インタビュー
オンラインゲームにも通じる? トレーディングカードゲームビジネスの今。木谷氏に聞く,コンテンツビジネス最前線
木谷氏といえば,「デ・ジ・キャラット」や「ギャラクシーエンジェル」など,いわゆるオタク市場向けのキャラクタービジネスを展開するブロッコリーの創業者として知られる人物。元々は山一證券の社員だった同氏だが,趣味が高じてオタクビジネスの世界に飛び込んだという,一風変わった経歴を持つ。ゲーム業界やアニメ業界などのいわゆるコンテンツ業界では,その名を知らぬ者がいないほどの著名人である。
基本的には,TCGを中心にビジネスを行っているブシロードなのだが,今年に入ってからは,自社の「Chaos TCG」をオンライン化した「カオス オンライン」を発表。またオンラインカードゲーム「アルテイル 〜神々の世界『ラヴァート』年代記」を運営していたデックスエンタテインメント(現在は,GPコアエッジが運営)の元代表取締役である黒川文雄氏を副社長に迎えるなど,ここ最近は,オンラインゲーム市場にも積極的な動きを見せ始めている。
さて,通常ならばオンラインゲームである「カオス オンライン」について詳しく話を聞く4Gamerなのだが,今回は,ブロッコリーを上場企業に育て上げた“事業家”木谷氏へのインタビューということで,少し話を広げて,現在のTCGビジネス,そしてコンテンツビジネス全般についてなど,多岐に渡る話題を振ってみた。さまざまなデジタルコンテンツがあふれる今,なぜアナログなTCGなのか。木谷氏の思想をお届けしたい。
「カオス オンライン」公式サイト
「ブシロード」公式サイト
「2008年は600億を超えるかも」トレーディングカードゲームの市場規模
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
今回は,せっかくの機会ですので,カオス オンラインに限らず,TCG全般についてお話を伺えればと思います。
分かりました。なんでも聞いてください。
4Gamer:
まず今回インタビューを行うに当たって,TCGの市場規模などを少し調べていたのですが,よく引きあいに出される500〜600億という数値は,どの程度正確なものなのでしょうか? 仕事柄,統計データなどはできるだけ鵜呑みにせず,その内訳を考えるようにしているのですが,そこが少し気になったもので……。
■トレーディングカードゲーム市場規模
2005年 2006年 2007年
631億 387億 544億
※社団法人 日本玩具協会調べ
木谷氏:
んー,そうですね(数値が書いてあるテキストを見ながら)。うん,概ね正しいんじゃないかと思います。まぁ例えば「データカードダス」とか,コンピュータを絡めたような商品を含めているのかどうかなど不明な点はありますけれど,これは大手各社の出荷ベースの売り上げと照らし合わせてみても,ほぼ正しい数値という印象ですね。
4Gamer:
出荷ベースの売上ですか?
木谷氏:
ええ。大手さんのカードゲームは,決算などでその売り上げが公表されていますから,そこから計算すれば大体の規模感は掴めますよね。えーと,2008年度は確か……
デュエル・マスターズ 110億前後
遊☆戯☆王 90〜100億
そのほか合計 150億前後
という感じだったと思うので,合計すると350億くらいですよね。ただ,これはあくまでパブリッシャの出荷額なので,流通などを含めた市場の経済活動全体を含めると,だいたい2掛けで計算して,えーと,700億円ですか。うん。多少誤差があるとは思いますが,これくらいではないかと思います。
4Gamer:
なるほど。
木谷氏:
2008年は,2007年よりもさらに市場が好調だった雰囲気がありますから,この日本玩具協会さんのデータを基準に言えば,600億円以上にはなっているのではないでしょうか。
「TCGはまだまだ未成熟な分野」だからこそビジネスチャンスがある?
4Gamer:
それでは改めて。ブロッコリーの会長職を退かれたあとで,なぜTCG専門の会社を立ち上げようと思ったんですか?
木谷氏:
一言で言うならば「TCGがまだまだ未成熟な市場だから」に尽きますね。日本のコンテンツ産業は,アニメやゲームなど本当に多種多様で巨大なビジネスになっていますが,その中でも「勝ち目があるように見えた」市場が,TCGというジャンルだったんです。
4Gamer:
同じコンテンツビジネスでも,ゲームやアニメなどにはもうビジネスチャンスがないという意味ですか?
