インタビュー
[インタビュー]AAAじゃなくてBBB――“忘れられない一本”を作らんとする,若き韓国インディーチームStudio BBBの現在地
韓国のG-STARはもちろん,同じく韓国のBIC,台湾のTaipei Game Show,幕張の東京ゲームショウ,上海のWePlay,韓国のPlayX4,京都のBitSummit,台湾のG-EIGHT,大阪のOSAKA INDIE GAMES SUMMIT,ドイツのGamescom……ゲームメディアが取材に行く,世界中の会場で顔を合わせる。
あまりに出張が多いので「本当に開発してるの?」と疑われるほどだが,本人いわく代表業はマーケから営業,PRまで全部総括だ。
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しかしStudio BBBは,よく聞くタイプのインディーデベロッパではない。兵役休学から戻り,大学で同じアート・アンド・テクノロジーを専攻する仲間を集めて始まった学生チームは,まずモバイルで腕慣らしを済ませ,学外のユーザーに向けた事実上の処女作である「MONOWAVE」へと踏み出した。
国の支援金200万円は雪のように溶けた(イム氏談)が,ゲームショウで作ったTシャツが100万円売れるという“嬉しい予定外”も起きている。
韓国インディーシーンならではの特徴だと思うが,技術勝負が熾烈だからこそ,BBBは流行を追わない。目立つ武器は“技術”ではなく,コンセプトとグラフィックスだと最初から割り切り,「ローンチしたら忘れられる作品」にはなりたくないと語る。
その思いが,液体←→固体の状態変化パズルを出発点にしつつも,より人間の奥深くへと響く「感情」へと舵を切らせた。
見たことある人,プレイしたことある人なら分かるが,MONOWAVEはノンバーバルデザインだ。ノンバーバル(“見れば分かる”)を目指すと,結局はマリオやカービィのようなNintendoの文法に行き着くとイム氏は語る。
映画演出やデザインの学びは,ブース設計やチラシの紙選びにまで影響する。最終的には,ブースを訪れてくれた人が「一人でもいい思い出」が残ればいい―――そんな距離感が,彼らの持つ独特の武器でもある。Nintendo DS世代の彼らは,自分たちがゲームにもらってきた楽しい思い出を,次の世代に手渡すことを使命だと語る。
最初はよくあるタイプのインディー開発チームかなと思ったが,イム氏が(良い意味で)ドライでキチンと組織が回っている。
企画の立ち上げ方もちょっと面白く,全員にA4用紙を配り,好きなゲームや入れたい/要らない要素を“紙いっぱい”に書いてから組み立てるという。「情熱は永遠じゃない」からこそ,守るべきルールは守り,続けるためのシステムを強く意識しているようだ。
会社経営は船の操縦で,ゲームは船そのもの。そんな現実と理想を同時に見据える若きCEOが引っ張るスタジオの今を,たっぷりと聞いてみた。
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4Gamer:
今日は忙しいのに時間取ってもらってありがとうございます。まぁTGSでも会ってるんですけどね(笑)。
割と世界中のイベントにいるけど,今年G-STAR終わったあともどっかいきます?
イム・グォニョン氏(以下,イム氏):
上海のWePlayにも行きますね。
4Gamer:
ホントどこにでも行きますね……。
イム氏:
あと,G-EIGHTにも。
4Gamer:
12月の台湾のやつだ。今年終わり間近までずっと忙しいわけですね。
それで中国は何度目ですか?
イム氏:
中国は初めてです。台湾はTaipei Game Showで行きました。
4Gamer:
なるほど。TGSにも来てたし,京都にも行ったし。
イム氏:
Gamescomでドイツにも行きました。OSAKA INDIE GAMES SUMMITで大阪にも行きました。
4Gamer:
え,大阪のアレってTGS直後でしょう?
