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「レイジングループ」のamphibian氏と「パラノマサイト」の石山貴也氏によるトークショーをレポート。両タイトル開発時の裏話などが明らかに
このイベントは,ケムコの人狼×和風伝奇ホラーADV「レイジングループ」(PC / PS5 / Xbox Series X|S / Switch / PS4 / Xbox One / PS Vita / iOS / Android)発売9周年を記念したポップアップストア「謎解きレイジングループストア in 能里グランドホテル」内で行われたものだ。
会場では,「レイジングループ」のシナリオライター/ディレクターを務めたamphibian氏と,「パラノマサイト FILE23 本所七不思議」(PC / Switch / iOS / Android)のシナリオライター/ディレクターであるスクウェア・エニックスの石山貴也氏が,開発時のエピソードやクリエイターとしてのアプローチなどを語り合った。
なお,トークショーの内容には「レイジングループ」のネタバレが含まれるので,未プレイの人は注意してほしい。
本イベントの冒頭では,石山氏が「レイジングループ」およびamphibian氏の大ファンであり,控え室にて「レイジングループ&デスマッチラブコメ! ケムコアドベンチャーパック」のパッケージにサインしてもらったことを報告。本トークショーに向けても,公式サイトに掲載されている裏話や「レイジングループ完全読本」を読むなど,かなり熱心に予習してきたことを明かした。
トークは,そんな石山氏とamphibian氏が互いに質問し合う形式で進められた。
石山氏の最初の質問は,「レイジングループ」を作り始めたときに抱いていた完成図と,実際にできあがったものとのギャップがあったかというもの。
これにamphibian氏は,「そこまで離れていない」と答えた。というのも同タイトルは,「人狼ゲームをノベライズする」というアイデアに対し,amphibian氏が「和風ホラー」と「ループ」という要素で肉付けしていったものであり,とくに各ループで何が起きるかについては,ほぼ最初に決めたとおりに開発が進んだからとのこと。
一方で,キャラクターに関してはシナリオを書いてみて,読んだ人に愛される人物像にしようと思い,造型していったという。ゲームの最終局面では,キャラクターたちと対話しながら描いていったと,amphibian氏は話していた。
そうした中で最初の想定と変わったキャラクターとして,芹沢千枝実の名前が挙がった。そもそもamphibian氏は,主人公の房石陽明と,振られた彼女との元サヤエンドを考えていたという。
しかしスタッフの強固な反発を受けて千枝実と陽明の恋愛を描くことになった。このエンドはBGMを含めてかなりシリアスな仕上がりとなったため,自身で見ると,今もなお悶絶するそうだ。
また当時のamphibian氏は,「自分の欲望が透けてしまう」といった理由でシリアスな恋愛シーンは避けていたそうだが,周囲はそれをやめさせようとしていたのではないかと語り,「自分1人では描ききれなかった部分」と振り返った。
続いて「レイジングループ」がマスターアップしたときに,それまで手がけてきたタイトルと違う手応えを感じたかという質問に対して,amphibian氏は「それはなかった」と回答した。
amphibian氏はタイトルがリリースされると,描ききれなかった部分や実現できなかった部分のことばかり考えてしまい,自分自身で評価を下げてしまいがちだからだという。ただ,リリース前のQA(品質保証)スタッフからの評価は上々だったそうだ。
ちなみに「デスマッチラブコメ!」のときは,皆半笑いだったことも明かされた。
そしてリリース後の反響は,それまでのタイトルとは大きく違った。そもそもスマートフォン向けの買い切りタイトルだとジワ売れすることはあっても,いきなり大きく売れるケースはそうそうないという。
しかし,「レイジングループ」はリリース直後から大量の高評価が付き,「これはいいゲームだったのでは」と思ったとamphibian氏は語った。また,シナリオライターとしていろいろ教えてもらった,信頼できる友人から「ダントツで面白かった」と評価されたことにも自信を持ったそうだ。
