バンダイナムコエンターテインメントは2025年7月19日,
「Shadow Labyrinth」 (
Nintendo Switch 2 /
PS5 /
Xbox Series X|S /
Nintendo Switch /
PC )をリリースした。
「パックマン」45周年記念作品として制作された本作は,いずこからか召喚された「剣士」と,彼を利用しようとする「PUCK」がコンビを組み,広大な迷路を探索する横スクロールアクション(メトロイドヴァニア)だ。
その世界設定や倒した敵を食い尽くす黒いPUCKの姿など,パックマン=明るく正しいという先入観を覆す作品となっている。
また本作は,ナムコ往年の作品群をオマージュしており,さらにそれらの一部を一連の宇宙史としてつなげている
「UGSF(United Galaxy Space Force:銀河連邦宇宙軍)」 に組み込まれた作品だ。そのため,「ボスコニアン」や「ディグダグ」といったほかのナムコタイトルのキャラクターも登場する。
本作の設定の練り込み方は非常に緻密で,“お祭り作品への顔出し”というレベルを超えてディープな用語や設定が詰め込まれているのである。
これまでの「パックマン」の明るい作風から,なぜ45周年記念作品はダークな作風なのか。なぜここまでの“ナムコ愛”が詰め込まれているのか。
本稿では「Shadow Labyrinth」を手掛けた,バンダイナムコエンターテインメントのプロデューサーである
相澤誠吾 氏,バンダイナムコスタジオで製作総指揮を執った
高橋 徹 氏,ナムコゲームの歴史をUGSF世界につなげていく
夛湖久治 氏,そして国内のスタッフと海外のマーケティングスタッフの橋渡しなどを行った
原田勝弘 氏に話を聞いた。
左から,相澤誠吾氏,原田勝弘氏,高橋 徹氏,夛湖久治氏
メトロイドヴァニアとの融合を果たした新たなパックマン像
4Gamer:
よろしくお願いします。まずは皆さんの「Shadow Labyrinth」とのかかわりについて聞かせてください。
相澤誠吾氏(以下,相澤氏):
パブリッシング側のプロデューサーをしている相澤です。
原田勝弘氏(以下,原田氏):
原田です。海外のマーケティングスタッフと国内スタッフの橋渡しをしたり,ゲームの中身を見たりなど,ゲームの外側から中身まで関わっています。
高橋 徹氏(以下,高橋氏):
高橋です。「パックマン」の生みの親である岩谷 徹さんとともに「パックマン チャンピオンシップエディション」「PAC-MAN and the Ghostly Adventures」などを作り,「パックマン」IP全体の監修もしています。
本当は,清く正しいパックマンを守る立場なんですが,「Shadow Labyrinth」の企画立案から製作総指揮までをしています。
夛湖久治氏(以下,夛湖氏):
夛湖です。ナムコ往年のタイトルに関するオマージュや,UGSFなど主に本作の世界設定周りの制作を担当しました。
4Gamer:
初めて情報が出たとき,真っ黒なパックマンが敵を貪り喰らうという,これまでのイメージとはまったく違ったもので驚きました。そもそも「Shadow Labyrinth」はどのようにしてスタートした企画なのでしょうか。
相澤氏:
「新たなパックマン」を求めた我々に,高橋さんがメトロイドヴァニアの企画を持って来てくれて実現したものになります。
ゲームとしての「パックマン」は,触れたことのある年齢層が高くなってきていたため,5年前のパックマンシリーズ40周年を機に,若い層を獲得する取り組みを進めていました。
今回はその一環として新しいゲームをバンダイナムコスタジオ側に相談したところ,「Shadow Labyrinth」の企画が出てきたわけです。
高橋氏:
バンダイナムコスタジオ側では,相澤さんからの相談がある前に,パックマンとは関係なく2Dアクションゲームの企画を進めていました。これが「Shadow Labyrinth」の原型です。
ただ,その時点では“僕のやりたい要素やゲームの構造が詰め込まれたもの”という状態であり,現在のような形ではありませんでした。
4Gamer:
UGSFの設定のもと,多数のナムコ作品を登場させるというのは当初からの構想だったのでしょうか。
高橋氏:
そういうわけではありません。当初はゲームデザイン優先で,まずメトロイドヴァニアと「パックマン」を融合に四苦八苦していました。「ゴリラなどの動物の頭にゴーストが被って憑依してモンスター化する」といった程度で,設定はまったくありませんでした。
4Gamer:
「パックマン」と言われて想像がつきやすいドットイートゲームではないから,そこには説得力が必要になりそうですね。