イム氏:
TGS終わってすぐ,東京から大阪まで新幹線で(笑)。
4Gamer:
忙しいですねえ。
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イム氏:
忙しいのはいいんですが,新幹線は値段が高いです(泣)。
4Gamer:
新幹線は高いですよー。
ずっとどこか海外にいるから,イムさんは開発してないんじゃないかっていう話を,そういえばTGSで誰かとした気がする(笑)。
イム氏:
代表なので,開発以外の仕事,マーケティングや営業,PRを全部私が総括してるということで許してください(笑)。
4Gamer:
まぁでもそうやってどこの国のゲームイベントにもいるから一瞬忘れちゃいますけど,実はStudio BBBって,できたばっかりのインディー開発会社ですよね。
イム氏:
はい,実はできたての会社です。
4Gamer:
みんな若いし,たぶん最初はただの学生チームだった感じですか?
イム氏:
はい。韓国の場合,大学在学中に男性は2年間ぐらい兵役のために休学しますけど,戻ってきて何をしようと悩んでたところ,友達を集めて「ゲーム作ろう!」って始めたんです。
4Gamer:
なんでまたゲームを作ろうと?
イム氏:
大学の専攻が,アート・アンド・テクノロジーという,ちょっと独特な学科なんですけど,芸術専攻なので何かを創作することが多かったです。
その中でも私を始め,同じ専攻でゲーム好きな友達が集まって,自分たちがゲームに興味があるからゲーム作ろうとなった感じですね。
4Gamer:
まあ,ゲームもアートの一種ですもんね。でも,ちょっと調べましたけど,イムさんのいる西江大学※って結構ランクが高いほうの大学じゃないですか。就職しようとか思ったことはなかったんですか?
※韓国ではソウル大学,延世大学,高麗大学に次ぐトップクラスの私立大学
イム氏:
最初は1年間で,とても簡単な形のモバイルゲームを2つぐらい作りました。いざ作ってみたら,学内だけではなくて,学校の外にいる人々も対象にしてゲームを作ってみたいと思って,「MONOWAVE」という今のタイトルの開発を始めました。
それを2年前のBICで初めて皆さんにお見せして,学校の外のユーザーの反応を初めて見ることができました。もちろん,至らない部分もあり,いろんなフィードバックをいただきましたけど,良い評価もありました。それで私たちは,このまま続けてゲームを作りたいと思って,今まで一緒にやってきたんです。
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4Gamer:
外に向けてゲームを作ろうと思ったのは,最初のやつ……その仲間向けのモバイルゲームが評判が良かったから?
イム氏:
評判が良かったからというよりは,最初に作ったゲームは習作に近いものでした。
学内の展示などでもお見せしましたけど,それだけで終わるのはちょっと惜しいとも思いましたし,小さいものをいくつか一緒に作ってみたら,「僕たちチームワークよくない?」ということに気づいて,このメンバーならもっと大きいのもできるのでは,と思ったのもあります。
4Gamer:
ポジティブでいいですねえ。
イム氏:
去年,国の予備創業者支援プログラムに選定されて,初めて200万円というお金を投資してもらいました。それで,学生レベルのやりたいことであれば,大体全部できるようになったんです。
200万円は,会社を経営するにはまるっきり足りない金額ですけど,学生がいろんなイベントに出て,海外にも行って,いろいろやってみたかったこと,夢を広げるには十分な金額だったので,そこから結構いろいろやりました。
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4Gamer:
200万円の使い道は,いい結果になりました?
イム氏:
去年出展したゲームショウでTシャツを作って売ったんですけど,それの売り上げが100万円だったんですよ。ビジネス的な可能性も見えてきました!
4Gamer:
おお,そんなに売れたんですね。
イム氏:
すごく皆さんに気にいってもらえました。
それで,今年になってみんな卒業して,それぞれの道を歩むことになりました。就職したりして自分の新しい道を選んだメンバーもいますが,残るメンバーもいて,そこに新しいメンバーも受け入れて会社の形をちょっとずつ作ってきたのが,今年の頭ぐらいです。
4Gamer:
なるほど今のメンバーは新旧混じってるんですね。
イム氏:
はい。今メンバーは5人いるんですけど,そのうち最初からずっと一緒に続けてきたメンバーは,TGSでご飯を一緒にさせてもらった2人ですね。
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最初にいた5人って,みんな同じ学部なんですか?
