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[GDC 2025]“遊ぶ”気持ちが遊び心にあふれたゲームをつくる。「アストロボット」が生まれるまでの,10の惑星を巡る物語
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印刷2025/03/21 20:32

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[GDC 2025]“遊ぶ”気持ちが遊び心にあふれたゲームをつくる。「アストロボット」が生まれるまでの,10の惑星を巡る物語

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 「アストロボット」は,Team ASOBIが開発したPS5専用の3Dアクションゲームだ。PS5の機能を生かした操作感や遊び心の詰まったステージギミックとアクション,温かみのあるデザインなどが幅広い層に支持され,カジュアルプレイヤーから熱心なゲーマーまで楽しめる作品として高い評価を受けている。

 その開発の裏側には,ゲームプレイをおもちゃにするという,Team ASOBIならではの哲学と仕組みがあった。GDC 2025にて行われたディレクターのNicolas Doucet氏によるセッション「The Making of 'ASTRO BOT'」では,GDC 25銀河を巡るという,まるでアストロの“宇宙旅行”のような語り口で紹介された。
 思いと情報量が大ボリュームだったセッションをレポートしよう。

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 「アストロボット」を手がけたのは,PlayStation StudiosのひとつであるTeam ASOBI。「THE PLAYROOM」「Astro’s Playroom」など,新しいハードウェアの機能を活かした“遊べる技術デモ”を得意とするチームだ。2012年にSIE JAPANスタジオ内の小さな開発チームとしてスタートし,2021年の組織再編に伴ってファーストパーティのスタジオとなった。
 現在,東京オフィスには約65名が在籍。メンバーの約80%は日本人だが,12の国籍からなる多様な構成だ。

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惑星1:オリジナルピッチ──最初の一歩に込めたすべて


 「アストロボット」の企画が最初に社内に提案されたのは2021年5月。当時,すでにプロトタイプ開発が始まっていたが,ピッチ(ゲームの企画を社内に提案するためのプレゼンテーション)がトップマネジメントに届くまでに23回も修正が加えられたという。

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 プレゼン資料はなんとコミック形式。ゲームの世界観,ボットたちの救出という基本ループ,母船修理というメタゲーム的な構造などのすべてがストーリーテリングされたコミックとして描かれ,見ていて楽しくて想像力が湧く形でまとめられていた。

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 ピッチにおいて明確に定義されたのが,以下の4つのKey Pillars(中核となるコンセプトや価値観)だった。

  • Crafted Gameplay(精密なゲームプレイ)
  • 一秒一秒の操作が楽しいと感じられるように,徹底して磨かれたアクション。
  • Techno Magic(テクノ・マジック)
  • 物理演算やハプティクスなど,PS5の技術を駆使した“魔法”のような体験。
  • PlayStation Fiesta(PlayStationの祝祭)
  • PSの歴史やキャラクターをお祝いするような愛ある演出。
  • Overflowing Charm(あふれる魅力)
  • アート,アニメーション,音楽などで,自然と笑顔がこぼれる体験を目指す。

 この時点で,DualSense ワイヤレスコントローラーの技術を生かした遊びやキーコンセプトであるPrecision Theater Killer(精密な体験)のアイデアも盛り込まれていた。
 また,「God of War」のクレイトスを例に,PSの有名キャラクターを救出することで,そのキャラクターの能力を使える「特別な救出要素」のイラストも見られる。歴代PSや周辺機器が集う“あの”シーンもあり,「アストロボット」のさまざまな要素のアイデア自体は,開発初期からあったことがうかがえる。

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 水中やタイムストップなどの新しいアイデアも早い段階で試作され,小さなテストルームでいくつかのプロトタイプを並べた“体験型ピッチ”を制作。新しいアーティストやアニメーターが途中からでも参加しやすいように,アートの方向性をまとめたドキュメントも用意した。
 当初は開発チームを80人,開発期間は3年間で考えていたが,最終的には予算はそのままに65人ほどとなり,開発期間も3年半に延長。しかし,これは結果的にとても良い決断だったという。ゲームとより長く向き合う時間が増え,それがクオリティアップにつながったからだ。

