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印刷2010/03/19 12:10

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第256回:GDC 2010に見る欧米ゲーム業界の最新トレンド

奥谷海人のAccess Accepted

 年に一度,世界中のゲーム業界関係者がサンフランシスコに結集し,ゲームのプログラムからビジネスに関する話題まで,さまざまな事柄を話し合う世界最大のゲーム開発者会議,Game Developers Conference。だが,3月9日から13日まで行なわれたGDC 2010は,多くの点で従来のGDCとは異なる印象が強く,ゲーム市場の多様化が強く感じられた。GDC 2010に見る,欧米ゲーム業界の新たな模索をレポートしよう。

第256回:GDC 2010に見る欧米ゲーム業界の最新トレンド

 

Facebook,Facebook,Facebook……
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毎年,新たな話題に事欠かない世界最大のゲーム開発者会議,Game Developers Conference。例年は無料だったランチを8ドルで購入しなければならない(プレス関係者とボランティアは無料)など,不況の影がやや感じられたが,それでも過去最高の参加者数を記録し,レクチャーも400を超えるというボリューム満点の内容だった

 2010年3月9日〜13日,カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・センターで開催された世界最大のゲーム開発者会議,Game Developers Conference 2010(以下,GDC 2010)が終わった。例年のメインホールだったWest hallが今年は使用されず,レクチャー会場やエキスポ,そしてプレスルームまで,すべてがNorth hallへ移動。これまでは,初日から2日間行われるミニサミットやワークショップに使われる程度だったSouth hallも,連日フル稼動となっていた。West hallがないことで会場はかなり小さく感じられたが,加えて参加者数が昨年(2009年)より多い1万8250人(主催者側の発表)だったため,人気のレクチャーは立ち見が出るほどの人であふれ,移動もままならないことが,しばしばあった。

 GDCが,これほどまでに盛況だったのは,ゲーム業界に新しいジャンルが一つ登場したからだろう。Facebookをはじめとするソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上でプレイするタイプのゲームは,最近欧米で「ソーシャルゲーム」とまとめて呼ばれるようになってきたが,そうしたソーシャルゲーム市場が活気を帯びてきたことで,これまでとは雰囲気の異なる関係者やレクチャーの内容が増えたわけだ。
 昨年,この連載でGDCの総括をしたときには,まさに「iPhone,iPhone,iPhone」という雰囲気だった。しかし,飽和状態となったiPhoneアプリの壮絶な値崩れなどにより,今年はiPhoneアプリ関係のレクチャーに勢いが感じられず,代わってFacebookが話題の中心を奪い取った格好だ。

 

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 新世代のゲームテクノロジーや,パブリッシャが開発中のビッグバジェットタイトルに関するレクチャーも健在で,2010年のゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞した「Uncharted 2: Among Thieves」のレクチャーが7つもあったのに加え,「Final Fantasy XIII」「God of War III」,そして「Mass Effect 2」といったヒット作に関する講演も目立っていた。
 ただ,Sony Computer Entertainmentが「PlayStation Moveモーションコントローラ」および「PlayStation Moveサブコントローラ」という新デバイスを発表したものの,プラットフォームホルダー3社の存在感が感じられなかったのがGDC 2010の特徴ともいえる。ウワサされていた任天堂の新デバイスやMicrosoftのNatalの新情報はなく,コンシューマ機市場は静かだった印象が強い。

 インディーズゲームは,最近の欧米ゲーム業界のホットなトピックだが,ここGDC 2010でもかなり冴えていた。“インディーズ”という言葉に,FlashやMODで細々と作られたゲームという印象を受けたのは,ほんの数年前までの話だ。SteamやXbox Live!といったデジタル配信システムの浸透により,作成したゲームを低リスクで販売できるようになったインディーズゲーム開発者達は,「パブリッシャの意見に左右されない,完全に独立したデベロッパ」という立場を生かして卓越したゲームを生み出し,高い利益を生み出すものも増えてきた。エキスポ会場にはインディーズゲームを集めた大きなブースがあり,そこにいつも大きな人だかりができていたことからも,勢いはうかがえた。

 

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 AMDやIntel,Microsoft,NVIDIAなどによるスポンサーセッションに加え,オーディオ,AI,ビジュアル/アート,モバイル,シリアスゲーム,さらに,組織論からローカライズまで,GDC 2010ではゲームに関するありとあらゆる話題が論じられ,会期中の5日間で400を超えるレクチャーが行なわれる密度の濃さだ。さらに,メーカーによるスニークプレビューやインタビューが会場の外で行われるというE3のような催事も多く,会場こそ狭くなってしまったが,全体として見れば,例年にも増して大規模化が進んでいる。

 

お金のある場所に流れていく,ゲームビジネス
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テクノロジーの進化により,「低品質/低価格/手間いらず」なゲームが,「高品質/高価格/手間のかかる」ゲームを駆逐していくと語るElectronic Artsのベン・カズンズ(Ben Cousins)氏が,レクチャーで使ったスライドの一枚。高速道路の発達によるドーナツ化現象とゲーム市場を対比させた彼の理論は,いささか強引過ぎる気もしたが,こうした見方はGDC 2010のトレンドの一つ

 ソーシャルゲームが注目されている理由の一つは,その将来性の高さだ。とくにパッケージゲームやMMORPG,そしてモバイルゲーム市場に閉塞感が生まれつつある北米では,ベンチャーキャピタリストといわれる投資家の集団が,既存のビジネスへの投資を控え,少しでも将来性のある分野へ一気に流れ始めた。その分野こそ,世界規模のアカウント数が4億にも達するというFacebookをはじめとしたSNSだ。
 事実,パッケージビジネスを中心とした欧米ゲーム市場は,2008年には2.2兆円規模に到達していたが,2009年には2.0兆円と,史上初めて縮小した。ベンチャーキャピタリストの多くが,このデータから「パッケージ販売型のゲーム産業は,2008年でピークに達した」としているようだ。
 もっとも,この集計にはMMORPGの収益やデジタル配信システム,あるいはSNSといった新規ビジネスは含まれておらず,実際の市場規模は漸増していると見る関係者もいる。

