インタビュー
サービス開始から7年目となった「アルテイル」。さらなる海外展開について,GPコアエッジの宮本社長にあれこれ聞いてみた
ブラウザ上で動作するFlashベースのオンラインゲームといえば,ここ数年で台頭し,2011年の日本市場においても引き続き大きなムーブメントとして注目を集めそうだが,同タイトルはその先がけ的な存在として,長らくサービスを提供し続けているわけである。
そのアルテイルは今後,海外での展開にさらに力を注ぐ次なるフェイズに向かうという。そこで今回,GPコアエッジの代表取締役社長を務める宮本貴志氏にインタビューし,“アルテイルのこれから”についていろいろと聞いてみたので,お伝えしよう。
「アルテイル 〜神々の世界『ラヴァート』年代記」公式サイト
「日米アルテイル大会」は,念願の世界大会の実現に向けた最初の一歩
本日はよろしくお願いします。まずは,最近のアルテイルの動向について教えてください。
宮本貴志氏(以下,宮本氏):
アルテイルのサービスは,早いもので7年目に入りました。昨今,カジュアルゲームやソーシャルゲームが流行っていますが,アルテイルは,Flashを使ったゲームとしては奇跡的といってもいいほど長くやらせてもらっています。そのあいだ,多くの人に遊んでいただいてきたということで,非常にありがたい限りです。
4Gamer:
プレイヤー数などの動向はどうでしょう。
宮本氏:
6年間サービスを続けてきて,カードゲームに関心を持っている人や,実際にアルテイルを遊んでいる人が増えてきたという実感があります。
とはいえ,オンラインカードゲーム市場はまだまだ小さいので,もっと広げていきたいと考えています。ただカードゲームは,ゲーム画面そのもので興味を引くのがなかなか困難です。というのも,MMORPGのように派手な演出がしづらく,将棋の盤面のように地味な画面になりがちだからです。
4Gamer:
なるほど。
宮本氏:
アルテイルのサービス自体は好調なので,僕達としては次の段階に進もうと考えています。その一環として開くのが,先日発表した「日米アルテイル大会」(仮題)です。
僕自身,アルテイルのプロデューサーを務めていた頃から,世界大会を開きたいと言ってきました。海外展開にも積極的に取り組んでおり,今は日本のほかに,台湾と北米でもサービスしていますが,このところ北米プレイヤーのレベルが急激に上がっているんです。
日本の上位プレイヤーはとても強いので,サービス開始当初は北米のプレイヤー達は太刀打ちできませんでした。最近,北米プレイヤー達がかなり強くなってきたことを受け,世界大会実現に向けた最初の取り組みとして,日米アルテイル大会を企画したんです。
4Gamer:
サービス開始から7年目にして,長いあいだ温めてきたアイデアを実現しつつある,と。
宮本氏:
ええ,手ごたえを感じています。
ところで,先日開催した「アルテイルネット リアルフェスタ」(レポート記事)の中で,“北米からの挑戦状”と題した映像を公開しました。イベントのあと,日本チャンピオンが彼らに答える映像を収録したので,さっそく送りつけるつもりです。日本チャンピオンはとてもノリがよく,全部アドリブで演じたんですよ。僕はその映像を見たとき,てっきりスタッフが台本を用意したんだと思っていましたが。
4Gamer:
北米からの挑戦状も,ノリノリといった感じでしたよね。
そういえば,今回の日米大会はオンラインで行われるんですか?
その予定です。実は,僕も相談してみて気づいたんですが,一口に北米といってもとても広いわけですね。北米版アルテイルのパブリッシャはニューヨークにありますが,例えばロサンゼルス在住のプレイヤーがチャンピオンになった場合,そこまで行くのは結構大変です。私としては,ニューヨークに日本チャンピオンを連れていき,オフラインで対戦してもらいたいと思っていましたが,難しい面があるようです。
なお日米大会は,オンラインで日本とアメリカのプレイヤーに向けて同時に中継する方法を模索しています。
4Gamer:
アルテイルの基本ルールは日本版も北米版も変わりませんが,同じカードでも能力には違いがありますよね。日米大会には,日本版と北米版のどちらが用いられるんですか?