加えて,シナリオライターの奈須きのこ氏を筆頭に,多くのクリエイターが同タイトルを評価し,周囲に広めてもらったことに感謝の意を示していた。
ここでamphibian氏から石山氏に対して,RPGのイメージが強いスクウェア・エニックスから,なぜアドベンチャーゲームを出そうと思ったのかという質問が投げかけれられた。
石山氏は,同社がいろんなチャレンジのできる環境であることを指摘し,自分で新しく企画を立ち上げるにあたって,自身がベストなパフォーマンスを出せて,かつ期間的にも予算的にも作りきれるものとして提案したと説明した。とくにアドベンチャーゲームは,低予算でもしっかりしたものが作れるところが大きかったという。
amphibian氏が「パラノマサイト」における360°カメラ移動や,探索パートと物語とのバランス,奥行きを感じさせる立ち絵の見せ方といった工夫について言及すると,石山氏は自身が手がけた「探偵・癸生川凌介事件譚」シリーズなどで培ったノウハウを応用したものであると説明する。
「たいしたことはしていなくて,自分の経験から『こうすればできる』という目論見があった」と話していた。
「パラノマサイト」にはボイスが入っていないが,石山氏によると開発当初はやはり議論があったとのこと。必要ないと思う人はオフにすればいいだけだし,ボイスがあるに越したことはないのだが,予算面,そしてボイス収録後にセリフを書き換えられない,テキストの締切が早まるという理由から見送る判断をしたそうだ。
またボイスがないからこそ成立するトリックや演出,テキストの内容などがあることにも言及された。
仮に「パラノマサイト」がリマスターされてボイス入りになるとしたら,書き直しが必要になるくらいボイスのあるテキストとボイスなしのテキストは違うと石山氏は話す。
例を挙げると,感情は声で表現できるため,ボイスが入る場合はテキストに盛り込む必要がなくなる。逆にボイスがない場合は,たとえば狼狽した様子を表現しようとすると「な,何っ!?」といったように,テキストで感情を表現する必要があるのだ。
話題は,ボイス収録時の指示出しにもおよんだ。「レイジングループ」のボイス収録はリモートで行われ,その場での指示出しができなかったため,amphibian氏によると取り直しにかなりの労力を割くことになったという。とくに同タイトルはセリフが多いため,声優陣にも大きな負担をかけることとなったそうだ。
石山氏の次の質問は,シナリオを書く前のプロットをどこまで作り込むかというもの。
amphibian氏は「プロットは基本的にシーンで分割し,ここで何をやるかを決めるくらい」と回答した。ただこの方法は,「たとえば『事情をすべて話す』と書いてても,それを実現するための方法を記載していないので,あとから苦労する」とのこと。
石山氏もそのスタンスに「よかった,仲間がいた!」と同意する。石山氏は実際に話の中でキャラクターを動かしてみて,何とか話を作り出していくそうで,「スリルのある作業」と語っていた。
またamphibian氏が漫画家・和月伸宏氏の「辻褄合わせの能力をフル回転させる」という言葉を挙げた。石山氏も「シナリオライターの一番の仕事は辻褄合わせ」という先達の言葉を引用し,登場人物や舞台が決まっていて,納期もあるといった限られた状況の中できちんと辻褄を合わせられるのが優れたシナリオライターだと説明を加えた。
amphibian氏自身は,シナリオ全体における役割やスピード感,勢いなどを重視して今のスタイルを採用しているそうだが,もっとしっかりプロットを作ったほうがいいのではないかと常に考えているという。
とくにamphibian氏の場合は,展開が冗長になりがちなので,作ったプロットをもとに「これを半分で終わらせられないだろうか」と考えるくらいのほうがシナリオにライブ感が出るとのこと。「構想が広がって,やりたいことをプロットに詰め込むけれども,それをどんどん削って面白いところだけ残していくほうがいいものになる」と語った。
一方で,プロットを読んだだけで面白い物語かどうか判断できる人はほとんどいないと感じていることをamphibian氏は明かす。石山氏も「プロットで表現できる面白さは,つながりや流れの部分にしか出てこない。物語の本質的な面白さは,表現の部分にある」と同意していた。
