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[インタビュー]デイヴ・ザ・ダイバーの核は,海と寿司屋をつなぐ「地続き感」――ミントロケットのファン・ジェホCEOが語る,制作哲学と発想の源泉
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印刷2025/10/22 07:30

インタビュー

[インタビュー]デイヴ・ザ・ダイバーの核は,海と寿司屋をつなぐ「地続き感」――ミントロケットのファン・ジェホCEOが語る,制作哲学と発想の源泉

 業界の偉い人達はみんなメチャクチャに忙しい東京ゲームショウだが,そんな喧騒の合間に時間を無理やりあけてくれたのが,ミントロケットのファン・ジェホCEOだ。
 日本の現金文化にとまどいつつ,SuicaをApple Payに入れたらすごく快適になった――そんな肩の力の抜けた雑談から入ったのが,このインタビューだ。

 子ども時代を日本で過ごし,ファミコンが友だちを連れてきたという原体験。チェジュ島の居酒屋で見た「朝に魚を獲って夕方に自分で料理して客に出す」生活。「デイヴ・ザ・ダイバー」の源泉は,海というダンジョンと寿司屋という現実が,一本の線でつながる,その目の前の因果にある。

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 彼が繰り返し口にするキーワードは,「納得感/地続き感」と「直観的な分かりやすさ」だ。説明が必要ならやらない。チュートリアルは必要悪。できる限りキャラクターに語らせ,ゲーム世界の外に出さないようにする……。
 そしてUI・テンポ・バランスを徹底して磨く―――銛(もり)が当たって戻る“手ざわり”に一か月を費やす執念が,その象徴だ。照れくさそうに語った「壁から逃げるな」という合言葉の裏には,主観を離れて検証を繰り返す客観性への執着があるのかもしれない。

 そして一方で,彼は現場の社長でもある。全プロジェクトのチャットに入り,業務判断にありがちな往復コストを自らカットする。ネクソンの子会社でありながら独自制度を設計し,評価より助言へと軸足を移す。
 本人はイヤだと言っていた“ENTJ的”な強靭さは,独裁から伴走へと進化したというわけだ。韓国の“フレーム借用制作”に安住しないため,現実の体験から面白さのコアを抽出して,次の世代にその方法を渡すことを,自身の宿題とも述べる。

 読むと分かるのだが,このインタビューは,新作の内容やゲームのシステム,発売日とか数字の話ではない。クリエイティブと組織運営,その両輪を同時に回す人物であり,あの「デイヴ・ザ・ダイバー」を作ったファンCEOが,何で葛藤し,どこで踏みとどまっているのか。そこに近づこうとする長い雑談になってしまった。
 ゲームづくりの理想と現実が交わる,率直で筋の通った言葉の数々をお届けしたい。

MINTROCKET CEO ファン・ジェホ氏
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4Gamer:
 いや,すみませんでした,インタビュー時間を急に変更してしまって。

ファン氏:
 いえいえ,大丈夫ですよ。おかげで会場にも少し行けたので(笑)。

4Gamer:
 めちゃくちゃ混んでたでしょ?(注:インタビューは一般公開日初日の土曜日に行われている)

ファン氏:
 昨日着いたんですけど,違う仕事があったのでイベントには全然行けなかったんです。今日はおかげさまで幸いにも15分ほど行けたので,グッズを買いに行ったんですが……。

4Gamer:
 貴重な15分ですね。

ファン氏:
 でもね,支払いがPayPayと現金のみなんですよ。外国人である僕はPayPay使えないし,現金なんて普通使わないからあんまり持ってなくて。ギリギリ買えたんですが,サイフには200円しか残ってません(笑)。

4Gamer:
 韓国の人はとくに現金なんか使いませんもんね。にしても不便ですよねえ。会場に限った話じゃないですが,結構外国の人に不便なことが多くて,「インバウンドがー!」とか言ってる割にはこれかよ,と思うことが多いです。

ファン氏:
 いやでも,外国人としては電車の切符を買うのが本当に本当に面倒だったんですが,SuicaがApple Payに入ったことによって,キレイになくなりました!

4Gamer:
 電車の切符買うのは日本人だって面倒ですよ。とりわけ新幹線なんか,あの極悪非道なUIは,絶対外国の人に買わせる気ゼロですよ。

ファン氏:
 ふふ。まぁそんなわけで,今回は最初サイフに1万7000円くらいあったんですが,すでに1万円以上を使ってます。

4Gamer:
 ちなみにその貴重な15分で何のグッズを買いにいったんですか?

2024年のGAMES OF THE YEARを受賞した「アストロボット」。TGSでは,見る角度によって絵柄が変化するピンバッジやTシャツを販売していた(関連記事
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ファン氏:
 「アストロボット」のグッズを頼まれたんですよ。すでに少し売り切れていたんですが,アストロボットだけ急いで買ってきました。

4Gamer:
 ということは会場はほとんど見ていない。

ファン氏:
 まだ全然見ていないです……。

4Gamer:
 まぁ僕もですけど……。ずっとこの部屋にいます。
 日本のゲーム業界は決して絶好調というわけではないんですが,今年もかなり混んでいてちょっとホッとします。

ファン氏:
 聞いた話ですけど,欧米のゲーム業界が今よくないので,日本の業界にかなり集中しているそうで,今年はBtoBがすごく盛り上がっていたそうですね。

4Gamer:
 あぁそれは確かに。BtoBは出展もミーティングも海外系が目立ちましたね。4GamerもParadox Interactiveと共同出展したんですが,もう1社設営を手伝った海外デベロッパのブースがあって,欧米からの「日本にいくぜ!」感を感じました。
 あとBtoCも,いつもはドタキャンとか売れてないとかの理由で空白地帯があって,イスとか置いてあって便利な休憩所になってるんですが,今年は全部埋まって,どうもそれもないみたいで。

過去最多となった,47の国/地域から1136の企業/団体が出展したTGS2025。幕張メッセの全館を使って,出展小間数は4159小間に及んだ。例年とは違い,隙間なくフル活用だ
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ファン氏:
 なるほど,ということはアジア圏共通なんですかね。
 今年のG-STARは国内業界からの参加はあまりないんですが,海外からすごく来るらしいですよ,BtoBとして。韓国の業界も以前よりメジャーになったのか,ミーティングなどでもう結構埋まってるとか。

4Gamer:
 おお,そうなんですね。それはそれで面白そうですね。僕基本的にはアジア圏にしか行かないので,いつもは会えないようなところと会えそうです。

ファン氏:
 ……っていう話をする場ではないですよね,きっとここは(笑)。

4Gamer:
 そうですね(笑)。今日は「インタビューの時間ください」とは言いましたが,まぁタイトルとか新作の話はしない方向でいきましょう。あなたという人にすごく興味が湧いたので雑談半分で,まぁ記事にならなさそうだったら仕方ないなと。

ファン氏:
 ありがとうございます。まぁ自然に話そうと思って,何も準備もしてませんのでお手柔らかに(笑)。

4Gamer:
 数字の話とか新作の話とかしないから大丈夫ですよ。
 今日はファンさん本人についていろいろ聞こうかなと思っているんですが,まずは変な話から始めてもいいですか?

ファン氏:
 どんな?

4Gamer:
 MBTIからいきましょう。

ファン氏:
 あー,あれね,MBTI。1回やったんですが,自分では覚えていないんですよ。本当に。

4Gamer:
 ENTJらしいですね。

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ファン氏:
 え,記事とかにあったのかな。
 チームのミーティングの時にMBTIを聞かれたことがあって,やったことないと言ったら「やってください」と言われて。それでやってみて結果を送ったら,大爆笑されまして。「うわー,そのままだ」「本人そのもの」とか言われたので,そこで即記憶から消しました(笑)。

4Gamer:
 ENTJ,ふふふ。

ファン氏:
 独裁者みたいな(笑)。

4Gamer:
 大丈夫。世の中のリーダーはみんなENTJですよきっと。

ファン氏:
 いやそれならよかったです!

4Gamer:
 なんか妙に親近感沸くなと思ったら,僕とほぼ同じでした。

ファン氏:
 お,そうなんですね。

4Gamer:
 僕INTJなので,IとEが違うだけです。なのでまぁなんとなくスタッフが大受けするのも分かります(笑)。ENTJなら生まれながらのリーダーですよ。いいじゃないですか!

ファン氏:
 いや,そういう褒められかたしても(笑)。

4Gamer:
 まぁそれは置いておいて,ちゃんといきますか。
 今おいくつですか。

ファン氏:
 45です。

4Gamer:
 45歳だと,小さい頃に最初に出会ったコンピューターゲームってなんですか?

