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[GDC 2025]プレイテストから真の洞察を得る5つのヒント――Tencentのリサーチチームが語る,効果的なフィードバックの見分け方
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印刷2025/03/19 07:00

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[GDC 2025]プレイテストから真の洞察を得る5つのヒント――Tencentのリサーチチームが語る,効果的なフィードバックの見分け方

 現代のゲーム開発のペースは,かつてないほど高速になった。そんな中,プレイヤーからのフィードバックをどう取り入れるべきか,その判断は開発者にとって非常に重要だ。

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 2025年3月17日から21日まで,アメリカのサンフランシスコで開催されている「Game Developers Conference 2025」で,Tencentのマーケット&ユーザーリサーチチーム Senior Insights ManagerであるJoe Yu氏と,Senior Lead of Market & User ResearchのKristy Zheng氏が,プレイテストから真に価値ある洞察を得るためのヒントを紹介する講演「Tencent Games Developer Summit: Noise or Insight? Five Tips to Get Real Insights in Playtests!」を行った。

 Yu氏たちは2017年から現在までに,約300回のプレイテストを20以上のゲームに対して実施してきたという。しかし多くのプレイテストは,ボタンの配置やアイコンのサイズといった表面的な改善にしかつながらないか,あるいは過度にプレイヤーの意見に依存してしまい,開発チームの創造性が損なわれる問題が見られたという。

 今回の講演では,バランスの取れたアプローチを目指すためのプレイテスト進行方法,プレイヤーフィードバックの解釈方法,そしてそれらをゲームデザインに統合する方法について,具体的なヒントが語られた。

Tencent Senior Insights Manager Joe Yu氏
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Tencent Senior Lead of Market & User Research Kristy Zheng氏
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ヒント1:メモリーボールを集める


 最初のヒントは「メモリーボールを集める」だ。
 ここではディズニー映画「インサイド・ヘッド」を例に挙げ,プレイヤーが実際に記憶に残す「メモリーボール」のような瞬間を捉えることの重要性が説明された。

 多くのプレイテストでは「正式リリースされたらダウンロードしますか?」「5段階評価で点数をつけてください」といった表面的な質問が行われがちだ。しかし,こうした質問からは「友達が遊んでいたらダウンロードします」「無料なら試します」「ミニマップが小さいです」といった,あまり有用でない情報しか得られない。

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 Yu氏は「Elden Ring」の例を挙げ,最も役立つフィードバックは「崖のそばにある宝箱の中には何もなかった。確認せずにはいられなかった」といった,記憶に残る瞬間こそが大切なのだと指摘した。プレイテストは単なるQ&Aセッションではなく,プレイヤーにとって記憶に残る瞬間を収集し,検証するプロセスなのだという。

 記憶に残る瞬間を集めるための具体的なステップとして,以下の3つが紹介された。

  1. 質問テクニックやツールを使って記憶に残る瞬間を掘り起こす(メモリーボールを収集する)
  2. これらを戦略,戦闘,チームワークなどのカテゴリに分類する
  3. 収集したメモリーボールと,ゲームデザイン時に想定していたメモリーボールを比較検証する

 メモリーボールを集めるときには,ノーベル賞受賞者であるダニエル・カーネマン氏の「経験する自己」と「記憶する自己」という概念が重要だという。人間は経験のほとんどを忘れ,ピーク(最高潮)と終了時の感情が記憶を形成するという研究結果に基づき,プレイテストでも「今どんな気持ちですか?」「ゲーム中で特に記憶に残った瞬間はありますか?」といった質問が有効だそうだ。

 また,プレイヤーに興奮度カーブを描いてもらったり,感情を表す言葉とゲームシーンをマッチングしてもらうといった方法も,記憶に残る瞬間を掘り起こすのに役立つ。

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ヒント2:言葉やスコアを超えた洞察を得る


 2つ目のヒントは「言葉やスコアを超えた洞察を得る」だ。プレイヤーが言葉で表現するフィードバックだけでなく,そのバックグラウンドや実際のプレイ行動からも洞察を得ることが重要だという。

 プレイヤーを選定する際,単にプレイするゲームの種類や総プレイ時間,ランキング,人口統計だけを元にしたのでは不十分だ。例えば「VALORANT」を2000時間プレイしている同じランクのプレイヤーでも,異なる役割やエージェントを好み,競争のためにプレイする人もいれば友達との交流のためにプレイする人もいる。

 重要な要素として,以下の3つが挙げられた。

  1. 能力(Capability):反射神経や照準能力などの身体的スキル,計画立案やダメージ計算などの精神的スキル
  2. プレイスタイル(Playstyle):ゲームのプレイ方法に関する好み(例:特定のポジションや武器の好み)
  3. モチベーション(Motivation):競争,熟達,社交など,プレイヤーの動機

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 これらの要素は,プレイヤーが新しいゲームに触れる際に表に出てくるものだ。例えばスナイパーを好むプレイヤーは常にスナイパーライフルを探し,ゲームにそれがない場合や期待に沿わない場合,ほかの部分を楽しんでいても否定的な記憶を持ちやすくなる。

 また,実際のゲームプレイを直接観察することも重要だ。プレイヤーがヒーローとどう対話するか,どんな戦術/戦略を使うのか,どこで勝敗が分かれたのかを観察することで,多くの改善アイデアが浮かぶ。そのため,Yu氏は主要なデザイナーや関連チームメンバーが一緒にプレイテストを観察することを推奨していた。