イム氏:
そうですね。6人いた時期もあったんですけど,みんな同じ学科の友達でした。幅広く芸術を勉強して独特なものを生み出せるところでしたので,企画からプログラミング,アート,サウンドまで,開発全般に必要なメンバーが全部同じ学科で揃うのがすごくよかったと思います。
4Gamer:
ということは,そういうチームって学部内に他にもありました?
イム氏:
一番うまくいったチーム……僕の先輩なんですけど,「No Umbrellas Allowed」を開発したHoochoo Game Studios。そして「Hynpytol」を開発したbase0というチームがそうですね。
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4Gamer:
あー,やっぱりなんか,みんなちょっとアートっぽい雰囲気ありますね。
じゃあその最初の5人だか6人で,ゲーム作ろうぜってまず言い出したのは誰ですか?
イム氏:
僕です(笑)。
4Gamer:
本人だった(笑)。
じゃあせっかく本人なので聞きたかったんですけど,社名の「BBB」はどういう意味?
イム氏:
チーム名を何にしよう? と話し合ったとき,AAAじゃなくてBBB(トリプルビー)にしようか! という軽いノリで決めました。
4Gamer:
やはりAAAの対抗なんですね(笑)。
イム氏:
でもビジネスの場で紹介するときは,「Be the Best」とか「AAAに劣らないクリエイティビティ」みたいな説明を付けてますけど(笑)。
4Gamer:
4Gamerも,メディアパートナーとかに書かれるときの順番が必ずアルファベット順だから,1番上に乗りたいと思って表記を数字にしたんですけど,なんかちょっと似てますね(笑)。
BBBとかいう洒落た名前を付けてるあたり,メンバー全員,もうバリバリのゲーマーなんですかね?
イム氏:
新しくメンバーとして迎え入れたアーティストは「Splatoon」を5000時間プレイしてますね。
4Gamer:
5000て……。
イム氏:
アーティスト以外もみんなゲーム大好きで,例えばSteamのライブラリがパンパンだったり。
今年のTGSのときも,ホテルじゃなくてみんなで一緒に泊まれるAirbnbを予約したんですけど,毎晩みんなで「スーパーマリオパーティ」をやってたので,毎晩チーム解散の危機が訪れてました(笑)。
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4Gamer:
写真送ってください(笑)。……でもそれだけみんなゲーマーでゲームが好きだと,それぞれがゲームに対して思うところがちゃんとあるわけじゃないですか。
僕がちょっと疑問に思ったのは,2023年にチームを結成して,最初にStoveにデモ版が出たのが,確か2023年12月。すごく早いですよね。これ,最初から作るものが決まってたということですか。
イム氏:
最初は,ゲームのシステムを先に決めて,キャラクターの状態を変化させながらプレイするパズルゲームというコンセプトができました。
液体から固体,固体から液体になるっていう状態変化を利用したパズルゲームだったんですけど,私たちはみんな文系なので,科学的なやつよりは“人間的”な方がプレイヤーに響くのでは? という考えがありまして。そこから「感情」というコンセプトを持ち込んだのが始まりなんです。
4Gamer:
あぁでもやっぱり割と最初からなんですね。みんなそんなにゲームが好きなのに,5人で同意できたんですか。
イム氏:
それはもう,はい(笑)。
4Gamer:
でも確かに5人くらいだとかなりのレベルで意思疎通ができるから,まとまりやすいかもしれませんね。4Gamerも昔そうでした。ちょっと分かる。
イム氏:
今は違うんですか?(笑)
4Gamer:
まぁ50人もいるとなかなかね……。
というか比較的初期からこのコンセプトが出来てたんですね。ちょっと意外でした。
イム氏:
開発2〜3か月経ったあたりでのゲームの見た目は,今とほぼ変わらないですよ。システムはだいぶ変わりましたが,グラフィックやコンセプトはほぼ同じです。(といって初期コンセプトなどを見せてくれる)
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4Gamer:
へええ,本当だ。トーンが同じですね。
僕インディーはアジア圏くらいしかちゃんと追えてませんけど,インディーって逆に“失敗したくない”からなのか,どうしても何かと同じものを作りがちですよね。国によっても傾向は違いますけど,韓国はとくにその傾向が強いように感じます。「ローグライク」「メトロイドヴァニア」「デッキビルダー」「ヴァンサバ」……。
そんな中で,MONOWAVEみたいなものを作るというのはすごい勇気だと思うし,逆に当時,みんなが知ってるそういうものにしようぜ,みたいな意見はなかったんですか?