ファン氏:
 「スーパーマリオ」と「北斗の拳2」です。

4Gamer:
 なんかいわくのありそうなラインナップですね。

小学生のファン氏が友達と遊んだ思い出深い一品がこちら。でも確かに,強く思い出に残っている作品は,記憶の中で大体誰かとセットになってるかもしれない
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ファン氏:
 今でも覚えているんですが,僕小学校の時に日本に来たんです。当時は日本語が全然喋れなかったので,いじめられていたんですね。
 いじめられたというか,日本語もできないし,外国人だからあまり友達もいなくて。それを見かねたのか,両親がファミコンを買ってくれたんです。

4Gamer:
 なかなかのご両親ですね。その当時,普通の大人はあんまりゲームにいい印象がないのに。

ファン氏:
 それで誕生日に友達を招待したんですが,まぁそんな子だったから誰も来ないんじゃないかと思っていたんですけど,ファミコン目当てでみんな来てくれたんです。
 港区に住んでたので,周りの子はみんなかなり裕福だったと思うんですが,意外とゲーム機は持っていなくて。

4Gamer:
 まぁ子供には「よくないもの」ですからねえ。

ファン氏:
 ですね。ゲーム機を持ってた子がかなり希少で。
 今はゲームなんて普通じゃないですか。でもその時期は,値段が高いというよりは,ゲーム機は子供に買ってあげるようなものじゃないという感じでしたね。でもウチにはそれがあったので,友達が集まってきて,その時の写真もちゃんとまだ持ってます。

4Gamer:
 その写真ぜひ載せたいです。

ファン氏:
 たぶん探せばまだ実家にありますよ(笑)。
 で,そのときにみんなでやったのがファミコンの「北斗の拳2」で,北斗の拳2が最初のゲーム……というわけじゃないんですけど,1番思い出のあるゲームですね。

ホントにみんなTVにかぶりつきだ(ちゃんとファン氏も写っている)。昭和末期を感じる,大変に懐かしい写真をわざわざ探して送ってくれてありがとうございます
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4Gamer:
 アタアタいうやつですよね確か。懐かしいなぁ……僕はそのとき高校生でした。受験勉強サボって友達の家でやってた記憶が。
 いきなりいい話から始まりましたが,お話を聞く限り,そのころファンさんはかなり小さい……小学校低学年くらい?

ファン氏:
 はい,小学1年から4年までです。

4Gamer:
 北斗の拳のあとは,何か印象深いゲーム遍歴ってあります?

ファン氏:
 しばらくは日本語がそんなに上手くなかったんですけど,ゲームをやっていると,あまり話さなくてもいいじゃないですか。言葉はなくても共通点が生まれるというか。そういうのを体験して「ゲームっていいな」って本当に思ったんです。

4Gamer:
 同じものを見て同じ目標ができるわけですもんね,その場で。

ファン氏:
 ええ。結構厳しい親だったと思うんですが,そういうことがあったからなのか,それからもずっとゲームに対してはかなり緩くて。ゲームを通じて日本語も学べたし,友達もできたし,ゲーム機はずっと買ってくれたんです。「PCエンジン」も持っていましたし「PCエンジンDuo」も持っていました。プレステも全部持ってましたね。

4Gamer:
 かなり恵まれたお子様です。

ファン氏:
 小学校以降は日本に住んだことはないんですが,ゲームとのつながりはずっとあって。ゲーム雑誌を読んで,ゲームをやって,日本語も忘れなかったし。
 僕タバコを吸わないんですけど,ずっとゲームをやっていたせいなのか,そういうこともあまりやらないまま大人になりましたね。そういうことをしているうちに,いつかゲーム業界に入りたいと思ったんです……が。

4Gamer:
 が?

ファン氏:
 数学が弱かったんです(笑)。これはプログラマーは無理だなと思って,じゃあ何がいいかというとゲームメディアの記者になりたいとずっと思っていました。書くのが好きだったので。
 なりたいとは思ってたんですが,韓国ってあまりゲーム系の雑誌がなかったし,どういう風にそこに入るかも全然分からなかったので,夢として持っていただけだったんです。

4Gamer:
 そこでゲームメディアに入ってたら,デイヴ・ザ・ダイバーは発売されてなかったですよ。

ファン氏:
 いやそれはどうでしょう(笑)。
 そんなこんなでネクソンの「クレイジーアーケード」というゲームが中国でブレイクしたことがありまして,僕は大学の専攻が中国語だったので,「きっと中国の人材が必要だ。これだったらゲーム業界へ入れるな」と思って,ネクソンに入りました。

※2001年からサービスインした超有名タイトル。「メイプルストーリー」と肩を並べる長寿タイトルでもあり,一定の年齢以上の韓国人が「ネクソン」というと最初に思い出すのは,メイプルストーリーと,この「クレイジーアーケード」らしい。

大学で専攻しただけで,上海で中国人を前にスピーチするくらいペラペラになれるものなのだろうか。なんなら,ChinaJoyではブースで普通に接客していた
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4Gamer:
 おお,最初からネクソン。

ファン氏:
 はい。途中,個人ビジネスをやるんだと言って3年ぐらい離れていたんですが,それ以外はずっとネクソンか,ネクソンの子会社です。アメリカにもいたし,NEOPLEにもいたし。「デイヴ・ザ・ダイバー」のアイデアは済州島(チェジュ)で得たんです(注:NEOPLEの本社は済州島にある)。

4Gamer:
 チェジュでダイビングが趣味になったとか?

ファン氏:
 いや,僕自身はあまりやってなくて慣れてないんですが,ダイビング自体は面白いと思ってたんです。チームの同僚とかもそうですし,周りでもかなりダイビングをやってる人がいたので,話を聞いたら面白そうだったんです。
 まぁそもそも,海という場所がすごく不思議だなと思ってて。ナショジオとかでもよく言うじゃないですか,宇宙よりも身近で謎が多いのは深海だと。

4Gamer:
 深海の探査はまだほんの数%ほどしか進んでないらしいですしね。

※5%と書かれているものもあり,0.001%と書かれているものもあり,諸説あります。

ソウルから1時間ほどのフライトで行ける,沖縄本島の約8割の大きさを持つチェジュ。韓国でも珍しい海女(ヘニョ)文化が残る地域だ
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ファン氏:
 同じ場所でも,入る時間帯と天気で全然違う顔を見せるし,サメに出会うのも偶然だし,そういうのがすごくゲームのダンジョンみたいだなと思って,あれをダンジョンにしたいと思ったんです。
 海を探検するゲームというのは元々少し考えていたんですが,それだけで面白くなるのかな……とずっと思っていて。

4Gamer:
 なるほど,元々それっぽいことは考えていたんですね。でもきっかけがなかった?

ファン氏:
 いやホントに面白くなる感じがしなかったんです。
 ある日,チェジュにある居酒屋に行ったんですが,海辺の居酒屋のオーナーさんは,朝には魚を獲って,それを自分で料理して,夕方に店をオープンするんです。これをくっつけたら面白いなとそのまま思って,そこで「デイヴ・ザ・ダイバー」が始まったんです。

4Gamer:
 そのまんまのモデルがいたんですね(笑)。

ファン氏:
 ええ,実は(笑)。
 僕が最初に行ったときは,かなり空いてたんです。それで,後日その店に行ってゲームの話をしようとしたんですが,その後SNSでかなり話題になっていたらしくて。まぁデイヴ・ザ・ダイバーのせいではないんですけど(笑)。それで予約が全然取れなくて,話せなかったんです。でも,本当にすごくインスピレーションを受けました。

4Gamer:
 あのままの生活をしている人がいるとは思いませんでした。

これが,ファン氏が行った「海辺の居酒屋」だ。雰囲気がやはりどことなくデイヴっぽい(いや逆か)
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「地続き感」という設計の原則―――“道理を通す”遊びの流れ


ファン氏:
 僕は個人的に,ゲームにとって「納得感」……というか「地続き感」みたいなものがすごく重要だと思ってるんです。

4Gamer:
 んー……ルールとかシステムを普通の感覚で理解しやすいということですか?

ファン氏:
 ええ。例えばダンジョンに入って,モンスターを倒して,何かの目玉を取って,それで光るシールドとか作るじゃないですか。これってあんまりつながらないんですよ。
 でも魚を獲って,料理して,寿司にしてお客に売ってお金を稼いで……これってすごく流れが直観的ですよね。誰にでも分かります。なので,これはいけるなと思って。

4Gamer:
 なるほど,分かります。道理と理屈が通ってるという話ですね。
 まぁ確かにゲームってなんでもありだから,そういうのを軽視しがちな気はします。でもそれだと「好きな人」にしか分からなくなっちゃうんですよねえ。

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ファン氏:
 例えばですけど,鮫の寿司は金魚の寿司より高い,ってすぐ理解できるじゃないですか。そういうのって大事だと思うんです。

4Gamer:
 大事ですね。道理と理屈を通さない世界観が多すぎです(笑)。

ファン氏:
 ゲームデザインの話で言うなら,内部でも色々なアイデアは出てくるんですが,「これを説明しないといけないんだったらやらない方がいい」ってよく言うんです。

4Gamer:
 「がんばって説明しないと内部にさえ通じない企画記事」はやらないほうがいい,というのに近そうです。

ファン氏:
 ええ。「ユーモア」なんかもそうですよね。話してみたけど面白くないと思われて,色々説明をくっつけてなぜ面白いか話すって,ちょっといくらなんでもショボイですよね。
 そういうのと似てると思ってて,資料を見て分からないならもうやめよう,という。

4Gamer:
 いいですねえ。ほかに重視する要素って何がありますか。

ファン氏:
 1番重視しているのは「直観性」ですね。適切な日本語の単語が別にあったらぜひそっちを使ってほしいんですが(注:ちょっと思い付かなかった……),まぁ韓国では直観性と呼んでまして,インタフェースとかゲームの仕組みとか,そういうもの全般です。
 そういうのも,見て分からないと使いたくならないと思うんですよね。でも,全部が全部そうなるとも言い切れないので,そういう場合はチュートリアルみたいなものじゃなくて,キャラクターを使って説明をさせます。

4Gamer:
 あぁそういう話で言うなら,モバイルゲームのチュートリアルは得てしてひどいですね(笑)。

ファン氏:
 そう! モバイルゲームのチュートリアルは,なんか変な指とか矢印みたいなのが出て,それが動いて「ここを押して」みたいな感じじゃないですか。

4Gamer:
 つまんないし,文字の取説読んでるのと変わらないんですよね。

ファン氏:
 没入感が落ちますよね。
 そういう時は……例えば,デイヴ・ザ・ダイバーにもポケモンのサ○シにかなり似ている(笑)キャラクターが出てくるんですが,そんな雰囲気のキャラクターが出て,カードの収集について説明したらすんなり分かってもらえると思ったんです。説明をなるべくしない方向にしたい。

その名も,サトーだ
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4Gamer:
 そういうところまでちゃんと考えてある作品って,実はそんなに多くないと思うんですよねえ。

ファン氏:
 任天堂のゲームが好きなんですが,任天堂のゲームもチュートリアルがないわけではないですよね。でもなるべく説明をしないようにしています。見れば分かるようになってる。
 例えばスパイク(トゲトゲ)を見たら,これは危ないってすぐ分かるじゃないですか。そういう感じで,何を見たらどういう考えになるか,みたいなことを内部ですごく研究している気がします。

4Gamer:
 ほか何かあります? こだわりポイント。

ファン氏:
 こだわりとはちょっと違いますが,自分の子はいつでも可愛いと思うんですよ。例えば自分の子供がコーヒーをこぼしたら「やんちゃで健康でいいね」と思いますが,他の子がこぼしたら嫌ですよね。作る時の1番の問題はそこだと思うんです。

4Gamer:
 客観性?

