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4Gamerをご覧の皆様こんにちは。クッキングエンターテイナーの大西哲也です。ゲームに登場する料理をプロの料理人が本気で再現し,プロ目線で勝手に検証する「俺のコラボカフェ」。今回もよろしくお願いします。
2026年は「ポケットモンスター」の30周年です。おめでとうございます。
1996年にゲームボーイで発売された「赤・緑」で始まったポケモンシリーズは,今や単なるゲームの枠を超え,世界最大級のエンターテイメントIPへと成長しました。
ゲーム,アニメ,映画,カードゲーム,ぬいぐるみ,アパレル,さらには各国のイベントや観光施策まで,もはや「ポケモンを知らない」という人を探すほうが難しいかもしれません。
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そして,30年という長い歴史のなかで,ポケモンは少しずつ“生活”を描くようになってきました。ただ戦って捕まえるだけではなく,キャンプ,ピクニック,サンドイッチ作りや,食文化・地域性など,人とポケモンが共に暮らす世界の解像度がどんどん高くなっているように感じます。その一つの到達点ともいえるのが,「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」(以下,SV)に登場した「秘伝スパイス」でしょう。
私は世界中を旅しながら料理研究をしていますが,特に好きなのがスパイス料理です。
インドはもちろん,中国,タイ,ベトナム,中東,北アフリカ,南米。現代の食文化は,もはやスパイス抜きには成立しないといっても過言ではありません。
スパイスは単に「辛い粉」ではなく,香り,味,保存性,薬効,消化促進,殺菌,防腐,精神作用など,人類史そのものに深く関わってきた存在です。そんな視点で見ると,SVに登場する「秘伝スパイス」は実に興味深いと感じました。
作中に登場するのは以下の5種類。
- あまスパイス
- しおスパイス
- からスパイス
- すぱスパイス
- にがスパイス
非常に興味深い分類です。「から」「しお」は比較的イメージしやすいですね。例えば七味唐辛子は“からスパイス”ですし,ハーブソルトや昆布塩などは“しおスパイス”的発想といえます。
しかし問題は,「あま」「すぱ」「にが」です。特に“にがスパイス”なんて,普通に生活しているとほとんど出会わないような気がします。
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ゲーム内では,秘伝スパイスは単なる調味料ではなく,身体能力や健康状態にまで影響を与える特殊素材として描かれています。ここで料理人としてピンと来ました。これはおそらく,現実世界の“薬効スパイス”をモデルにしているのではないかと。もし私の仮説が正しいなら,開発陣には相当スパイスに詳しい人物が関わっていた可能性があります。
今回はこの仮説をベースに,料理研究家として世界中のスパイスを組み合わせ,“現実世界で本当に使える秘伝スパイス”を作ってみます! 果たしてポケモン世界の「秘伝スパイス」は,現実でも万能調味料になり得るのか。作ってみましょう。
■「あまスパイス」
砂糖……5g
シナモン……2.5g
カルダモン……1.5g
フェンネル……1g
ポケモンを元気にする健康料理を研究しているペパー先輩によれば,「ひでん:あまスパイスは 胃を健康にして食べ物を消化しやすくしてくれる! 腹痛や食欲不振にも効果絶大なんだとさ」とのこと。
この説明を読んだ瞬間,料理研究家として「なるほど,消化促進系の甘いスパイスか」とイメージがつながりました。
まず軸になるのはフェンネルです。独特の甘い香りの正体は「アネトール」という成分で,胃腸の働きを促進するといわれています。ソーセージやカレー,インド料理などでも重要な役割を持つスパイスです。
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さらに,体を温めるシナモン,胃液分泌を促すカルダモンを加え,香りと薬効のバランスを調整。この2種は焼き菓子やチャイにもよく使われる,甘い香りの王道スパイスですね。
最後に砂糖を加えることで,香りをまとめながら実際に使いやすい味へと落とし込みました。これが驚くほど便利です。
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バターを塗ったトーストに振りかけるだけでもおいしいですし,豚肉の煮込みに加えると香りとコクが一気に立ち上がります。ミルクティーに入れれば,簡易的なインド風チャイにもなります。
