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[インタビュー]メイプルストーリーのVTuber「メイぷる木の子」を支える人たち――人気が出た,などと浮つかず指標は具体化する
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韓国のゲーム開発者向けイベント「Nexon Developers Conference 25」(NDC25)で,日本版「メイプルストーリー」のPR活動を担当するVTuber“メイぷる木の子”についての講演があった。
メイぷる木の子は,「メイプルストーリー」に登場するキノコ型モンスターの化身のバーチャルアイドルで,日本国内でのみ活動している,いわゆる広報VTuberと言える。
現地では講演終了後,登壇者のネクソン MS(メイプルストーリー)マーケティングチームリーダーのオ・ジュヒ氏と,MS事業チームの鈴木蒼大氏に,2媒体合同でインタビューを実施した。
両名には,VTuberを活用したユーザーコミュニケーションの狙いや,メイぷる木の子をマネージメントするうえでの心がけ。さらに“VTuberとして人気が出た”などと成果をフワつかせず,「ロイヤリティを高める」という目標に向き合うための術を聞かせてもらった。
見えづらい成果を具体化する,参考の一例になるだろう。
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「やっほ〜! メイぷる木の子ぷる!」
――講演直後ですが,あらためて自己紹介をお願いします。
オ・ジュヒ氏:
ネクソン MS(メイプルストーリー)マーケティングチームのリーダーを務める,オ・ジュヒと申します。
私は韓国生まれですが,日本で15年ほど生活してきました。ネクソンに入社したのは2022年3月のことで,以降はオフライン施策を中心に,IP拡張のための業務に携わってきました。
鈴木蒼大氏(以下,鈴木氏):
同じく,ネクソン MS事業チームの鈴木と申します。私は2021年に入社し,モバイルゲーム「メイプルストーリーM」に携わり,2023年からPC版「メイプルストーリー」チームに参加しました。
現在はメイぷる木の子さんのディレクションを担当しつつ,マネージャーとしても彼女の活動をサポートしています。
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――あらためて,ゲーム業界では年々,コミュニティマネージャーないしコミュニティマネジメントといった言葉を耳にする機会が増えています。端的に,これらの必要性とはなんでしょう。
オ・ジュヒ氏:
私たちの場合,メイぷる木の子のプロデュースも含め,メイプルストーリーに触れてくださる方々により楽しんでもらうべく,ユーザーの皆さんと同じ目線で交流し,信頼関係を構築することで,コミュニティの活性化を目指す。それが我々コミュニティマネージャーの役割で,目的もシンプルに“皆さんに親しんでもらうこと”と言えます。
――業務に求められるスキルはあるのでしょうか。
オ・ジュヒ氏:
やはり「対象のゲームに詳しい人」が最適ですが,まったくの未経験者でも,新たにゲームをはじめてくださる方々と同じ気持ちを持てるので,一緒に成長しながら交流していくプロセスも考えられます。
メイプルチームに関しても,3月ごろに体制を一新し,これまでメイプルに触れてこなかったスタッフが加わりました。そういう人だからこそ生まれる発想もあるので,私もすごく勉強になっています。
ですから,ゲームの腕前は問わず,ユーザーが安心してコミュニケーションを取れる姿勢。つまりは聞き上手や話し上手な人が向いていますし,それがメイぷる木の子の目指すあり方でもあります。
――専門職だけれども,いろんな人が挑戦できそうですね。
オ・ジュヒ氏:
そうですね。私はそう思います。
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――メイぷる木の子は,2021年4月1日のエイプリルフール施策で生まれ,2023年11月に本格始動となりました。この当時,既存のプレイヤー層にはどのような受け取られ方をしていましたか。
鈴木氏:
メイぷる木の子さんがサプライズデビューした当初は,正直なところ,少なくない方々に「また新しいことをはじめたけど,長く続くんだろうか……」といった不安を覚えさせていました。