宮本氏:
北米版を採用する予定です。今回の大会では,日本版と北米版のどちらで実施するにせよ,いずれかの国のチャンピオンが相手国のカード能力を把握する必要が生じます。北米版は日本版と比べて実装枚数が少なく,それだけカードのパラメータを把握し直す数が少なくて済むため,北米版のほうが適していると判断しました。
日本チャンピオンにはテストサーバーを用意し,北米のパラメータで練習できるように準備を進めています。
4Gamer:
北米というと,カードゲームそのもののプレイヤー層が厚いので,アルテイルの北米チャンピオンは相当強いんじゃないでしょうか。
宮本氏:
ええ,とても強いと思いますよ。僕も時折,北米のプレイヤーと対戦する機会がありますが,かないませんからね。
世界各国で同時に開催できるイベントを模索。手始めはカードイラストコンテスト
大会以外に,日本と北米の運営チームによる施策を検討しているそうですね。
宮本氏:
イベントの同時開催です。カードゲームは,ルールさえ用意すれば,言葉の壁を越えて対戦できますよね。「Magic: The Gathering」はまさにその代表例ですが,アルテイルだって同様です。しかもアルテイルはオンラインゲームなので,日々のイベントも一緒にやれないものかと考えています。
とはいえ,もちろん,何でもかんでも一緒にできるかといえば,そうではありません。例えば,七夕や,アメリカの独立記念日を題材とするイベントなどは,どちらの国のプレイヤーも楽しめるものではないでしょう。
4Gamer:
その国独自の文化や伝統に基づいているイベントを,他国で展開するのは難しそうですね。
宮本氏:
例えば,ハロウィンイベントは日本でも毎年開催しています。能力はそのままで,キャラクターの着ている衣装がハロウィン仕様になっているレアカードを提供するといった内容です。
ところが興味深いことに,北米の運営チームは,私達が考えるハロウィンイベントとは方向性が大きく異なる内容のイベントをやりたいと言ってくるんです。
4Gamer:
具体的にはどんな内容ですか?
宮本氏:
実際に実施したイベントに,リアルのカボチャを彫って作った作品を募集し,優れた作品を選ぶ“カービングコンテスト”というのがあります。
どうなるものかと思っていましたが,カボチャの中で明かりを灯すと,アルテイルのキャラクターが浮かび上がるという,とても手の込んだ作品などが集まりました。
4Gamer:
“熱心なファンによる独自文化の形成”というと,ちょっと大げさかもしれませんが,アルテイルに限らず,ファンの情熱のかけ具合には驚かされることがよくありますね。
また,北米だとカードイラストのコスプレが盛んなんですよ。GM自らいろいろなキャラに扮していたり。さすがに日本向けには紹介しませんでしたが,いい歳をした男性GMが人魚のコスプレをしていたときは,どうしようかと思いました(笑)。
4Gamer:
こうして聞いていると,日本でも北米でも通用するイベントがあるのか,ちょっと心配になりました(笑)。
宮本氏:
プレイヤーにカードをデザインしてもらうという内容なら,日米同時開催でも大丈夫ではないかと考え,「芸術の伝道者」イベントを開くことにしました(関連記事)。
このイベントには,カードのイラストを描いてもらう部門と,カードパラメータを設定してもらう部門があるんですが,まずは前者を日米同時に開催します。これまでに登場したキャラクターでも,オリジナルのキャラクターでもOKです。
4Gamer:
コンテスト形式のイベントですね。審査はどのように実施する予定ですか?
宮本氏:
日米それぞれのGMと,プロのイラストレーターが審査します。プロに見てもらえるということも,モチベーションを高める要素の一つになるかもしれません。ちなみに僕個人は,絵の上手さより,情熱を感じるイラストを選びたいところです。
このカードデザインコンテスト以外にも,さまざまな展開ができると考えています。
4Gamer:
個人的に,北米のプレイヤーが描くイラストのタッチが気になりますね。緻密に描き込まれたクリーチャーとか,アメコミタッチの「光の弓『フィスターア』」とか。
宮本氏:
実は僕達は,このイベントでは描く人の“腕”はあまり重視していないんです。僕らはカードのイラストに対してとても強いこだわりを持っているので,実際にゲームカードを作るときは,応募作品を元に,イラストレーターに新たに描き起こしてもらっています。
ですから,とくに北米からの応募に関しては,イラスト自体のクオリティというよりは,ビックリするような“何か”に期待したいと思っているんです。
4Gamer:
私達の想像をはるかに超えるような。
宮本氏:
ええ。上手なイラストの選出はプロのイラストレーターに任せるとして,僕達はとにかくインパクトの強いものを選びますので,「絵心がないから」といった理由で足踏みせずに,どんどん応募してください。
2011年はヨーロッパ進出とiPhone/iPadアプリ展開で,さらなる新規プレイヤーの獲得を目指す
台湾と北米に続く海外展開は予定していますか?
