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マインドウェア 市川幹人氏にインタビュー。「地底最大の作戦」「スペースマウス」といったマイコンゲームの傑作を相次いでリメイクする理由とは
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印刷2016/12/28 01:10

インタビュー

マインドウェア 市川幹人氏にインタビュー。「地底最大の作戦」「スペースマウス」といったマイコンゲームの傑作を相次いでリメイクする理由とは

画像集 No.016のサムネイル画像 / マインドウェア 市川幹人氏にインタビュー。「地底最大の作戦」「スペースマウス」といったマイコンゲームの傑作を相次いでリメイクする理由とは
 1980年代後半のX68000やメガドライブ時代からゲーム開発を手がけているマインドウェア(旧 MNM Software)が,どうも最近になって何だか変わったプロジェクトを進めている。Windows版「宇宙最大の地底最大の作戦」を皮切りに,1980年代前半のマイコンゲーム時代に一世を風靡した名作を次々にリメイクし,世に送り始めているのだ。

 マインドウェアはなぜこのような取り組みを始めたのだろうか。同社を率いる市川幹人氏の歴史を紐解きながら,その理由をじっくりと尋ねてみた。

「マインドウェア」公式サイト


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 まずは市川さんの生い立ちから教えてください。子供の頃からパソコン少年だったそうですね。

マインドウェア 代表取締役 市川幹人氏
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市川幹人氏(以下,市川氏):
 ええ,小・中学生の頃は工学社の「I/O」や「PiO」といったパソコン雑誌にゲームプログラムを投稿していました。独学で技術を身につけて,高校時代には日本ファルコムや電波新聞社でゲームプログラムのアルバイトをしながら,高校2年生(1987年)のときにMNM Softwareを立ち上げたんです。当時は未成年だったので会社として登記できなくて,屋号として使っていたんですよ。
 最初に契約してもらったのは,アメリカの老舗ゲーム会社の日本法人ブローダーバンドジャパンと,シューティングゲームメーカーの東亜プランでした。

 東亜プランには「『究極タイガー』をメガドライブに移植させてください」とお願いしたんですが,すでにライセンスアウトした後だったので,その代わりに「スラップファイト」の移植を任せてもらいました。
 半年で完成させるはずが,4年かかっちゃいましたが,完全オリジナルのスペシャルモードを追加して,古代祐三さんに音楽を手がけてもらって……と贅沢な作りになりました。
 同時期にパソコンソフトの自動販売機「TAKERU」販売用のゲームを作ったり,ビクターさんから発売になったX68000用「スターウォーズ アタック・オン・ザ・デス・スター」という3Dシューティングゲームを作ったりと,とにかくたくさん手がけていましたね。

MNM Software時代はX68000用ゲームの開発を手がけていた。その一部がこちら。「スターモービル」(左上)は天秤のバランスを取るパズルゲーム。「スライス」(右上)は落ち物アクションパズルで,音楽は古代祐三氏。「マジカルショット」(左下)は3Dビリヤードゲーム。「スターウォーズ アタック・オン・ザ・デス・スター」(右下)はジョージ・ルーカス氏に直接実機でプレゼンを行い許諾を得た,伝説の3Dシューティングゲーム
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4Gamer:
 10代の頃からゴリゴリにゲーム開発をされていたんですね。

市川氏:
 20歳になるとセガさん(現 セガゲームス)が契約してくれたので,アートディンクさんの「A列車で行こう」をメガドライブへの移植をやらせてほしいとお願いして,「A列車で行こうMD」をMNM Softwareで開発しました。

 ここまでは比較的順調だったんですが……。1992年に体調を崩して入院することになったんです。医者に「家族を呼んでほしい」と言われて,何かと思えば「膠原病(こうげんびょう)です。余命は1年半」と宣告されました。それで会社を閉じることにしたんです。

4Gamer:
 21歳のときですね。

市川氏:
 いろいろな治療を試しましたけど,一番効果があったのは断食でした。体重が50キロになったら断食することを2年以上繰り返して,膠原病を治すことができたんです。
 復帰するときに,マインドウェアと社名を変更をしました。それが1995年のことですね。

4Gamer:
 マインドウェアとして,最初にリリースしたゲームというと?

