のバンドが曲を作って,それをゲーム中のBGMとして好きに変えられるというのをやったけど,次はどうなんだろうと。

Kazuhisa:
 どんなものが考えられるのでしょう。

森下氏:
 例えば,プラットフォーマーが許してくれるのなら,ユーザーが自分で作ったり,自分が買った音楽のデータを好きにBGMにできるような……どんなゲームでも自分の好きな楽曲でプレイできるとか,セットリストを作っておいて,そのBGMをセットリストどおり,もしくは自動的にシャッフルして聞かせてくれたり,シーンに合わせていいように演奏してくれたりとかね。
 そういうことを同一プラットフォーム上のすべてのゲームでできるのなら,それは価値があるよ。

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Kazuhisa:
 なるほど。いまシーンに合わせてとおっしゃいましたが,AI関係はどうなんですか?

森下氏:
 AIは大事だと思う。少なくともこれからは,ね。

Kazuhisa:
 と言いますと?

森下氏:
 ゲームをプレイしていくなかで,AIは今後,1つの基軸になるだろうと思う。プログラミング的なものではなくて,新しいユーザー体験を提供するための,いわゆる革新的なAI技術が必要だろうとは思っているんだよ。

Kazuhisa:
 どんなものを想定して話しています?

森下氏:
 うーん。どうやって,ネタバレにならないようオブラートに包んで言ったらいいかなと思って話してる(笑)。

Kazuhisa:
 まあ,手の内をここで明かすのはダメですよね(笑)。裏を返すと,AIに対してガンホー,森下さんは次に打つ手を何か考えているということですか。

森下氏:
 1つだけ言うと,マルチプレイのゲームは,人と遊ぶのが一番面白い。人間こそが不完全だから面白いと思うんだよね。だから,マルチプレイは,ある意味で毎回毎回(体験が)違うじゃない。マルチプレイで勝った負けただけじゃなくて……うーん,言葉を選びすぎるな(笑)。

Kazuhisa:
 そのあたりに何か答えが……(笑)。

森下氏:
 まあ,AIがいままでのユーザー体験を変えていく。ゲームそのものの本来決まっていることから変わっていくということをやりたいよね。

Kazuhisa:
 例えばTRPGのGMをAIがやってくれるみたいな?

森下氏:
 ああ,それは例としてシンプルで分かりやすいね。あと,AIはもう1つ軸線になると思っていて。これはユーザー体験なので,お金が儲かるという話ではないんだけどね(笑)。

Kazuhisa:
 なるほど。それは,いま用語として定義されています?

森下氏:
 定義してないね。いい言葉が思いつかないから(笑)。どちらかというと,人間の発想なんてたかが知れているんで誰でも思いつくだろうと思う。でも,誰もやった人がいないというだけの話なんだよね。

Kazuhisa:
 焦らさないで,なんかヒントくださいよ。

森下氏:
 ヒント!? さっきから,これどういう対談?(笑)。

Kazuhisa:
 いや,そこまで言われると気になるじゃないですか(笑)。

森下氏:
 どう言ったら良いだろうね。

Kazuhisa:
 説明しづらいですか。

森下氏:
 しづらい! 説明したら「あー」ってなるから,言いようがないんだよね。
 別の話として言うなら,いわゆるメタバースっていう言葉にしても,定義がグチャグチャじゃん。

Kazuhisa:
 ええ,そうなんですよね。

森下氏:
 なんのことだか分かっていないけど,メタバースと言っている人もいる。実を言うと,2003年か2004年か,どこだったかは覚えていないけど,メタバースという言葉は使っていたと思うよ。でも,当時はほとんど使っている人がいなかった。

Kazuhisa:
 日本で盛り上がったのは2006年ごろでしたね。

森下氏:
 いろんな方面からの文脈的アプローチによるメタバースの定義があるし,ゲーム文脈の定義で言えば,たくさんの人がその1つの世界で共存していく中で,いろいろなことがリアルと密接しているようなもの。例えばイーコマースとつながっていたりね。「ECO」(エミル・クロニクル・オンライン)でやったけど,映画のチケットを買って,ゲーム内の劇場に座って見るとか,ピザをゲーム内から注文したりとかね。

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Kazuhisa:
 ありましたねぇ。

森下氏:
 まぁでも,それはあくまで個々のゲームの世界であって,すべての人が同じように入っていないと……例えば銀行,郵便局みたいな公共物が映画の「サマーウォーズ」みたいにすべて揃っていないと本物のメタバースにならないんだよ。だって成立しないじゃない。

Kazuhisa:
 成立しないですか?

森下氏:
 みんなバラバラで,それぞれ好きな世界がある。だからメタバースを成立させるためには,キャラクターデータを個々のゲーム間で相互に持ち越せるようでなければと。

Kazuhisa:
 世界が断絶されているわけで。そもそもメタバースは成立したものがないですからね。みんな映画か小説だったりを想定しながら話している。

森下氏:
 昔,海外で「Second Life」のコミュニティのイベントをやっていたんだけど,そこで盛り上がっていたのが出会い系の話なんだよね。

Kazuhisa:
 ああ,なんというか欧米のメタバースっぽいですね(笑)。

森下氏:
 でも,結果的にはそういう方向に走るのかな,と。

Kazuhisa:
 VRもそっちに行くんじゃないですか?