木谷氏:
いえ,もちろんそれらにビジネスチャンスはありますし,将来性もあると思います。ただ,私自身の持つ強みであったり,資金力であったりと,そういう個人的な事情を加味すると,「私では無理だ」ということですね。例えば,今のゲーム産業などは規模も大きく,かなり成熟しつつありますから,これから新参の小さな企業が割って入っていくのは厳しいわけです。
4Gamer:
確かに。
一方で,TCGというものに目を向けてみると,まだその歴史は浅く,市場としての隙間も沢山あると感じました。最初に必要な資金も,コンピュータゲームほどは多くない。そしてここが重要なのですが,TCGは,これから先さらに成長する“時代のニーズに合った”“時代にマッチした”分野であると考えて,TCG専門の会社を立ち上げようと決心しました。
4Gamer:
デジタルコンテンツが溢れる現在において,なぜアナログなTCGが“時代のニーズに合った分野”なんでしょうか?
木谷氏:
まず,結局のところみんなが一番求めているものは,コミュニケーションのキッカケとなる“共通言語”なのではないか? というところですね。友達を増やすための“ツール”といってもいい。SNSだとかモバゲーだとか,ネットでの繋がりというのも,そうしたニーズを満たすサービスだと思いますが,TCGは,それをデジタル的にではなくて,直接的あるいはアナログ的に提供してくれるものではないでしょうか。
4Gamer:
「ポケットモンスター」や「モンスターハンター ポータブル」が大ヒットを飛ばしたのも,携帯ゲーム機を持ち寄ってのアナログ的なコミュニケーション要素(ローカルな通信プレイ)に要因があるとも言われていますね。
木谷氏:
学校や友達の家とかで,みんなを巻き込みながら遊ぶっていうのは,やっぱりバカにならないと思うんですよね。それにTCGは,そうしたアナログ的なコミュニケーションにマッチした“面白味”をたくさん内包しているものだと思うんです。列挙すると,「プレイングの楽しみ」「デッキ構築の楽しみ」「コレクションする楽しみ」「くじ引き的な楽しみ」,そして「トレードする楽しみ」などでしょうか。こんなに幅の広い楽しみ方ができるコンテンツって,ほかにはそうそうないと思うんですよ。
4Gamer:
それは確かに。
しかし,遊☆戯☆王やポケモンカードゲームといった国産のTCGが最初にヒットしてから,もう10年以上が経つわけですよね。その時代より前のプレイヤー達というのは,もう市場から去ってしまっているような気もしますが,どうなんでしょう?
木谷氏:
近年,TCG市場がまた盛り上がってきてる理由の一つに,そういった過去にTCGのプレイ体験を持つプレイヤーが,また市場に戻ってきてる点が挙げられると思います。とくにウチで展開させて頂いているヴァイスシュヴァルツは,比較的高年齢向けのTCGだと思うのですが,おかげさまで大変好調です。今年の夏にはカード販売総数は一億枚を超え,この1年の出荷額は20億円を超える勢いですね。
4Gamer:
それは凄いですね。
コンピュータゲームは“恐竜”で,TCGは“ほ乳類”?
4Gamer:
しかし,これは少し意地悪な突っ込みかもしれませんが,アナログ的なコミュニケーション云々だけだと,時代にマッチしたと言い切るには,少々説明が足りないように思えます。そうした楽しみ自体は,ポケットモンスターやモンスターハンターの例に見られるように,別にコンピュータゲームでもできるわけですよね。
木谷氏:
私が“時代にマッチしている”と考えるもう一つの理由として,TCGのビジネススタイルがあります。
4Gamer:
ビジネススタイルですか?