さらにamphibian氏は「プロットは設計図であり,理屈が破綻していないか,作りきれるかなどをきちんと考えているかどうかを確認するためのもの。『自分ならこのプロットで面白いものが書ける』といったように,作家的な能力がある人でないとプロットは読めない」と話す。
石山氏が「プロットが面白くても,完成したシナリオが面白くないことはいくらでもある。逆にプロットがダメでも,シナリオがよければどうにか見られるものになる」と持論を語る。amphibian氏も「プロットは自分向けの資料やプロットに2か月かけるより,1か月で終わらせて,少しでも早くシナリオに取りかかったほうが喜ばれる」と話していた。
シナリオライティングをどのように学んだのかという話題に移ると,amphibian氏は大学時代に文芸サークルで勉強会などに参加していたことを明かした。そのとき身に付けた,劇的なシーンの作り方などは今でも意識して活用しているという。
ただ,現在のスタイルに至ったのは,自身がこれまでやってきた中で培った結論であり,最終的には独学であると話す,石山氏も「できあがったものの良し悪しでジャッジされる世界なので,正解はない。他人が同じやり方をしても,絶対うまくいくとは限らない」と語っていた。
amphibian氏から石山氏に対する次の質問は,自身の強みをどう分析しているかというもの。
石山氏は「長年アドベンチャーゲームを作ってきた中で,自分がいいと思って世に送り出したものが,実際に世間でどう評価されているかをずっとすり合わせている」と述べる。そして「その経験から,自分がいいと思ったものはやはり評判がいいし,いまいちだと思ったものはやはりいまいちという判断ができるようになったことが強み」と回答した。
とくに運営型ゲームである「スクールガールストライカーズ」にて毎月3回イベントシナリオを手がけ,短いサイクルで逐一プレイヤーの反響とすり合わせて感覚を磨いたことが大きかったという。
また石山氏は,自身が手がけたゲームが大好きで,自分のシナリオを読んで泣くこともあるそうだ。そのため「まず自分がすごく楽しめるものを作ることで,同じように楽しんでくれる人がいることを分かっていることも強み」だという。
「パラノマサイト」を企画したときも,売れるかどうかは分からないが,少なくともこれまでに自分のタイトルを楽しんでくれた人は楽しんでくれるという確信があったとのこと。ただ,それゆえに,シナリオの書き方を教えたり,後進を育成したりといったことがまったくできないとも話していた。
一方,amphibian氏は自身の強みを把握できていないという。
石山氏は,amphibian氏の書くテキストについて「下手な人が書くととても読めたものじゃない寒いものになるのに,リズムがいいのか言葉のセンスがいいのか,独特の味があって面白く読める。そこが強み」と指摘する。また.「歌がうまい人を見ると『これだけうまければ気持ちいいだろうな』と思う感じで,『これだけ文章を書ければ気持ちいいだろうな』と思う」と表現した。
石山氏は,とくにamphibian氏が書く状況説明や理不尽に出くわしたときのリアクションに魅力を感じているとのこと。しかしamphibian氏自身は「常にスベっている」と感じているそうで,現在手がけているシナリオでは試しにそうした表現を排除するよう努めているそうだ。
ただ,すべて排除すると人間的に嫌なキャラクターになりかねないため,多少は残さざるを得ず,「そのとき残ったものが,自分の味と言えるのかな」と語る。その発言を受け,石山氏はファンの一人として「皆,amphibian節を浴びたいと思って新作を待ち望んでいる。僕自身,書き手の顔が見えてくるテキストが好き」とコメントし,その例として糸井重里氏の手がけた「MOTHER」シリーズを挙げた。
石山氏自身は,見る人が見れば自身が書いたテキストだと分かるよう,意識してリズムを作ったり,句点を打ったりしているという。実際,「スクールガールストライカーズ」も「パラノマサイト」も意識して読むと同じフォーマットで書いていることが分かるそうだ。そうした自分の味がしっかり存在し,それがきちんと受け入れらることもまた,自身の強みであると話していた。