イム氏:
うーん……。韓国の場合,ゲームの専門学校でより専門的な内容を習った多くの人が,高いクオリティのゲームを作り出していますよね。
4Gamer:
そうですね。どこかでも書いた気がしますが,韓国の高校生/大学生の開発クオリティレベルは相当に高いと思います。
イム氏:
ええ。なのでインディーシーンにおいては,技術力での勝負は全然意味がないと思っています。目立つにはやはりコンセプトやグラフィックスでひと味違うものが必要だと最初から判断しました。
それで,少人数でも独特なグラフィックを作ってみんなの目にとまるつもりでした。流行を追うと埋もれると思ったので,自分から「こうしよう」と言って,それが理解されてここまで来られた感じです。
4Gamer:
なるほど。つまり,さっき言ってたように「ちょっと外の人に見てほしい」とかいうレベルではなくて,実は作り始めの最初の時点ですでに,大きいプロジェクトにするつもりだったんですね。
イム氏:
そうですね。すごく正直に言うならば,ローンチしてその後忘れられるような,たくさんあるゲームの中の1つ,にはなりたくなかったんです。
4Gamer:
すごく素敵な考え方だし,仕事で浴びるように新作を見ている僕らや,吉田さんなんかも実際に覚えているからこそ,今回もこうやってインタビューになってるわけですし。
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[インタビュー]猫,潜水艦,そしてキリン。元SIE・吉田修平氏がBICで見た,韓国インディーの現在地。「もう2,3年したらドカンといくかも?」
釜山のBICで,元SIEの吉田修平氏がインディーブースを渡り歩いた。氏が一番好きだと語る「赤い玉を追う猫のゲーム」から,潜水艦同士の駆け引き,コミュ障のキリンまで,若手の独立気運と韓国インディーの現在地,そして2,3年で爆発するという兆しを語る。吉田氏の視線で確かめた現場レポートをお届けしよう。
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イム氏:
そうですね。ありがたいことに,1度見たら忘れられない,とよく言ってもらえます。
4Gamer:
韓国を始め,それぞれの国で遊んだ人たちの感想はどんな感じなんですか?
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日本の場合は,BitSummitやTGSで「かわいい」とか「雰囲気ある」という評価をいただきました。ドイツに行ったときは,欧米のユーザーから予想以上に「グラフィックスタイルが北欧のゲームみたい」という反応をもらいました。
あとヨーロッパのユーザーの皆さんは,ゲームに込められているコンセプトや芸術的な面に注目してくれますね。
4Gamer:
そうやって世界中のいろんなゲームショウに出展する意味をどこに置いてますか?
イム氏:
もう学生ではないですし,会社を経営する以上は,開発を続けられる環境を作らなきゃダメです。それでまず,ゲームとスタジオのファンを増やすという観点からゲームショウに出展しています。
4Gamer:
なるほど。KPIはどのへんで見てるんですか?