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惑星2:アイデアの生み出し方


 Team ASOBIの開発現場には,常に“遊び”の考えが出発点としてある。
 新しいプロジェクトが始まると,まずはブレインストーミングからスタートする。セッションは5〜6人の小さなグループで行われ,参加メンバーはゲームデザイナーだけでなく,アーティスト,プログラマー,アニメーター,オーディオデザイナーなどさまざま。多様な視点から,意外性のある,より良いアイデアを生み出そうという考えだ。
 アイデア出しにはポストイットが使われ,素早くスケッチする力が重視される。1回のセッションでおよそ24〜36個ものアイデアが出るという。

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 このときに意識するのが「機能の組み合わせ」。例えば,DualSenseのジャイロ機能と流体シミュレーション技術を組み合わせて,「液体を注ぐように操作するギミック」を考えるというものだ。

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 オフィスの壁をアイデアアーカイブとして活用する手法も紹介された。昔ながらの方法と思われがちだが,アイデアを“空間”として視認できることが,チームの創造性を刺激してくれるそうだ。
 パンデミック期間中はこの方法が使えなかったため,代わりにデジタルギャラリーを導入した。しかしファイルを開いて探すことに手間がかかったり,直感的なアイデアを出しにくかったりしたため,リアル環境ほどの創造的な流れを作るのは難しかったという。

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 Team ASOBIでは,アイデアを「クラシック」と「奇抜」に分けてバランスを取っている。
 クラシックなアイデアは,過去のゲームに存在したものや,直感的に理解しやすいメカニクス。説明がほとんど不要で進められるが,それを際立たせるためには実装のクオリティを高めなければならない。一方,奇抜なアイデアは独創性や新鮮さが魅力だが,場合によっては世界観を壊したり,プレイヤーを混乱させたりするリスクもある。

 両方のタイプを意識的に生み出しながら,そこからプロトタイピングへと進んでいく。この段階にまで進めるアイデアは,それまでに出たうちのおよそ10%ほど。大量にアイデアを出すこと自体が,選び抜かれた良いプロトタイプを生むための土壌になる。

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惑星3:プロトタイピング


 Team ASOBIの開発において,プロトタイピングは非常に大きなウェイトを占めるという。実際,全体の開発期間の約3分の1がこの工程に費やされたそうだ。
 この段階では純粋に「楽しいかどうか」を追求する。プロトタイピングを適切に行えば,その後の開発が非常にスムーズになるからだ。例えば「相撲をテーマにした敵キャラクター」というアイデアが出た場合,仕様はシンプルに留めてビジュアルを中心にし,ゲームプレイに特化したものにする。

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 ブレインストーミングで形となったアイデアは,簡単な仕様書にまとめられてゲームプレイプログラマーのもとへと送られる。このとき,プログラマーにはいくつかの選択肢を提示するという。アイデアの数は膨大にあるので,何かを限定することなく,プログラマーが自分に合っているもの,得意とするものを選べるようにするためだ。

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 ここで特徴的なのが,Team ASOBI独自の開発手法だ。プログラマー自身がモデル,アニメーション,サウンド,ハプティクス,ゲームコードをすべて1人で担当する。これによって,アイデアの意図をそのまま形にできるだけでなく,他職種との調整に時間を取られずに素早く試行錯誤ができる。

 プレイ可能なプロトタイプが完成したら,それを元にアーティストがビジュアルを整えていく。この段階でも,プロトタイプで証明されたサイズや動きは尊重され,コアとなるゲームプレイは極力維持される。

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 このプロセスは敵キャラクターだけでなく,ギミックやエフェクト,さらにはハプティックフィードバックの表現や音響にも及ぶ。それがすべてゲームに採用されるわけではもちろんないが,決してそれは無駄にはならない。時間を空けてアイデアが活用される場合もあるし,開発中に得た知見や感覚は必ず次に生きるからだ。

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 Team ASOBIにとって「驚きの要素」をゲームに組み込むことは非常に重要であり,プロトタイプの段階でゲームプレイに関わるあらゆる要素をチェックし,そして試行錯誤をしている。そこには,ゲームプレイのプロトタイピングが成功すると,その後の開発が一気にスムーズもなるという理由もある。
 ゲームプレイがしっかりと確立されていれば,あとは「ゲームを美しく仕上げる」作業に集中できる。見た目を美しくするだけでも十分に大変な作業であり,しっかりとした基盤の上で進めることが重要なのだ。

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惑星4:レベルデザインの約束


 「アストロボット」では,すべてのレベルに“独自性”を持たせることが重視された。そのためにまず行われたのは,惑星ごとのテーマ決定。映画,昔話,ポップカルチャーなどを参考にしながら,そこにファンタジー要素を加えてオリジナルの世界観を作り出した。