宮本氏:
2011年の春から,ドイツでgamigoというパブリッシャによるサービスを開始します。ドイツでは,ボードゲームやオンラインゲームが盛んなこともあり,オンラインカードゲームにもすんなり入ってもらえるのではないかと見ているんです。
また同じくgamigoによるパブリッシングで,フランスでのサービスもスタートしたいと考えています。ヨーロッパのプレイヤーが加わることで,世界大会の実現にまた一歩近づけるのではないでしょうか。
4Gamer:
ヨーロッパでは,各国の言語で展開するんですか?
宮本氏:
ドイツ語およびフランス語のサーバー,また北米向けとは別の,ヨーロッパ専用の英語サーバーを用意します。
4Gamer:
ということは,現在,ヨーロッパから北米サーバーに繋いでプレイしている人も?
宮本氏:
実は非常に多いんです。今回,ヨーロッパ展開を決めるにあたって,そのことも決め手の一つになりました。
4Gamer:
フランスの人々は,日本のアニメ文化との親和性が高いと聞きますし,今後,イラストコンテストなどが開かれたら盛り上がりそうですね。コスプレにも期待したいところです。
宮本氏:
ドイツやフランスでも,北米のように独自のイベントが生まれてくるかもしれません。僕達自身,これからの展開が楽しみですね。
4Gamer:
ヨーロッパ展開に向けた取り組みはありますか?
宮本氏:
一つは,アルテイルのフルスクリーン化です。日本でも海外でも,カードゲームとしてのアルテイルを楽しんでもらっているのは確かですが,海外ではとくに,イラストそのものを鑑賞したいという要望が多いんです。
先日,G-Star 2010の会場で海外のゲーム会社と話をしたときも,フルスクリーンにできないのかと何度も聞かれましたし。
4Gamer:
日本だと,Webサイトをブラウズしながら遊んだりするので,むしろウィンドウ表示のほうが好まれるんですけどね。
今,流行のブラウザゲームやソーシャルゲームがまさにそうですよね。Webサイトを見たり,ワープロや表計算で作業したりしつつ,ちょっとした空き時間を使ってプレイするといった具合に。
もっとも,さまざまなオプションから選べるようにするのがベストなので,フルスクリーンでも遊べるように検討しているところです。
4Gamer:
そのほか,アルテイル関連で新たな展開は予定されていますか?
宮本氏:
とくに海外で,ビジュアル面からアルテイルを広めていくための試みとして,カードイラストを閲覧できる,iPhone/iPod touch,iPad向けのアプリの開発を進めています。
ゲームそのもののスマートフォン対応も検討してはいますが,その前にまず,イラストをメインとするコンテンツを展開していく予定です。今開発しているのは,イラスト集に,読み物やちょっとしたゲームを盛り込んだアプリです。
4Gamer:
日本のApp Store向けにも,そのアプリをリリースする予定ですか?
宮本氏:
ええ。最初は日本と北米のApp Storeで配信を開始し,追ってドイツやフランスに向けてリリースしたいと思っています。もちろん,それぞれの国向けにローカライズするつもりです。
また,より大きな画面でカードイラストを眺められるよう,iPad専用版も作っているんですよ。
4Gamer:
配信開始時期はいつ頃になりますか?
宮本氏:
ドイツでのサービス開始に合わせてリリースする予定です。10枚ほどのイラストを閲覧できるアプリを無料で提供し,そのほかのイラストやストーリーなどのコンテンツを有料で販売するビジネスモデルを検討しています。収益云々より,新規プレイヤーを獲得するためのプロモーションの一環なんです。
4Gamer:
それでは,アルテイルの中長期的な展望を教えてもらえますか。
宮本氏:
先ほどから話しているように,将来的には世界大会の開催を目指していますので,これからも海外展開を積極的に進めていきます。タイやマレーシア,シンガポールといったアジア地域や,オーストラリア,南米のブラジル,そしてヨーロッパではイギリスなどにも展開していきたいところです。
また,中国への展開は会社にとっての最大の課題であり,夢でもあります。
4Gamer:
実現に向けてすでに動き始めているんでしょうか?