ファン氏:
 そうです。全てのゲームは,出す時に「これは駄目だ」って思ってないと思うんです。自分でやったら面白いとか,この仕組みを知っていたら面白いとか。例えば全部の構造を知っていたら面白いかもしれませんが,ユーザーさんにやらせたときはそれは見えないわけで。
 そういうところでちょっと客観性を失って,成功しなかったり失敗したりするゲームって結構多いと思うんです。

4Gamer:
 そういうのありますよね。「○○まで行ったらすごく面白くなるよ」とか「○○の組み合わせさえ知ってれば無双できるて面白いよ」とか言われても,つまり知らないと面白くないっていうことでしょう? という気分に。

ファン氏:
 誰だったかな……日本のクリエイターの方だと思うんですが,ゲームを作る時は虫眼鏡で見て,作り終わったらすぐ離れて空中から見る……みたいな話があったんですが,それが本当にいい言葉だと思ってて。

4Gamer:
 おお,なるほど。

ファン氏:
 作る時は本当に集中して作って,それが終わったらすぐ離れて,作ったものがどう見えるかをいつも考えてみよう,って。
 そこも自分でやっていたら,見えなくなる時期があるんです。それで周りにテストをお願いするとかして,周りの人を全部使い果たしたら,外の人を招待してテストをするとか,そうやって客観性を確保することにかなり集中しています。

4Gamer:
 客観性の確保である以上,やっぱり他人がやるしかないんですよね。

ファン氏:
 そうですね。でも優秀な方であれば,ある程度は客観性を持って見られると思うんです。僕の立場からは人材の定義みたいな話になっちゃいますが,そこをどこまで見られるかで分岐するなぁと。

4Gamer:
 うん,でも分かります。編集者もそうですよ。自分で書いた原稿を,どこまで客観的に見られて,どこまでちゃんと修正できるのか。結構これが難しい。

ファン氏:
 そうでしょうね。自分で書いていたら,ストーリーが全部分かってて面白い……少なくとも分かってるつもりで面白いつもりじゃないですか。でも別の人が見たら,意味が分かるのか,内容が理解出来るのか,面白いのか,最後までちゃんと読めるのか,よく分からないですよね。

4Gamer:
 そこに気付けない人は結構います。
 しかし客観性の担保は,何かをクリエイトするとき全般に確かに重要な気がしますね。チュートリアルも矢印でピコンピコン言われてもなぁ……。

ファン氏:
 それはそれで,説明をしないとですね。説明して知ったなら,知らないよりはいいので,チュートリアルは必要悪みたいなものだとは思います。でもなるべく使わないとか,使う時はキャラクターを活用するとか,そういう風にして「ゲームの世界」からあんまり離れてほしくないんですよね。

4Gamer:
 そういう意味で言うなら,デイヴは導入部分がダルくないのがいいですね。有言実行。

ファン氏:
 ありがとうございます。でもデイヴ・ザ・ダイバーで1番難しかったのは,寿司屋の経営パートなんです。

確かにここは,複雑ではある
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4Gamer:
 あぁ,確かにあそこは「やるべきこと」が多いです。

ファン氏:
 そう,あそこはすごく複雑なんです。これはチュートリアルなしでは作れないなと思ったんですけど,実際には内部テストはチュートリアルなしでやってみました。
 でもネクソンの副社長がそこが全然何もできなくて,立ったまま2分くらい何もできないで終わってしまったんです。あれを見て「あぁ,もうこのゲームは没になるな」と思いました(笑)。

4Gamer:
 そこで反省してチュートリアルを?(笑)

ファン氏:
 そう,チュートリアルを入れる必要があるとは思ったんですが,どうしても入れたくなかったんです。

4Gamer:
 頑固ですねえ。

ファン氏:
 なのでバンチョとコブラというキャラクターを作って,営業時間まであまり残っていないから早くしろとか,コブラがいきなり電話を取って外に出てしまったので料理を捨ててとか,そういう風に,さっきおっしゃってたところの「道理と理屈」を作って,滑らかにプレイできるようになりました。

4Gamer:
 しかしネクソンも,よくもまぁ2分間何もできなかったゲームを通しましたね。

ファン氏:
 本当ですよね(笑)。
 でもネクソンって「なんでもやってみろ」という雰囲気がありますので……いや最近はちょっとなくなったかもしれませんが,昔はあったんです。イケるという強い確信がある人がいるならば,まずはやってみろ,という。

4Gamer:
 そうですね。ヒット作と同じくらい失敗作も多いのがネクソンの素晴らしいところです。

「エビルファクトリー」(Evil Factory,iOS / Android
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ファン氏:
 デイヴ・ザ・ダイバーは,一応内部の評価ではテーマとキャラクター的にかなり好評だったので通してくれました。
 その前に作った「エビルファクトリー」というゲームが,僕の最初のネクソンでのゲームなんですが,そのときも経営陣はちょっと微妙だと思ったらしいんです。でも僕はすごく強い意志で主張していたし,テスト結果も悪くなかったので,一応やってみろと言われて,リリースまでやらせてくれました。

4Gamer:
 若いプレイヤーはあまり知らないと思うんですが,ネクソンって本当に「チャレンジ」が多い会社ですよね。ゲーム会社の中ではトップクラスだと思います。

ファン氏:
 はい,意外と多いですよね。失敗も多いのに,まだそういうことをさせてくれるというのが,本当にいいところだと思います。

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 ネクソンの「エビルファクトリー」は,スマホ向けのアプリでありながらワンミスで即死。1ステージで20回のリトライは当たり前といったシビアさが持ち味になるゲームだ。グローバル市場を見すえて,“エッジ”をとことん追求したという本作の開発経緯が語られた講演をレポートしよう。

[2017/04/28 15:10]

4Gamer:
 編集部もネクソンのいろんな失敗を見てきているので,昔から「すごいなぁ」と思って見てます。

※余談だが,株式会社ネクソンジャパンが出来たのは2000年9月のことで,4Gamerが出来たのは2000年8月。おこがましいが,ほぼ同期のようなものだ

ファン氏:
 会社は,「メイプルストーリー」とか「アラド戦記」ですごく儲かってるわけで,数字の中心はこれらなので,これだけやってても会社は成り立つんです。ミントロケットみたいな会社は,なくたってネクソンにとっては全然問題ない。

4Gamer:
 まぁ数字だけの話をするなら確かにそうですね。

ファン氏:
 例えば僕が優秀なスタッフだとしたら,僕をメイプルストーリーのチームに入れた方が絶対に儲かるじゃないですか。そういう風に粛々と運営しててもいいんですが,いつも,例えば20%くらいは,チャレンジに使うんです。

4Gamer:
 新しいIPの横展開とかもいろいろやってますしね。MMORPGをカードゲームにしてみたり。
 そんなネクソンの下で作りたいものを作れるって,結構素敵なことなのでは。

ファン氏:
 もちろん,誰にでもなんでもやらせるわけではないと思うんです。信頼がある相手にはチャンスを与えるといいますか。

4Gamer:
 ファンさんもかなりの信頼があるということですね。

ファン氏:
 そうであってほしいです。オンラインゲームの運営でかなりの時間を過ごしましたし,ネクソン内部で頑張っているのは証明できた……と思っているので。

4Gamer:
 まぁでも「チャンスを与える」のも素敵ではありますが,「現実にチャレンジさせる」会社はそんなに多くないと思いますよ。

ファン氏:
 それはそうですよね。

4Gamer:
 ネクソンは,ここまでの積み重ねも違う感じはあります。
 ってなんかネクソンを褒めちぎるインタビューみたいになっちゃって,ちょっと嫌なんですが(笑)。

ファン氏:
 ははは(笑)。
 でも上場している会社は,失敗が多くなると「ちょっと経営に問題があるんじゃないの」ってすぐ言われるじゃないですか。そんな状況でチャレンジできているのは,本当に僕としてもありがたい限りです。

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 韓国の大きいゲーム会社というのは,G-STARに持ち回りで出展しているように見えるのだが,今年の話題は,メインスポンサーのネクソンだ。そのネクソンの新社長(“新”といっても数か月前だが)がインタビューの時間をくれるというので,B2Bブースにお伺いしてきた。

[2024/12/04 08:00]

4Gamer:
 でも本当は,できれば作っているだけの方がいいんじゃないですか。社長とかじゃなくて。

ファン氏:
 うん,そうですね。まぁどうせ社長と言っても雇われ社長ですが。

4Gamer:
 そういえば株を持っていないんでしたね。

ファン氏:
 持っていないんです。

4Gamer:
 素晴らしいですね。僕もですけど。

ファン氏:
 いや,それ本当は素晴らしくないですよね(笑)。あまりそういうのに興味ないんですが,韓国の記者さんからはすごく不思議な目で見られます。

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4Gamer:
 「なんで持ってないの?」ってよく聞かれません?

