
プレイレポート
[プレイレポ]そこにあったのは,ジャンルへの愛。スタミナの概念を撤廃した「AI LIMIT 無限機兵」は,いかにして新たな駆け引きを取り入れたのか
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AI LIMITは,アニメ風のルックスを取り入れたグラフィックスと,退廃的ながらも美しい世界観が特徴のソウルライクアクションRPGだ。2021年からしばらく音沙汰のない状況が続いていたが,2024年に開発が“再始動”を発表。大幅にクオリティを高めて帰ってきた,という経緯を持つ。
ちょっと不穏なものを感じる人もいると思うが,実際のところはどんな作品になったのか。今回は正式リリース直前のバージョンに触れることができたので,ひととおり遊んでみての所感をお届けしていこう。
「AI LIMIT 無限機兵」公式サイト
スタミナを撤廃した“だけ”ではない
「シンクロ率」がゲームに与える影響とは
物語の舞台となるのは,「黒き泥」の侵食によって崩壊した未来世界。プレイヤーは記憶を失った機兵アリサとなり,世界に点在する「晶枝」(しょうし)を修復する旅に出ることになる。
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ストーリーの表現はスッキリしたもので,すぐにプレイヤーへと操作を委ねてくれる。黒き泥とは何なのか,なぜアリサは晶枝を修復するのか,そもそも泥から生まれた機兵とはなんなのか――といったさまざまな疑問は,今後出会うキャラクターたちとの会話のなかで明かされていく。
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基本操作や探索,成長の流れなどは,「DARK SOULS」シリーズのそれを想像すればだいたい合っている。ボタン配置もそれを踏襲した形式になっているので,過去にそれらに触れた経験があればスムーズに操作に馴染めるはずだ。
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明確な違いは,アクションの基盤となるリソースの管理システムにある。「DARK SOULS」や「ELDEN RING」ではスタミナというリソースによって種々のアクションに重み付けをしていたが,本作ではかわりに「シンクロ率」と呼ばれる概念が取り入れられている。
シンクロ率は攻撃力と防御力に影響を与える数値で,最大値(100%)であれば各ステータスが強化されるが,一定以下になると逆に弱体化してしまう。そして,通常攻撃をヒットさせると上昇し,ダメージを受けたり,強力なスキルを実行したりすると低下していく。
なかなか面白い駆け引きを作り上げているシステムなのだが,仕様だけ聞いてもピンとは来ないだろう。結論だけを述べるならば,シンクロ率は“ソウルライク的な高難度アクション”のゲームバランスを保ちつつ,強力な技を楽しく運用するためのシステムだといえる。
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前提として,シンクロ率は簡単に上限に達する。休憩後は100%から始まり,低下しても50%までは自動回復するので,よほどの連打を受けなければ枯渇の心配はない。加えて通常攻撃による回復量もそれなりで,数回ダメージを受けた程度であれば,3〜4回ほど通常攻撃を当てれば80%前後を維持できる。
そのかわり,低下時の弱体化は致命的で,対するステータスの強化幅はさほど大きくない。シンクロ率が0%に達すると,一定時間動きが止まるという特大ペナルティを受けるので,そうなる前に相手の動きを見極めなければいけない。
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これだけなら,初心者にとっては窮屈で,上級者にとっては無意味なシステムで終わってしまうのだが,シンクロ率のもう1つの役割「特殊アクションの発動コスト」によって,システムの歯車がガッチリと噛み合ってくる。
このゲームの特殊アクションは,どれもビックリするくらい強力なのだ。シンクロ率を消費する特殊アクションには,共通システムの「ガード」や「Cフィールド」(パリィ)に加えて,1つだけ装備できる「スペル」,装備している武器固有の「スキル」などが含まれるが,そのすべてが強い。
たとえば,一番最初に手に入る武器の1つには,ヒットさせればボス級の相手も確実にひるませる強烈なスキルが付与されている。初心者にとってはこれがボス撃破の突破口となり,上級者にとっては武器の使い分けに意味が出る,楽しいオモチャになるというわけだ。
