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［インタビュー］「泡沫のユークロニア -trail-」柊＆石蕗ルートや“ご褒美”ANOTHER STORY――続編の魅力を制作陣が語る

2025/08/25 18:00 　Nintendo Switch用ソフト「泡沫のユークロニア -trail-」が，2025年7月24日に発売された。女性向けゲームブランドLicoBiTsの第1弾タイトル「泡沫のユークロニア」に続く作品で，前作の物語の先や新たな恋模様を描いている。

　AFTER STORYでは前作で結ばれたカップルのその後を，IF STORYでは柊と石蕗との恋を楽しめるほか，真相エンド後を描くANOTHER STORYやサブキャラクター視点のTRACE BOXも収録。多彩な角度から作品世界を掘り下げている。


　本稿では，ディレクターの高村 旭氏とメインシナリオを担当するかずら林檎氏に，続編の制作で意識したことや作品への想いについて，メールインタビューで話を聞いた。

柊＆石蕗ルートと“ご褒美”物語
ディレクター 高村 旭氏

4Gamer：
　「ユークロニア」は“時間の止まった国”という意味を持っていましたが，本作のサブタイトル「trail」には，どのような意味が込められているのでしょうか。

ディレクター高村 旭氏（以下，高村氏）：
　「trail」という単語には痕跡，ゆっくり進む，手がかり（糸口），追いかけるといったさまざまな意味があります。
　本作で描くのは無印を経て，ゆっくりと，でもそれぞれ前へ進んでいく過程です。恋愛的なその後だけではなく，各ルートごとに残された謎や問題解決の糸口を捜していくストーリーにもぴったりだと思い，つけました。

4Gamer：
　続編として制作するにあたり，意識した点や注目してほしいポイントを教えてください。

高村氏：
　それぞれのルートに残された課題には取り組もうと思っていましたが，すべてを綺麗に解決することは難しいと考えていました。
　というのも，凍玻璃は長い歴史を持つ街なので，一朝一夕ですぐに変化をしていくのは難しい。

　一方で，ルートによっては条件が揃って加速度的に進むことも十分あり得る。それは無印で主人公が「彼」と描いてきた軌跡の違いによるものなので，ルートごとの読み味の違いはぜひ比較してみていただけたらうれしいですね。

4Gamer：
　AFTER STORYでは，恋人同士となったその後の物語が描かれます。それぞれのキャラクターのルートテーマを教えてください。

矢代ルートテーマ【向き合う】

高村氏：
　柔らかそうな風貌とは逆に，なかなか我の強い男である矢代は，ひとりで決めて突っ走ってしまうような危うさを内包しているんですよね。なので，しっかり向き合うことを課題として設定しました。

帷ルートテーマ【足掻く】

高村氏：
　彼は光属性の男なので，自棄になることがないんですよね。最後まで藻掻いて，足掻いて，自分らしく，全うする。もちろん主人公もそう簡単に諦めることはなくて。そんなふたりを描けたらと思いました。

淡雪ルートテーマ【深める】

高村氏：
　恋人同士ではあるけれど，それ以前に主従である，という関係もこのふたりのポイントです。なので，シンプルに互いの気持ちや関係性を深める過程を楽しむお話を心がけました。

依ルートテーマ【触れる】

高村氏：
　依は本心が分かりづらそうで，とても分かりやすい男なんです。とても素直に生きているので。けど，そう簡単には心の奥底に触れさせてくれない。なので本作では彼のむき出しの心に触れていただけるようにと思いました。

露草ルートテーマ【努める】

高村氏：
　無印でめちゃくちゃ頑張らせた最年少ですが，引き続きさらに頑張らせてしまいました。「友達」から「恋人」にシフトチェンジする過程のもだもだ感や思春期感も可愛いのですが，あらためて彼の格好良さなども感じていただけるようにしたいなと思っていました。

