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「PAYDAY」の生みの親が贈る野心的な協力型FPS「デン・オブ・ウルブズ」――その背景世界と目指すものとは
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印刷2024/12/21 11:15

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「PAYDAY」の生みの親が贈る野心的な協力型FPS「デン・オブ・ウルブズ」――その背景世界と目指すものとは

 「PAYDAY」シリーズの生みの親として知られるUlf Andersson氏が率いるスウェーデンのデベロッパ10 Chambersは,ロサンゼルスで開催したプレス向けイベントで,新作「デン・オブ・ウルブズ」の詳細を公開した。本稿ではイベントで発表されたデン・オブ・ウルブズの詳細と,10 Chambersの共同設立者であり本作でAudio & Music Directorを務めるSimon Viklund氏に行ったインタビューの内容をお伝えしよう。

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スタジオの歴史と「GTFO」


プレスイベントの会場となったJW Marriott Los Angeles L.A. LIVE
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 10 Chambersは2015年に設立された比較的若いスタジオだ。Andersson氏を中心に,ゲーム業界のベテラン開発者たちが集結して立ち上げられ,2020年にはTencentからの投資を受けて現在は100名規模にまで拡大している。
 スウェーデンのストックホルムを拠点とする同スタジオは,開放的な社風で知られており,来訪者を積極的に受け入れ,オフィスでの料理や食事を通じた交流も大切にしているという。この文化は,チームワークを重視する彼らのゲーム開発哲学とも通じるものがある。

 彼らの処女作「GTFO」は,開発者が「作るべきだったゲーム」として位置付けている。大手スタジオでの開発に飽き足らなかった彼らが,純粋に自分たちの作りたいゲームを追求した結果の産物だという。手厚いチュートリアルを排除したハードコアな協力プレイFPSとして,コアなプレイヤー層から高い支持を得ることに成功した作品だ。

10 Chambersの処女作となった「GTFO」
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 開発チームは当初,このような挑戦的なタイトルがどれほどの支持を得られるか確信が持てなかったという。しかし,結果として彼らの追求した理想は,確かな市場ニーズと合致することが証明された。

 「GTFO」の開発では,独自の「Rundown」システムを採用した。Rundownは,新しいキャンペーンがリリースされると,それまでのキャンペーンは削除される仕組みで,常に新鮮な体験を提供し続けた。2019年のアーリーアクセス配信を経て,2021年に正式版をリリース。以降もアップデートを重ね,現在では100時間以上プレイできるコンテンツへと成長している。この成功体験は,新作の開発にも大きな影響を与えているという。


「デン・オブ・ウルブズ」――AIが支配する未来


 一方,今回紹介された新作「デン・オブ・ウルブズ」は,「必ず作らねばならないゲーム」として位置づけられている。Andersson氏が10年以上温めてきたアイデアを具現化したものだ。スタジオの規模も,この野心的なプロジェクトの実現に向けて最適化されてきた。開発チームは,このゲームこそが彼らの真価を問うことのできる作品になると確信している。


 物語の背景となるのは,AIテクノロジーの急速な発展がもたらした負の側面だ。2030年代初頭,AIを駆使したサイバー攻撃によって世界中の金融システムが機能不全に陥る。高度に発達したAIは,あらゆるセキュリティシステムを突破し,デジタルネットワークを自在に探索。その結果,銀行口座は略奪され,株式市場は暴落,個人情報の大規模な流出による成りすまし犯罪が蔓延する。さらに,フェイクニュースや情報戦が世界を混乱に陥れ,戦争の危機すら迫っていた。この設定は,現代社会における技術発展への不安を反映したものでもあるそうだ。

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 この未曾有の危機に対して,テクノロジ企業や防衛産業,製薬会社,石油メジャー,金融機関などの大企業連合が解決策を提示する。それは太平洋上のミッドウェー環礁に,行政規制や法的制約から完全に自由な「イノベーションゾーン」を設立するというものだった。

 「規制の免除」という表現で糊塗されたこの提案の本質は,企業が法律を超越する特権を得ることを意味していた。倫理基準や人権に関する制約すら,技術革新の名の下に無視することが許される空間の創出だ。民主主義国家にとっては受け入れ難い提案だったが,経済崩壊の危機に直面して各国は譲歩を余儀なくされる。この展開は,危機に際して民主主義が持つ脆弱性を鋭く指摘している。