 長引く不況のためにゲームメーカーをリストラされたり,退社を余儀なくされたゲーム開発者達の行き場も減少し,以前のように新しい開発チームを設立する資金も得られにくくなった。そういった人材もまたソーシャルゲームに流れ込んでいる。
 例えば,「Sid Meier’s Alpha Centauri」のリードデザイナーであり,その後独立して「Rise of Nations」を開発したブライアン・レイノルズ(Brian Reynolds)氏も,Big Huge Gamesを解散したあと,ソーシャルゲーム市場で最大シェアを誇るZyngaで,チーフ・クリエイティブ・オフィサーという役職についているし,「Command & Conquer」シリーズのマーク・スカッグス(Mark Skaggs)氏もエグゼクティブ・プロデューサーとしてソーシャルゲームの「FarmVille」や「Mafia Wars」を手掛けている。二人とも独立後はあまりパッとしなかったが,Zynga入社後初めてGDCに顔を見せ,今回は「勝ち組」であるかのように,自信満々のレクチャーを行なっていたのが,現在の欧米ゲーム業界を象徴しているような気がした。

 

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 大手のSony Online Entertainmentから,リチャード・ギャリオット(Richard Garriott)氏が立ち上げたばかりのデベロッパPortalariumまでが,ソーシャルゲームを発表しており,誰もが熱い視線を注ぐ新ジャンルであるのは間違いない。
 Playfishを高額で買収したElectronic Artsも,今後さまざまな形でこの新市場に参入してくると思われるが,同社のマネージャの一人,ベン・カズンズ(Ben Cousins)氏は,既存のゲームビジネスを「ダウンタウンの専門店」,ソーシャルゲームなどの新興市場を「ハイウェイ沿いのウォルマート」にたとえ,「プレイヤーは,(ソーシャルゲームのような)質はそれなりであっても,安価で手軽な製品なら,いずれ拒否しなくなる」と話す。そして,ダウンタウンに残された専門店の製品は,高品質かも知れないが買い手がおらず,やがてウォルマートに淘汰されていくというのである。

 

「データ・ドリブン」か,「プレイヤー・セントリック」か
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記事にするしないに関係なく,GDCではなるべくErnest W. Adams(アーネスト・W・アダムス)氏のレクチャーは聴きに行くようにしている。温厚そうなアダムス氏が「不公平さを売りつけるゲームは,詐欺師だ」とまくし立てるの様子がいつもと違って驚いたが,聞き終わってから,なんとなく爽快な気分になった

 ソーシャルゲームの台頭によって,今回のGDC 2010では,これまで耳にしたことのないキーワード/用語がいくつも登場したが,その一つが「データ・ドリブン」である。
 これは,Zyngaのスカッグス氏の講義レポートでも説明しているが,要するに「プレイヤーから得られるデータや行動パターンを把握し,それに合わせたゲームデザインを行っていく」というゲーム開発手法のことだ。これは,「どれだけのデイリーアクセスを獲得できるか」といった観点でビジネスが評価される,GoogleやAmazonなどの手法を取り入れたものと思われるが,FarmVilleのように,毎日3200万人ものユーザーがアクセスしてくる人気ソーシャルゲームなら,データ・ドリブンによる開発手法が合理的であるのは間違いないだろう。

 ゲームを芸術と考えることもできるかもしれないが,現在のところゲームはビジネスであり,筆者もそれを否定するものではない。しかし,データ・ドリブン型ゲームであるFree-to-PlayのアクションやMMORPG,そしていくつかのソーシャルゲームに関するレクチャーでは,「マニタイジング」,つまり「いかにして,プレイヤーから効果的にお金を得るか」というビジネス論が前提になり過ぎている気がしてならなかった。

 そういった風潮に疑問を呈する講演も,GDC 2010ではいくつかあった。筆者が聞いたレクチャー,「The Psychology of Game Design: Everything You Know is Wrong」(ゲームデザインの心理学:我々が知っていることはすべて間違っている)のスピーカーであるシド・マイヤー(Sid Meier)氏や,「Single-Player, Multi-Player, MMOG: Design Psychology for Different Social Contexts」(シングルプレイヤー,マルチプレイヤー,MMOG:異なる社会的コンテキストにおけるデザイン心理)で公平性のないゲームに苦言を呈したアーネスト・W・アダムス(Ernest W. Adams)氏などが訴える,「プレイヤー・セントリック」(プレイヤー中心)は,「プレイヤー一人一人の顔を想像しながらゲームを作る」といった意味合いの,データ・ドリブンとは相反する考え方だ。

 

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 マイヤー氏もアダムス氏も,業界では最古参と言える大御所。彼らの考え方が「現状にそぐわない」といってしまえばそれまでだが,個人的にはやはり,思いがけないアイデアが詰まっていたり,ついニヤリとしてしまうテクニックが感じられたりするゲームを支持したい。Facebook向けには,現在50万以上のアプリが開発されているといわれており,iPhoneと同じような飽和化が進むことも大いにあり得るだろう。

 今回のGDCには,不況という逆風が吹く中,変化との葛藤を見せる欧米ゲーム業界,そして方向性を模索するゲーム開発者達の姿が良く現れていた。数年後のGDCで主力になっているのは,果たしてデータ・ドリブンか,それともプレイヤー・セントリックなのだろうか。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く週刊連載だ。
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