石山氏は,「レイジングループ」と「パラノマサイト」が属する,和風ホラーや伝奇ホラーというジャンルについてどう思うかという質問を投げかけた。
amphibian氏は,「リアリティや当事者性を感じやすい」と指摘し,「恐怖を感じると,人間は危機的な状況にあると思って,今の状況自体をリアルだと受け止める。つまり怖い思いをさせることで,リアルで上質なコンテンツだと思ってもらいやすい」と説明した。
また和風であることについても,「我々が暮らしている社会につながる文化に属する要素が加わることで,自分が置かれている世界を襲っている恐怖を感じやすくなるはず。その強みを極限まで追ってみたい」とコメント。そして,ホラーは作り手が文脈にとらわれすぎているので,もっといろんな遊びを模索したいとも話す。
一方,伝奇に関しては,amphibian氏の中で難しいものになりつつあるとのこと。たとえば「パラノマサイト」は能力バトル的な要素もあり,ホラーやミステリーなどさまざまなベクトルで楽しめる作りになっている。しかし,伝奇が持つ外連味はそれだけで「自分向けではない」と身構える人がいる要素でもあり,乗り越えるべき課題だと感じているという。
石山氏はもともとホラーが苦手だったが,プロデューサーの「プレイヤーとしてリアクションが取りやすいから,配信してもらいやすい」という提案により,チャレンジしたそうだ。
実際,自身の中での「パラノマサイト」の位置付けは,ホラーテイストがあるけれどもベースはコア寄りのミステリーだという。そのため,ホラーに対するこだわりはあまりないと話していた。
石山氏は,伝奇や伝承をベースにすることのメリットも挙げていた。たとえば「パラノマサイト」では墨田区の観光資源となっている本所七不思議を取り上げることで,いろいろな協力を得られるのではないかと考えたそうだ。
また,もともとの怪談は,なぜそういうことが起こったのか説明がなかったり,オチがなかったりとかなり曖昧だったため,勝手に解釈を挟み込むことも行ったという。物語のキーとなる「蘇りの秘術」も,人々が争うためには報酬が必要だという理由で考え出したと語った。
加えて実在する伝承には,説得力やリアリティがあることにも言及がなされた。「本当にあるかもしれない」とプレイヤーに思ってもらうことで物語に入り込んでもらおうと,虚実を交えた内容にしたと石山氏は語った。
そのほか「パラノマサイト」の企画時には,人狼ゲームやデスゲームのようにするというアイデアもあったそうだが,いずれもすでに名作が輩出されており,飽和状態にあったため,能力バトル的な見せ方を採用したことも説明された。
上記のとおり,今回「レイジングループ」はポップアップストアを展開したが,「パラノマサイト」も2023年9月に同様の取り組みを行っている。amphibian氏は,ポップアップストア会場内で開催された謎解きイベント「ウソつきの謎」の企画にも携わっているが,かなりの数のテストを行い調整を重ねた結果,完成したことを明かした。
石山氏は,リアルでイベントを行うことにより,直にファンと顔を合わせられるのが一番ありがたいと語る。amphibian氏もSNSなどでコメントを寄せてもらえることももちろん嬉しいが,実際に顔を見られるのが一番のフィードバックだと表現した。
石山氏とamphibian氏が,それぞれの印象をコメントする一幕もあった。石山氏は,テキストの力強さから,amphibian氏が自信にあふれた人物だと想像していたという。実際に会ってみたら,実に謙虚な人で驚いたそうだ。
一方amphibian氏は,石山氏の自己肯定感の高さに圧倒されたとのこと。「もっとamphibian節で書いてほしい」というリクエストにも,「手癖を出しまくったらどうなるのか」と興味が湧いたと話していた。
トークの最後には,石山氏とamphibian氏が来場したファンに向けてあらためて感謝の意を示した。amphibian氏が現在取り組んでいる新作について,情報公開までまだ時間がかかることを明かすと,石山氏が「いつまでも待ちますから,納得いくまできちんと作ってください」と,ファンを代表してエールを送っていた。
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