けれど,あらかじめ決めていた彼女の活動方針,“毎日発信を絶対に途切れさせない”ことを大事に続けていったことで,徐々に好意的な反応をいただけるようになり,ユーザーとの相互コミュニケーションも増えて,たくさんの方々に応援してもらえるようになりました(※)。
※講演では,メイぷる木の子の活動に対する感想のうち,ポジティブな反応の割合が9割超であることが明かされた
――地道な活動が実を結んだと。
鈴木氏:
はい。現在はメイぷる木の子さんへの「配信で話を聞いてほしい」「一緒にメイプルストーリーを楽しみたい」といった声も増えて,ファンの皆さまに親しんでもらえています。
それに「メイぷる木の子を見て,メイプルストーリーをはじめました」「久々に復帰しました」というコメントも見られますし,メイプルストーリー側のアンケートで「メイぷる木の子を知っていますか」と尋ねたところ,9割ほどの方々が認知してくれていました。
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――起案した2021年4月,始動した2023年11月。この間はVTuber市場も盛り上がり,“入り込む余地”も加速度的に減っていた時期と言えますが,企画を形にするまでに焦りはありませんでしたか。
オ・ジュヒ氏:
おっしゃるとおり,日本のVTuber市場には個人配信者も大手企業も次々と参戦していたため,プレッシャーはありました。
そもそも私たちはメイプルチームへの参加時期的に,メイぷる木の子の最初には関われていない身でもありましたので。
けれど,当時のメイプルチームは発表当時,皆さんからの反響に手応えを感じたそうです。企画を本格始動させるまでに時間はかかりましたが,「メイぷる木の子には価値がある」と判断してからは早かったです。私も参加後は,ずっと前向きに挑戦してこられました。
――初出のエイプリルフール施策では,「アラド戦記」「マビノギ」「テイルズウィーバー」のVTuberビジュアルも同時発表していましたが,なぜメイプルだけ本格活動が実現したのでしょう。
オ・ジュヒ氏:
メイプルチームが当時,ユーザーコミュニケーションの課題を感じていて,そのための解決法を探していたからですね。ウソから生まれたメイぷる木の子の存在に,みんな打開策を見いだしたんです。
メイプルにはGM(ゲームマスター)がいますが,GMの役割は交流よりもゲーム情報の伝達が主となるため,気軽に話せたとしても,立場の時点で根本的にコミュニケーションのあり方が異なります。
そうした面を変えるにはみんな,GMともまた違う,公式とユーザーの中間に立つ人が必要だと思ったため,実現に向けて動いたんです。もちろん「やりたい!」の熱意も大きかったですが(笑)。
――タイトルの看板を背負う広報VTuberは,タレント系のそれとは性質が違います。この点にデメリットを感じたことはないですか。
オ・ジュヒ氏:
事実,メイぷる木の子は「メイプルストーリーのCM活動」という前提があるため,一般的なVTuberとはブランディングの方向性が異なります。これに伴い活動内容も,メイプルのライブ配信,アップデート紹介,オフラインイベントへの出張など,やれることは限られます。この点については,ほかのVTuberと大きな差があると言えます。
ですが,彼女も我々も「メイプルストーリーを盛り上げる」という一点に向かって進んでいけます。これを目指すうえでは,今言った制限もデメリットには感じないので,あまり不安はないですね。
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――VTuber運用について,会社から目標は課せられましたか。
鈴木氏:
会社からのミッションというよりは,自分たちで成果の指標を割り出して,自分たちで目標を課してきました。
例えば,コミュニティマネジメントではよく「ロイヤリティを高める」などと言いますが,そもそもロイヤリティとはなんなのか。どうなったら高まったと判断するのか。そこに思い至りました。ユーザーとコミュニケーションし,好感を得られたと思っても,それを成果としてどう報告するのか。実績をあいまいにするのはさけたかったんです。
そこで僕らは,「メイぷる木の子の活動に対して,返ってきた反応を定量的に評価しよう」と決めました。具体的には,YouTubeで評価を受けたなら,高評価と低評価の割合を算出して,値を探ります。