森下氏:
 そういう気はしている。

Kazuhisa:
 でも,映画にせよ,小説にせよ,いまある……わけじゃないけど,現実世界がクソだからメタバースに逃げ込むんですよ。

森下氏:
 支配されて苦しくて,本当に生活が困窮している状態だからそこに逃げ込む。パラダイスだって。

Kazuhisa:
 だけど,現実の21世紀の先進国はそこまでクソじゃない。だから生活としてのメタバースに需要がなくて,目的が出会い系だったりの話になっていく。

森下氏:
 まあ,それでもメタバースという世界を作って,グラフィックスは当時の目いっぱいだから仕方ないにしても,世界共通のプラットフォームでやろうとしてたのはすごいよね。仮想通貨も作って。

Kazuhisa:
 Linden Dollarですね。

森下氏:
 これがいわゆるNFTの走りなんだよね。でも,結局はボス敵がいるわけじゃないし,あのモンスターをみんなで倒そうといった目的意識がなくて,出会い系に行っちゃうんだ,と。

Kazuhisa:
 でも,欲望がむき出しになっているなら,それはある意味,世界の構築に成功しているんじゃないですか?

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森下氏:
 そうなのかな。ROで結婚した人ってけっこうな数がいて,俺も祝電を出したことがあるんだけど,でもそれってオンラインゲームで知り合ったということなんだよね。もともとの目的意識は“ゲームをすること”で,共通の趣味の中で知り合ったということで,目的は“出会いたい”ではないんじゃないかな。

Kazuhisa:
 それは,だいぶ違いますね。

森下氏:
 ROの話で思い出したけど,自分がやってきたことをひっくり返されたと思ったのが「モンハン」(モンスターハンター)だったんだよね。

Kazuhisa:
 ひっくり返されたというのは?

森下氏:
 MMORPGであれ,オンラインゲームであれ,インターネットに接続してみんながつながるというのをやってきたことに対して,そのアンチテーゼを作られたんだよね。

Kazuhisa:
 「その手があったか」みたいなのではなく?

森下氏:
 別にカプコンさんがそういうつもりだったとかは全然ないだろうけど(笑)。もともとモンハンはPlayStation 2で出て,ブロードバンドユニットを作って,電話回線経由でオンラインプレイをしていたけど,あれを結局ポータブル(PSP)にして,近くの人とワッとやる形にした。これがやられたと思ったんだよ。

Kazuhisa:
 ああ,なるほど。“そこ”なんだ。

森下氏:
 あれは悔しいと思った。悔しいと思ったし,俺もめちゃくちゃ(モンハンを)遊んでたからね(笑)。あんなの面白いに決まってるじゃん!って。あれはインターネットのオンラインで遊ぶこととは,違うアプローチだから。

Kazuhisa:
 確かに。全然違うアプローチでした。

森下氏:
 人がその場に集まって,みんなで遊ぶ。ファミレスとかで集まっちゃって「そこでゲームをするのはやめてください」みたいな社会現象になっちゃうくらいね。

Kazuhisa:
 あの頃のオンラインやマルチプレイと言うと,MMOかFPSかみたいなものでしたからねぇ。

森下氏:
 それがみんなで集まってになったんだから……。その一方で,パズドラでは,自分たちの考え方を覆されたというのはなかったね。

Kazuhisa:
 そのパズドラですが,相変わらず強いですね。セールスランキングをずっと追っているけど本当に。

森下氏:
 パズドラ自体はチャレンジではあったけど,そこでやっていることもスマートフォンという市場の中で,いままでの経験にプラスしたものだから。確かに運用・運営の仕方も,ユーザーへのアプローチへの仕方も変わったと思うし,いろいろあったと思うけど,ここ数年は本当に変わらないね。

Kazuhisa:
 やっぱりそこに立ち返っちゃいますね。ここ数年は本当に何も変化がない。

森下氏:
 タッチパネルって,もう飽きたでしょう? とかね(笑)。

Kazuhisa:
 何か新しいことがないと,ですね。

森下氏:
 やっぱり時代の変革期で,何かがドラスティックに変わってくれないと業界的には厳しいよ。

Kazuhisa:
 全体で見ると,かなりの停滞期ですね。車におけるEVみたいな,何かがガラッと変わるものがポンと来ると引っかき回されていいと思うんですけど。

森下氏:
 もっと引っかき回されたいという気はするね。プラットフォームビジネスとして,物事のアプローチを変革させるとなると,大ごとだと思うけど。

Kazuhisa:
 そこで,いまこそピピンですよ(笑)。

森下氏:
 あれはチャレンジできた時代だからさ(笑)。早すぎたけどね。ドリームキャストだって早すぎた。あれがプラットフォームとしてのチャレンジスピリッツだよね。

Kazuhisa:
 いまはPCにしてもそれがないですから。

森下氏:
 PCはまあ,変わらないからね。

Kazuhisa:
 スマホもiPhoneとAndroidしかない。

森下氏:
 そう,ちょっとつまらないよね。

Kazuhisa:
 昔の混沌期を知っている人ほどつまらないと思うんです。

森下氏:
 まあ,言い方は悪いけど,落ち着いてゆっくりゲームを作れるよねというのはある。新しいユーザーにこういう遊び方をどう?って言いづらいのも事実でさ。そうなってくると……例えばギャルゲーばかりになっていくとかね。

Kazuhisa:
 どうしたって,行きつく先はそうですからね……なんかないんですかね。

森下氏:
 ないことはないけど,それを言えないんじゃん(笑)。
 
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