「あまスパイス」という名前から子供向けの甘味を想像していましたが,本格的な胃腸ケア用スパイスブレンドにしあげました。
■「すぱスパイス」
アムチュール……5g
ハイビスカス……3.5g
乾燥ショウガ……1.5g
ペパー先輩曰く,「ひでん:すぱスパイスは 滋養強壮! 栄養がいっぱい つまってる! 疲れた心と体によ〜く効いてみるみるうちに回復するんだと」とのこと。
酸っぱいスパイスという発想は,日本ではあまり馴染みがありません。しかし世界を見渡すと,酸味を司るスパイスは意外と多いのです。今回はそのなかでも,乾燥マンゴーパウダー「アムチュール」を主軸に選びました。インド料理では定番のスパイスで,爽やかな酸味とフルーティーな香りを持っています。さらにハイビスカスを組み合わせ,クエン酸の力を強化。これらは疲労回復との相性が非常に良い素材です。そしてそこに,乾燥ショウガを加えます。
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ショウガに含まれるショウガオールには血流を促進する働きがあり,全身へ素早く熱と栄養を巡らせるイメージです。単なる“酸っぱい粉”ではなく,かなり理にかなった疲労回復スパイスになりました。
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完成した香りは,キリッと鋭い酸味のなかにハイビスカスの華やかさが立ち上がり,非常に洗練されています。特におすすめなのが肉料理でしょう。煮込みに少量加えると味に立体感が生まれます。さらにアムチュールにはタンパク質分解作用があるため,生肉のマリネにも向いていて,短時間で驚くほど柔らかく仕上がります。これはかなり実践的なスパイスといえるでしょう。
■「にがスパイス」
フェネグリーク……3.5g
ターメリック……2.5g
クミン粉末……2g
ヒハツ……1.2g
クローブ……0.8g
ペパー先輩によれば,「ひでん:にがスパイスは血行促進! 血のめぐりをよくする! 体をポカポカ温めて免疫効果もアップ」とのこと。
苦味というのは本来,毒性のシグナルです。人間は本能的に苦味を警戒します。しかし成熟した食文化では,その苦味が深みやコクとして扱われるようになります。コーヒー,ビール,カカオあたりがそうですね。大人になるほど苦味を好むようになるのも,この“複雑さ”に脳が快感を覚えるからでしょう。
今回の軸はフェネグリークです。これは,カレー特有の深い苦味と香りを作る重要スパイスですね。さらに,血管を柔らかくするクローブと血流改善で知られるヒハツ,強力な抗炎症作用を持つターメリックを組み合わせ,完全に薬効寄りの構成にしました。特にターメリックのクルクミンは免疫系との関係でも有名で,実際,かなり理屈が通っています。
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完成した香りは,まさに本格派。苦味が料理の奥行きを大きく増してくれます。カレーやスープに少量加えるだけで,味が一気に長く残るようになります。これがいわゆる「コク」ですね。「にがスパイス」とは単なる変わり種ではなく,料理を“大人の味”へ進化させる秘伝スパイスだったのかもしれません。
こうして実際に作ってみると,「スカーレット・バイオレット」の「秘伝スパイス」は,単なるゲーム内アイテムではなく,かなり現実のスパイス文化や薬膳思想をベースに設計されている可能性を感じました。
料理には体を回復させる力がある。香りによって食欲を刺激し,スパイスで血流を促し,酸味で疲労を和らげる。ゲームの中ではデフォルメされていても,その根底にはちゃんと現実の知恵があるのではないでしょうか。
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今回作った秘伝スパイスは,どれも本当に興味深いものとなりました。ちょっとクセはありますが,これを使いこなすようになるのはある意味トレーナーとしての成長なのかもしれません。
今回のテーマはいかがでしたでしょうか? 面白いと思ったり,実際に作ってみたりした人は,ぜひ「#俺のコラボカフェ」「#COCOCORO」などのハッシュタグを付けてSNSに投稿してくれると嬉しいです。
それでは,またお会いしましょう。したっけ!
■■大西哲也(クッキングエンターテイナー)■■ あるときは料理研究家,またあるときは「COCOCOROチャンネル」のYouTuber。しかしその実体は……料理を通じて多くの人を喜ばせたいクッキングエンターテイナーだ! 今回,スパイス調合をしている途中で部屋の香りが完全に異国の市場みたいになり,パルデア地方に行った気分になったとのこと。
※次回の掲載は2026年6月27日を予定しています


























