インタビュー
オンラインゲームにも通じる? トレーディングカードゲームビジネスの今。木谷氏に聞く,コンテンツビジネス最前線
TCGビジネスは,インフラビジネスである
先ほどTCGのビジネスモデルについてお話がありましたけど,TCGのビジネスモデルというか,例えば開発にかかるコストやその工程ってどんなものなのでしょうか?
木谷氏:
開発期間でいえば,そうですね……企画段階から実際にカードが店頭で売られるまでの期間は,だいたい10か月前後でしょうか。ただこれは,私が決裁権やら何やらを一手に握っていて,細かい調整や説得が必要ないという部分もありますので,他社さんですと,もう少し長い時間が掛かるかもしれません。
4Gamer:
開発体制(人数)やコストはどうでしょう?
木谷氏:
弊社では,遊宝洞などを始めとしたカードゲーム専門のデベロッパに開発をお願いしているのですが,大抵の場合は,プロデューサーとメインのデザイナー,その周りに中核となるスタッフが数人付くという形でしょうか。ゲームのコア部分に関しては,彼らが中心になって制作をして,そのほかに10〜20人前後のテストプレイヤーが,バランスやルール的な破綻がないかのチェックを行うというスタイルが多いと思います。
開発費に関しては,詳しい数値まではお話できませんが,コンピュータゲームに比べれば大分低コストなのではないでしょうか。
4Gamer:
なるほど。
木谷氏:
ただTCGビジネスって,リリースまでの開発自体は,いわゆる初期投資でしかないんですね。ビジネスとしての核は,むしろその後の“運営”にあるんです。カードを売ってオシマイというものではありません。
4Gamer:
運営というと?
木谷氏:
私が言うのも変な話ですが,TCGのカードって,言ってしまえばタダの紙切れでしかないわけですよね。それをただの紙切れではなく,“価値のあるもの”としてお客さんに捉えて頂くには,いろいろな要素/環境が必要になるんですよ。
4Gamer:
それは具体的に言うとどんなものでしょう?
木谷氏:
例えば,そのTCGを遊べる“場”がちゃんとあることや,今後もそのTCGが続いていくという“保証”などですね。というのも,お客さんがお金を払うときというのは,“その投資でどれだけ楽しめそうか”という部分がキーになるんです。
すぐに廃れてしまいそうなTCGだったら,そのカードを揃えようとは思いませんよね。カードを買っても損をしない,カードを持っていればずっと楽しめそうだと思うからこそ,お客さんはカードに対してお金を払うわけです。
4Gamer:
分かります。
木谷氏:
簡単に言ってしまえば,そのゲームが盛り上がっている/これから盛り上がりそうという雰囲気だとか,そういうものがあるかどうかなんですが,これは放っておけば勝手に出来上がるといったものではないんです。常にゲームが遊べる環境にしても,それにはカードショップのような場所(テーブル)が必要ですし,そこに居つくプレイヤーさんもいないといけません。
またプレイヤーの数を維持する/増やすには,丁寧にルールを教えてくれる店員さんの存在などがとても大切です。TCGビジネスとは,そうした“環境”を作り上げて維持していく,いわゆる“インフラビジネス”なんですよね。
4Gamer:
なるほど。
木谷氏:
TCGビジネスって,儲かっているタイトルを挙げて「まるでお札を刷ってるみたいだ」なんて言う人もいますけれど,それは環境の維持に掛かるコストを知らないからそう見えるだけで,実際には,開発やカードの印刷代などよりも,運営に大きな労力を割いているビジネスなんです。
例えば,弊社のヴァイスシュヴァルツにしても,現時点では月間約1800回もの大会が開かれているのですが,そうした状況こそが,プレイヤーさんが楽しむため,ひいてはTCGが売れるために必要な要素なんですよ。そこを軽視すると,TCGビジネスというのは絶対に成り立たない。
4Gamer:
しかし,そういうプレイヤーさんがいて大会やイベントが頻繁にあって,その盛り上がりを見て新規の参加者が増えて……という「良いサイクル」に乗せるのって,もの凄く難しいことですよね。多くのタイトルやビジネスが,木谷さんの言うところの環境を作りきることができずに撤退していく。
木谷氏:
TCGビジネスに必要なノウハウというのはいくつかあって,その一つに「立ち上げノウハウ」というものもあります。私は,ウン億円規模の市場を作ったTCGを立ち上げた数なら,おそらくは世界一なんじゃないかと自負しているんですが,これまでの経験からしても,立ち上げに失敗したTCGが後で盛り返したことはただの一度もありません。
4Gamer:
プレイヤーが少ないゲームだと,そもそもやってみようという気になりませんからね。
木谷氏:
あと,他のノウハウも列挙すると,「開発ノウハウ」「運営ノウハウ」「営業ノウハウ」などがあるのですが,このあたりは,私が数々の失敗と成功を重ねて培ってきた強みですし,自信を持っている部分ですね。
「将来的にはオンラインを軸の一つに」カオス オンラインが目指すもの
4Gamer:
ちょっと話は変わりますけど,先日「カオス オンライン」を発表(※)されましたよね。
※本日(6月1日)の12時からクローズドβテストが開始
クローズドβテストの応募数も,おかげさまでこちらの期待を上回る数を頂いております。
4Gamer:
ブシロードさんの本業は,やはりアナログのTCGから外れはしないと思うのですが,御社がオンラインゲームに取り組む意図はどういったあたりなのでしょうか。
黒川氏:
先ほど木谷が「TCGとは,インフラビジネス」というお話をしておりましたが,オンラインサービスも,TCGを楽しむうえでのインフラになり得る,お客さんによりよい環境をご提示できるサービスだと考えて,オンラインゲーム化という方向を企画しました。
木谷氏:
オンラインゲームもまだまだ歴史が浅い分野ですよね。なので,TCGと同様にまだまだビジネスチャンスがあるんじゃないか,という思惑もあります。
4Gamer:
TCGを楽しむうえでのインフラというのは,いわゆる御社のファンが集う「コミュニケーションツールとしてのオンラインサービス」という意味ですか?