ファン氏:
 そう。僕はもらわないのが普通なのでは,と思ってたんですが,周りからは「なんで株を要求しなかったの」って,なぜか散々言われます(笑)。

4Gamer:
 僕は先に「4Gamer」というメディアがあって,会社という組織が後付けされただけなので,まぁなくてもそんなに違和感はないです。

ファン氏:
 僕も,デイヴ・ザ・ダイバーの成功に基づいて,僕を中心に作った会社ですから,そういう話はあまり出ていなかったと思います。

4Gamer:
 いやしかし,ネクソンは何も言わないんですかそこ。
 言い方がアレなんですが,株によってファンさんを縛っていないわけで……。

ファン氏:
 あぁ,そうですね。

4Gamer:
 いつ辞めてもおかしくない。

ファン氏:
 そこまで信頼があるのかな(笑)。
 本当に今は「楽しい」という割合がずっとずっと高いんですが,そうでなくなったときに,会社をやめるときに縛っているものは何もないわけですからね。

4Gamer:
 何にもないですね。キーマン条項とかもないんでしょう? ネクソンもなかなかすごい会社です。

ファン氏:
 そうか,僕は信頼されていたのか……。そういう風に考えたことはなかったですね。逆に縛る価値がないのかな,と思ってました(笑)。

4Gamer:
 いやいや(笑)。まぁでもそういう問題を抜きにしても,状況的にはネクソンから社長を迎えてしまえば制作速度はもっと上がったりするのでは。

ファン氏:
 ウチは子会社なのに,かなりネクソンの制度とかを変えていて,ほぼネクソンの制度に従わない環境にしてるんですよね。だから難しいかも。

4Gamer:
 あぁ,同じですね。

ファン氏:
 やはり(笑)。最初の1年くらいはそこに集中して,どういう環境の会社にするのが1番いいか悩んだりしてました。
 子会社になったのはネクソン側からのオファーだったんですが,僕は「それであれば制度とかを完全に変える形を承認してください」と言ったんです。それこそがゲームクリエイトの環境としてとても大事なところなんだ,と上の方達を説得して。

4Gamer:
 結構骨が折れますよね。

ファン氏:
 そうですね。でも,それをさせてくれる自由と株を交換したんじゃないかな,と思ってます。なんとなく,ですけど。

4Gamer:
 なるほど。まぁまぁ割のいいバーターかもしれませんね見ようによっては。

ファン氏:
 新しい制度にして6か月ぐらい経っていますが,なにぶん僕がかなりハードワーカーなので……。僕に合わせてかなり厳しく時間を使う感じで制度を作ったんですが,意外と社員の満足度が高いんです。

4Gamer:
 おお,それはすごい。

ファン氏:
 アンケートしたらかなり評価が高く出まして,みんな辛いなかでもかなり制作環境には満足してくれているんだなと思いました。
 本当になんでも変えちゃったので,ネクソンのものはほとんど残ってないんですが。

4Gamer:
 僕も親会社のルールをほぼ何も残していないですけど,それをやると違うプレッシャーが生まれますよね。

「事業部門と開発部門を分断せず,有機的に連携して同じ目標に向かう組織体制,そして自律と責任が,明確な組織文化を追求します」と募集要項に書かれているほどだ
画像ギャラリー No.019のサムネイル画像 / [インタビュー]デイヴ・ザ・ダイバーの核は,海と寿司屋をつなぐ「地続き感」――ミントロケットのファン・ジェホCEOが語る,制作哲学と発想の源泉
ファン氏:
 そう! ネクソンの子会社ってかなりあるんですが,全部ネクソンと同じ制度なんです。さまざま環境的要因などで子会社になったところもありますし,そうなると「完全に別の会社」としては扱われていないこともあります。
 ミントロケットは,経営陣の話では「初めての分社」ってよく言われます。完全に離れて,完全に違うポリシーで動く。つまりここで間違ってしまったら,次のケースはやはりネクソンと同じ制度を敷くと思うんです。
 だから間違えたくないなと思って……。色々海外の事例も調べましたし,内部の人にも色々インタビューして,今はかなり合理的な形で作られていると思います。

4Gamer:
 韓国も労働条件は結構厳しいですよねえ。

ファン氏:
 そうですね。でもなんかちょっとなぁと思うところもあり。

4Gamer:
 例えば?

ファン氏:
 例えば韓国では,22時過ぎると法律的に深夜の扱いなんです。

4Gamer:
 うん,日本もそうですね。

ファン氏:
 でも,それってちょっと変だと思ったんです。
 22時までずっと仕事をしていない場合もあるわけじゃないですか。いったん家に帰ったり。うちの会社でもやってる人がいますが,19時ぐらいに家に戻って育児とかやって,23時ぐらいからまたリモートで働く方もいるんです。

4Gamer:
 あぁ……それでも「深夜残業」ですよね。

ファン氏:
 そう。これも「深夜作業」なんです。こういうのが変だと思っているので,なるべくなくそうとしています。
 例えば海外との打ち合わせもかなり多いので,23時や24時,早朝にやるケースもあります。でも例えば,この打ち合わせの直前まで休んでいた場合,実際に深夜残業とは呼べないですよね。グローバルを目指しているゲーム会社としては,あまりにもそぐわないと思うんです。

4Gamer:
 確かにこういうルールって,昨今のグローバル前提での業務全般とイマイチ合わないんですよね。

ファン氏:
 なので,業界とか外からとか,色々バッシングされるのを覚悟して変えています。結果で証明すればいいんじゃないかなと。

4Gamer:
 強いなぁ。

ファン氏:
 メンタルは強いので。メンタル的にはもう最強だと思います(笑)。

4Gamer:
 さすがENTJ。

ファン氏:
 鋼のメンタルで頑張ります。


社長は“本部長”でもある

―――全プロジェクトのチャットに入って自ら往復コストをカットする


画像ギャラリー No.018のサムネイル画像 / [インタビュー]デイヴ・ザ・ダイバーの核は,海と寿司屋をつなぐ「地続き感」――ミントロケットのファン・ジェホCEOが語る,制作哲学と発想の源泉
ファン氏:
 というか話が戻るんですが,そういうの含めて「新しいことをする」というのは,デイヴ・ザ・ダイバーを作るときもそうでしたが,「これが失敗したら,ネクソンは次はこういうプレミアムパッケージゲームを作らないだろう」と思ったので,最初にやる人は完成度を高める必要があると思うんです。

4Gamer:
 パイオニアの宿命ですね。

ファン氏:
 いま言ってたような会社の運用ポリシーとかも,もし何かの問題が発生してしまったら,全体のポリシーが問題だと言われるわけで,すごく悩みましたし,何か月間もの間ずっと人事担当と話し合って作っていました。ゲーム作りもそうだと思います。

4Gamer:
 では少なくともデイヴに関しては,そのプレッシャーはなくなりましたね。

ファン氏:
 うーん,まぁそうですね。僕たちがやっていることを,ネクソンの経営陣全員に対して発表したんです。「よくやった」と言われたので,確かにそこでプレッシャーはちょっとなくなりましたね。
 会社としても大体整ってきたと思ってるんですが,今はプロジェクトが多くて,そこの管理でまたストレスがあります……。

4Gamer:
 業務時間の中の,1日の仕事の分担ってどんな感じの比率になってるんですか?

ファン氏:
 それが……うまくやっているか正直自信がないんですが,僕は全てのプロジェクトのチャットルームに入っているんです。

4Gamer:
 あぁ……それやっちゃいますよね。

ファン氏:
 なりますよね。
 普通はチームで議論して,その結果をチーム長が本部長に報告して,本部長のオッケーが出たらじゃあGo……みたいな感じになります。逆に,本部長がこれちょっと間違っているよとか,変だよとか,このアートが合わないよとか,そういうコメントをつけると,チームに戻ってそれを共有して実行して,また修正して報告するのに1週間かかってしまうわけです。

4Gamer:
 うん,大きくなりつつある組織の宿命ですね。

ファン氏:
 本部長が戻すと,大体追加で2週間くらいがかかるわけで,そういうのが本当に生産性にとって良いことなのかどうかというのがよく分からないんです。
 なので僕は社長ですが,本部長でもあると自分では思っていまして。じゃあ自分でチャットに入って,僕にメンションして「これは大丈夫ですか」って聞けばいいんじゃないかと思って全部入ってます。全プロジェクトの,全部のグループチャットに。

4Gamer:
 それで一日終わるでしょう?

ファン氏:
 これはいいよ,これはちょっと変えてください,これは以前のと合わないからこうしてください……って,ずっとやってますね(笑)。これだけで大体10時間ぐらい使います。自分の仕事が何もできないです。

4Gamer:
 いやあ……すごく分かります。僕も重要なチャンネルには全部入ってますし。しかしこれをやると,人によりますが「一番上に話すのが,一番楽で一番話が早い」からなのか,すぐに回答できない難しいメンションばかりが来るんですよね。すぐ回答できないので後回しになって,さらにほかのメンションが溜まって……。いいことなのか悪いことなのか,僕もちょっと悩んでます。

ファン氏:
 うん,まったく分かります。
 ミントロケットのゲームってAAAゲームではないので,たぶん「遠い視線」がすごく重要だと思うんです。

4Gamer:
 引いた視線,みたいな話ですか?