高橋氏:
このゲームシステムにパックマンや往年のナムコIPを登場させるにしても,ただ単にキャラクターを出すだけでは説得力がありません。そこで,かつて「New Space Order」(
※ )というゲームで一緒にやらせていただいた夛湖にお願いすることにしました。
同作では最初は「丸と丸を線でつなぐと,エネルギーが供給される」というゲームシステムしかなったのですが,これにSF的な設定を付けてリアリティを持たせてくれたのが夛湖です。「Shadow Labyrinth」でも,僕がやりたいことを“本当”にしてもらうことができました。
※「New Space Order」 ナムコが2007年に発売を予定していたスペースオペラのRTS(リアルタイムストラテジー)。2004年ごろからナムコのネットカフェ「知好楽」でロケテストが行われ,AOU2007アミューズメント・エキスポでは「カウンターストライク ネオ」の筐体を使った出展もされたが,発売されなかった(関連記事 )。
4Gamer:
単なるゲームシステムの都合ではなく,世界設定にまで昇華できるのが夛湖さんというわけですね。
高橋氏:
そうです。夛湖はすべてを“本物”にする仕事を楽しんで進めてくれました。ナムコIPにおける司馬遷のような存在です(笑)。
原田氏:
夛湖はUGSFとしてナムコIPの記録を編纂し続けている,唯一の人間ですね。ただ,「Shadow Labyrinth」は,コアなファンの方々に向けたさまざまな設定やうんちくを理解しなければならないというわけではありません。
幅広い層の方に向けたゲームですので,もちろん設定を知らなくても楽しめます。
4Gamer:
「Shadow Labyrinth」の情報が出たのと同時期に,Prime Videoで「シークレット・レベル」というゲームをテーマにしたアンソロジーが配信されました。第6話の「パックマン 〜サークル〜」では「迷路に囚われた剣士と,黄色い球体であるパックがともに行動する」など,「Shadow Labyrinth」の前日談的な内容となっています。
こちらは本作の発表に先駆けて公開されていましたが,映像とゲーム,どちらの設定が先にあったのでしょうか。
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2024/12/05 17:44
高橋氏:
ゲームのほうが先ですね。「Shadow Labyrinth」の開発初期,「シークレット・レベル」で「パックマン」をモチーフにした話を作りたい,という打診があったんです。
そこで「Shadow Labyrinth」のコンセプトをお話し,「シークレット・レベル」と世界設定を連動させたいとご提案しました。
4Gamer:
「横スクロールアクションの新作」「ほかのナムコIPとSF的につながる緻密な世界設定」「前日談となるCGアニメ」という3つの要素はすべてゲームからスタートしたんですね。
メイズのドットを「困難」とした設定の力で「パックマン」世界の解釈を広げた「シークレット・レベル」
4Gamer:
「Shadow Labyrinth」と「シークレット・レベル」が綿密につながっているのも印象的でした。ほかのエピソードではゲームを原作にしつつもオリジナル色が強かったですが,「パックマン 〜サークル〜」の回は「Shadow Labyrinth」の前日談になっています。
原田氏:
「シークレット・レベル」では「Shadow Labyrinth」のコンセプトを尊重していただいたうえで,かなりしっかりと話をつなげていただきました。普通あちらの方々は自分たちのオリジナルを作りたがるものなので,かなり珍しい取り組みでした。
相澤氏:
ブラー・スタジオの方も「Shadow Labyrinth」のネタをいろいろと仕込んでくださったので,ゲームを遊んだ後に「シークレット・レベル」を見ると新たな発見があるかもしれません。
高橋氏:
そういえば,「シークレット・レベル」が正式公開される前のプレビュー映像の明度を調整して,UGSFのロゴを発見されたお客さまもいましたね。
原田氏:
海外の掲示板を見ていて面白かったのが,「シークレット・レベル」を見て「こういう設定だから『パックマン』はエンディングがなくてループし続ける構造なんだ」と解釈されている人がいたことです。
4Gamer:
それは面白いですね。初代パックマンの当時はエンディングという概念がなかったので,ゲームがループし続けた。これを映像作品で再現したのが「シークレット・レベル」なのに,逆に見えているわけですか。
原田氏:
そうなんですよ。「パックマン」自体が「出口のないメイズで延々と追いかけっこを続け,ゴーストを食べてしまう」という内容なので,解釈によってはダークに取れなくもないですし。
人間はループする,出口がないということに恐怖を覚えるじゃないですか。昔のアーケードゲームは表現こそポップですが,こうしたループする状況を扱っています。ループという恐ろしい状況をフィルムにするのであればダークな表現になるのも納得である……ということで,「シークレット・レベル」は「Shadow Labyrinth」にとってさまざまな意味でプラスになった映像だと思います。
4Gamer:
確かにファミコン版「メトロクロス」のエンディングも,やっと迷宮から脱出したと思ったら2週目が始まる……というループもので,クリアの嬉しさと同時にちょっと恐怖を覚えた記憶があります。
夛湖氏:
「シークレット・レベル」の制作においてブラー・スタジオとやり取りする中で,当初はUGSFや「Shadow Labyrinth」のテイストが今ほど入っていなかったんです。
そこで私が作った解釈が「『パックマン』のメイズに置かれたドットは,1980年当時の技術力としてああした形になってはいるけれど,実は進行上での障害や敵を抽象化したものではないか」というものです。
このようにメイズ自体の解像度を高めていけば,「シークレット・レベル」で描かれた,とある惑星の閉ざされた監獄という場所になります。こうした解釈を加えることにより,「Shadow Labyrinth」と「シークレット・レベル」の世界がつながったんです。
完成した「シークレット・レベル」を見てみると,「Shadow Labyrinth」でうまく料理できそうな余白がしっかり用意されていて,素晴らしいと思いましたね。「Shadow Labyrinth」では,その余白をしっかりと使わせてもらっています。
「ナムコのゲームをすべて詰め込みたい」という思い。そしてゲームのアイデアにナムコのエッセンスを乗せ,“本物”としていく
4Gamer:
真っ黒なパックマンが倒した敵を食い尽くし,ゲップまでするというのは,今までのパックマン像からするとかなりダークな方向に振り切ったように見えます。
高橋氏:
当初「ダークにしよう」「暗くしなければ」という意識はありませんでした。ただ,敵を倒した際の「食べる」という行為は何だろう……とずっと考えていったところ,現在のような形になったわけです。
4Gamer:
「食べる」という行為を,高橋さんはどう解釈したのでしょうか。
高橋氏:
私は
「食べることには善悪がない」 と考えたんです。皆さん「Shadow Labyrinth」で敵を喰う描写について「暗い」とか「今までにないダークなパックマンだ」と受け取ると思いますが,食べるという行為は生きるためにすることですから,ダークでもなんでもないんです。
またその逆に,従来の「明るく楽しいパックマン」であっても,食べられるゴーストの側からしてみれば,かなり凄惨でダークな行為かもしれませんよね。
原田氏:
初代パックマンのグラフィックスはポップな絵柄ですが,よく考えると,敵をパクパク食べてしまうというのは,結構エグいことなんじゃないかと思います。
私も当時はゴーストたちが食べられてしまうのはかわいそうだと思ってましたし,「Shadow Labyrinth」のパックマンがああした表現になっていても,個人的にはあまり違和感がなかったですね。
夛湖氏:
解像度が上がるほど,えぐいことをやっているのが露わになっていきますよね(笑)。
「パックマン」。画像は「PAC-MAN MUSEUM+」より
4Gamer:
2013年のCGアニメ「パックワールド(北米ではPAC-MAN and the Ghostly Adventures)」でも,パック(パックマン)に食べられたゴーストたちが「あいつ(パック)は俺たちを丸飲みにするんだ」「(丸飲みにされた後に)自分たちの目玉を吐き出されたことがあります!?」って怯えていましたね。視聴者からはコミカルに見えるけれど,食べられる側としてはたまったものではない。
高橋氏:
実は,あのアニメ(パックワールド)のシナリオをアヴィ・アラッドさんと一緒に考えたのも私なんです。
4Gamer:
そう考えると,「パックマン」における「食べる」行為の深掘りは「パックワールド」ですでに始まっていたと言えそうです。SF的なメカや空飛ぶ戦艦が出てくる「パックワールド第1次世界大戦」という描写もありましたし。
高橋氏:
ただ,そういった前例があったとしても,パックマンが敵を食べるというのだけでは,私個人の思い付きを超えません。同じように,「なぜ食べるのか」「それが往年のナムコIPとどう感連していくのか」は,司馬遷である夛湖に歴史と世界設定を作ってもらい,思い付きを“本物”にしてもらう必要がありました。
