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エンタメ社会学者の中山淳雄氏とDeNAの田中翔太氏がエンタメをマクロ分析。日本のコンテンツは注目されているが,英語人材の不足という課題も
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登壇したのは,エンタメ社会学者でRe entertainmentのCEOを務める中山淳雄氏と,DeNAのエンターテインメント開発事業本部事業統括部 統括部長である田中翔太氏。モデレーターは,オフトピックのCo-founder & Content Directorである草野美木氏が務めた。
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同氏は5月に発売されたばかりの著書「キャラクター大国ニッポン-世界を食らう日本IPの力」を掲げ,ドラゴンボールやNARUTOといったIPがどのように経済圏を築いてきたかを分析していると説明した。
田中氏は,DeNAでエンターテインメント開発事業本部を統括している。Mobageのソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」の制作からキャリアを始め,IPゲームのプランナーやアニメプロデューサーも経験。現在は,AIイノベーション事業本部戦略投資統括部オープンイノベーション推進部 部長と,集英社DeNAプロジェクツの執行役員も兼務している。「伝統的なコンテンツビジネスと,スタートアップが取り組んでいる新しいエンタメビジネスをどちらも見ている」と自身のポジションを説明した。
最初のテーマは「今,エンターテインメントがスタートアップ業界で注目されている理由」について。中山氏は,アントレプレナー,Web3と3年くらいの周期でブームが変わると,IVS自体の変遷を振り返った。今年はエンタメに大きくシフトしたと指摘し,来年も続けてほしいと語った。
田中氏は,2010年前後のソーシャルゲームブームを引き合いに出し,当時,金融系のVC(ベンチャーキャピタル)は「よくわからない」と投資しなかったが,独立系のVCは積極的に投資して成功したと振り返る。
そして現在,SaaS(サービスとしてのソフトウェア)ブームが一段落し,日本発のスタートアップとして,新たな強みを模索するなかで,エンタメが再び注目されているとの見解を示した。
また,エンタメ領域のブームすべてがソーシャルゲームのような規模に成長したわけではないが,近年ではVTuber企業,とくに「にじさんじ」のANYCOLORと「ホロライブ」のカバーが上場し,高い業績を上げていると語った。
草野氏が海外の起業家に日本のVTuber企業の規模を説明すると驚かれるというエピソードを披露すると,中山氏は昨年9月にAndreessen Horowitzが公開した記事「Anime Is Eating The World」を例に挙げ,米国の金融業界もアニメに注目し始めていると指摘した。
話題は日本コンテンツの海外展開へ。中山氏は,バンダイナムコのIP別売上を例に挙げ,ガンダムが年間1500億円,ONE PIECEとドラゴンボールがそれぞれ1000〜1500億円規模に達していると説明。バンダイナムコに計上されないものも含めた,キャラクターごとの経済圏は,2000〜3000億円だろうと語った。
田中氏は,「ポケットモンスター」のように歴史的に積み上がってきたIPと,「おぱんちゅうさぎ」や「ちいかわ」のように急成長するIPの両方が日本にあることが強みだと分析した。
また中山氏は,DeNAの四半期収益が「Pokémon Trading Card Game Pocket」(ポケポケ)のヒットによって1000億円伸びたことに触れ,2012年をピークに下がり続けていた株価が復活し,上場来高値に達するほど,ヒットした際のインパクトは大きいと強調した。
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次のテーマは「エンターテインメント業界でGoGlobalを見据えたときに注目すべき領域」について。中山氏は,日本のコンテンツがグローバルで「高速道路がつながっていない」状況を指摘する。中国や台湾,ベトナムなどで個別に稼いでいるものの,そこから広がっていないという。
アメリカ企業の場合,アメリカからイギリス,イギリスからインド,さらにはマレーシアへとスムーズに展開できる「高速道路」があるのに対し,日本企業にはそれがないと分析した。
ただし音楽は,Spotifyのようなデジタル音楽配信サービスのおかげで,藤井 風さんがインドネシアやタイを経由し,西洋に広まったので,インフラがあれば展開できると説明した。
田中氏は,日本のコンテンツは大規模な作品でも,海外の流通経路や商取引関係と断絶している可能性があると指摘する。「皆さんが絶対知っているようなIPホルダーでも,特定の地域と1回も話したことがないというのはありえる」と実情を明かした。
この課題の背景には,英語話者で海外ビジネス開拓をしてきた人材の圧倒的な少なさがあるという。そこで,日本コンテンツの高速道路がつながっていないところを手でつなぐことが,スタートアップにとってビジネスチャンスになると提案した。
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残り時間が少なくなり,草野氏があらためて「具体的な注目すべき領域」について尋ねると,中山氏はTikTokをはじめとする中国のライブコマースに注目していると応じた。
田中氏は,AIとの掛け合わせが確実に注目領域だとしつつ,既存産業の生産性向上と,ゼロからAIで新体験を作ることの2つの方向性があると説明する。
前者は,アニメの制作環境における高い負荷を減らさなければならないが,受容におけるハードルがあるので,スタートアップに実例を示してほしいと語った。
後者は,現在はAIで何かを作ってもマニアックな人しか買ってくれないので,今回のセッションでたびたび話題となった「商流」の問題があるとした。「誰かが稼ぎ出したら,ソーシャルゲームと同じように『あんなもの誰もやらない』から『稼いでるじゃん』に一気に変わる」とAIの可能性に期待を寄せた。
そして,DeNAもAIにオールインし,スタートアップと共に頑張っていくと語り,セッションを締めくくった。
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