ファン氏:
 ええ。例えばデイヴ・ザ・ダイバーなら,普通の2Dと,魚はSpineで,デイヴはスプライト。全部混ざっているので,これを1つにまとめるときは,統一感に集中しないとならないんです。
 今やっているDLCも本当にいろんなジャンルが混ざっているんですが,やはり担当は「自分の作業」しか見ないじゃないですか。そこしか見ていないと,これが合っているのだと自分で思い込んでしまうので,誰かが外から監督として見ないと,結局はバラバラになって,全部くっつけた時にこれどうするんだ? という話になってしまうんです。

※Spine(スパイン)は,2Dアニメーション制作ツールの一種で,キャラクターを体のパーツごとに分けて骨関節を設定し,その骨を動かすことで滑らかにアニメーションさせる手法。関節の曲げ伸ばしや揺れなどを自然に再現できるため,魚や動物など柔軟な動きを持つキャラクター表現に向いている。
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※一方スプライトアニメーションは,キャラクターの動作を1枚ずつ描いた複数の画像(スプライト)を,連続して表示することで動きを表現する手法。コマ撮りアニメに近い仕組みで,古くからドット絵ゲームなどで採用されてきた。
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4Gamer:
 確かに自分じゃ分からないんですよね,そういう違和感は。なんなら人から言われても気付かなかったりしますし。

ファン氏:
 厄介ですよね。
 例えば「アンチャーテッド」みたいなゲームがあるとして,パズル部分を担当している人はパズルをちょっと複雑にしたいと思うんですが,ゲームを全体的に見ると,アクションがメインでパズルはちょっと休むところかもしれないわけです。ゆるくして,誰もできるようにしたほうがいいかもしれません。
 テンポもありますし,アート的な統一性も必要です。そういうことはもっともっと時間と費用がかかることだと思いますので,じゃあ僕の人生を消耗して,これを解決しようかなと。

4Gamer:
 でもずっとやり続けるわけにもいかないですよね。

ファン氏:
 何回か繰り返していけば,開発している人もだんだん理解してくるので。ここまで見たらもう大丈夫だというところでは離れてますよ。
 でもやはり,プロジェクトが多いから時間を莫大に使ってしまうんです。シナリオも僕が全部書いていますし。

4Gamer:
 ……それはシンプルに働きすぎなのでは?

ファン氏:
 始めたものはちゃんと自分で収束しないとな,と思ってます。
 ネクソンにちょっとだけ文句を言うとすると,独立法人化の話が出たとき、ネクソンはなるべく多くのタイトルを担当してほしいと言ったんです。
 まぁ大きい会社ですから,ポートフォリオは必要でしょうしね。でもデイヴ・ザ・ダイバーは,何年もの間,これだけに集中して作ったから成功したんです。

4Gamer:
 やれる能力がない人に「いろいろやってくれ」とは言いませんよ。

ファン氏:
 僕は,1〜2年間くらいは一つのプロジェクトをやりたかったんですが,いろんなプロジェクトを担当してほしいと言われて。
 最初はもっと増やしてたんですが,後になって「これは管理が難しいな」と思って,分社する時にいくつかのプロジェクトをネクソンに置いてきました。

4Gamer:
 ということは,いまミントロケットでやっているプロジェクトは,ファンさんが本当に自分の手で作りたいもの?

ファン氏:
 今作っているのは,全部デイヴ・ザ・ダイバーを一緒に作ったメンバーとやっているプロジェクトなので,ビジョン的にはかなり一致しているんですよね。
 なにせ僕は管理にあまり向いていないと思ったので,僕とあまりつながりがないチームを入れて,その状態でスタッフの管理をするのが本当に難しいと思ったんです。

4Gamer:
 「管理」って結局いろんなことを知らないとできないので,かなりの負担ですよねあれ。

ファン氏:
 ええ。
 これは自慢話なんですけど,デイヴ・ザ・ダイバーはゲームデザイン的にはかなり褒められた作品なんです。韓国のゲームで,海外でゲームデザイン部門を受賞するのはすごく珍しいことだと思いますし。

2024年英国アカデミー賞ゲーム部門で,ゲームデザイン部門を受賞したのだ
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4Gamer:
 ええと,これはチーム自慢ですか?(笑)

ファン氏:
 そう(笑)。
 一般的に,グラフィックスとかプログラマーとかの最適化は本当にみんな強いんですが,やはりゲームデザインという話になると,そうもいかない。既存になかったゲームを作るケースは,あまりなかったので。

4Gamer:
 でもデイヴチームにはそれができる?

ファン氏:
 というより,今はそのチームと一緒でしか出来ないと思います。
 既存にないものを作るためには,かなり長い時間をかけた説明と,それが証明できない期間があるので,新しいチームを連れてきて未完成のものを見ながら話すとどうしても「怒られている」とか「否定されている」と思ってしまいます。
 でも長く一緒にこれを作っていた人であれば,なんでそういう話になったのかがすぐ分かるじゃないですか。そこで違いが出るのはやっぱり否定できないので,今は本当に信頼できるメンバーと作って,これがうまく「プロセス化」できたら,その後に他のチームを入れるとかそんな感じですね。

4Gamer:
 経験則で言うんですけど,そういう阿吽の呼吸をプロセス化するの本当に難しいですよね……。

ファン氏:
 難しいです,本当に……。一刻も早くプロセス化したいんですが,うん,難しいですね。
 プロジェクトマネージャーなんかも,みんな本当に優秀で頑張っているんですが,これを「統一化されたプロセスにする」のはもうちょっと諦めています。

4Gamer:
 口調的に,あんまり悲壮感は漂っていませんが。

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ファン氏:
 結局人によりけりなんですよ。例えば,アートのリーダーが誰なのかによっても,完全に違うプロセスになりますし。
 デイヴのアートリーダーはすごく才能がある人なんですが,あまり積極的に前へ前へ出てこない人なんです。なので,アート部分に関しては別のプロセス化をするしかないんですよね。

4Gamer:
 まぁどこでも同じような問題を抱えているんですね……。
 ちょっと思い切り話を戻すんですが,つまり1日の仕事は,あえて呼ぶならほとんどが「評価」ですよね。例えば仕事のプロセスには「思考」とか「実行」とか,いろんなものがあると思うんです。メンションに反応することは,結果としてほぼ「評価」な気がしますね。

ファン氏:
 そう……ですね。言われてみれば「評価」ですね。まぁもちろん人事評価的なものではなくて,内容を精査してアドバイスしているということですが。
 でも担当者たちはこのプロジェクトに毎日8時間以上使っているのに,僕はそこまでじゃないわけです。僕が唯一見るのは,クオリティが一定レベル以下に下がらないようにする部分で,これこそが本当に相手によるといいますか。

4Gamer:
 大きな開発チームでクオリティを一定にキープするのは,すごく大変そうです。

ファン氏:
 いっぺんにプロジェクトが増えてしまったので,新人の方もかなりいるんですよね。そしてこの人たちは,デイヴ・ザ・ダイバーみたいなユニークなアートスタイルをあまりやってきていないし,逆に3Dは僕たちがデイヴ・ザ・ダイバーでやっていなかったものなので,そのあたりのクオリティが統一されていない箇所もあるんです。

4Gamer:
 なるほど。そりゃあそうなりますよね。

ファン氏:
 そこを一定以下に下がらないようにするクオリティチェックと,あと当然僕があまり分かっていない部分もあるし,実はバランシングとかもあまり得意じゃないので,そのへんはアドバイスくらい。

4Gamer:
 でもコーエーテクモの襟川さんもそうですけど,ファンさんが「アドバイス」をしたら,どうしてもそういう方向に行ってしまうのでは?

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 本日,コーエーテクモゲームスの歴史シミュレーション「信長の野望」が40周年という節目の年を迎えた。シリーズは16作を数え,位置情報ゲーム「信長の野望 出陣」も発表されるなど,変わらず精力的な展開を見せる「信長の野望」。その生みの親,シブサワ・コウこと襟川陽一氏にインタビューを行い,初代の思い出やシリーズのこれからを語ってもらった。

[2023/03/30 17:04]

ファン氏:
 なので出来るだけ「個人的な意見」になるようにとどめておきますね。
 プレイしてみて,「ここはこういう状況でこれが出て,ちょっと難しいと思いました」と言うだけにして,最終判断は実際に作っている人がするようにしています。これが命令とか評価になってしまうと,1日に2〜3時間だけ使う僕が,あの人に対してあれこれ言えるのか,と思ってしまうんです。
 ……自分自身に対する客観化も重要だと思ってますので(笑)。

4Gamer:
 なるほど(笑)。「それはスタッフの自立という意味でもいいですね」っていま言おうと思ったんですが,デイヴのときもそうやって作ってました?