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 全体のバランスを視覚的に確認するため,各レベルのコンセプトを壁に貼り出す作業も行われた。これにより,似たようなテーマの重複を避け,多様性を確保できる。またレベルデザインは基本的にゲームデザイナーが決定するが,視覚的なテーマが定まっていない場合はアート主導で制作され,それに合わせたレベルを決められることもあったという。

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 ゲームプレイについても,あるルールが存在した。それは「メカニクスは一度しか使わない」という制限だ。コストはかかるが,そのぶん新鮮な体験が持続し,各ステージに明確な特徴が生まれる。
 同じギミックが複数のレベルで使われている場合も,その表現や流れをしっかり差別化。逆に,似通いすぎていると判断された要素は,完成間近でも思い切ってカットされることもあった。
 それらはコストのかかる選択だが,前段階で非常に多くのプロトタイプを短期間で作成することができたため,結果としてゲーム全体をカバーするのに十分な数のメカニクスを確保できていたという。

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 そして何より重視されたのがテンポ感。良いテンポを持つゲームデザインとは,プラットフォーミングや敵との遭遇がリズムよく配置されていることを意味する。
 プラットフォーミング,敵の出現,チェックポイントの配置などが緻密に調整され,パンチ,パンチ,ジャンプ,パンチ,パンチ,ジャンプ,パンチで仲間のボットを救出……というように,プレイヤーが心地よいリズムで進めるように設計された。

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 操作ミスでのリトライも即時に行える設計で,没入感を切らさない工夫が随所に盛り込まれている。チュートリアルもゲーム進行を止めることなく,画面の片隅に小さく表示される形を採用。プレイヤーが正しい操作をすれば,自然に消えるように設計された。

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 もちろん音楽も,テンポ感を支える大きな柱の1つ。コンポーザーのケニー・ヤマモトが各惑星ごとのリズムや雰囲気を理解したうえで,ゲームプレイにぴったり合う楽曲を制作。音楽が,ゲームの"心臓の鼓動"を作り出す重要な要素として機能している。

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 テンポの良さを生み出す工夫は,最小限に抑えたカットシーンで見せるストーリー,アストロの「急がなきゃ!」と思わせられるような常にそわそわしているアニメーション,リアルタイム編集が可能な開発ツールなど,随所に施されている。テンポの良さは,単なるゲームデザインの要素ではなく,Team ASOBIの開発文化そのものなのだ。

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惑星5:おもちゃのようなゲーム体験


 「アストロボット」の開発を通じて,Team ASOBIが目指したのは「おもちゃのように感じられるゲーム」だった。表情豊かなアストロがゲーム内でアクションを起こすたびに,何かしらの反応がある。パンチすれば木が揺れる,草に触れれば光がともる。走り回っているだけでもなんだか楽しいという,そんな細かなインタラクションがプレイヤーに「もっと試してみたい」と思わせるきっかけになる。

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 この“遊びたくなる”世界を作るため,オブジェクトには極力リアクションを持たせ,背景のオブジェクトもできるだけ“キャラクター化”した。例えば,ただのジャンプ台がコミカルなキノコのように動き,パンチングバッグが逆さに跳ねたりと,プレイヤーの想像を超えるユーモアが盛り込まれている。

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 アニメーションチームは,本来の作業が終わったあと,“世界に命を吹き込む”作業に専念。ゲームの世界に豊かな感情表現をもたらした。
 NPCのような生き物たちが場面に応じてリアクションを変える「ワイルドライフストーリー」もそうして生まれたものの1つ。さっきまで遊んでいた動物が,敵が現れたことで怯えて隠れる。それをアストロが倒すと,ぴょんと出てきて楽しそうに遊びだす。そうしたリアクションがあるだけで,ゲームの世界がぐっと生き生きと感じられる。それらはステージをクリアすることだけではなく,ステージで遊んでいることが楽しいという体験へと昇華された。

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惑星6:シンプルさを保つこと


 Team ASOBIは開発初期から「大きなゲームを作る必要はない」という共通認識があり,「シンプルであること」を強く意識していた。
 短くても,濃密で,最後まで遊びきれるゲームこそ価値がある。ゲームのスケール,操作方法,演出に至るまで,“削る”ことによって体験の純度を高めていく。