市川氏:
 1981年にセガからリリースされたアーケード版「ジャンプバグ」を,NECのPC-9801に移植したのが復帰1作目です。Windows 95がリリースされた時期だったこともあって,受注本数はかなり厳しかったんですが,発売から数日後には初回出荷の倍以上の注文が入って,ホッとしましたね。
 その後,「Mr.Do!」「ボンジャック」とレトロアーケードゲームの移植を手がけましたが,どれも高い評価をいただきました。
 
PC-9801用「ジャンプバグ」。横スクロール型アクションシューティング
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PC-9801用「Mr.Do!」。面クリア型アクションゲーム
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Windows版「ボンジャック」。面クリア型アクションゲーム
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4Gamer:
 1995年の時点で,すでにレトロゲームに分類されるタイトルばかりですね。どういう基準で選んだのでしょうか。

市川氏:
 僕が復帰した1995年というのは,PlayStation(初代)やセガサターンが登場した翌年で,ゲーム業界全体に勢いがありました。でも,僕らが今からここに食い込んでいくには,正攻法では太刀打ちできないと思ったんです。
 それで,縦画面に特化したものをやっていこうと。「ジャンプバグ」「Mr.Do!」「ボンジャック」は,いずれもアーケード筐体ではモニタを縦置きにしたゲームでした。
 そうして縦画面のゲームを研究していくうちに,「ピンボールはまさに縦画面向きのゲームだ!」ということで,PC用ピンボールゲームを作るためにピンボールそのものを研究することにしたんです。

マインドウェアにはピンボール台が置いてある
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 あちこちのお店でピンボールをプレイしていると,メンテナンスがきちんと行われていない筐体が多いんですよ。メンテ不足で遊べないこともあったので,「パーツ代もメンテ代もこっちが持つから修理させてほしい」と交渉して,僕らが直したこともあります。
 そうするうちに評判が広まってしまい,「ウチのも直してほしい」なんて相談が来るようになりまして(笑)。正式にピンボールのメンテナンス業務を仕事として請け負うことになったんです。
 当時,事務所には40台近くのピンボール台が並び,研究のために遊んでいたら大家に怒られてしまいました(苦笑)。そこで,修理した筐体を店舗にリースする事業も始めました。

4Gamer:
 どんどんピンボール業務が拡大していきますね。当初はピンボールのPC用ゲームを作るためだったはずなのに。

市川氏:
 1997年から2006年くらいまではビデオゲームの仕事をほとんどやらず,ひらすらピンボール業務でした。最終的にはアメリカのピンボールメーカー,ウィリアムスと取引するようになり,ピンボールの開発を行うようになりました。


Wii用ダウンロードゲームで再びゲーム開発へ


4Gamer:
 その時期は完全にピンボールメーカーだったんですね。

市川氏:
 もちろん,「ピンボールのPC用ゲームを作りたい」という気持ちでスタートしていたので,そちらも進めていました。ただ,PCでいきなり作るのではなく,まずは実機を作ってゲーム性を確かめたうえで,そこからビデオゲームに落とし込むという方法を取りました。実機をゲームセンターに置いてもらって,ずっとテストを繰り返したんですよ。
 ところが,ここで会社の資金が危うくなりました。「どうにかしないと!」というときに,任天堂さんと組んでコンシューマゲームを発売できることになったんです。

Wiiウェア用「カタチのゲーム まるぼうしかく」。お互いに影響し合う3つのウインドウで,別々にゲームが進行する
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4Gamer:
 2008年にリリースしたWiiウェア用ソフト「カタチのゲーム まるぼうしかく」ですね。

市川氏:
 ゲームの企画ができたときから,ずっと発売元を探していたんです。かなり特殊なゲームだったので,自社でリリースしても埋もれてしまうだろうなと。それなら「任天堂さんから発売してもらうのが,一番じゃないか」と,大代表に電話して売り込むことにしたんです。
 担当の方に代わってもらって,電話で猛烈にアピールした結果,「会って話しましょう」ということになったんですが,部署とお名前を尋ねたら,「名刺には代表取締役と書いてあります」と。もう,「えーーーっ!」って(笑)。

4Gamer:
 当時,任天堂の社長だった岩田 聡さんですか!

市川氏:
 驚きますよね。岩田さんはX68000版「スターウォーズ アタック・オン・ザ・デス・スター」を発売当時に並んで買ってくれたそうで,そういう縁もあってか,「まるぼうしかく」は岩田さん直下のプロジェクトになったんです。
 その後,「まるぼうしかく」からシングルカットするような形で,DSiウェア用「燃やすパズル フレイムテイル」を2010年にリリースしています。

4Gamer:
 そうなると,今度はピンボール業務は?