ファン氏:
 いいえ。デイヴ・ザ・ダイバーの時は本当にENTJらしく振る舞って,独裁者になってましたよ(笑)。
 でも,僕も莫大な時間を使ってましたからね,デイヴには。週末でもお休みでも,あらゆるものをずっと見てましたし,僕はデイヴの総てを知っていて,僕は正しい,という自信があったんです。
 でも今はちょっと変わって,なるべく「アドバイス」をしようとしています。

4Gamer:
 アドバイスだけだとしても見切れる量が来るとは思えないです。

ファン氏:
 いや,見てますよ。勤務時間中に見られなかったのは,「必ずメンションしてください」と言い残して家に戻ってから見ます。

4Gamer:
 結局処理しないと「溜まる一方」で自分が大変なだけですもんね。しかし我々みたいに「労働基準法に縛られない」人が反応すると,結果として業務を強いてしまうという難しさがありまして……。

※役員であって労働者ではなく,すなわち労働基準法には縛られない。残業代も出ないし有給休暇もないし退職金もない代わりに,結果でのみ評価されるわけで,いつ仕事をしても(or しなくても)問題はない。なので,つい自分達の時間で動いてしまうことがある……ことをとても反省している。

ファン氏:
 そうですよね。とてもよく分かります。
 ……これは嫌いな人もいるとは思うんですが,僕はメンションは遅くとも必ずその日に返そうと思っています。例えば僕がこういうインタビューを受けて戻ったら,そこで2時間くらい空白の時間が生まれますよね。するとメンションがかなりの量溜まっているわけで,それを次の日に伸ばすとまた別のメンションが重なって漏れと遅延が発生してしまいます。ですので,読まれなくてもいいので,僕的にはその日の要請はその日に返そうと思っています。

4Gamer:
 分量的に凄まじい量来るんでしょうし,いつかは見られなくなりますよ。

ファン氏:
 ですね。そこは心配ですが,まあ一応過渡期ですので。


“借り物のフレーム”越えるために―――新たな人材の育成と,次に残す宿題


ファン氏:
 そうなるまでには「プロセス化」をしないと,と思いますね。

4Gamer:
 では,もしプロセス化が間に合わなくて全部を見られなくなったとき,ファンさんは何を捨てますか? 何かを捨てないと会社が動かなくなってしまうので,何かは捨てねばなりません。

ファン氏:
 うん……難しい質問ですね。

4Gamer:
 僕たちの業務で本当に難しいのは,たぶん「何を選ぶか」ではなくて「何を捨てるか」だと思うんです。

画像ギャラリー No.024のサムネイル画像 / [インタビュー]デイヴ・ザ・ダイバーの核は,海と寿司屋をつなぐ「地続き感」――ミントロケットのファン・ジェホCEOが語る,制作哲学と発想の源泉
ファン氏:
 今は,増やさないで対応しています。1つ2つ増やしたら,絶対見られなくなるので。3個くらいなら僕が頑張ればいけるかな……? とは思うんですが,一応増やさないでおいています。
 でも,これらのプロジェクトってもちろん全部違うんですが,かなり共通点もあると思うんです。信頼できるリーダーがいれば,ちょっと離れられるんじゃないかなと思っています。

4Gamer:
 その「信頼できるリーダー」には何をしてほしいですか?

ファン氏:
 うーん……結局ミントロケットは,何をすればいいんでしょう。デイヴ・ザ・ダイバーを作る会社じゃないですし,デイヴ・ザ・ダイバー2を作る会社でもないです。
 日本に限らないんですが,韓国のものは名詞の前に「K」を付けて呼ばれることが多いですよね。「K-原神」とか「K-ソウルライク」とか。でもそれって,あまり褒め言葉じゃないと思うんです。

4Gamer:
 言わんとしていることは分かります。

ファン氏:
 ゲームもそうなんですが,フレームと仕組みをよそから持ってきて,スキンを変えるとか,何かのアップグレードを施すとか,そういう形ですよね。
 オリジナルは結局よそにあるものを持ってくる,と。大体の韓国のゲームはこういう風に作られていると思います。

4Gamer:
 手厳しいですが,実は夏のBICでもちょっとそれを感じましたね。「誰も見たことをないものを作ろう」とか「自分の作りたいものを作ろう」というより,「カッコいいメトロイドヴァニアを作ろう」みたいな方向性に向いちゃってる気がしました。

ファン氏:
 それはある意味仕方がないんです。でもデイヴ・ザ・ダイバーはそれらと違って,コアの部分を完全に別のものを使ったんです。
 これをずっと続けていくことが,韓国ゲーム業界の全体的なクリエイティブに影響を与えると思いますし,それができるクリエイターを育成するのが僕の宿命だと思っています。

4Gamer:
 そのレベルまで考えてたんですね。ファンさんは「アーティスト」でもないし「プログラマー」でもないから出来るのかもしれません。何かに引っ張られないというか。

ファン氏:
 そうですね。アーティストでもプログラマーでもないので,逆にゲームデザインチームと毎週勉強会をやったりしてます。韓国はGDCみたいなセッションがあまりなかったので,海外のセッションを翻訳して一緒にそれを見て勉強するとか。
 どういう風にゲームを作るのが1番面白いかというのは,単にフィーリングでえいやではなくて,なんか学問みたいなものだと思うんですよね。

ゲームを作るときには,考慮すべき何百もの事があります。しかし、最も重要な本質は面白さです。
私たちは成功の方程式と考えられていた既存の慣習から果敢にも離れ、ただその「面白さ」だけにひたすら集中してみることにしました。
……とMINTROCKETのサイトに掲げている
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4Gamer:
 でもその「面白い」という部分はどっちに寄せます? 自分の感覚か,数字か。永遠の課題でもありますが。

ファン氏:
 なるほど。僕はオンラインゲームの運営出身なので,数字で面白さを判断するというのが間違いだとは思っていません。そもそも今はみんなそうやって運用していますし,結局は母数が多いところが合っていると思いますので,それも正しいとは思います。

4Gamer:
 それ「も」?

ファン氏:
 それだけでは説明できない部分があると思うんですよね。
 そもそもネクソンはオンライン運営が強い会社で,メイプルストーリーとかアラド戦記とかは,そういう数字基盤,データ基盤の運営をするゲームだと思います。なので逆にミントロケットは,もうちょっと感覚と本能に基づいたゲームを作った方がいいんじゃないかなと思ってるんです。

4Gamer:
 なるほど。じゃあその感覚と本能に基づいた部分の面白さにはきっと「コア」があるわけで,そのコアを一言で言うとなんですか?

ファン氏:
 うーん……人間が面白いと思う形って結構決まっていると思います。例えばみんなは成長が好きで,僕はMMORPGはあまりやらないんですけど,みんな結構面白いって言ってるじゃないですか。そこには成長と競争があるわけで,つまりMMORPGのコアは成長と競争なんです。

4Gamer:
 あと冒険。

ファン氏:
 冒険もですね。
 あと……例えば効率化なんかも大事ですね。シミュレーションゲームは結構「効率化」のゲームじゃないですか。人間の脳としてパターンを学ぶとか,人間が好きな何かがあると思いますよ。

4Gamer:
 成長,競争,冒険,効率化……。

ファン氏:
 僕が人生で結構ショックだったゲームは,任天堂の「nintendogs」と「どうぶつの森」なんです。

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4Gamer:
 おや,どのへんがショックでした?

ファン氏:
 それらって,いま述べたような要素が全然ないのに,こういうものもゲームになるんだなと思わされました。犬を飼うって結構めんどくさい部分もありますし,結局最後は死んじゃうんだけど,その中の「面白い部分」をこうやってゲームにできるんだなぁと。
 そういう,人間が好きなコア要素って結構あると思うんですよ。それを探し出してゲームにするのが,感覚に基づいた面白さのゲームだと思います。

4Gamer:
 ははあ,何か1ワードで表せるようなものではなく。

ファン氏:
 さっき「冒険」もおっしゃってましたけど,海の中を冒険したいっていうのは元々の願望のようなものですよね。昔から小説もありますし,映画もあります。なんか海の中に不思議なデカい何かがいたり。デイヴ・ザ・ダイバーの成功は,そういう欲望をうまく突けたんだと思います。
 人間って何が好きなの? というのが,クリエイターとしての自分の最初の質問なんです。人間は一体どういうものが好きなのか。これを探して,ゲームで作って,客観化して,みんながプレイできる形にするのが,やはり感覚に基づいたゲームのクリエイトだと思います。

4Gamer:
 確固たる何かがあるわけではなくて,感覚で面白いと思う何か,が重要なんですね。さっき言った「犬を飼う」みたいな。僕らが感覚的に面白いと思うものを,コンピューターゲームのシステムに落とし込んでいく?

ファン氏:
 今作ってるゲームも,まだ全然発表はしてないけど,大体そういうものですよ。

4Gamer:
 僕らがどこかで出会った面白い何か。

nintendogs ダックス&フレンズ(NDS
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ファン氏:
 でもリアルだと面白いだけじゃなくて,そこに嫌いな要素も入ってると思うんですよ。
 例えば犬と暮らして犬と共感するのは好きだけど,犬が死ぬとか,毎日うんちを片付けるとか,そういう嫌な部分もあるじゃないですか。でも,現実から好きな部分だけを持ってきて,そこをゲームにするわけです。nintendogsのように。

4Gamer:
 僕がnintendogsを嫌いなのは,犬が本当に好きだからなんだというのが,今ここで分かりました(笑)。

ファン氏:
 ハハハ(笑)。
 例えば大根の皮を剥くとかもそうですよね。実際にやっても全然面白くないんですけど,ゲームにすると面白い要素があって。
 実際にやると手が痛いとかキツいとか,そういう要素が入ってくるじゃないですか。でも,料理を作るというのはみんな結局面白い部分だと思うんですよ。これをゲームにしたら楽しくできるんじゃないかなぁとかね。

4Gamer:
 そういう考え方って,下の人にも徹底してるんですか。

ファン氏:
 ここはトップダウンですね。僕はここちょっと強いと自分でも思っています。何か現実で面白いものを探して,それをゲームのコアにする……そういうの僕は得意だと思ってますし,これこそがゲームのクリエイトだと思ってる人なので。

4Gamer:
 確かにそこを出来る人は,ほいほいいなさそうですね。

ファン氏:
 とくに韓国のゲームは,外のフレームを基に絵と数字を改善するようなケースが多いので,いま言ったようなことができる人をちょっと育成したいと思います。

4Gamer:
 ある種のゼロから1?