イム氏:
例えばSNSのフォロワーの数とか,Discordチャンネルのメンバー数とか,Steamのウィッシュリストなんかですね。でも私たちのゲームは人類の普遍的な「感情」というものを扱っているので,逆に一人でもいい思い出が作られたらいいな,と思っています。
4Gamer:
そういうウェットな話,いいですね。MONOWAVEにぴったりです。
イム氏:
そうですか?(笑)
でも真面目な話,スタジオのビジョンを話すときにいつも言うんですが,私たちは小さい頃からゲームが大好きで,年齢的にはNintendo DS世代です。
ゲームで良い思い出,楽しい思い出をいっぱい作ってきたので,私たちが作るゲームも誰かの良い思い出になってほしいし,ゲームに関わる楽しい思い出を次の世代に渡す役割を担うことを,スタジオのビジョン,そして使命だと思っています。
4Gamer:
そういう強い思いが,ちゃんとMONOWAVEには表れてると思いますよ。記憶に残りやすいというか。
イム氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
じゃあ会社がこのあともうまくいって,この先10年,20年,30年と続いていくとして,2050年になって「Studio BBBって〇〇〇だよね」と言われたいとしたら,なんて言われたいですか?
イム氏:
……すごく難しい。(しばし熟考)
まだまだやってみたいことが多くて,可能性は閉じたくないですけど,それはそれとして「人の心に触れる何か」をゲームの中に入れたいです。
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4Gamer:
そこはMONOWAVEの路線というかコンセプトが踏襲されていくんですね。
イム氏:
MONOWAVEもそうですけど,これから作るゲームもそういうゲームを作るべきだと思ってはいます。でもまぁ方式は変わるかもしれないです。
今,次のタイトルとして考えているものも,MONOWAVEとは違うジャンルになる可能性が高いですし。
4Gamer:
再びあなたのコンセプトですか?
イム氏:
いや,「みんなの」ですね。会社を経営すると,私の考えはみんなの考えになります(笑)。
4Gamer:
深いこと言いますね。
まぁでもこういう雰囲気のノンバーバルのゲームを作っていくんだろうなというのが分かったので聞いてみたいんですが,ノンバーバルゲームを作る時に何か気を付けてることってあります?
イム氏:
ノンバーバルは,とても難しいです。言葉で説明せず,見るだけで理解できるように作る必要がありますけど,特にMONOWAVEはパズルゲームであるがゆえに,直感性などを検証することにより力を入れてます。
4Gamer:
見ようによっては,ノンバーバルは「ローカライズしなくてもいい」というメリットがあるわけですが,もちろんそんな簡単なことじゃなくてかなり難しいことですもんね。
イム氏:
結局突き詰めていくと,マリオやカービィのようなNintendoゲームの“文法”を使うようになるんですよね。直接同じようにするわけじゃないんですが,私たちもあまりにも長くプレイしているので,ゲームに染み出てくるんだと思います。
あと,大学で映画の演出に関しても学んだので,できることならそういう要素もゲームに入れていきたいです。
4Gamer:
なるほど。「ゲーム専門」じゃないのがいい方向に働いてるのかもしれません。
イム氏:
ええ。ゲーム専門学科じゃないからこそ,もっとできることがあると思います。
あとデザインを勉強したので,ブースのデザインや,配ってるチラシの紙の種類なども1つ1つ丁寧に選んで,訪れたお客さんがブースに来て体験すること全てに気を遣っています。
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4Gamer:
さっき200万円の支援金の話をしましたけど,それだけ凝ってるとすぐ消えてしまうのでは。
イム氏:
あの200万円は,雪のように溶けてしまいました(笑)。
じゃあ今年はどうやって生きているのかと言ったら。いろんなところで受賞して賞金をもらっています。もちろん賞金だけでは十分じゃないので,最近は投資もしていただきました。
経済が大変な時期なのに,私たちの本気をキチンと見てくださったありがたい会社さんがいまして,それで本格的に会社を経営しているところです。
4Gamer:
eスポーツ選手ではなくてデベロッパーも賞金で食べていけるなんて……。
まぁ投資されたなら,とりあえず経済危機は脱したのかな。次の作品なんかもなんとなく作り始めていたり?