市川氏:
 リースやメンテは継続していましたが,ピンボールのPC用ゲームは一旦休止です。
 これを機に,再びビデオゲーム業界へと本格復帰となりまして,2011年にXbox 360版「チェインクラッシャー」,2012年に超ワイド画面(3200×800ドット)のWindows版「Super Chain Crusher Horizon」を配信しました。

Windows版「Super Chain Crusher Horizon 」。とにかく横に長いシューティングゲーム
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4Gamer:
 2015年8月にはスマホ向けゲーム「燃えろ!!プロ野球 ホームラン競争SP」iOS/Android)をリリースしていますね。

スマホ版「燃えろ!!プロ野球 ホームラン競争SP」。ひたすらホームラン数や飛距離を競い合う
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市川氏:
 受託でスマホ向けゲームもいくつか経験して,そろそろ自社で何か作ろうというときに,高田馬場のミカド(レトロゲームが充実しているゲームセンター)に立ち寄ったら「燃えろ!!プロ野球 ホームラン競争」が大流行していたんです。ファミコン版「燃えろ!!プロ野球」のアーケード版で1988年にリリースされたものですが,ホームランを打つことだけに特化しているんですよ。最初の1球を空振りしたら,そこでゲームオーバーになるという(笑)。

 「これだ!」と思ったので,権利元と相談してスマホ向けにアレンジすることにしました。リチャード・ランスさん(元広島),ラルフ・ブライアントさん(元中日,近鉄)ら往年の有名選手が登場するイベントを定期的に開催しています。こうした選手の出演交渉はホームページやSNSで直接メッセージを送って許諾を得ました。

4Gamer:
 なぜかプロレスラーも多数登場していますね。

市川氏:
 どうせなら驚きがあったほうがいいだろう,と思いまして。女子プロレス団体のアイスリボンさんと提携したり,キラー・カーンさんやブル中野さんらレジェンドの皆さんにも登場していただいています。

4Gamer:
 2016年になってからは,1980年代前半のマイコンゲーム「地底最大の作戦」と「スペースマウス」のWindows移植版を立て続けにリリースしています。こちらはどのような経緯があったのでしょうか。

市川氏:
 特別な理由や狙いがあった,というわけではないんです。
 「地底最大の作戦」は1980年に「I/O」に掲載されて,いろいろな機種に移植されたレジェンド級のゲームですが,実は遊んだことがなかったんです。
 「どうにかして遊ぶ術はないものか」と思っていたら,ニンテンドー3DS用プログラミングソフト「プチコン」向けにユーザーが移植していたものがありました。さっそくダウンロードしてみたら,確かに面白い。面白いんですが,「僕なら,もっとこうするのに……」とアレンジを始めたんです。「プチコン」なのでプログラムソースもあり,改造は簡単でした。

 これがいい感じに仕上がってきたので,今度はWindowsでプログラムを組み始めました。ここまでくるとちゃんと公開したくなったので,原作者の有田隆也さんにメールをお送りしたんです。30分後には許諾していただける旨の返信がありまして,そこから本格的に作り込みましたね。
 当時のままの画面モードだけでなく,レトロゲーム機風の画面になるモードも追加することにしました。

Windows版「宇宙最大の地底最大の作戦」。穴掘りゲームとしては,「ディグダグ」以前に誕生していた
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4Gamer:
 まさにリメイクですね。

市川氏:
 音楽は古代祐三さんにお願いしています。「ジャンプバグ」から始まる,マインドウェアが移植・開発を手がけるビデオゲームクラシックスシリーズは,その音楽のほとんどが古代さんの手によるものです。なので,今回もこれは外せないなと。
 グラフィックスは元ナムコの小野 浩さんに,ドットを起こしていただきました。「ディグダグ」のドットを描いた方が,「ディグダグ」以前に生まれた穴掘りゲームのキャラクターグラフィックスを担当するなんて,ものすごくロマンがありますよね!

