
業界動向
Access Accepted第825回:gamescom latam振り返り――中南米最大ゲーム市場の未来
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ゴールデンウィークと重なる時期に,ブラジルのサンパウロでgamescom latam 2025が開催され現地で取材した。ブラジルは2億1000万人という人口を擁する中南米最大の国であり,ゲーム産業の育成に力が注がれている。今回はさまざまなインディーゲームが出展され,意義のあるイベントになったgamescom latam 2025についてお伝えしよう。
今年で2回目となったgamescom latamとは
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その名称からも分かるように,gamescom latamはドイツで毎年8月に開催される「gamescom」と提携し,そのイベントフォーマットにならい,B2B型のミーティングや開発者向けセッション,さらには一般来場者向けの大型展示会場を使った試遊などが行われる,総合的なゲームイベントだ。
eスポーツやコスプレ大会なども行われ,延べ13万人という来場者を迎えるのは,中南米地域で最も大きな規模となる。ちなみに,“latam”というのは,メキシコ以南の総称である“ラテンアメリカ“(Latin America)の略称だ。
サンパウロでは2012年から「BIG Festival」(Brazil's Independent Games Festival)という,最盛期には3万6000人の来場者を誇ったイベントが存在していた。だが,非営利のゲーム産業振興団体「Abragames」がブラジル政府の補助を受けるようになり,2023年にgamescomを運営するKoelnmesseと提携。2024年にBIG Festivalが「gamescom latam」という名称に変更され,BIG Festivalの看板はインディーゲームを主体にするゲームアワードへと受け継がれた。
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gamescom latamが開催されたディストリト・アンヘンビというイベント施設の具体的な規模は,正面門付近からの目視だけでは想像できないが,非常に広大な平屋建てのスペースで,ほぼ真四角で中央には支柱がほとんどない巨大な展示エリアを擁する施設だ。
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ポルトガル語(ブラジルの公用語)と英語でのトークセッションが4つのステージで同時に行われることもあって雑多な雰囲気だが,視聴者は椅子に備え付けられたヘッドフォンのチャンネルを合わせれば,両言語への同時翻訳が聞こえてくるという仕組みだ。
会場の喧噪が聞こえてくるとはいえ,理解できないというようなことはなかったものの,同時通訳されているセッションを録音する術がなかったので,記事に反映するのが困難だったのは残念なところである。
展示会場に目を向けると,Microsoftや任天堂,Ubisoft,Epic Games,そしてTencentといった大手パブリッシャのブースがあり,発売済みのゲームが展示されていた。地元のゲーマーたちはコンシューマゲーム機でプレイする機会が少ないためか,「DOOM: Dark Ages」や「アサシン クリード シャドウズ」などにも,人だかりができていたのは興味深い。
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中南米最大のイベントと言っても,まだgamescom latamを使って新作発表をアナウンスしたり初公開したりという機運は大手パブリッシャには生まれていないこともあってか,プレイできる状態で展示されていた400作のほとんどは,インディーゲームだ。
開発地域やジャンル,ID@Xboxといったテーマに分かれた試遊台が,企業ブースの間の通路になったセクションに,1作1機ながらも整然と並べられており,親子で楽しんでいるような姿が多く見られた。
こうしたインディーゲームへの傾倒は,BIG Festival時代からの傾向だろうが,今後はイベントを盛り上げるためにも,地元デベロッパが新発表を大々的に行ったり,大手パブリッシャもノベルティを配ったりして,若いファン層の獲得に乗り出すべきだろう。
![]() 会場で人気だったのは現地のストリーマーたちで,ときおり大きな歓声が聞こえてくるのは彼らのいるブースが震源地になっていた |
![]() ブラジル人は,やはり踊るのが大好きという感じだった。とはいえ,落ち着いた人も多い |
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産業育成の起爆剤となり得る,ある法律の改定
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これは日本でいうJETRO(日本貿易振興機構)のような活動を行っている政府機関だ。農産物から文化製品までを含めてすべての輸出品のプロモーションや企業サポートを行っているが,その中でゲーム産業を専門に管轄するのが「Brazil Games」となる。
さらにブラジル26州のメジャーな地域にはACJogos(Associacao de Criadores de Jogos)という名称で統一された,各エリアでのゲーム産業の振興を行う州政府レベルでの行政法人がある。また,サンパウロには映画,音楽,演劇などを管轄する「APAA」(Sao Paulo Association of Friends of Art),そして各都市レベルで組織化されたゲーム開発者による国際NPOの「IGDA」(International Game Developers Association)も活動している。
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長い歴史の中から企業主導のモデルが確立されている日本やアメリカとは違い,政府による文化振興や雇用創出の対象としてゲーム産業が重視されているのは一目瞭然だ。その複雑な構造はドイツやカナダのゲーム産業政策に似ている。
しかし,Abragamesの関係者によると,彼らがモデルとしているのは韓国であり,KOCCA(韓国コンテンツ振興院)にならい,15年ほどでゲーム産業を大きく発展させてきたという。豊かな知的人材を背景に,ブラジルのゲーム産業を急成長させていきたいという大望を持っているそうだ。
そんなブラジルのゲーム開発シーンにとって起爆剤となり得るのが,2024年末に議会で承認された「ルーアネット法(改定案)」だと,Abragamesのプレジデントであるロドリゴ・テラ(Rodrigo Terra)氏は語っていた。
ルーアネット法は,ブラジル文化省が承認した文化プロジェクトに対し,寄付・スポンサー費用を所得税額から控除できる制度だ。法人は納付予定の法人税額の最大4%、個人は6%までを充当できる。控除率は条項により異なり,ゲームは2024年の法改正でArticle 18(100%控除枠) の対象に追加された。これにより,従来 Article 26 で最大70%しか控除できなかったケースよりも優遇度が高まったわけだ。そのため,ブラジル国内でのビジネス開発や投資に拍車がかかると言われている。
2023年9月にはEpic GamesがAQUIRISというデベロッパを買収し,Epic Games Brasilとして再スタートが切られたという,ブラジルのゲーム業界にとっては大きなできごとがあった。
Epic Games Brasilは「Fortnite」向けのコンテンツやソーシャル機能を拡充するシステムを開発中であるという。外資を呼び込むことによって,ゲーム産業の底上げや雇用創出が見込めるようになってきているのは事実だろう。
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現状のブラジルにあるのは,国外では知名度が高くない小規模インディーデベロッパ群と,若年層の多いゲーム市場とそこから新たに生まれてくるであろう労働力といった潜在性のみだ。
ブラジル国外でも高く評価された「Chroma Squad」のBehold Studiosや,100万本を超えるヒットとなった「Soulstone Survivors」のGame Smithingなどのように,ブラジルのデベロッパがどれだけ力を付け,どのようにブラジルのゲーム開発シーンを盛り上げていくのだろうか。ブラジルのゲーム産業の進化に,今後も注目していきたい。
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著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
※次回の更新は,2025年5月26日を予定しています
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