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印刷2024/08/24 12:58

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全人類が遊べるゲームづくりは,感性ではなく数値で判断する。「10億DLに至る道。個性を活かしたハイパーカジュアルゲーム開発」聴講レポート[CEDEC 2024]

 2024年8月21日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2024」にて,カヤック ゲーム事業部の佐藤 宗氏によるセッション「10億DLに至る道。個性を活かしたハイパーカジュアルゲーム開発」が行われた。

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 カヤックといえば,第1作「Park Master」iOS / Android)のグローバルローンチを皮切りに,「Ball Run 2048」iOS / Android「Number Master: 足し算ランゲーム」iOS / Android)をはじめとしたメガヒット作を世に送り出し,同社が制作・配信するハイパーカジュアルゲームの累計ダウンロード数は,全世界で10億回を突破するにまで至っている。

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 カヤックは本日,同社が制作・配信するハイパーカジュアルゲーム全28タイトルの累計ダウンロード数が全世界で10億回を突破したことを発表した。国別内訳によると,海外のプレイヤーがほとんどを占めており,同社が3月下旬に開催予定のセミナーでは,ゲームを世界に届ける方法が解説される。

[2024/02/22 13:20]

 たった10人の少数精鋭でスタートをきった同社のハイパーカジュアルゲーム開発事業は,いかにして10億ダウンロードを達成したのだろうか。ヒット作を生みだす理論や感覚をメンバーへ伝授し,“チームで勝つ”に至るまでの過程について語られた本セッションをレポートしよう。

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感性ではなく数値で判断する
ハイパーカジュアルゲームの世界


 ハイパーカジュアルゲームといえば,その名前のとおりユーザーの属性に関係なくプレイできるシンプルなゲーム内容とともに,集客とマネタイズの両面に広告を用いたビジネスモデルが特徴だ。広告を通じてユーザーを獲得し,そのアプリ内で他社の広告を表示させることで収益化が図られている。

 そのビジネスモデルの特殊さもさることながら,「プロトタイプでの市場テストで,一定以上インストールされたら本開発へ」「改善(アップデート)の実施はA/Bテストで数値を上回った場合のみ」「ゲームの評価は感性ではなく数値で」といった,“数値で評価し判断を行う仕組み”が開発プロセスに組み込まれている点も特色といえるだろう。

市場テストでは,プロトタイプを作成し広告動画を用いてインストール数の推移を見る。一定以上の数値が出れば本開発へと進めるのだが,この壁を突破できるのは2〜5%ほど。なかなかに厳しい
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 宣伝費よりもアプリでの広告収入が上回れば黒字になるシンプルなビジネスなわけだが,その実はユーザー1人あたりから得られる収益が低く,薄利多売なビジネスだ。全世界のユーザーをターゲットとし,数値マターの開発を行うからこそ,ビジネスとして成立しているのだろう。

 なお佐藤氏によれば,全世界に向けてアプリを配信するぶん顧客の分母が大きく,広告づくしのビジネスモデルが追い風となってダウンロード数が非常に伸びやすいそうだ。自社アプリの総ダウンロード数が10億回に至ったのは,この影響も大きいとコメントしていた。

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“ビジネスできるゲーム”をつくるために
チームに根付く3つのポイント


 ハイパーカジュアルゲームの特徴が分かったところで,つぎに語られたのは「良いハイパーカジュアルゲームの条件」と「ビジネスできるゲーム」を生むために意識したいポイントだ。

 過去の講演(関連記事)でも触れられていたが,良いハイパーカジュアルゲームの条件とは「わかりやすさ」「親しみやすさ」「ユニークさ」の3つであると,佐藤氏は提示する。4年が経過した現在もこの定義は変わることなく,チームの根底に在り続けているという。

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 ハイパーカジュアルゲームを好む層は“ゲームを遊びたい人”ではなく,“楽しい時間を過ごしたい人”であるため,理解に時間を要する複雑なゲームはご法度。ゲームに詳しくない人でもわかりやすく,興味を抱きやすいゲームデザインが望ましいのだ。ワールドワイドに展開することも踏まえれば,国や文化,言語,年齢に依存しないものを作る意識もポイントであると述べられていた。

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 さらに佐藤氏は,これらの条件とともに「早くつくれるようになる」「わかりやすいを鍛える」「ゲームが面白いかはプレイヤーに問う」ことを開発チームに意識してもらっていると話す。

(1)早くつくれるようになる

 カヤックでのハイパーカジュアルゲームの開発は,1週間サイクルを目安に行われている。もちろん個人の裁量やスタイルによって多少の変動はあるが,新規タイトルの立案から市場テストまでをこの短期間でこなすのだ。早く作れるようになれば市場テストにのぞむ回数もおのずと多くなり,経験の積み重ねによってユーザーのニーズが掴みやすくなるという。また,短いスパンで数を重ねることで,1つ1つのテスト結果を引きずりにくく,前向きに開発にあたれる精神衛生上のメリットもあるのだとか。