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 2035年,ミッドウェー環礁に設立された特区は,画期的な技術革新をもたらす。人間の脳を模倣した革新的なデータ通信・保存技術の開発に成功し,これによってAIの侵入を完全に防げる唯一の安全なITインフラが実現する。皮肉なことに,人間の脳を模倣することで,AIによる攻撃を防ぐという解決策にたどり着いたのだ。

 こうして誕生した「ミッドウェイ・シティ」は,グローバルな金融システムを統合する神経中枢として機能し始める。アメリカとアジアの中間に位置する地理的利点も相まって,またたく間に国際貿易の中心地として発展。企業の威信と覇権をかけた熾烈な競争の舞台となっていく。表面的な繁栄の裏で,産業スパイ活動,サボタージュ,暗殺といった陰謀が日常的に渦巻く世界が形成されていった。

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 そんな2097年のミッドウェイ・シティを舞台に,プレイヤーは企業の非公式な「依頼」を請け負う犯罪請負人として活動することになる。競合他社からの機密プロトタイプの窃取や,スキャンダルの暴露による株価操作,重役暗殺まで,依頼内容は多岐にわたる。プレイヤーには創造的なアプローチが求められ,目的達成のための手段は比較的自由に選択できる。


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 本作の大きな特徴として挙げられる「Prepミッション(準備ミッション)」は,ハイスト(強盗)ゲームに新しい次元を加える試みだ。本番の「ハイスト」に向けて,建物の設計図の入手や警備システムの脆弱性調査,従業員の行動パターン分析,内部情報提供者との接触など,さまざまな下準備が必要となる。

 これらの準備は,それぞれが約20分で完了する独立したミッションとして設計されている。プレイヤーは自分たちのスケジュールに合わせて柔軟に準備を進めわれるわけだ。
 開発チームは「明後日の大きなハイストに向けて,今夜と明日は準備をしよう」といった計画を立てられることを想定しているという。一晩ですべてを終わらせるのではなく,じっくりとハイストを組み立てていく過程自体を楽しむことができる設計だ。

 ミッドウェイ・シティは複数の「ディストリクト」で構成されており,それぞれが独自の特徴や文化,支配企業を持つ。これは現代の大都市における,コリアタウンやリトルトーキョーといった区画の未来版ともいえるだろう。各ディストリクトは,その地域を支配する「創設企業」の影響を強く受けており,建築様式から社会システムまでが企業カラーを反映している。

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 アーリーアクセス版で実装される「プロミス・ディストリクト」は,AIと監視技術を得意とする企業コングロマリット「USTMAN SACS」が支配する地区だ。エリートゾーン,中間区画,下層区域という階層構造を持ち,厳格な社会信用システムによって管理されている。テクノロジーの進歩と社会の崩壊が同居する様は,企業支配下の都市の暗部を象徴している。

 開発チームは,各ディストリクトが独自のストーリーラインを持つことを強調していた。単なる舞台背景ではなく,そこに住む人々の生活や文化,抱える問題など,場所自体が物語を語る設計を目指しているという。

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Simon Viklund氏が語る「デン・オブ・ウルブズ」のビジョン


4Gamer:
 よろしくお願いします。では最初に,「PAYDAY」シリーズや「GTFO」といった既存の協力型FPSと比較して,どのような進化を目指しているのかを教えてください。

Simon Viklund氏(以下,Viklund氏):
 私達にとって重要なのは,より創造的になることを許容することです。興味深いシナリオ,武器,ガジェット,敵タイプなど,さまざまな要素を自由に発想できる環境が必要でした。「デン・オブ・ウルブズ」にSFの要素を取り入れたのは,そうした創造性を解放するためなんです。

4Gamer:
 なるほど。未来都市ミッドウェイ・シティの設定には,何か社会的なメッセージが込められているように感じますね。

Audio & Music Directorを務めるSimon Viklund氏
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Viklund氏:
 私たちは政治的なメッセージを前面に押し出すつもりはありません……,ですがすべてのものは何らかの形で政治的ですよね。このゲームでプレイヤーが感じ取るであろうことは,世界の暗部です。我々が“後期資本主義"と呼ぶもの,つまり利益を追求しすぎた企業の行き過ぎた支配で,その暗い側面を描いています。