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 操作面でも,DualSenseの18個のボタンのうち,メイン操作に使うのは左スティックと2ボタンのみ。一部のパワーアップに[L2/R2]を使用する場面もあるが,そこでも短押しと長押しを組み合わせ,直感的な操作性を実現した。

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 メニューやオプションも極力シンプルに保たれている。細かなカスタマイズはなく,直感で分かるUIにまとめられた。ボイスオーバーを排除し,全体のテキスト量も4292ワードに抑えられている。
 ワールドマップも整理され,90個近い惑星を銀河単位のカテゴリに分類。視覚的にも操作的にも迷わず進めるようになっている。

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 「削る勇気」を持ち,不要な複雑さを排除したことで,誰でもすぐに入り込めて,途中から他人が参加しても違和感なく遊べるゲームに仕上がった。
 小規模なゲームにすることで,チームは開発全体を完全にコントロールできる。プレイヤーの視点で言えば,短くて濃密な体験のほうが魅力的な場合もある。現代のプレイヤーは,多くのゲームを積み残してしまい,最後までクリアできないタイトルが増えているという現実がある。だからこそ「最後まで遊びきれるゲーム」には大きな価値があると考え,シンプルであることを心掛けたという。
 最初からコンパクトなゲームを作ることに迷いはなく,とくにGDCのようなゲーム開発者が集まる場では「小さなゲームを作るのは全然OKだ」というメッセージを伝えたいと話した。

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惑星7:異なるプレイヤー層への対応


 「アストロボット」は,ゲーマー層とカジュアル層の両方を視野に入れて設計されている。
 小さな子どもにとっての“最初のゲーム体験”になることも想定されていたため,最初のエリアでは自由に走り回れる安全地帯を多く設け,難しい操作を求めない構造にしている。本編は誰でもクリアできるちょうどいい難度で設計し,やり込みたいプレイヤー向けに高難度チャレンジも用意した。

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 ボットの収集もプレイヤー層に合わせて工夫された。「見えるけど取得に工夫が必要」「ユーモラスな演出」「特別な隠しボット」という3つのパターンで調整することで,探索と達成感のバランスを取っている。

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 ボットの配置も,最初のレベルに「ラチェット&クランク」を登場させることで親しみのあるキャラがすぐ目に入り,収集のモチベーションにつながるように設計。PSの人気キャラクターたちのボットも,多くの人が知るキャラクターは通常ステージで見つけやすいところに,コアゲーマーが好むキャラクターは高難度のチャレンジに配置するなど,やはりプレイヤー層に合わせた調整を行なったという。

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惑星8:ハードチャレンジとスピードラン


 プレイヤーのスキルに応じた挑戦要素として,スピードランも大きな柱となっていた。
 Team ASOBIにとってスピードランは新しい挑戦だったが,開発の中で自然とその魅力に引き込まれていったという。特定の地形やオブジェクトの“角”を使ったスキップルートなど,上級者向けの隠し要素を意図的に配置し,遊び込むほどに発見がある構造に仕上げている。

 チャレンジ用のステージでは,PlayStationのボタンマークをモチーフにした激ムズステージも用意された。これらは本編と切り離されたエクストラコンテンツとして,メインプレイヤーとハードコア層を自然に分けることに成功している。

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 こうしたチャレンジで入手できるPSキャラクターたちのボットは,「PlayStationミュージアム」で閲覧できる。ここでは,あえてオリジナルのキャラクター名を明示しなかった。それはプレイヤーに想像の余地を残すことで,幅広い層に親しまれるものにしようと設計したからだ。
 例えば家族であれば,オリジナルゲームを知る親はそのキャラクターに懐かしさを覚え,初めて出会った子どもは,どんなキャラクターなのだろうと想いを馳せる。そこで家族の会話が生まれ,「アストロボット」が世代をつなぐ場になるということだ。

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惑星9:フィードバックとレビュー文化


 開発中,Team ASOBIでは2週間ごとのレビューサイクルを徹底していた。これはチームの開発文化の核とも言える取り組みで,短いスパンで試行と改善を繰り返すことを目的としている。

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 各サイクルの初日(月曜)に計画を立て,2週目の金曜日には全メンバーが参加するハンズオンレビューを実施。ここでは,直近2週間で作られたすべてのコンテンツを実際にプレイして確認する。このプロセスを開発期間を通して,計103回繰り返したというから驚きだ。