宮本氏:
ええ。いろいろ仕込んではいるんですが,まだまだといった感じです。もちろん,アルテイル以外のタイトルの海外展開も実現したいと思っています。オンラインカードゲームは世界的に見てもタイトルが少なめなので,ビジネスをしっかりと進め,このジャンルのナンバーワンの地位を築き上げたいんです。
また,僕らは企画/開発を行う会社でもあるので,カードゲームに限らず,Flashをベースとするゲームやサービスを引き続き開発し,提供していきます。
4Gamer:
日本国内でのビジネス展開についてはどうでしょう。
宮本氏:
もちろんこれまで以上に力を注いでいきます。とくに,かつて「遊戯王」でカードゲームにハマった世代が,オンラインゲームに関心を持つ年頃になっているので,この層はきちんと取りにいかなければなりません。
そのほか,マルチプラットフォーム展開を進めていくつもりです。
4Gamer:
ところでアルテイルは,Flashをベースとするブラウザゲームの先がけといえると思いますが,現在の流行を見て,何か思うところはありますか?
宮本氏:
現在の,ブラウザ型のゲームの流れはどんどん強くなっていくと思います。弊社では,アルテイルなどのブラウザゲームや,「アヴァロンの鍵オンライン」のようなクライアント型のゲームを両方サービスしていますが,ジャンルの近いゲームでも,プレイヤーの動向に大きな違いがあるんです。
4Gamer:
といいますと?
宮本氏:
アルテイルは,ブラウザを開いて会員登録を行えば,簡単な情報を入力するだけでゲームに入れるので,登録したあと実際にゲームをプレイする人の割合は高めです。
一方,アヴァロンの鍵オンラインでは,クライアントのダウンロードやインストールなどの作業が発生するため,アルテイルと比べて“現存率”が低くなります。ダウンロードしたりインストールしたりしているうちに,「遊ぶのは明日でいいや」という気になってしまうんですね。登録したのに一度も遊ばないという人も,実際にいるんです。
やはり,実際にプレイしてもらえる可能性が高いという点で,ブラウザゲームは圧倒的に有利だと思います。
4Gamer:
気軽にゲームを楽しみたいという人にとって,ダウンロードやインストールという作業は大きな壁となりますよね。
宮本氏:
そういう意味で,僕らとしては,「カードゲームは小難しい」というイメージをどのようにして払拭していくかが課題です。まあ,ある程度難しいのはゲームの性質上仕方がないので,面白さをもっとよく伝えていきたいと思います。
4Gamer:
宮本さんは,カードゲームの面白さはどのような点だと考えていますか?
個人的には,戦術を考えながらデッキを組んでいるときが一番楽しいと思います。対戦そのものももちろんですが,戦術あってこそのカードゲームですから。
カードゲームのどこが自分にとって面白いか,それを見つけたという人がプレイを継続する割合は,高いんですよ。
4Gamer:
なるほど。
宮本氏:
例えば野球やサッカーといった競技のルールは,どこの国に行っても基本的には同じです。使う言葉は違っても,世界中の人々が共通のルールに則って楽しめます。
僕の最終的な夢は,アルテイルを,そういった競技と同じように世界中の誰もが知っている存在にすることです。まあ,とても遠い話ですが,無理だと思えばそこで終わりになりますから,これからもがんばっていきます。
4Gamer:
それでは最後に,4Gamer読者に向けて,メッセージをお願いします。
宮本氏:
今日お話ししたように,アルテイルを遊び始めたばかりのときはとっつきにくさを覚えるかもしれません。皆さんに最初の壁を乗り越えてもらえるよう,インタフェースやルール,ゲームのテイストに手を加えています。この11月には,チュートリアルも作り直しましたので,ぜひ一度ゲームに触れてみてください。
ゲーム序盤では,レベルが上がったり、イベントに参加したりするだけでカードがもらえますので,当分のあいだはカードを購入しなくても遊べますよ。
4Gamer:
ありがとうございました。
宮本氏が抱き続けてきた,世界大会の実現という夢に向け,着実に取り組みを進めているGPコアエッジ。
今回のインタビューでは,同社が,ゲームそのもので勝敗を決める大会以外にも,さまざまなタイプのイベントの同時開催を検討し,実行に移しつつあることが分かった。
また,ヨーロッパへの展開に伴い,これまでとはベクトルが大きく異なるイベントも企画されることになるかもしれない。
冒頭で述べたように,アルテイルはサービス開始から7年目を向かえ,今後,より多くの国々で楽しんでもらえるよう,海外展開に力を注いでいくという。
まずは,その第1歩ともいえる日米アルテイル大会や,イラストコンテストをはじめとするイベントの成果に注目していきたいと思う。
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