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シンクロ率のシステムは,戦いに独自の駆け引きを生み出すだけでなく,ジャンルが抱える難しいジレンマを解消する手段としても機能しているように感じられた。それが「雑魚戦の爽快感」と「ボス戦の緊張感」の両立である。
まず,シンクロ率は回復が容易なリソースであるため,道中での消耗をためらう理由がない。ボスにも十分な効果を発揮してくれる強力な技を,そのへんの雑魚に向けて遠慮なくブン回せるのは爽快のひと言。扱いに慣れれば,1対1の雑魚戦で負けることはほとんどなくなるだろう。
一方で,ボス戦ではスキルを連打できない。シンクロ率の保持上限は100%で固定であるため,いくらか使ったなら回復(通常攻撃を当てる)の手順が必要になるのだ。どんなに強いスキルを持っていても,ある程度はボスのアクションを覚えて対応しなければいけない。
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通常,強いアクションに適切な制限をかけると運用が難しくなり,制限を緩めるとゲームバランスの問題が出てしまう。そこで本作は“通常攻撃によって回復するリソース”を中核に置き,発動直後の能力低下をリスクとして設定することで,うまくゲーム攻略全体に爽快感をもたらしているのだ。
このシステムはかなり綺麗に作用しており,どんな場面でも楽しく戦闘ができた。ほとんどの仕様に一貫性があり,それぞれのメカニズムが噛み合ったバトルシステムのおかげで,気持ちよく試行錯誤を繰り返せる。
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唯一の例外は,相手の攻撃を弾く汎用アクション「Cフィールド」(パリィ)だ。これはスキル以上に強力で,パリィに成功すれば強烈な反撃を叩き込める。雑魚の攻撃はもちろん,ボスの強力な攻撃にも対応しており,遠距離攻撃に至ってはそのまま相手に跳ね返してくれる。
起動時にシンクロ率を使用するが,成功すれば消耗が帳消しになり,そもそも反撃が確定するので余裕で消費をペイできる。猶予はやや厳し目に作られているようだが,タイミングを覚えればパリィと反撃だけでボスを倒すことも可能だ。
これはこれで爽快感があるのだが,仕様の一貫性にはやや欠けるように感じられた。失敗時に使うシンクロ率が低め,かつスキも小さいので,慣れればシンクロ率の概念をほぼ無視して遊ぶこともできてしまう。
ややもったいない気がしなくもないが,成功させるのはそれなりに難しく,パリィを重視したスタイルで遊ぶのもしっかり楽しいので,そこは好みに合わせて遊びかたを選ぶのがよさそうだ。
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探索,理解,成長の流れをより楽しく
全要素からあふれ出るジャンルへの愛
ソウルライク作品にもいろいろあるが,ジャンルを愛好するプレイヤーが求めているものは割とハッキリしているように思う。それは,ゲーム全体で「探索」「理解」「成長」の流れをスムーズに体験できることだ。
探索によって新たなマップやエネミーと出会い,挑戦の繰り返しによって構造や動きを理解し,キャラクターとプレイヤーの双方が成長していく。その繰り返しはゲーム攻略の根源的な喜びであり,ソウルライクはそれに特化したジャンルといえる。
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そういった意味合いでは,AI LIMITはそこまで革新的なことはしていない。そのかわり“ソウルライク的な体験”をより濃く味わえるように,深いこだわりをもって調整された作品だと感じられた。
もちろん,それは単に「難度が高い」という意味ではない。先に述べた基本システムとアクションの強さもあり,むしろジャンル全体でいえば簡単な部類だろう。
たとえば,本作のマップには大量の罠が用意されているが,きっちり警戒していれば初見でも対処できるように作られている。手の届かない高所から狙撃してくる敵がいたり,壁に張り付いた自走地雷が突然走ってきたりもするが,十分に警戒していれば即死することは稀だ。
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マップ構造はそれなりに複雑だが,随所に細かな配慮があり,非常にスムーズに探索を進められる。どれが開く扉なのかとか,ハシゴはどちら側から登るのかとか,プレイヤーがインタラクトできる要素は明瞭に示され,基本的に無駄足を踏まされることがない。