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 レビューでは,まずゲームプレイ面を体験。その後,アート,オーディオ,テクニカルの各セクションに分かれて内容をチェックしていく。最後に「I Like / Let’s Improve」というセッションが設けられており,全員が“良かった点”と“改善点”を1つずつ挙げる。これは品質を評価するのではなく,「問題を話すことが当たり前」という考えで,チーム全員が本音を言える場を作るという意味もある。
 これにより,誰もが自然に意見を出せる空気が生まれ,「チーム全員でゲームを育てていく」意識が根づくのだ。

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 レビュー後の金曜午後は自由時間として活用される。仕事のあとの“遊び”を大事にしたのだ。業界トレンドのゲームを遊んだり,新しいアイデアをブレストしたり,ときにはそのまま作業時間にあてることも。ただのレビューに留まらず,文化として定着したこのサイクルが,Team ASOBIの一体感とクリエイティビティを支えていた。

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惑星10:成功の裏にあるもの


 大ボリュームの情報量のセッションは,最後のシークレット惑星に。そのテーマは「失敗からの学びと,開発を通じて得たもの」だ。

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 Team ASOBIは「アストロボット」の開発を通じて,成功だけでなく,多くの課題からも学びを得た。
 例えばオープンレベル(自由度の高いステージ)の設計は,自由に動き回れる分,テンポの維持が難しく,結果として一部レベルのカットを余儀なくされた。またVRタイトルからのギミック移植も,インタラクション設計の違いから当初はうまく機能せず,最終的にシンプルな構成に落とし込むことで収束した。視認性と美しさを両立させるビジュアルにも苦戦したそうだ。

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 そして,エンディング演出ではチーム内での議論が起こった。これはネタバレを避けるため,本稿でははっきりと説明できないが,当初のアストロに関する表現はチーム内から疑問の声が出るほどに残酷さも感じさせる強い表現だったという。
 最終的には「感情を揺さぶりつつも不快感を与えない」演出にたどり着いた。この過程は開発チームにとって,「自分たちはエンターテイナーである」というアイデンティティを再確認する機会にもなったという。このように,それらはただの失敗ではなく,今後もゲームで新たな体験を生むための経験となったというわけだ。

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 総合的なまとめとして強調されたのは,成功の裏にあるのは特別な魔法ではなく「小さな積み重ね」と「情熱ある努力」だということ。2週間のサイクルで,何度もレビューと改善を繰り返し,チームの絆を深めながらゲームを作り上げていった。
 また「トップを目指さなくてもいい,自分たちが最高の仕事ができる場所で輝けばいい」という戦略も語られた。それは“静かなビーチでの最高のピクニック”のように,Team ASOBIらしい立ち位置で,世界中のプレイヤーに心から楽しんでもらえる体験を届けようとした姿勢の表れだろう。

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 ゲームの規模や派手さに惑わされず,モジュール型の柔軟な設計で,最後まで楽しめる作品を作りきること。そして,定期的に全員でゲームをプレイし,率直に意見を交わせる。このゲームを遊ぶことを大事にしたゲーム作りの文化こそが,最終的にチームの一体感と強さにつながった。
 最後にNicolas Doucet氏は「情熱を持って関わった仲間たちがいたからこそ,このゲームが生まれ,多くのプレイヤーに喜びを届けられた」と,すべてのチームメンバーに深い感謝の言葉を述べて講演を締めくくった。

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 筆者は東京ゲームショウ2024で,Doucet氏にインタビューする機会があった。
 その際に「子どもと一緒に『アストロボット』を遊んでいる」と話すと,彼はインタビュー中も,その後もずっと「どんなふうに楽しんでいますか? あれは難しくありませんでしたか?」と,興味津々で話しかけてくれたのが印象的だった。


 ゲームクリエイターとしてはもちろん,1人の保護者としても気になったのかもしれない。こちらが楽しんでいることを伝えると,Doucet氏はとても嬉しそうに笑い,「なるほど」と何度もうなずいていた。

 あのとき,「『アストロボット』の楽しさやあたたかさは,こういう人たちが作っているからなんだな」と実感したが,今回のセッションを通じてさらに深まった。チーム内の信頼関係や,一緒にゲームをプレイする文化,そして最後にしっかりと仲間に感謝を伝える姿勢。そのすべてが,このゲームの持つ“やさしさ”を支えているのだろう。

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