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ヒント3:レシピを検証する


 3つ目のヒントは「レシピを検証する」だ。Zheng氏はハンバーガーの例えを用いて説明する。ハンバーガーの具材(卵,トマト,玉ねぎ,牛肉など)とゲームの要素(銃,コントロール,バンカーなど)は似ている。「ゲームは全体的に楽しいですか?」と尋ねるのは,「ハンバーガーはおいしいですか?」と聞くようなもので,「マップのサイズは適切ですか?」と尋ねるのは「ビーフの質はどうですか?」と聞くようなものだ。

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 これらの質問だけでは,本当に優れたハンバーガー(ゲーム)を作るレシピは分からない。牛肉の場合,焼きすぎず,外側はこんがりと内側はジューシーに仕上げることが重要だが,これは単に材料についてではなく,調理方法に関することだ。

 同様に,プレイテストで検証すべきなのはゲームの「レシピ」だ。ここでいうレシピとは,プレイヤーがゲームについてどう感じるか,そしてどのようなメモリーボールが価値に貢献するかについてのものだ。また,異なるメモリーボールがゲームの要素によってどのように作られるかを理解することも含まれる。

 Zheng氏は,開発中のヒーロービルドゲームを例に挙げた。このゲームでは,さまざまなアーティファクトが配置された大きなマップでプレイヤーがヒーローを使い,アーティファクトを見つけてカスタマイズし,バトルスタイルを作成して競い合う。

 レシピを検証するための3つのステップは以下のとおりだ。

  1. レシピを分解する:デザイナーはヒーロービルド戦略がゲームを楽しくする鍵と考え,そこから「スタイルとの戦闘」「アイデアとの実験」「完璧への一歩」という3つのメモリーボールが生まれると想定していた
  2. メモリーボールを収集する:プレイテストを通じて実際のメモリーボールを集める
  3. ギャップを分析する:「完璧への一歩」は成功していたが,「スタイルとの戦闘」と「アイデアとの実験」は期待どおりではなかった

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 ギャップの原因として,(1)複雑さ(2)メカニクスよりもステータスの強調(3)シナジーの欠如(4)適応性の欠如が特定されたという。これにより,開発者はメカニクス重視のアーティファクトの導入,シナジー効果の強化,アーティファクトシステムの簡素化などの改善点を明確にできた。


ヒント4:プレイテストの舞台を設定する


 4つ目のヒントは「プレイテストの舞台を設定する」だ。コアゲームプレイをテストする効果的な環境を作るための3つの要素が紹介された。

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  1. ビルドの設定:レシピを評価するための効果的なビルドを用意する。例えば,前述のヒーロービルドゲームでは,多様な戦闘スタイルを可能にするために,各ヒーローに少なくとも3つの異なるビルドオプションが必要だった。一方で,マップやアートスタイルなどの要素は一時的なアセットでも問題なかった。
  2. プレイヤーの準備:レシピをテストするための資格を持つプレイヤーを準備する。未完成のビルドではプレイヤーの学習体験が阻害される可能性があるため,基本的な知識や十分な練習を提供することが重要だ。ヒーロービルドゲームでは,基本的なゲーム知識の提供,2〜3のヒーローに焦点を絞った十分な経験,練習セッションの実施,Q&Aセッションの開催などが行われた。
  3. ルールの設定:PvPゲームでは,テスト環境の設定に注意が必要だ。不公平なチーム形成を防いだり,スキルレベルの差によるマッチングの問題に対処するためのルールを設定する。バランスのための手動マッチメイキングやランダムなマッチアップも解決策となる。また,チートや相手の画面を覗き見るといった不自然な行動を防ぐルールも必要だ。

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ヒント5:プレイヤーの物語としてプレイテストを共有する


 最後のヒントは「プレイヤーの物語としてプレイテストを共有する」だ。プレイテストで発見したことを共有する効果的な方法として,以下の3つが紹介された。

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  1. 旅の可視化:興奮度カーブなどのツールを使って,プレイヤーがゲームでたどる異なる道筋を示す。プレイヤーがゲームをプレイする中で経験するさまざまな段階を特定し,感情の変化を視覚化。異なる時点でのプレイヤーの思考や行動を説明する。
  2. リプレイ分析:キーとなるアクションを選び,成功と失敗の基準を決め,プレイヤーのパフォーマンスを追跡するためのツールを使用する。例えば,「VALORANT Mobile」のテストでは,指の動きを追跡するためのフィンガートラッカーが使用され,チェックリストで成功率が記録された。
  3. プレイヤーの言語を使う:レベルデザインやヒットボックスといった技術用語ではなく,プレイヤーが使う言葉で共有することが理解を深める。とくに「ハムスターのように物を集めるのが気持ちいい」などの比喩,「一人だけとり残されたうえに,弾切れになって……」といった臨場感のある描写,「勝つことに夢中になった」などの感情を喚起する言葉が効果的だ。

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心に残るゲーム体験を目指して


 プレイテストは単にスコアを追い求めたりチェックボックスにチェックを入れたりするものではない。それは,プレイヤーの心に残る忘れられないメモリーボールを作り出すことに関するものだという。Yu氏とZheng氏は,「あなたのゲームはどんなメモリーボールを生み出すでしょうか? そして,あなたのレシピは何でしょうか?」という問いかけで講演を締めくくった。

 この講演では,プレイテストの目的を再考し,単なるフィードバック収集を越えて,プレイヤーにとって真に記憶に残る体験を創造するための洞察が提供されたと言える。ゲーム開発者が効果的なプレイテストを設計し,有意義な結果を得るための貴重なガイドとなるのではないだろうか。

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