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印刷2007/10/17 13:04

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「スナイパー」という,誤解の多い生き物 第17回:『極大射程』→警察/軍モチーフ

 

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『極大射程』(上)
著者:スティーヴン・ハンター
訳者:佐藤和彦
版元:新潮社
発行:1999年1月
価格:700円(税込)
ISBN:978-4102286060

 

 「狙撃」。手元の辞書を引くとそのまんま「狙い撃つこと」とある。一般的には遠距離から相手に気付かれずに撃つ,暗殺の一手段というイメージが強いだろう。「ゴルゴ13」などの劇画作品がそのイメージの形成に大きく影響していることは間違いない。
 ただし,現実世界における狙撃は,警察などの司法組織が建物に立てこもる犯人などに対して行うことがほとんどだ。これを行うのが「スナイパー」(狙撃手)であり,たいていは警察の特殊部隊(アメリカでは各州警察のSWATやFBIのHRTなど,日本では各県警のSATなど)に属し,人質を取って屋内に立てこもる凶悪犯人を「無力化」することを役目としている。アメリカにおける例については,PCゲームでも取り上げられるので,お馴染みの人も多いだろう。

 多数のスナイパーを擁するもう一つの組織は,当然ながら軍隊だ。こちらも軍組織全体から見ると特殊な存在ではあるが,もちろん警察のそれとはかなり仕事の意味合いが違う。主に敵歩兵部隊の前進を阻むといった目的で,指揮系統を混乱させるために,主に指揮官や通信兵を狙うのである。

 「狙撃」そのものに派手さはない。「目標」を確実に仕留めるため,ときに数時間,長い場合は数日間見つからないように潜んでチャンスを待つ必要がある。スナイパーは孤独なのだ。ただ,任務を確実に遂行するため,スナイパーはサポート役である「スポッター」(観測手)とペアで運用するのが理想とされ,スポッターは目標までの距離,風向,風速,気象条件などをスナイパーに知らせる。
 また,スポッターには任務中に「狙撃」以外に気を配らなければいけないことすべてを請け負い,狙撃手を狙撃に専念させる役目もある。スポッターから得られる情報により,スナイパーは任務を成功に導くのだ。優秀なスナイパーには優秀なスポッターが欠かせない。
 スナイパーの世界が映像作品やゲームにおいて正確に描写されることは少ない。前述のゴルゴ13のような,現実のスナイパーとは異質の“表現”を除くと,比較的丁寧に描いている作品は長いこと,映画「山猫は眠らない」ぐらいのものであった。
 そこに登場したのが,『極大射程』から始まるボブ・リー・スワガーを主役にしたシリーズである。とくに第1作の『極大射程』においては,現実のスナイパーの「仕事」を描ききっている。そこには,警察のスナイパーと軍のスナイパーの「仕事」の違い,さらには狙撃を成功させるために必要になるさまざまな事柄などが,事細かに描写されている。

 作品としては冒険小説やスリラーに属するだけに,筋書きを詳しく語ることは避けるが,ベトナム戦争で伝説になった名スナイパーで,いまは隠遁生活を送るボブの元に奇妙な依頼が舞い込む。それは新開発の弾薬の試射であり,興味を持ったボブはその依頼を受け,成功させる。しかしそれは彼を罠にはめるための第一歩であり,やがて汚名を着せられ,窮地に立ったボブは自身の能力を駆使し,汚名をそそぐための逆襲に出る……というものだ。

 このストーリーの中で,長距離狙撃とはどのようなものなのか,成功のためにどのような要素を考慮する必要があるのか,といったディテールが語られる。とくに物語前半では,ある状況における長距離狙撃を阻止するためや,成功させるために必要な要素,地理条件などを計算して狙撃地点を割り出すという,狙撃のための知識を事細かに披露するシーンがあり,ここは必見だ。
 これらの要素は非常に複雑なものであり,残念ながらゲーム内で再現されることは少ない。例えば距離と銃弾の落下の関係,撃ち下ろし,撃ち上げといった角度の影響,銃身と照準器のパララックス(視差)など,すぐには理解するのが難しいものもある。ものすごい初速で撃ち出される弾体も,風に煽られるし,万有引力に引っ張られる。これらについての記述は,現実世界において,長距離の射撃で「当てる」ということがどれだけ難しいか,類推するにはうってつけだ。実際,たとえ目標が10m先でも,それなりの訓練をしていないと,まともに弾など当てられやしないのだ。

 もう一つ,この本における主役は「銃器」そのものだ。ボブが主に使うのはレミントンM700。最も有名なボルトアクションライフルであり,現実世界でも猟銃や競技用銃,さらにはスナイパーライフルとしてさまざまなカスタマイズがなされ,利用されている。これらのディテールが事細かく書き込まれており,小説としてのリアリティを演出している。まあ,事前にある程度銃の機構が分かっていないと,意味が分からない可能性もあるが。
 その詳細な銃器描写のために「銃賛美」だと批判されることもある本作だが,主人公のパーソナリティや経歴などを丹念に読んでいけば,むしろ銃を持つ人から「銃を持つための心構え」が失われたときどうなるかを描いたものであることが分かる。

 実はこの作品,映画化もされているのだが,原作の魅力,迫力,描写を十二分に再現できているとは言いがたい。この作品の真の魅力を味わうためには,やはり書籍を読むのが一番だ。
 スナイパーという存在の持つ能力,その任務の特殊性,作品の背後に横たわるアメリカの銃文化,PCゲームとも関わりを持つ数々の要素を感じ取れる作品として,お勧めできる。
 なおこのシリーズは4部作であり,「ダーティホワイトボーイズ」「ブラックライト」(上/下)「狩りのとき」(上/下)と続いている。『極大射程』以外は扶桑社から刊行されているので,そちらもお勧めしたい。

 

旧日本陸軍では「射撃モッサリ」と言ったそうですよ?

スナイパーのパーソナリティ適性のお話です。

 

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■■田村眞治(ライター)■■
銃器,SF,武道と,広いんだか狭いんだか分からない分野に深く通じ,とくにその精神性にこだわりを持つPCゲームライター。関心分野と連動しつつ,ドキュメンタリーやハードSF,ミステリ小説など,カバーエリアは広いのだが,執筆姿勢はいたって慎重。もっと書いてくださいよ〜。
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    SWAT4 日本語版

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