 プレゼンテーションでも述べた通り,プレイヤーを"世界を救う英雄"として描くつもりはありません。むしろプレイヤーは,企業の悪事を手助けする"道具"となるわけです。ただし,プレイヤーの皆さんは十分に賢明で,人を殺したり,人質を取ったり,物を盗んだりすることが良いことではないと理解してくれるはずです。

4Gamer:
 かなりダークな設定ですが,ゲーム内のミッションは現実の出来事からもインスピレーションを得ているものもあるのでしょうか。

Viklund氏:
 ええ,後期資本主義的なストーリーは,自分たちで考え出す必要すらないんです。現実の世界で企業が実際に行ってきたこと,あるいは現在も行っていることを,企業名を変えつつアレンジして利用するだけで十分なんですよ。プレイヤーは「なんてひどいことを」と感じるでしょうが,実はそれが現実に起きていることなんです。その意味で,このゲームは政治的かもしれません。ただし,説教じみた内容にはしたくありません。シナリオの中に真実を埋め込む,という形を取っています。

4Gamer:
 SFとハイストゲームという,一見異なるジャンルの組み合わせについてはどのように考えていますか。

The Game Awards 2024の終了後,「デン・オブ・ウルブズ」のドローンショーが行われた
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Viklund氏:
 最初の質問への回答とも重なりますが,SFを導入した主な理由は,私たちの創造性に制限を設けたくなかったからです。何でもできる可能性を確保したかったんです。一方でハイストというコンセプトは,協力型ゲームにとても適しています。計画があり,全員で協力してその計画を実行する。明確な目標があり,明確な敵がいる。

 私たちにとって,この組み合わせは意外なものではありませんでした。むしろ自然なものに感じています。「PAYDAY」や「GTFO」とは異なる体験を作りたかった。この2つのジャンルやコンセプトを組み合わせることで,それが可能になると考えています。

4Gamer:
 準備ミッションからメインのハイストまでの流れについて,もう少し詳しく教えてください。

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Viklund氏:
 実は,"典型的な"流れを作ることは避けようとしています。もちろん,ある程度の構造は存在します。ハイストは最初から挑戦できるものではなく,装備や情報を集めるための準備ミッションが必要になります。しかし私たちが本当にやろうとしているのは,異なるタイプのストーリーラインを可能にするルールセットの作成なんです。

4Gamer:
 具体的にはどのような違いが出てくるのでしょうか。

Viklund氏:
 例えば,あるストーリーラインでは多くの準備ミッションと複数のハイストが連続するかもしれません。別のストーリーラインでは準備ミッションが少なく,時間をかけてじっくりとミッションを選んでいく展開もあり得ます。さらに別のケースでは,誰かに追われながらハイストを完遂しなければならない,そんな状況も考えられます。

 一つのミッションを選択すると,ほかのミッションが利用できなくなることもあるでしょう。私たちは単にFPSレベルでの面白さだけでなく,ミッション選択自体に意味のある決断を組み込もうとしているんです。つまり,毎回同じような展開にはしたくないんです。プレイヤーの期待を裏切る,というと語弊がありますが,予想外の展開で楽しませたいですね。

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4Gamer:
 なるほど。では,ストーリーラインには明確なエンディングが用意されているのでしょうか。

Viklund氏:
 各ストーリーラインはハイストで終わります。ゲームの拡張は,同じストーリーラインを延長するのではなく,新しいストーリーラインを追加する形で行う予定です。異なる企業があなたを雇い,新しいタイプのミッションや別種のハイストを依頼する,そんな展開を考えています。

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4Gamer:
 では,ミッドウェイ・シティの各区画について,もう少し具体的に教えてください。

Viklund氏:
 各区画にはそれぞれ異なる文化や人々が存在し,建築様式も異なります。法執行機関も区画ごとに異なる企業が運営しているため,その性質はさまざまです。ある区画は監視カメラが至る所にある抑圧的な社会かもしれません。ただし重要なのは,どの区画も完全に均質ではないということです。