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(2)わかりやすいを鍛える

 コンテンツがあふれる昨今は,たとえ面白い作品であってもわかりやすさに欠けていては,見向きもされない厳しい現実がある。ゲームに興味を抱いてもらうためには,可能な限り画面上の情報量を減らし,なにをするゲームであるかを即座に読み取れるデザインを目指さなければならない。

 情報量を減らしシンプルな見た目にするには,ゲームの目的や操作方法をUIで説明せず,ワールド空間にあるもので伝える意識が重要だという。アートが情報デザインを兼ねるよう,わかりやすいモチーフ(登場人物)を選び,そのモチーフならではの遊びをかけ算してゲームを組み立てていく。

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ゲームの目的や操作方法などを文字で簡単に書き出し,選んだモチーフの数と使われ方を図式化する習慣をつけると,モチーフ選びの感覚を鍛えられるという。ヒット作のメカニクスを,同様に文字に起こして分析するのも1つの手だそうだ
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モチーフ選びには,文化による印象の違いを考慮するとともに,配信される主要国で通用する内容であるかにも気を配りたい
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(3)ゲームが面白いかはプレイヤーに問う

 わかりやすさについての議論は活発なものの,ゲームが面白いかどうかを開発チーム内で議論することはないと佐藤氏は話す。これは,開発者の好みがターゲットとする層の好みと必ずしも合致しないという自身の経験もあり,面白さはプレイヤーに問う(数値で判断)方針をとっているそう。一般的なゲーム開発では,ディレクターの感性や経験に基づいた評価がくだされるものだが,ハイパーカジュアルゲーム開発においてはヒット作を埋もれさせる原因になりかねないのだ。

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 あわせて「ハイパーカジュアルゲームのつくり方」と題して,チームスタッフごとに異なる開発手法の事例も紹介された。カヤックでは,ゲームとしてのわかりやすさが担保されていれば開発の手法は個人のスタイルに任せる方針で,それぞれの個性を尊重しているそう。
 好きなゲームの遊びをハイパーカジュアルゲームにアレンジしたケース,ランキング上位のタイトルをひたすらチェックし,そこにはないゲームを作るケース,技術研究の一環でゲームを開発するケースなど,アプローチの仕方は千差万別だ。

 それぞれ考え方や開発手法が異なるものの,ビジネスできるゲームを作る人には1つの共通点がある。それは,ハイパーカジュアルゲームを遊ぶ人の像を的確につかめているということだ。
 一口に"わかりやすさ”といっても,自分の感覚を基準としたわかりやすさと,ハイパーカジュアルゲームを遊ぶ人にとってのわかりやすさは大きく異なるケースが多い。そのため,違いを理解せずに自分好みのゲームを作っていては,市場テストを突破できない状況が続いてしまう。ターゲットの像を掴み,適切にチューニングできなければ“ビジネスできるゲーム”は生み出せないのだ。

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小さくつくって早く試す文化がもたらす影響


 少ない人数かつ短いスパンで開発する,“小さくつくって早く試す文化”を取り入れたことで,カヤックのハイパーカジュアルゲームの事業は大きく成長した。事業が発足した4年前は10人だったスタッフも,現在は30人を超え,タイトル数は4本から32本にまで増加している。

 チームの規模は大きくなったものの,基本的に少人数でゲームを作る開発スタイルであるため,組織的なゲーム開発の機会が減少してしまったと佐藤氏は振り返る。エンジニア1人の力で企画から実装までを行えるぶん,思い描いたイメージを自分の手で形にできるメリットがあるものの,大規模なチーム開発ならではのレビューの機会が減り,経験や感性を伝え合う成長機会が失われているとも話していた。

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 セッションの終盤では,業界全体のクオリティが高まったことで,いいものを作らなければ勝てない状況が生まれていると,ハイパーカジュアルゲーム市場の現状にも触れられた。加えてリワード広告や課金を取り入れたハイブリッド型の台頭から,純粋なハイパーカジュアルゲームは減少傾向にあると指摘。ハイパーカジュアルゲームを支える広告を用いたゲームビジネスをいつまで継続できるかは不透明だが,一方で“手軽にゲームを楽しみたい”というニーズは今後も変わらず在り続けるだろうとも氏は分析していた。

 「ハイパーカジュアルゲームは世界中の人に遊んでもらえるところにロマンがある」と語った佐藤氏は,今後も“全人類が遊べるゲームづくり”に取り組んでいきたいとしてセッションを締めくくった。

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