夛湖氏:
“上流”である高橋はこういっていますが,それを全部まとめなければならない私は大変でした(笑)。
私はゲームがある程度固まってからプロジェクトに途中から合流したんですが,その時点では世界がわかるほどの設計はありませんでした。
わずかな資料として「黄色いロボットが登場する」「黄色い頭の人間がいる」(
※ ) といったイメージと「ナムコ往年のゲームを若い人にも受容できるように出さなければならない」という要件だけがあり,ここからいろいろと設定を考えていくことになりました。
※ 右下の黄色い頭の人間が初期の「剣士」のデザイン。「デジタルアートブック&サウンドトラック」DLCで追加されるアートブックではこのような開発資料も確認できる
4Gamer:
実現しなければならない部分が多いと,それだけ制約も大きくなりますよね。
夛湖氏:
これを見てまず高橋に聞いたのは
「これは『パックマン』の何周年に出す作品なの」 ということでした。そこで「45周年です」という返事だったのを聞いて安心したという記憶があります。
「パックマン」はさまざまな周年企画が動いていますが,野心的な取り組みをするなら45周年がラストチャンスになることだろう……ということで現在の形になりました。
4Gamer:
もし50周年なら出せなかった可能性もあると。
夛湖氏:
50周年という巨大なマイルストーンにあたる年ではとても出せなかったと思っていました。
あと,高橋からは「ほかのナムコ作品のキャラクターを出したい」という話もありましたが,単にすべてのアイデアを取り込んでいくだけだと,横スクロール2Dアクションをやっていたところに,いきなりバシシ(
※ )するようなことにもなり,ゲーム性が無茶苦茶になってしまいます。
自分の中では,今年はナムコの70周年にもあたる年ですので,そこも重視していました。ここで下手なものを出すようであれば,パックマン45周年だけでなく,ナムコの70周年をも穢すことにもなります。私はナムコが大好きなので,そんなことにはしたくなかったんです。
※バシシ 「リブルラブル」(1983)で,キノコや敵,宝箱を囲むこと。紐で繋がれた2つの矢印「リブル」と「ラブル」を2本のジョイスティックでそれぞれ操作し,ステージ上の杭を使ってバシシしていく。画像は「アーケードアーカイブス リブルラブル」のもの
高橋氏:
突然ですが,主人公の剣士は,ゲームをプレイされる「あなた」という位置づけにしています。ゲームをプレイしているお客さまご自身,「プレイヤー」として一括りにしていない「あなた」なんです。
そのため,ゲームのストーリーが進む中で,突如として自分の意見を持って話し出したり,主人公の口を使って僕の意見を代弁させるようなことはさせたくなかったのです。
4Gamer:
だから本作の主人公はしゃべらないんですね。
夛湖氏:
こうした突発的な高橋のアイデアに“ナムコを乗せる”ことをしていかなければならないのが私の仕事でした。「しゃべらない」ということにも,裏付けとしての設定が必要になりますのでいろいろと考えていきました。
4Gamer:
その設定とはどういったものでしょうか。
高橋氏:
「シークレット・レベル」では,「Shadow Labyrinth」の前にPUCKと行動を共にした「7番目」の剣士が描かれますが,彼はPUCKにいろいろと口答えをした末,たもとを分かつことになりました。
次の剣士が必要になったPUCKは「さっきの7番目はいろいろとうるさかったから,次は口がない方がいいな」と考えた。だから「Shadow Labyrinth」の主人公である「8番目」の剣士には口がなく,しゃべれない。
そして,なぜ「8」番目の適合者であるかということについても,「パックマン」における「8」という数字の意味もちゃんと取り入れたものになっています。
夛湖氏:
と,ここまでが高橋の設定となりますが,それを受けた自分としては,こう設定しました。
「別世界から主人公が転移してきて,ものごとを解決していく」という図式は「風のクロノア」です。だから,パックは頭につけるのではなく後ろをついてくるようにしよう。剣士は黒づくめにしよう,剣士の剣にはクロノアが「風だま」を放つのに使うリングのような丸形デザインを入れよう,と設定したわけです。
4Gamer:
なるほど……これは言われるまで気づきませんでした。黄色くて丸い相棒と主人公という関係性で「バラデューク」を想像していたのですが,実は「風のクロノア」だったんですね。クロノアの帽子にもパックマンが入っていますし。
夛湖氏:
そのうえで,主人公たちのデザインはクロノアを手掛けた荒井佳彦にお願いしています。私のほうではデザインにあたっていろいろとナムコネタを入れてもらえるように指定を入れるわけですが,荒井も,こうした指定が何を意味しているか分かっていますから,ニコニコしながら描いてくれるんですよ。
高橋氏:
またそれだけでなく,最高の2Dアクション表現ができるスタッフということで,僕が子供のころに夢中になっていた「サムライスピリッツ」や「キングオブファイターズ」といった作品に携わった方々に集まっていただけました。
ヒロインのデザインは「サムライスピリッツ」のナコルルや「わくわく7」のティセを作った春日野ミチさんにお願いしています。シナリオライターは先日20周年を迎えた「テイルズ オブ レジェンディア」などさまざまな「テイルズ オブ」シリーズのシナリオを手掛けた田中 豪さん,戦艦などのメカはUGSFファンで、二次創作でメカデザインを手掛けているnatuameさんと,広くお声がけしてお願いしました。
4Gamer:
豪華なスタッフ陣ですね。ナコルルにしろ,ティセにしろ,当時のゲーマーたちに新たな“癖”を作ったキャラクターですし。
夛湖氏:
高橋がいる上流からは「15分で設定を考えてくれ」というオーダーがくることもしょっちゅうでした(笑)。せめて3日くらい前から話をくれ,とは頼んでいるんですけれどね。
高橋氏:
……とこんな感じで夛湖は「言われた仕事だけをしている」ようなことを言っていますが,実はノリノリでしたから。
剣士の変身形態であるロボット「GAIA」も,当初は丸い鉄球に手足が付いているデザインでしたが,夛湖が「これではどうしてもダメだ」と描き下ろしたスケッチから現在の形になっています。
原田氏:
今のバンダイナムコのゲームでも,ここまで設定面をシッカリやっているのは珍しいと思いますね。
4Gamer:
個人的にプレイしていて印象深かったのが,しっかりとした設定に裏打ちされた“本物感”でした。
素材の名前として「ゼビウス」のゲーム内に登場しない背景設定である「イル・ドークト」の名前がサラっと出てきたり,「ボスコニアン」の民がゲーム内に登場する宇宙基地のデザインを紋章にしていたり……と単なるお祭り作品とは違う空気を感じたんです。
ただ「ALL ABOUT NAMCO」を擦り切れるまで読みふけった世代であれば,これらのネタは分かりますが,UGSFやナムコ作品のことを知らない人でも「Shadow Labyrinth」は楽しめるのでしょうか。
高橋氏:
はい。なぜなら,そうした往年知識に基づく謎解きやナムコネタが「Shadow Labyrinth」の本質ではないからです。
夛湖氏:
お伝えしておきたいのは,「Shadow Labyrinth」は,
設定のための設定を入れているゲームではなく,そこを抜いてプレイしても楽しめるものとして創ったもの だということです。
ナムコのゲーム作りは,まずゲームとしてどのように楽しませたいかという「やりたいこと」が最初にあって,設定を作るのはいつも最後のことになんですよ。
「Shadow Labyrinth」をUGSF宇宙史に組み込んだのも,「ダークなパックマン」「往年のナムコ作品を登場させる」というのを,闇鍋にせずに綺麗に収めるシステムとしてUGSFが使えるだろうと思ったからなんです。
4Gamer:
すべては遊びの部分からスタートしているということでしょうか。
夛湖氏:
はい。「Shadow Labyrinth」は,純粋に探索アクションとして面白いですし,そこを飽きさせない設定として存在すると思っていただければ幸いです。
「設定のためにゲームを作りたい」なんてことはここにいる誰一人として,思っていません。設定はゲームでお客さまを楽しませるために存在している従属的なものであり,設定を出すためにゲームを作るのは最悪手と考えています。
原田氏:
UGSFとは何か,ということが分からないと楽しめないゲームではありません。分かる人には分かるだろうけれど,分かったことでの深みは用意してあります。
4Gamer:
あまりUGSFを前面に押し出すと新規の方から「自分はUGSFに関する知識がないから,自分たちのものではないな」と分類されてしまう可能性もありそうです。
夛湖氏:
ゲーム性もメトロイドヴァニアというより,どちらかというと「ドラゴンバスター」や「バラデューク」といったナムコの横スクロール2Dアクションの系譜にあると思っています。
制作に入る前の時点で「ナムコのゲーム性すべてをここに持ってきたいんだ」という高橋の気持ちを見せてもらっていましたし。
高橋氏:
ナムコの歴史という固い地盤の上に成り立っているゲームなので,そうした部分も体験してほしいですね。