黒川氏:
端的に言うとそういうことですね。紙のTCGでは,実際に顔を付き合わせたアナログなコミュニケーションが主にはなるのですが,例えばオンライン上にSNSのようなサービスがあって,そこで情報交換が出来たりすることは,とても便利だと思うんですよね。
木谷氏:
分からないことがあってもそこで教えてもらえたり,あるいはまだそのTCGを遊んでない人が,とりあえずオンライン上で体験プレイができるだけでも,結構大きな意味があるんじゃないかなと。お客さんに対する間口をできるだけ広くしてあげたいんです。
4Gamer:
まぁ正直TCGって,最初に参加するまでの敷居がちょっと高いですよね。難しそうみたいなイメージもありますし。
黒川氏:
そうですね。だから,オンライン上で遊べる場を用意することで,そうしたお客さんを引き込めるといいですね。
4Gamer:
ゲームのルール自体は,アナログ版もオンライン版も同じものになるんですか?
黒川氏:
基本的にはその予定ですが,オンラインならではの要素も付加します。また,若干オンライン専用のカードだとか,そういうものを追加したりするかもしれません。
4Gamer:
アナログなTCGとの連携などは予定されているのですか? カードにアイテムがもらえるコードが書いてあるとか……。
黒川氏:
もちろん,そういうプロモーションも考えています。アナログのTCGを展開しているのは,やはり弊社の強みですし,オンラインはオンラインだけで完結せずに,できるだけ相互に連携しあう形が望ましいと考えています。
実を言うと,オンラインサービスに関しては,今後重視していきたい要素の一つなんです。TCGと同様に線のビジネスだということもありますし,TCGと相性が良いと思うんですよね。カオス オンラインは,ブシロードとしてはまったく新しい取り組みにはなりますが,なんとか形にして,将来にもつなげていきたいと考えています。
4Gamer:
将来的には,オンラインサービスと一体化した新しいTCGなんかも考えているという意味ですか?
木谷氏:
流石にまだ詳しいことは言えないですけど,そういうものも考えていますということで(笑)。最終的には,世界で通用するブランドを作っていきたいですね。
4Gamer:
それは楽しみですね。今後のご活躍を期待しております。
本日はありがとうございました。
コンテンツビジネス界の著名人である木谷氏に,TCGビジネスとはなんぞや? を一から聞いてみた今回のインタビュー。TCG市場に関してはもちろん,それ以外にもいろいろと示唆深い内容が多かったわけだが,とりわけ興味深かったのは,やはり「アナログなTCGこそが,今の時代に合っている」というくだりだろうか。
考えてみれば,ゲーム業界にしても,近年爆発的なヒットとなったニンテンドーDSやモンスターハンターは,“アナログ的な広がり”を非常に上手く利用した商品である。もちろん,ネット上などでそれらの話題がなかったわけではないと思うが,とくに低年齢向けの商品に関しては,まだまだネットメディアなどの影響力が低いのは確か。家で,学校で,職場で,あるいは電車の中などで,“日々の生活のなかでふと目にする”広がりというのは,ある種の普遍的な要素なのだろう。
業界では切れ者としても知られる木谷氏だが,あらゆる質問について即座に持論を展開できるというのは,氏が真剣にコンテンツ業界について考え,そのうえでビジネスに取り組んでいるという一つの証明ではあるだろうし,長年の経験に裏打ちされた氏の理論は,非常に分かりやすく,また納得のいくものであった。
「TCGは,まだ一つのジャンルでしかないんですよね。これを“業界”にしたいんです」と語る木谷氏。新たな挑戦となるカオス オンライン共々,今後の活躍に期待したい。
(2009年4月28日 収録)
「カオス オンライン」公式サイト
「ブシロード」公式サイト
「アリス×クロス」緋色の欠片のカードイラスト |
「アリス×クロス」咎狗の血のカードイラスト |
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