4Gamer：
　IF STORYでは，新たに柊と石蕗のルートが追加されました。追加に至った経緯や，それぞれのルートテーマを教えてください。

高村氏：
　発売初期から攻略したいというお声をかなりいただいていました。あまりサブキャラの昇格ルートというのは自分の作り方としては得意じゃないといいますか，それなりに難易度が高く……。今回は既存ルートからのIF分岐，という形で折り合いをつけました。

柊ルートテーマ【我儘】

高村氏：
　凍玻璃を統べる大樹としてなすべきこと，なさねばならないこと。その役目を果たすことに己のすべてを注ぐ彼が唯一欲するもの，それが主人公です。さまざまなしがらみのなかでどうやって彼が答えを出すのかを描こうと思いました。

石蕗ルートテーマ【解放】

高村氏：
　石蕗は，言葉を選ばずに言うと面白みのない男なんですよね。ただFDの制作にあたって既存の設定や無印制作の初期に没になった設定など，膨大な資料を見直しているうちに「いや，むしろこいつ意外とめんどくさい男だぞ……！」となりまして。
　なので，めんどくさいところを楽しんでいただこうと思いました。

4Gamer：
　ANOTHER STORYでは，真相エンドのその後が描かれます。このエピソードを描こうと決めた理由をお聞かせください。

高村氏：
　人智を超えた力を失ったあと，人の手だけで生きていく，というのは物語的に美しい帰結ではあるのですが，やはり鳴神というキャラクターにも愛着がありましたし，無印の真相ルートから続くこのANOTHER STORYはある意味では，ご褒美ストーリーなんです。

　ルートによっては，すでに亡くなってしまった人や意図を知ることができずに袂を分かった人たちとも，いまだ交流があり，理解し合えている。起きるはずだった事件は起こらずに，トントン拍子に物語は進んでいく。

　もちろん個別ルートのBESTエンドでもどこか切なく，憂いが残るストーリー運びは本作の味でもありますが，個人的に「ゲームはエンタメ」という信条がありまして。「凍玻璃」という世界をまるっと愛してくださった方へのお礼という気持ちで制作しています。

4Gamer：
　新キャラクターである佳月，周防，氷雨について，それぞれどのような存在として物語に関わるのか，ご紹介いただけますか。

高村氏：
　ANOTHER STORYだけではなく，AFTER STORYやIF STORYにも登場します。同じキャラクターでもルートによって立ち位置は異なりますが，それぞれ物語のアクセントといいますか，キーになるところで華を添えてくれています。

道反（ちがえし）の一族の若き当主である佳月

4Gamer：
　「TRACE BOX」では，サブキャラクター視点で描かれるショートストーリーが12本収録されています。企画の経緯を教えてください。

高村氏：
　ありがたいことに，サブキャラクターもなかなか好きと言っていただけることが多くて。ただ，すべてのキャラクターのエピソードを物語に組み込もうとするとどうしても本筋から逸れたり，ノイズになってしまうと思ったので今回はこういう形を取りました。新鮮で，書いていて楽しかったですね。

4Gamer：
　「Q＆A」では，攻略対象キャラクター7人が10の質問に回答しています。質問内容の選定理由や，回答を考える際に意識した点があれば教えてください。

高村氏：
　これはもうユーザーの方に楽しんでいただくための企画なので，真面目に……というよりは，面白くなりそうな質問を考えました。回答に関してもそれぞれの個性がありつつも「主人公が自分にとってどんな存在なのかが伝わるといいな」と思いながら，かずらさんと考えましたね。楽しかったです。

4Gamer：
　制作にあたって，特に難しかった点や，新たな挑戦となった部分があれば教えてください。

高村氏：
　今回IFという形でサブキャラクターの昇格ルートを制作したのは，自分としては挑戦でした。元々のルートで起こる事件は変わらないので，彼と一緒にいることで本来のストーリーからどう変化していくのかを，できるだけ自然に描きたいと思っていました。なんとか作り上げられてよかったと思います。