ファン氏:
 ゼロ……ではないんですよ。みんな自分の中になんらかあるんですよ。
 海外に行くとよく感じるんですけど,人生経験値が高い人って結構いるんですよ。旅行をいっぱいやってるとか,人のあまりやらないことをやってる人とか。そういう人が自分の中のものを出して,それをゲームにするっていうのが,ゲーム作りかなっていつも思ってます。

4Gamer:
 最近そういうのを感じたいい例ってあります?

ファン氏:
 そうですね……例えば「Venba」っていうゲームがあるんですけど,これカナダに移住したインドの方の話なんです。

4Gamer:
 その導入ですでに普通じゃない何かを感じます。

ファン氏:
 息子の世代は自分をカナダ人だと思ってるけど,上の世代は自分達はインド人だと思ってて,そこから生まれる葛藤と解決を,料理を通じて見せるのがすごくいいんです。
 ディレクターさんにも会って色々話したんですけど,やっぱり自分の中のものを出して,それをゲームにしたんですよ。もちろん省略されてる部分も結構多いわけですけど,全部出しちゃったら面白くないので,ゲームにできる部分を探してそこをゲームにして,それでいい評価を受けるなんてすごいな,と思いました。

「Venba」PC / PS5 / Xbox Series X|S / Xbox One / Nintendo Switch
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 GDC 2024で行われた,「Venba」のサウンドをテーマとした講演「Independent Games Summit: 'Venba': An Intimate Journey Through Sound」の内容をお届けしたい。IGFとGDC Awards,共に受賞を果たしたVenbaの心に残るサウンドは,どのようにして作り上げられたのだろうか。

[2024/03/23 16:35]

4Gamer:
 話聞いてるだけで興味が湧くので,ちょっとあとで見てみたいと思います。

ファン氏:
 ぜひ。お勧めです。
 例えばKazuhisaさんも,記事のソースを探してそれをオリジナルの記事にするという経験値があるわけです。その過程では,すごくつまらない部分とかやりたくない部分もきっとあるでしょうけど,ソースを探して記事を作るというアクションそのものは,きっと面白いんだと思うんです。
 そういうことをゲームにする経験値がある人を,またはそれをできる人たちを,育成したいというビジョンを持ってるわけです。

4Gamer:
 韓国ゲーム業界では初めて聞きましたよそういう人。

ファン氏:
 はい,あんまりいないですね。だからここで僕がしくじったら後がないんじゃないかなと思って,個人的にはバカバカしい責任感を勝手に持っています(笑)。

4Gamer:
 僕はゲーム業界かIT業界くらいしか分かりませんが,誰かそういうブレイクスルーを誘発する人がいないと,結局「リメイク」とか「ガワ替え」とかで終わっちゃいかねませんよね。

ファン氏:
 ええ。あとゲームを見てゲームを想像するとかね。そういうこともやりません。
 あのジャンルが流行ってるからこうやって変えて,主人公もちょっと美少女に変えて……とか。結局はエンタメですので,「悪い」とまでは思っていないですけどね。ソウルライクで美少女が主人公という作品を,誰かが求めているのならそれはそれでオッケーだと思います。

4Gamer:
 本当に「オッケー」だと思ってます?

ファン氏:
 思ってます(笑)。
 まぁ……なんていうか,悪いとか悪くないとかそういう問題ではなく,韓国はそういうゲームがほとんどなんだから,違うパターンで作る人も必要かな,という正義感?ですね。

4Gamer:
 「違うパターンで作らないとならない」と思ってるのか,「そういうゲーム」が好きじゃないからやらないのか,どっちですか?

ファン氏:
 うーん……答えになるか分からないですけど,「そういうゲーム」はだいぶ楽ですし,まだちょっと儲かりますしね。結果もある程度は保証されてるじゃないですか。

4Gamer:
 ええ,「ある程度」ですけど。

ファン氏:
 でも「違うパターン」には,すごく勇気が必要なんです。やる人はほとんどいないだろうなと思ってるので,僕の得意な領域で何かを見せたいという気がしています。

4Gamer:
 仕事柄,いろんなクリエイターの方達とお話させてもらいますが,突き抜けた人は皆同じことを言いますよ。「誰もやってないから俺がやる」。

ファン氏:
 4Gamerさんがインタビューするような方は,皆さん成功してる方だと思いますので,結果はある程度保証されてるんですよ! 我々くらいだと,なんかホントに辛いんですけど,やるべきだと思ってます。

4Gamer:
 いや……その理屈なら,ファンさんも成功してるからここでインタビューを受けているのでは(笑)。
 しかしそれって,ファンさんが持ってくるものが「革新的すぎる」可能性もありますよね。今までになかったものだから。誰にも理解されなかったり。

ファン氏:
 そう,そこを一番注意してます。……話が逆になってしまうんですけど,自分の中から出したとして,それが客観的にいいものなのかどうかの確信が持てないので。
 僕は犬がほんと好きなんですけど,その好きな気持ちを最大限出して犬のゲームを作ったとして,でもみんなはそれを面白いと思わないかもしれないじゃないですか。なので,客観視プロセスが一番重要だと思います。

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4Gamer:
 僕も犬オタクなのでよく分かります(笑)。
 まぁ犬に限りませんが,自分の好きなものを原稿に書くとき,好きすぎる気持ちを最前面に出してその気持ちを煮詰めたような変な原稿にはしないようにしよう,とは注意してます。それでもやっぱり何か出ちゃうんですが。

ファン氏:
 ええ,そんな感じです。
 客観化するプロセスはチームそれぞれでやり方は違うと思うんですけど,結局のところは「客観化して」「テストして」「もうちょっといい形に作る」ということです。
 例えば犬のゲームはダメだと言われた時に,犬が好きな人があまりいないからなのか,犬を飼う人があまりいないからなのか,そういうことがちゃんと分からないと,なぜそのゲームがダメなのかが分からないですよね。まぁこういう部分をもうちょっとプロセス化できるんじゃないかと思っているわけです。

4Gamer:
 意外とその辺は理屈なんですね。
 そう,今聞こうとしたのは「その革新的すぎるものを持ってきた時に,分かりやすさとのバランスをどう取るんですか」ということなんです。たぶんそれがうまくいったのがデイヴなのかなと。

ファン氏:
 うーん,僕は結構平凡な人間なので,僕が出しているものはそこまで変じゃないと思いますよ。オタクの方は本当に尊敬します。僕はそこまで行けてない人間なんです。

4Gamer:
 僕もそこまで振り切れない人なので,よく分かります。

ファン氏:
 まぁそこまで行けてる人がクリエイティブに向いてるかどうかは,また別な話ですが。

4Gamer:
 でもどうであれ,そういう人がいなかったから,そういう作品がなかったんじゃないですか。

ファン氏:
 それを「結果」にまで結びつける勇気があったかどうか,だと思いますよ正直。
 才能がある人はホントはいっぱいいると思うんですけど,経営陣や,テスターからもらうコメントを前にするとビビっちゃうんですよ。だから,似たような事例を探し始めて,結果としてだんだん似ていくんです。

4Gamer:
 あぁ……なるほど。自分を正当化する理由を外に探し始めるわけか。

ファン氏:
 本当によく見られるケースなんですけど,「これが面白いというのはどう証明するの?」と聞かれると,証明するためにもうすでに出ているゲームに似た風にしちゃうんですよ。それを持っていくと,お金出してくれる人が「あぁそうだね。あれは200万本売れたから,これも100万本くらい売れるかもね」って。

4Gamer:
 さっきもちょっと言いましたけど,それは昨今のインディーにも出始めてますよね。国を問わず。

ファン氏:
 ね。インディーは違うかなと思ってたんですけど,彼らも資金的に難しいから,結果に結び付くまでの時間と費用が全部自分のコストじゃないですか。それが怖いから,やはり似たようなものに移っていってしまう。

4Gamer:
 右も左もメトロイドヴァニアばっかりになっちゃうわけですよ。

ファン氏:
 あとローグライク。

4Gamer:
 BICは,ちょっと今年それ系が目立ちましたね。

ファン氏:
 人件費とかも高くなってるし,費用が昔よりは色々高いじゃないですか。だからちょっとでも確信が持てる形を作っていくのかな,と思いました。
 デイヴ・ザ・ダイバーは一応成功してますし,ネクソンで資金も出してます。もしここで僕が,昨今のインディーの悪い例と似たようなことをしたら,「オマエもか」という感じになっちゃう。

4Gamer:
 うーんそれは難しい問題ですね。韓国に限らず,日本のメーカーも欧米のメーカーも,粛々とそういう方向に進んでいる側面もありますし。

ファン氏:
 ゲームデザイナーでも,ときどきほかのゲームを参考にして持ってくるんですけど,「差別化のための差別化をしちゃいけない」と思うんです。

4Gamer:
 クリエイター全般的に陥りそうな罠ですね。

ファン氏:
 ええ。何かユニークなものを作りたいという考えが強くなってしまうと,今まであった「いい文法」をわざと避けてしまうんですよね。これは本当にやっちゃいけないことだと思います。
 先輩たちが作り上げてきた「過去のいい遺産」をちゃんと勉強する必要があると思いますよ。でも,何かの拍子に,FGTとかの結果が悪く出ると,だんだん今の文法を使い始めて戻っていくんですけど。

4Gamer:
 でもまぁ正直,王道を軽視する……というかそこから外れようとするのは,クリエイターなら一度は陥るトラップだと思うんですよね。はやり病的な。

ファン氏:
 まぁそうかもしれませんけど(笑)。
 例えばテストの結果が悪いとして,それは素材が悪いのか,バランスが悪いのか……単にインタフェースが悪いということもあります。このボタンを押してシステムが理解できれば,すごく滑らかにプレイが進むのに,単に「New!」がついてないからそのボタンを押すことなく,みんな分からないままプレイして全然面白くない,という評価が出たケースもあります。
 だからって作ってる側がそこで自信がなくなっちゃってほかのゲームを持ってきたら,僕は「ダメ」って言いますね。インタフェースを変えなさい,と。

4Gamer:
 ホントUIとかUXって最近軽視されがちな気がしています。メニュー構造とかがひどくてどこにあるのか咄嗟に理解しづらいとか。

ファン氏:
 そういうのありますよね。内部のクリエイトのプロセスとしても,まず絶対にゲームの仕組みとかデザインを変えないで,インタフェースとテンポとバランス,これらを変えてみようということにしています。

4Gamer:
 やっぱりだいぶ変わります?

