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2022年以降,Steamに起こった変化とは。“売れる方法”が通じなくなった理由と,2000万円で動き出した試み[CEDEC 2025]
開発者向けカンファレンス「CEDEC 2025」の講演「300万本売ったインディーゲームのプロデューサーだけど、もうSteamでは今までのプロデュースでは限界かもしれない 〜2000万かけてメディアを作ったワケ〜」についてレポートしよう。
CEDEC運営事務局からの要請により,本レポートは講演の一部内容を省略したダイジェスト版となっている。講演ではSteamの変化と海外取材で得られた知見が語られたが,本稿では主に前者についてレポートする。
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2022年以降,Steamは変わった。
果たしてその変化とは
「300万本売ったインディーゲームのプロデューサーだけど、もうSteamでは今までのプロデュースでは限界かもしれない 〜2000万かけてメディアを作ったワケ〜」
登壇者:斉藤大地氏(ワイソーシリアス WSS playground 代表)
Jini氏(ゲームゼミ 主筆)
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斉藤大地氏は,2011年から28本の作品に携わり,初プロデュース作品「殺戮の天使」をアニメ化まで持っていくなど,ヒットを飛ばしてきた。勝因について氏は,“Steamに早い段階から参入し,無料のメディアであるという側面を活用して目立ってきたこと”であると自己分析する。
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これまで,新作ゲームを広く売るにはプロモーション費用が必要であり,ときには開発費と同程度の額が求められることもあった。こうした常識を覆したのがSteamである。
多くのユーザーを擁し,トップのバナーなど,プロモーション費用に換算して数千万円分の露出を無料で行ってくれる。これを見たユーザーは,そのままゲームを購入できる。こうして売れたゲームは人気ランキングに載って人の目に留まりやすくなるし,注目されれば割引でさらに耳目を集められる。
加えて,個人の購入履歴からおすすめを提案する「ディスカバリーキュー」や,特定ジャンルを特集する「テーマフェス」といった取り組みも行われている。特にテーマフェスでは「発売日よりも多く売れた」こともあるという。通常,ゲームの売れ行きは発売日直後がピークとなるため,Steamがいかに型破りであるかが分かるだろう。
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こうした時流に乗ったのが,斉藤氏のワイソーシリアスである。2019〜2022年に,ネット文化+ドット絵アドベンチャーの「NEEDY GIRL OVERDOSE」,強力なIP+購買力のあるファンがいるメトロイドヴァニアの「ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-」など,氏がプロデュースするソフトは次々とヒットを飛ばしている。
しかし,2023年以降に同社が出した新作はヒットしていないと,斉藤氏は語る。氏が例に挙げた「少年期の終り」「ブレードキメラ」は,作品の質は高いものの,レビュー数が1000を超えていない。「ブレードキメラ」については,過去作より長くプレイできるにもかかわらず,ボリューム不足を指摘するレビューが目立ったそうだ。
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このように,ソフトが注目を集めにくくなっている理由として,斉藤氏はソフト数の増大や大手の参入を挙げる。2022年から2024年で,ソフトの発売数は1か月当たり1000本から2000本に,年間では1万2000本から1万9000本に増加している。
そして,2022年までの盛況を見て,大手が大ボリュームの過去作を投入したことで,総額によるランキングにおいて単価の低いインディーは不利となり,露出の機会も減少した(「Steamは売り上げが一定に達しないソフトに対して足切りを行っているのではないか」という仮説も存在するという)。
かつてはアーリーアクセスのソフトに対して,ユーザー側も一定の理解を示していたが,近年は「お金を払ったのだからもっと遊びたい」という,ある意味まっとうなレビューも増えているという。
また,これまではバナーにキャッチーな色を使うなど,目立つ戦略が有効だったが,2024年以降は目立つものよりも手堅く面白いものが求められていると氏は感じている。
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Steamがすべてのゲームに開かれたプラットフォームであり,ユーザーもアーリーアダプター以外の層へ広がったからこそ,こうした変化が起こっているわけだ。
斉藤氏は「Steamは成熟するまでの期間が長かったが,世間から認められてしまった」と語る。かつてのTwitterやYouTubeのように,インターネット上のプラットフォームはこうした変化を辿っていくが,Steamの変化は予想以上の速度で進み,マーケティングが難しくなったという。
Steamでのゲーム販売は,予算をかけ,ブランド力を高め,多くの人員でボリュームあるゲームを制作する「資本の総力戦」とでもいうべきフェーズに突入しているが,斉藤氏は,インディーであるがゆえに,総力戦ではない解決を探りたいと語る。
どのように氏が問題と向き合ったかは,続く詳報に期待されたい。
「CEDEC 2025」公式サイト
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