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印刷2023/08/24 18:05

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[CEDEC 2023]自由な世界の裏には,涙ぐましい努力が。「スト6」ワールドツアーの,3Dから2Dに切り替える仕組みが解説された講演をレポート

 2023年8月23日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」にて,カプコンのゲームデザイナーであるレーベボリ・テオドール氏が,「ストリートファイター6」PC / PS5 / Xbox Series X|S / PS4)についての講演「ワールドツアーモードにおける2D格闘システムと3Dレベルデザインの関係」を行った。
 本講演は,「ワールドツアーモード」で使われている「3D状態からシームレスに2D格闘バトルへと切り替えるシステム」を説明し,それが3Dマップを制作するうえでどのように影響したのかを紹介するものだ。

レーベボリ・テオドール氏
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 まず,本作のワールドツアーモードとは,シングルプレイのストーリーモードであり,3Dで表現されたストリートファイターの世界を舞台に,自由な旅ができるモードだ。テオドール氏いわく「2D格闘バトルありのRPG」のようなものとのこと。
 本モードの大きな特徴が,街にいるほぼすべてのNPCとバトルできるという点だ。その対戦は,ストリートファイター定番の2D格闘で行われるが,暗転を挟まず,シームレスにバトルへ突入する。

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 この“シームレスなバトル”を実現するために,ワールドツアーではバトルに必要なスペースをリアルタイムで計算するシステムが用意されたとのこと。このシステムでは,周囲のスペースを測り,必要であれば向きを変え,決まった位置にキャラクターを移動させるという一連の流れによって,バトルを行うエリアを作成してくれるそうだ。これにより出来上がったエリアは「バトルライン」と呼ばれているという。

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 バトルに必要なスペースは,さきほどのバトルエリアを含めた幅7m×奥行き12m×高さ5mの空間で,実際にバトルが行われるファイター領域と,そこを映すためのカメラ領域で構成される。余裕がある場合は,さらにバトルを観戦するNPCが集まる観戦者領域も増やせるとのこと。

奥行きは,当時の最も大振りな技として,ザンギエフのダブルラリアットを基準にしたという
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 なお,バトルの成立には,上記の空間が確保できることに加えて,地面側にも“水平である”という条件が必要になる。というのも,対戦の際に使用されるプレイヤーの当たり判定は,バトルラインからずらせないため,もし地面が極端に高かったり低かったりすると,モデルだけがズレて,見た目と判定が乖離してしまうからだ。

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 これらの条件をふまえ,背景(マップ)には「3D・2D両方運用できるコリジョン(当たり判定)」「横7m×12m以上確保」「高さ5m以上確保」「地面凹凸±15cm以内確保」という,4つのルールが課せられた。
 続いて,これらのルールにより背景制作に出た影響が語られた。

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 まず最初にコリジョンについて。背景にはさまざまなオブジェクトが設置されているが,そのほとんどはカメラが通過可能な設定だ。
 そのため,カメラ領域と設置されたオブジェクトが被ってしまっても,オブジェクトを非表示にしてしまえば邪魔にならず,バトルエリアの確保にかなり余裕が出る。

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 オブジェクトを非表示にするかどうかの判定には,コリジョンの範囲が関わっており,ここをしっかり設定しないと,物が消えすぎたり,消えなさすぎたりといった問題が発生してしまう。そこで3Dと2Dの背景に差異を出にくくするため,さまざまなオブジェクトのカリング設定を上書きしたり,処理範囲を合体させたりといった作業を,全て手動で行ったのだという。

見栄えの良い空間の確保のため,大量の作業が必要になったそうだ
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 続いて横幅と奥行きの確保についてだ。短絡的には広く作ってしまえば解決しそうにも思える。しかし,それでは物が遠くなったり,似たような空間ばかりになったりしてしまう。そこであえて,ギリギリを攻めた狭い場所も用意することになったのだという。
 ただ,当然ながら狭い場所では対戦エリアの確保も難しくなってしまう。それをどう解決したかというと,ピンポイントでオブジェクトを削除し,ある程度のエリアが確保できるよう,個別に調整していったのだという。こういった狭い場所はさまざまなエリアに存在し,それぞれに対応するのはなかなか大変だったとテオドール氏は語った。

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 次に高さの問題だ。もともと通常の2Dバトルは,高さが12mまでの想定で制作されていたのだという。しかし,ワールドツアーでその設定をそのまま使用してしまうと,1階と2階の構成なのに12mもの高さがある建物しか存在しないなど,明らかに不自然な世界観になってしまう。
 そこで,背景の高さは5m以上という制限で調整したものの,当然ながらそのままではキャラクターの動作が天井を貫通してしまう。そのため,屋内のエリアでは,モデルが天井を貫通しないような設定を施す必要があったそうだ。

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 最後に地面の凹凸に関しては,1段あたりの高低差を15cm以内に抑えることで,バトル可能なエリアを多く確保しているという。意図的,もしくはやむを得ず高低差が15cmを超えている場所では,その段差を挟んでバトル可能なエリアを左右に分けているそうだ。

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 しかし,いくら背景側で努力しても,極端に狭いエリアや坂,階段など,どうしてもバトルには適さない場所が出てきてしまう。そういった場合に対応するため,バトルライン側に用意されたシステムについても解説された。

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 まず1つ目が「固定バトルライン」だ。これは,バトルが発生した場所でリアルタイムにバトルラインを計算するのではなく,事前に用意された場所でバトルを行うというものだ。カットシーンの後,そのままカットシーンと同じ場所でバトルが発生するなど,ミッションやNPC,場所に紐づいて有効になっているという。

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 2つ目は「テーブル式バトルライン」だ。これは,バトル不可のエリアでバトルが発生した場合,事前に生成しておいた最寄りのバトルラインに移動させるというもの。こちらは固定バトルラインと違い,あくまで自動生成のものを保険として用意する形なので,その場所に飛ばすための専用のコリジョンや,生成されたバトルラインに不具合が無いかのチェックが求められたという。

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 前述した2つのシステムを導入することで,極端に狭いエリアや,坂,階段といったバトル不可な場所でも,バトルを開始することが可能になったのだ。しかし,これで背景を自由に作れるようになったかというとそうでもなく,あまりに飛ばす距離が長いと,プレイヤーがいまどこにいるのかわからなくなって混乱してしまうため,坂や階段はできるだけ短くするよう気を付けているそうだ。

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 最後は,これまでの内容をふまえ,企画から実際の背景制作までの流れがどのように行われたのかが紹介され,「3Dと2Dを同時に存在させるには,倍以上の作業が発生してしまう」と,ワールドツアーの開発がいかに大変だったかが強調された。

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 しかし,開発がそれだけ大変だったぶん「ユニークで綺麗なものを作り上げることができた」と,ワールドツアーに対する満足感はかなり高いようだ。共に開発した橋本裕介氏水間康夫氏への感謝を述べ,テオドール氏は講演を締めくくった。

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