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[GDC 2019]「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」の音響を作り上げた長期取材とアドリブ演奏。その実態に迫る
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印刷2019/03/23 13:33

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[GDC 2019]「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」の音響を作り上げた長期取材とアドリブ演奏。その実態に迫る

画像集 No.001のサムネイル画像 / [GDC 2019]「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」の音響を作り上げた長期取材とアドリブ演奏。その実態に迫る
 2018年にスクウェア・エニックスから発売された「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」(PC / PS4 )は,中南米を舞台に,マヤ文明の古代遺跡を探索する作品となっている。さまざまな美点を持った本作だが,なかでも音楽はとても印象深い。現地の空気を感じられるだけでなく,環境音や効果音とBGMが一体化したかのような音響空間は,独特のプレイ感覚をもたらしてくれる。

 そんな同作の音楽を担当した作曲家のBrian D’Oliveira氏(La Hacienda Creative)と,Audio Directorを務めたRob Bridgett氏(Eidos Motreal)による講演「The Influence of Pre-Hispanic Culture on 'Shadow of the Tomb Raider'」の模様をお届けしたい。

La Hacienda CreativeのBrian D’Oliveira氏(左)とEidos MontrealのRob Bridgett氏(右)
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数か月にわたるメキシコ取材と,膨大な「おみやげ」


 Rob Bridgett氏はシャドウ オブ ザ トゥームレイダーにおける大方針として,まず「音楽」(ゲーム世界において本来聞こえないはずの音)と「SFX」(ゲーム世界において発生している音)の中間に収まる「両義的な音響」を追求することを掲げたという。というのも,それこそが遺跡やジャングルの探索で感じる恐怖を,もっとも的確に表現できると考えたからだ。

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 このためには,音楽側もゲーム世界に何らかの形で立脚したものでなくてはならない。というわけで,作曲を担当したBrian D’Oliveira氏はメキシコに飛び,そこで現地の伝統的な楽器と音楽を学んだ。このために必要となった期間は「数か月」とのことで,決して「現地の空気を感じるために,ちょっと行ってみた」などというレベルの話ではない(ちなみにD’Oliveira氏は「時間が許す場合は,こういう取材をいつも行っている」とのこと)。何か月も暮らしてみたメキシコの街は「音楽と生活が渾然一体となっていた」という。この感覚はゲームで村を歩けば,プレイヤーも体験できるだろう。

 取材旅行で得た現地の伝統的な楽器を大量に持ち帰ったD’Oliveira氏は,ほかの演奏者を集めて2か月にわたるワークショップを行い,それらの楽器を使いこなせる「共演者」を育成したという。以下,D’Oliveira氏が持ち帰った楽器の数々を見てみよう。

スライドの右下に見えるのが,帰国時の空港での荷物の模様。「よく通してもらえましたね」という感想以外に抱けない
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打楽器。叩く位置によって音の高さが変わる
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こちらも打楽器。金属系

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不思議な形をした笛
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これもまた不思議な形をした笛

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笛……?
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大型の管楽器

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石ころの群れにしか見えないが,鉄琴に似た音がする(音階もある)
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法螺貝的なもの。左手の使い方がどことなくホルンっぽい

ダンサーを交えた演奏会
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村を歩いていると,村人たちが楽器を演奏し,あるいは互いに呼び交わし,あちこちで生活音がして,鶏をはじめとした家畜の鳴き声が聞こえ,それらすべてが渾然一体となってひとつの「音楽」を作っているのが感じられる
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ゲームの映像を見ながらアドリブで演奏


 さて,シャドウ オブ ザ トゥームレイダーの音楽制作においてもうひとつ特徴的なのは,その作曲・録音スタイルだ。
 多くの楽曲が「膨大なマルチトラッキング」(D’Oliveira氏)によって作られているが,いくつかはほぼアドリブによる「生演奏」だという。
 ここにおいて面白いのは,録音をする段階で,ある程度までゲームが完成していたということだ。演奏の際には実際のプレイ画面を見ながら,それをガイドにして演奏したという。なるほど,確かにこれならばゲームの雰囲気と演奏が乖離する可能性は下がる。

二人のパーカッションによるセッションが,そのままBGMに
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プレイ画面を見ながらの演奏
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マルチトラッキングでの楽曲作成。録音にあたっては非常に大きな部屋を使っており,その空間がもたらす残響音がいくつも重なることも,本作の音楽らしさを作っていったという
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 また,当初の構想通り,各ステージの環境音や効果音は,それぞれのステージにおける楽曲と入り交じるようにして鳴らされる。これに合わせて楽曲側にも人の呼吸音などが入っているという。
 結果,Bridgett氏は「当初構想していたよりもずっと,『両義的』な音響空間を作れた」と語った。

かなり広い領域を「両義的な音響」でカバーできた
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 ちなみにセッションの締めとして,セッション参加者全員によるジャムセッションが開催された。このためにセッション開始前,入室してきた聴講者に楽器を手渡し,場合によっては「こうやって演奏する」というレクチャーまでしたくらい,用意周到なセッションである。

配布された楽器の一部
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「こうやって演奏するんだよ!」と教えてもらえた。ある意味でとても貴重な体験
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セッションを指揮するD’Oliveira氏
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参加者も音響系エンジニアが多いせいか,ノリが良い
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 ジャムセッションの感想を言えば,「意外とちゃんと形になる」といったところだ。もちろん「素晴らしい演奏」とは言い難いが,ぶっつけ本番にしては想像以上に形になっていた。

 シャドウ オブ ザ トゥームレイダーで採用された音楽のスタイルは,楽曲の遷移をコントロールしたり,あるいはプロシージャルな楽曲生成を取り入れたりといったこととは逆の,文字通り「力技」という側面もある。それでもなお効果音と楽曲が組み合わさることによって「ゲームプレイがジャムセッションになる」という方向性は,「効果音が過度に埋もれてしまってはならない」などいくつか注意すべき点はあるにしても,とても優れた方針のひとつだろう(もちろんゲームのテーマやムードを選ぶが)。
 コンピュータ技術と音楽が組み合わされるゲーム音楽はさまざまな可能性を秘めた音楽ジャンルで,まだまだやれることはたくさんある――そんなことを感じさせてくれる,不思議なセッションだった。

「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」公式サイト

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