4Gamer：
　これから「泡沫のユークロニア -trail-」をプレイされる皆さんへ，メッセージをお願いします。

高村氏：
　乗り越えなくてはいけない課題や壁はありながらも，必ず幸せな結末にすべく制作を進めていました。苦心しつつも，幸せな未来を手に入れるべく，さらなる一歩を踏み出した彼らを最後まで見届けていただけましたら幸いです。

　からくり仕掛けの理想郷，凍玻璃。真実を知り，それでもなお真の理想を目指すべく奮闘する物語。どうぞご堪能ください！

恋人たちのその後と新たな恋の描き方
メインシナリオ かずら林檎氏

4Gamer：
　AFTER STORYでは，恋人同士となったその後の物語が描かれます。それぞれのルートの見どころを教えてください。

矢代ルート

かずら林檎氏：
　「自分に人並みの感情がある」と思わずに生きてきた矢代が，生まれて初めて自分の心に向き合う様子をぜひ見守ってください。ときに持て余したり，ときに戸惑ったりもしながら，たくさんの気持ちを伝えてくれます。

帷ルート

かずら林檎氏：
　彼の抱える最大の問題との向き合い方が見どころかなと……。執筆時，古今東西の万能薬を必死に調べました。研究成果を説明できる人が帷ルートで生きていれば，詳しく語ってくれた気がします（笑）。

淡雪ルート

かずら林檎氏：
　淡雪と主人公の関係は，どこまでも主人と従者であることが見どころだと思います。ほかの関係では，今の間柄にはなり得なかった。違う場所，違う立場で出会ったらきっと恋仲にはならなかったふたりです。

依ルート

かずら林檎氏：
　特に理由のない嘘をたくさん吐くけど，意味のある嘘も吐く人です。苛々したときに相手を褒めたり，照れたときにつまらなさそうな顔をしたりするので，彼なりの本音と建て前をぜひ観察してください！

露草ルート

かずら林檎氏：
　恋人になったことで幸せいっぱいの露草が，はたと冷静になったときに「いいんだよね？　おれほんとに恋人だよね？」と不安になる様子はかわいい見どころなのではないかと思います！　もちろん，本当に恋人です。

4Gamer：
　IF STORYでは，新たに柊と石蕗のルートが追加されました。それぞれのルートの見どころを教えてください。

柊ルート

かずら林檎氏：
　大胆ながら聡明な君主，というのが本編における柊の印象じゃないかなと思うんですが，そんな彼が恋をするとどうなるのか。露草との関係を含む，彼の私的な悩みにご注目ください！

石蕗ルート

かずら林檎氏：
　石蕗は非の打ちどころのない人だと，多くの凍玻璃の民が思っています。もちろん長所の多い人ではあるんですが，実は結構，だめなところもあるんだよ，というのが見どころですね……！

4Gamer：
　「TRACE BOX」では，サブキャラクター視点で描かれるショートストーリーが12本収録されています。それぞれの見どころを教えてください。

かずら林檎氏：
　ここはサブキャラたちが主役なので，どれも添え物ではない彼らの物語です。「ここをもっと知りたいな，見たいな」とユーザーの皆様が思う部分はどこだろうか，と高村Dと相談しながら，彼らの深掘りをしたり，今まで見せていなかった部分を出したりしました。

4Gamer：
　これから「泡沫のユークロニア -trail-」をプレイされる皆さんへ，メッセージをお願いします。

かずら林檎氏：
　泡沫の恋のその先，恋人になった彼らとの時間が皆様をお待ちしています！　まだ彼らには解決しなければならない問題もありますが，その試練がさらに彼らの愛を深めてくれるはず。

　そして，新たに攻略対象になったふたりの恋する姿もお楽しみいただけます。引き続き，凍玻璃の街で泡沫のひとときをお楽しみください。

「泡沫のユークロニア -trail-」公式サイト