――ロイヤリティの可視化に挑んだんですね。
鈴木氏:
はい。もちろん,1つひとつの評価に込められた感想は厳密には定義できません。それでもメイぷる木の子さんは現在「高評価が約95%の状態」にあります。これは彼女の価値を認めるには十分で,メイプル界隈のロイヤリティ向上にも寄与できていると言っていい指標です。
それに,メイぷる木の子さんは「メイプルストーリーを遊んでもらうための導線」も使命ですが,ライブ配信中はゲーム同時接続数が増える傾向が見えています。各チャンネルのフォロワー数は,すべてがゲーム側に影響を与えている有意な数値とは測れませんが,少なくとも現状で可視化できている範囲では,プラスの成果と見込んでいます。
――ロイヤリティやプレゼンスを高める,などの言葉は実際あいまいで,場合によっては煙に巻くための言い訳になりがちですので,そこをできる範囲でも定量評価しようとする姿勢はすばらしいと思います。
会社側も,できるなら端的に,分かりやすい数値で報告を受けたいはずですので,そうした仕組みを設けられたのは助かるでしょう。だからこそ先の講演の内容も,フワッとせずに値を示せたのでしょうし。
鈴木氏:
ありがとうございます。
あと,メイぷる木の子さんが実際のゲームプレイをとおして得た気づきをレポート形式で発信したところ,「報酬を取り忘れてた。ありがとう」といったお礼の声が増えました。つまり,ユーザーの皆さんのゲームプレイにおける機会損失を減らすことにつながったんです。
この発信については,やってよかったと思っています。
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――これまでの活動で,印象深いことはありますか。
鈴木氏:
メイプルでは年に1回,大きなオフラインイベントを実施しますが,2024年の体験型ポップアップイベント「MapleStory CHASER SPACE in SHIBUYA」では,ユーザーの皆さんと接する機会が多くありました。
なかでも,クリエイターへのサポータープログラム「メイプルストーリークリエイターズ」をとおして,皆さま,メイぷる木の子さんのアートをたくさん制作してくれたんです。イラストはもちろん,グッズや食べ物を作ってくれた人もいて,あれらはとてもうれしかったです。
――昨今のオフイベの客層はどんな感じでしょうか。
鈴木氏:
メインユーザー層は20代中盤〜30代中盤の方々となりますが,サービス22周年を迎えた最近は,お子さん連れで来場してくださる方々も増えてきました。僕も父と遊んでいたので,すごく親近感がありますし,そういった親御さん世代はメイぷる木の子さんのことを,自分たちの子供のように見ているのかなと,なんとなく思っていますね。
――メイぷる木の子は,モンスターの「メイプルキノコ」がモチーフですが,外見のデザインはすんなり決まったのでしょうか。
オ・ジュヒ氏:
当時のメイプルチームが起案して,生みの親のスタッフが数パターンほどイラストを描いたところ,みんなからの反応がよかった今のメイぷる木の子の姿に,わりとすんなり決まったと言っていました。
活動の開始前後も,イラストチームがよりVTuberっぽい表情や服飾の細部を整えたり,お正月には着物などのシーズン衣装も用意したりして,クリエイターならではの目線でさらに磨いてくれています。
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――実際にVTuberを運用した結果,既存のプロモーション施策と比べて,各種コストの面でプラスに思えたことはありますか。
オ・ジュヒ氏:
これまでの活動はすべて,社内のリソースだけでまかなってきました。そのため費用対効果で言うと,参考にできる値がほぼ人件費となってしまい,他例とのパフォーマンス比較が難しいんですよね。ある意味,時間をかけたぶんだけ効果を得られたという認識です。
ただ,今後は活動の幅をさらに広げていくために,もうちょっと違う方面への投資も必要だろうと考えています。
――VTuber運用では,なにが投資対象になるのでしょう。
オ・ジュヒ氏:
私が今考えている投資先としては,ほかのVTuberさんとのコラボにかかる諸経費,発信素材をより増やすためのリソース制作発注でしょうか。あと,撮影関係は社内設備ですべて完結するのですが,よりよいマイクやソフトウェアを検討するなら,その機材購入用にですかね。