これは非常に理にかなった設計といえる。プレイヤーが味わいたいのは,自分の判断による危険な罠への対処や,新たな発見であって,開くかどうか分からない扉に駆け寄って,インタラクトボタンを押して回る作業ではないからだ。
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レベルアップや買い物に使う「クリスタル」周りの仕様も,かなり親切に作られている。クリスタルは主に敵を撃破したときに得られ,死亡時に一定量を喪失するが,本作では装備によって取得量と喪失量を調整できるのだ。
初期では「吸収量」と「保留率」が75%で,ゲームが進むと偏った割合の装備が出現する。腕に覚えのあるプレイヤーは吸収量が多いものを装備し,不慣れな人は保留率の高いものを装備すれば,攻略がスムーズに進むだろう。
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そのほか,チェックポイントとなる晶枝同士のワープが初期から解禁されていたり,マップに重要NPCが即座に書き込まれたりと,同ジャンルにおいて「こうだったらいいのに」と感じた要素が片っ端から盛り込まれている。
実際に遊んでみると,これらがゲームプレイの快適さに深く寄与していることが分かるはずだ。ちゃんと要所は難しいので何度も死んでしまうわけだが,失敗に納得感があるおかげでフラストレーションが溜まりにくく,挑戦への意欲がわいてくる。
もちろん,粗がまったくないわけではない。ロックオン距離の短さと優先度設定の微妙さにヤキモキさせられる場面があったり,誘導がやや不親切だったりと困る部分もあったが,本作の設計自体は“理想的なソウルライク体験”へと向いているように思う。小さな不満点については,正式リリース後のフィードバックを受けての調整に期待したいところだ。
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製品版に近いAI LIMITをじっくりと遊んでみて感じたのは,ソウルライクというジャンルへの深い愛。多彩な高難度アクションを十分に遊んだクリエイターが,その面白さを分析し,慎重に再解釈・再構築をしていったであろう痕跡がそこかしこに見える。そして,その試みは確実に一定の効果をあげている。
特にシンクロ率の仕組みは非常に興味深く,極めてシンプルなシステムを用いて,ゲームに許容される要素を大幅に拡大することに成功している。かなり尖った仕様なので,同ジャンルを好む人であればこその異論が出るかもしれないが,どんな感想が出るにせよ,一度触れてみて損のないタイトルだと思う。
残念ながら今回は最後までプレイできなかったが,開発チームによると,クリアまでのプレイ時間は30時間ほどになるとのこと。中盤までの密度感が保たれたままゲームが進むとすれば,価格帯を考えても十分なボリュームだといえる。
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なお,過去に掲載したプレイレポートでは,開発者に向けたインタビューも掲載している。本作のコンセプトや,参考にした作品などについても語られているので,AI LIMITについて深く知りたい人は合わせて読んでみてほしい。
スタミナの概念を撤廃した,気持ちよく動かせるソウルライク「AI Limit 無限機兵」をプレイ。発表から約5年,映像表現がより美しく進化

インディーゲームイベント「BitSummit Drift」のCE-Asiaブースに,Sense Gamesが2024年内に発売を予定している新作「AI Limit 無限機兵」が出展されていた。5年越しに“再始動”を果たした本作は,どんな姿に生まれ変わったのか。プレイレポートと開発者インタビューをお届けする。
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「AI LIMIT 無限機兵」公式サイト
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(C) 2024 AI Limit. Developed by Sense Games and Published by CE-Asia. AI Limit, CE-Asia, Sense Games and their respective logos are trademarks or registered trademarks. All rights reserved.
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