イム氏:
次の企画は実はすでに手をつけていまして,開発期間1年ぐらいの短いプロジェクトになると思います。
今までやってなかったことをやるつもりで,ジャンルはまだ未定ですが,内部的にはホラーはどうか? という意見もありますね。
4Gamer:
ホラー…… アートを学んだ人がホラー作ったら怖そうです……。
にしても韓国人はホラー好きですよね。MONOWAVEみたいに,ほかとは違う特徴を何か考えてますか?
イム氏:
んー,もちろんそういうことも必要だとは思いますけど,何にするかによってだいぶ変わると思います。あと,ゲームが面白いのかをテストしながらの検証も必要ですし。
4Gamer:
さっきの話じゃないけど,「ゲームを学んだ学生」じゃないからこその,思考の可能性が広そうですしね。
イム氏:
そうですね。サウンドまでも全部内製なので,サウンド的な演出もできますし。
でも1番大事なのは,私たちはインディーだから作りたいものを作るということです。入れてみたいものを最大限に入れてみることに集中すると思います。
4Gamer:
うーん,今のメンタルのまま大きくなってほしいですね。
イム氏:
たぶん大丈夫……だと思います。
うちのプロデューサーは新たに企画を始めるとき,メンバー全員にA4用紙を1枚ずつ配って,好きなゲーム,作りたいゲーム,好きなジャンル,こういう要素はあってほしい,これはなくていい,みたいなことを紙いっぱいに書いてもらって,それを基に企画をするんです。
4Gamer:
ということは,すごい天才がパッと思いついたものをパッションのままに作るとかじゃなくて,割とシステマティックに作られてるんですね。
イム氏:
そうですね。瞬間で浮かんだアイデアは“特徴”にはなれると思いますけど,システム的にちゃんと作らないと長くは続かないと思っていますから。インディーであっても“システム”は必要だと思います。
4Gamer:
なかなか冷静で興味深いです。
イム氏:
私たちはインディーですが,メンバーにもちゃんと法律が定める基準以上の給料を支払っています。守るべきルールは守りながら,キチンと経営しています。
4Gamer:
大事なことですね。せっかくの好きなことを,我慢しながらやりたくないですもんね。
イム氏:
情熱は永遠には続かないですから。
4Gamer:
イムさんとは気が合いそうです(笑)。
イム氏:
あと,投資した会社の代表さんからのアドバイスも気にいってます。お金は使わないと増えない(笑)。
4Gamer:
真理ですね。
イム氏:
「お金の遣い方が上手なところは,投資する甲斐がある」とも(笑)。
4Gamer:
思ったよりドライで,なんていうかすごく面白いです(笑)。もちろん,いい意味で。
イム氏:
ここまでやってみて,ゲーム開発と会社経営は,まったく違う問題だと感じています。
会社を経営することを船の操縦に例えるとすると,ゲームは「船そのもの」で,そこに誰が乗っているかというメンバーも大事ですし,船がどこを目指しているかという方向性やビジョン,マーケットなんかも大事ですよね。
4Gamer:
東京ゲームショウで一緒にちらし寿司食べてるときは,そんなちゃんとした人に見えなかったのに!
イム氏:
ありがとうございます(笑)。ずっと順調だったわけではないですし,メンバーが離れるときもすごく大変でした。いろんな経験をしながら,成長しています。
4Gamer:
では順調に正常しつつ,まずはMONOWAVEのローンチを頑張ってください。期待してます。
そもそもエンタメコンテンツは,10個に1個くらいしか当たらないんだから,むしろ売れたら超すごいですよ!
イム氏:
そして大事なのは続けることで,もし1回失敗したとしても,失敗から学んで次に反映するから大丈夫です。
ありがとうございました。
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――――2025年11月15日収録
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