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――VTuberは特性上,タレントマネジメントの懸念が想定されます。パフォーマンスはチームで支えられても,特定個人のキャストの事情で,突然の施策中断を余儀なくされる可能性がある,とかですね。
代替性の低い個人,つまりはVTuberをマネジメントするならば,こうした懸念もあらかじめ踏まえておくべきだと感じましたか。
オ・ジュヒ氏:
確かに,それは思いました。VTuberはいろいろな予期せぬリスクで,活動を突然中止せざるを得ないことも起こりますものね。
――まあ極論だと,これはクリエイターどころか,この場にいる全員も含めて,なんにでも言い当たる潜在的な人材リスクではありますが。
オ・ジュヒ氏:
そうですね(笑)。
幸い,メイぷる木の子はそういう面も,ちゃんとしっかりしている印象です。マネージャーもしっかりしていますしね。なので信頼感という面では大丈夫としつつ,誰しも予期せぬ自体が起こる可能性はゼロではないので,我々も管理者側として想定しておくべきだと考えています。
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――ついでに,メイぷる木の子と一緒に仕事をしているお二方としては,彼女にどんな印象を抱いているのでしょう。
鈴木氏:
天然ですね。皆さんもお気づきかもしれませんが,けっこう天然な子です。とくにメイぷる木の子としての活動が続くにつれ,「まさに木の子ちゃん」って感じがより板についてきました。そういう天然っぽさも彼女の魅力になってきている印象です。
おそらく,素顔のイメージは皆さんの想像に近いです(笑)。
オ・ジュヒ氏:
そこが彼女のエンターテイメントなスター性ですよね。天然っぽくてかわいらしいけれど,話が上手で,しっかりしているところもあって。それに「なにかしてあげたい」と思わせてくれる一面があるから,皆さんが温かく見守ってくださっている気がします。
――メイぷる木の子は,ファンの名前を覚えたりするのでしょうか。
鈴木氏:
覚えますねえ。彼女は1人ひとりのコメントに親身に答えようとしますので,皆さんのお名前もかなり見ています。
それにすごく誠実で,活動に寄せられたコメントはオモテに出さなかったものもすべて,ちゃんと目をとおしているんですよ。
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――それでは,お二方の今後の展望を聞かせてください。
鈴木氏:
まだ詳しくはお話できませんが,メイぷる木の子さんは今後,界隈とのさまざまな交流を強化していこうと考えています。
それともう1つ。そのうち“メイぷる木の子に関わる世界観”が一気にパワーアップするような,大きなサプライズがやってくるかもしれませんので,皆さんもぜひご期待ください。
オ・ジュヒ氏:
メイぷる木の子は,目の前の小さな目標をコツコツと達成してきて,みんなで目指していた場所に徐々に近づいてきました。
ただし,さらなるステップアップのためには,もうちょっといろいろな挑戦をしていく必要があります。例えば,最近の流行も取り入れて,いわゆるバズりを生み出すとか,そういうところも狙っていきたいですね。皆さんもぜひ,今後とも応援をよろしくお願いいたします。
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――ちなみに,メイプルストーリーというと韓国人気が絶大ですが,メイぷる木の子は韓国デビューはしないのですか。
オ・ジュヒ氏:
私もそれを考えていて,今後のブランディング次第では,韓国にも上陸できるんじゃないかと思っています。講演中も中継配信でメイぷる木の子にしゃべってもらいましたが,参加者の皆さんも反応してくださいましたので,けっこう励みになりましたし。
――最も分かりやすい課題は言語で,案としても「メイぷる木の子がそのまま活動」「魂を変える」,場合によっては「いやいや韓国メイプルチームが独自にはじめる」などが思い浮かびますが,理想形は?
オ・ジュヒ氏:
絶対,我々と今のメイぷる木の子のままで韓国デビューです!
――メイぷる木の子さん的には,どうでしょう。
「メイぷる木の子」公式X
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