今年はちょうど,スーパーマリオ40周年なのだ
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ファン氏:
 スーパーマリオで,マリオの歩く速度が1.2倍くらい速いことを想像してみてください。全然違うゲームになるでしょう? きっと。逆に0.8倍だったら,それはそれで全然ゲームになってると思います。
 そのすごく微妙な調節もちゃんとやって,全部いじってみてダメだと判断したら,これは没にしようと。

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 ファミコン用ソフト「スーパーマリオブラザーズ」の発売から,本日(2025年9月13日)でちょうど40周年。そこで,同作の全32コースのマップから見えてくる,ファミコン時代ならではの工夫や,プレイヤーの上達を促す巧みな作りを紹介しよう。

[2025/09/13 10:00]

4Gamer:
 でもそういうときは,大体みんなイージーな方に逃げますよね。改善する努力をすることなく「○○が悪い」「じゃあ仕方がないですね」。

ファン氏:
 そうなんです。みんな壁に当たると,すぐ逃げるんですよ。
 日本語でうまく言えないんですが,なんかかっこいい言葉を使ったことにしてください。「壁から逃げるな」とか(笑)。

4Gamer:
 そのまんま書いておきますよ(笑)。


デイヴの「銛」も,最初はダメ出しから―――物事の改善は手触りから始まる


ファン氏:
 成功のための手段はありますからね。
 僕が「エビルファクトリー」を作る時は,全然成功の経験とかなかったんです。なのでその時に何をやったかというと,まぁそれもファイナンス的には成功じゃないんですけど(笑),自分がやってたのは結局バランスとテンポとインタフェースだったんです。
 ボス戦だけやるモバイルゲームだったんですけど,最初のテストで結構バッシングされたんですよ。コントロールが悪いとか。当時のNEOPLEの社長にも呼び出されました。「なんでこれ変えないの?」って言われたので,僕は10件以上の改善経緯を報告したんですけど,そしたら「じゃあ,いいか」って(笑)。

4Gamer:
 あれそういうゲームだったんですね。実はやったことなくてすみません。

ファン氏:
 いえいえ。
 で,シューティングゲームみたいにキャラクターがちゃんと指と一緒にリニアに動けば,すごく簡単にその問題を解決できるんですよ。でも,キャラクターの「歩き感」を出すためちょっと遅れてついてくるようにしていたので,そこの微妙なバランスさえつかめば面白さが通じると思って,そればっかり何か月もやってました。
 実はデイヴ・ザ・ダイバーも,銛(もり)の部分が,最初の内部評価はよくなかったです。

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4Gamer:
 でも今ではかなりいい感じですよね,あれ。

ファン氏:
 そこも1か月くらいそれしか見てなかったので(笑)。
 銛が撃ち出されて,ヒットして戻るタイミングが完璧になれば,これも絶対面白くなると考えて,ずっとそこだけ見てました。結局1か月後には「これ面白いね」と言われたので,よかったです。そこで諦めて「銛じゃないものにしよう」となったら,全然違うゲームになるわけじゃないですか。そういうことはやらないようにしています。

4Gamer:
 僕がアクションゲームがあまり得意じゃないのもありますが,当たりづらそうなんだけど,いい感じに当たって,でもやっぱりいい感じに外します。すごく楽しいですよあれ。

ファン氏:
 はい。そこが難しいんですよ!
 でもこういうことは,ちょっと壁に当たると避けちゃうんですよね。うまくいかないことを避けて,銃に変えたり,他のものにしたり。その誘惑がすごいんです。
 今までの優秀な先輩たちが作った“正解”があるわけで,僕というすごく平凡な人間が新しいものを作ろうとしているので,なんていうか疑惑もすごいわけです(笑)。

4Gamer:
 疑惑って(笑)。まぁでもそうか,1か月もやってたんですね。銛。

ファン氏:
 ほんとに1か月くらい,ずっとそれだけやってました。

4Gamer:
 正直なところ,最初にプレイしてるとこを見た時に,狙いづらそうで当たりづらそうだなぁ……って思ってたんですけど,いざやるとそうでもない。もちろん外すけど難しいというほどではないので,うまく作ってあるなぁ,と素直に思いました。

ファン氏:
 僕のソウルが入ってますから(笑)。
 でも現実世界でも,銛で魚を取る方っているし,ダイビングしてる方でそれが面白いっていう方も結構多かったです。あと,YouTubeとか見てもそれ自体が面白く見えたので,現実のこれが面白いのに,僕のゲームの中で面白くなかったらそれは僕のせいだと思ってたんですよ。
 そこが,現実に基づいたゲームの特徴です。ですので僕の作るゲームって,中世とかファンタジーとかそういうのがないんですよね。

4Gamer:
 おお,なるほど。

ファン氏:
 全部現実に基づいていて,現実で面白いものがここで面白くなかったら自分のせいだという強い思いがあります。だからって完全に同じだったらたぶん面白くないと思うんですけど,元が「いいネタ」じゃないですか。
 ワイヤーがついた銛で魚を捕るなんて,もうそれだけで面白い。それをうまく「ゲーム」にするのは自分の役目だと思うので,確信というものもそこから出ると思いますね。自分に対しての確信じゃなくて,現実のものが面白いから面白い,という確信。

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4Gamer:
 クリエイター兼社長……じゃないけど,ファンさんがそういう人だからたぶんできることであって,普通の雇われ社長がポンと上にいたらどうかな,と気はしますね。そこはミントロケットの強みなのかもしれない。

ファン氏:
 なるほど。
 こういうのって,自分が確信を持ちすぎると,ダメだったときに周りのせいにしちゃうんですよね。一定部分まで進んだら,離れてビジネス目線にしないといけないんですけど,僕にはそういう経験があるので,ネクソンはそこを考慮したんじゃないかと思っています。
 単にゲームを作るのがうまいから子会社を1個あげるよ,というのは難しいと思うんですよね。

4Gamer:
 まぁそれでうまく動くことはほとんどないですし。

ファン氏:
 なので最初にその提案があった時,すごく驚いたんです。デイヴ・ザ・ダイバーが成功したからといって,こうやって子会社にするという事例はなかったので。
 なんでこういう提案をしてくれたのかと考えると,やはりそういう部分があると思うんです。

4Gamer:
 ゲーム開発とか,まぁメディアの記事とかもそうですけど,なんかこう,明文化しづらい説明しづらいものを「上に説明する手間と労力」を考えると,社長を兼務してるのって本当にラクだと思いますよ。

ファン氏:
 本当にそうですね。苦しいんですけど,大いにプラスはあります。
 いまも言ってましたが,僕が考えてるすごく微妙で具体的でないモノを,雇われ社長さんに話すのってすごく難しいと思うんです。どういうゲームなのかというのは,結局のところ80%くらいまで開発が進まないと見えてこないと思うんです。

4Gamer:
 そこまで説得し続けるのはちょっと厳しいですね。

ファン氏:
 自分を説得して自分で動けるんだから,すごくいいチャンスだと思います。社長はつまらないとか,作るのは苦しいとか,そういうのはいろいろあるんですけど,でもとてもいい状況だと思ってます。

4Gamer:
 でも,今日話聞いて,僕もほんとそう思いましたね。イヤイヤ社長をやってるのかなと思ってたんですが,そうでもなさそう?

ファン氏:
 イヤですよ(笑)。どう考えたって,デイヴ・ザ・ダイバーのディレクターというほうが面白いです。
 海外のゲームショウとかに行っても,デイヴ・ザ・ダイバーのディレクターって言うとみんな「おお!」って言ってくれるんですけど,ミントロケットの社長って言ってもシーンって反応ないし(笑)。

4Gamer:
 大丈夫です,これからは僕が反応しますよ(笑)。
 まぁでも社長なんてそんなものでしょう。

ファン氏:
 でも,さっき言ったように「説明のコスト」を省けるのが本当に素晴らしいです。

4Gamer:
 僕も同じです。メディアは特に原価と売り上げの間の相関関係が割と薄いので,このTGSとかを数百万円もかけて取材する意味はあるのか? と聞かれたら説明が超面倒くさいですもん。似たような感じだなぁと思いながらずっと話してました。
 ……とか言ってたらもう時間になってしまいました。実はですね,本当に聞きたかったことはあんまり聞けてないんです! 次またどこかでもう一度お話しましょう。まだまだ聞きたいことありますよ。

ファン氏:
 それはいいんですけど,今日雑談しかしてないような? これで書けますか?

4Gamer:
 余裕です。

ファン氏:
 ならよかった。
 楽しかったですよ。普通のゲームメディアの皆さんって「次はどういうゲームを作りますか?」とか「何月ごろ出ますか?」とか「売上はいくらくらいですか?」と聞いてくるんですけど,そういうことを全然聞いてこないので気が楽でした(笑)。
 ありがとうございました。

4Gamer:
 こちらこそありがとうございました!

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――2025年9月27日
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