4Gamer:
 それはどういう意味でしょうか。

Viklund氏:
 例えば"スラム地区"といっても,その区画だけにスラムがあるわけではありません。すべての区画に程度の差こそあれスラムは存在します。富裕層の居住区域も同様です。各区画はそれ自体が一つの都市のように,貧困層から富裕層まで,社会のすべての層を含んでいるんです。

4Gamer:
 未来技術の描写について,何か参考にした作品はありますか。

Viklund氏:
 「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」や「ブレードランナー」,「インセプション」「ブラック・ミラー」などから影響を受けています。ただし,最も重要なのは面白いゲームを作ることです。面白いシナリオを作るために必要な概念であれば,積極的に取り入れていきたいですね。

4Gamer:
 SF要素の導入により,従来のハイストゲームでは実現できなかった,どのような体験が可能になりますか。

Viklund氏:
 より多くのダメージに耐えられるロボットのような敵や,ポータブルフォースシールド,スパイダードリルといった未来的なガジェットが実装できるようになりました。さらに,ニューラルネットワークを使って誰かの心の中に入り込み,記憶の世界で活動する……そんなシナリオも可能になるでしょう。

4Gamer:
 かなり大胆な展開ですね。

Viklund氏:
 ええ,クリエイティブに制限を設けたくなかったんです。これまでに実装したアイデアは,可能性のほんの一部に過ぎません。デン・オブ・ウルブズの世界観を作る際に最も重要視したのは,将来思いついたどんなアイデアでも取り入れられる自由度の高さでした。

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4Gamer:
 デン・オブ・ウルブズは,協力プレイを重視しているようですが,シングルプレイでも楽しめる作品になりますか。

Viklund氏:
 技術的には一人でプレイすることは可能かもしれませんが,それは本来の楽しみ方ではないと考えています。シングルプレイヤーゲームを楽しみたい人には,素晴らしいシングルプレイヤーゲームを作っている他社の作品をお勧めします。私たちは徹底的に協力プレイに焦点を当てているんです。

4Gamer:
 なるほど。では,初対面のプレイヤー同士でも楽しめる作品になりそうですか。

Viklund氏:
 その点は特に気を配っています。本作は協力プレイゲームを楽しんでいる固定チームへの“ラブレター"のような作品ではありますが,初対面のプレイヤーでも楽しめるよう設計しています。異なる言語を話すプレイヤー同士でも,ゲーム内のコミュニケーション手段で言語の壁を越えられるようにしたいですね。

4Gamer:
 世界の人達と一緒に遊ぶとなると,日本人には言葉の壁が大きく立ちはだかりますから,期待しています。では最後に,このゲームを通じて10 Chambersが伝えたいメッセージを教えてください。

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Viklund氏:
 協力することで成功できる,というのが一番のメッセージですね。物語的には確かに暗い未来を描いていますが,私たちはAIを恐れているわけではありません。AIは有用なツールですが,人間がプロセスの一部となることが重要だと考えています。アートや音楽の創作でも,防衛システムでも同じことが言えるでしょう。AIにすべてを任せるのではなく,人間がAIの提案を適切に選別し,活用していく,そんな未来を想像しているんです。

4Gamer:
 貴重なお話をありがとうございました。

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 「デン・オブ・ウルブズ」は,「PAYDAY」シリーズを生み出したUlf Andersson氏率いる10 Chambersが,約10年の構想期間を経て開発している意欲的な協力型FPSだ。2097年の未来都市ミッドウェイ・シティを舞台に,プレイヤーは企業の非合法な依頼を遂行する犯罪請負人となる。
 開発チームは,「後期資本主義」の暗部を描きながらも説教めいた内容は避け,プレイヤー自身に考えさせる物語を目指しているという。各ディストリクトが独自の文化や社会構造を持つ設定や,多様なストーリーラインの展開も用意されており,長期的なプレイを楽しめる作品となりそうだ。
 徹底的な協力プレイ重視の姿勢や,言語の壁を越えたコミュニケーション手段の実装など,グローバルなプレイヤーベースの構築も視野に入れているという。なお,2025年3月には本作をプレイできるメディアツアーが実施される予定だ。東京でも開催されるということなので,あらためてゲームプレイについてお伝えしたい。

「デン・オブ・ウルブズ」公式サイト

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    デン・オブ・ウルブズ

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