 実は別のゲームの打ち合わせをしていたときに,開発中のバージョンをお見せしたら,すごく気に入ってもらえて,お願いできることになったんです。
 こんな風にかなりスケールアップしたので,タイトルを「宇宙最大の地底最大の作戦」とあらためさせていただきました。

「BEEP秋葉原店」にて,「宇宙最大の地底最大の作戦」と「スペースマウス」のパッケージ版が発売中。実際のカセットテープのケースにダウンロードキーが同梱されている
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 もう1本の「スペースマウス」は1981年にオリジナル版が発表されましたが,2012年にとある会合で作者の芸夢狂人さんとお会いする機会に恵まれたんです。開業医をされていたそうで,私が以前病気で倒れていたときの話をしたら,すごく盛り上がってしまって。その勢いでゲームの移植をお願いしたら,快諾していただきました。
 ただ,こういったタイトルの場合,タイミングが重要だと思いましたので,どうせなら35周年のタイミング(2016年)に発売しようじゃないかと。
 「スペースマウス」のほうも,当時のマイコン画面モードやアレンジモードを加えたものになっています。

Windows版「スペースマウス」。ただひたすら敵にぶつからないようにして,上へ上へと登っていくゲーム
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4Gamer:
 “超レトロゲーム”を移植していく取り組みは,今後も続けていくのでしょうか。

市川氏:
 当時,一世を風靡したけど,今となってはあまり知られていないゲーム。こういうのが1980年から1984年頃までのマイコンゲームには多いんです。
 まともなグラフィックス処理がほとんどできず,文字を組み合わせてゲーム画面を作っていたような時代です。アイデア勝負のものが多く,1人のプログラマーが全部を作っているので,作家性がすごく強い。当時に遊んだことがない人にも,ぜひこの個性を感じてほしいと思っています

4Gamer:
 それは楽しみです。

市川氏:
 次回作も決まっています。1981年に発表された「バグファイアー」というゲームなのですが,当時はほとんどの機種に移植されたものの,それ以降はまったくリメイクされなかったので,埋もれてしまった傑作です。近々,正式に発表しますので,楽しみにお待ちください。
 それから,芸夢狂人さんのタイトルはすべて移植の許諾をいただいています。日本で最初のスターゲームクリエイターの作品ですから,可能なかぎり移植していくつもりです。

4Gamer:
 1年に3〜4本のペースでリリースしていくイメージですか。

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市川氏:
 うーん,もっと早いペースになるかもしれません。つねづね感じていることですが,プロだったら練習すると思うんですよ。プロ野球選手だって,プロレスラーだって,練習するじゃないですか。プログラマーやデザイナーも,練習すべきだと思っているんです。
 だから,私は家に帰ってからもずっとプログラムを組みつつ,新しいゲームを作り続けています。逆にこれができなくなったら,プロを引退しようと思っているくらいです。つねに100個くらいは,何かのプログラムを組んでいる状態です。

 その中には「地底最大の作戦」や「スペースマウス」のように過去の名作を移植したり,自分なりに改良して組んだりしているものがたくさんあります。それが本当に面白いものになったら,随時発表していきたいですね。もちろん,権利まわりがクリアになったらの話ですが。
 それから,ずっと暖めていたPC用ピンボールゲーム「Pinball PARLOR」を12月24日にリリースします(※インタビュー収録日はリリース前)。実機は,ゲームセンターですごく人気のあった台だったんですよ。バリー社の「シアター・オブ・マジック」を始めとする,数々のピンボール台のデザインを手がけたジョン・ポパデュークさんにも協力していただいているので,ピンボールファンの方にはたまらない1本だと思います。

PC用「Pinball PARLOR」。実機プロトタイプも制作されており,ロケテストでは多数のピンボール好きが遊び込んだという
画像集 No.015のサムネイル画像 / マインドウェア 市川幹人氏にインタビュー。「地底最大の作戦」「スペースマウス」といったマイコンゲームの傑作を相次いでリメイクする理由とは
 
4Gamer:
 ピンボールもレトロゲームの移植シリーズも,今後の展開が楽しみです。

市川氏:
 ビデオゲームクラシックスシリーズについては,ベタ移植モードはもちろんですが,アレンジを施したオリジナルモードにも注目してほしいですね。「ちょっとした工夫で,こんなにもプレイ感覚が変わるんだよ」というところを,いろいろな人に体験してもらいたい。懐かしいだけではなくて,新作としても面白いものを目指していきます。

4Gamer:
 どうもありがとうございました。

マインドウェア 公式サイト

  • 関連タイトル:

    宇宙最大の地底最大の作戦(COSMIC CAVERN 3671)

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