木谷氏:
ええ。これは私がよく喩えとして話していることなのですが,今のコンピュータゲーム産業……中でも据え置き型ゲーム機の作品っていうのは,私には「恐竜」に見えるんですよね。生存競争/進化の課程で,どんどん強力な武器や体格を獲得していくんだけど,それを維持するために沢山食べ物を食べなくちゃいけないだとか,“生きること自体の効率”がどんどん非効率的になっていってる。
4Gamer:
仰りたいことは良く分かります。
で,恐竜というのは,ある日訪れた「寒冷期で食べ物が少なくなりました」みたいな状況に対応できず,パタパタっと絶滅してしまったわけですよね。これって,今のゲーム産業の状況に凄いダブって見えるというか。私もいくつかのゲーム会社さんとは深いお付き合いをさせて頂いておりますが,やはり皆さん,そうした状況に危機感を抱いていらっしゃると思うんです。
4Gamer:
開発費はどんどん肥大化していくし,あげくゲーム自体の売り上げも伸び悩んでますみたいな話ですね。
木谷氏:
一方で,我々の行っているTCGビジネスは「生物でいえば『ほ乳類』なんです」と,社員やお付き合いのある会社の人にはよく話すんですよ。
4Gamer:
ああ,据え置きゲーム機を「恐竜(は虫類)」とするならば,ニンテンドーDSやプレイステーション・ポータブルは「鳥類」,オンラインサービスやTCGは「ほ乳類」なんだという話ですか?
木谷氏:
そう。進化の過程でいえば,むしろTCGの方が上なんだと(笑)。
4Gamer:
そういえば,御社のビジネススタイルを見ていると,営業で全国のカードショップを回ったり,各店舗の大会のサポートや特典の配布のような,カードショップを優遇する施策を重視するなど,なんといいますか,かなり“地に足が付いた”やり方ですよね。
近年,ネットを含めた新しいメディアが出てきたりして,「もっと効率的にプロモーションしましょう」みたいな流れがある中で,御社のやり方は,時代の流行(?)に逆らって非効率的にさえ見えるといいますか。
木谷氏:
そうですね。これはTCGビジネスだからこそ成り立つやり方なんですよ。客単価が高いTCGだからこそ,数人,数十人のために会社のリソースを使うことができる。結果として,お客さんにも満足していただける。
またTCGというのは,お客さんに気に入ってもらえれば,かなり長い期間遊んで頂けるコンテンツなので,長い目で見れば,そうした高コストなサポート体制でも十分賄えるんですよね。
4Gamer:
店舗を使ったイベントにしても,いわゆるゲームの店頭体験会などと比べると,御社を含めたTCGのイベントというのは,やっぱりかなり毛並みが違うなという印象があります。
木谷氏:
ゲームや映画のプロモーションというのは,発売日や公開日……つまりは「点」に対してのプロモーションなんです。だから,プロモーションコストという観点からすると,非常に効率が良くない。一方,TCGのプロモーションっていうのは,そのタイトルをずっと盛り上げていく,いわば「線」のプロモーションなんです。おそらくは,そういう部分の差が現れているのだと思いますよ。
4Gamer:
その辺は,オンラインゲームのビジネスモデルなどに近いものがありますね。どちらかといえば,カードの販売流通というよりは,サービス業に近いという捉え方でいいのでしょうか。
木谷氏:
ええ。近いと思いますね。追加カードの販売なども,広義ではサービスに含まれる……オンラインゲームで言うところのアップデートに感覚が近いといいますか。
私はこれからの時代は,そうしたじっくりと育て上げるようなビジネスモデルというか,そういうものの方が生き延びられるんじゃないかと感じているんですよね。開発費や広告費をドカーンと使って,当たるか当たらないか分からないというようなスタイルは,これからの時代は厳しいのではないかと。もちろん,超大作みたいなブランド力のある作品ならそれでも通用するのでしょうが,そうじゃないところはやり方を変える必要があると思います。
4Gamer:
話をまとめると,初期投資の少なさなどを含めた小回りの良さ,そして「点」ではなく「線」のビジネスであることが,今の時代にマッチしている理由ということですか?
木谷氏:
そうですね。
まぁただ,例えば,大きなティラノサウルスみたいな恐竜と,その辺を這いずり回っているネズミを並べて見せて,「どっちが進化の課程で上だと思いますか?」って聞いたら,やっぱり「恐竜だ」って言う人は多いと思うんですよね。だって,そっちの方が大きくて強そうですから。
ゲームにしても,最新のゲーム機などの凄い映像の作品と紙で出来たカードゲームを比べたら,最新のゲーム機の作品の方が「上」だと感じてしまうのが自然だとは思います。でも,私はそうじゃないと思うんですよね。
4Gamer:
“進化”というキーワードで考えてみれば,進化って一直線に変化していくものではなくて,“多様性”という部分も大きなポイントですよね。そうした観点で考えると,木谷さんの仰ることはとてもよく分かります。
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