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新興国のゲームイベントを,ゲーム産業における海外進出のコンサルタントが紹介。現地のデベロッパや外注先と効率よくマッチングするには[CEDEC 2025]
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このセッションでは,ゲームやアニメ,漫画産業における海外進出のコンサルティングなどを手がけるルーディムスの代表取締役 佐藤 翔氏が,新興国の重要なゲームショウやカンファレンスを一通り紹介するとともに,現地のイベント運営者とどのように接していけば良いのかなどについて解説した。
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新興国ゲームイベント・カンファレンス総論
ゲームイベントの世界的な動向については,グローバルで毎年約300のゲームショーやゲーム技術カンファレンスが開催されているとの報告がなされた。コロナ禍以降はリアルイベントが増え,インドネシアやシンガポール,アフリカのザンビアやカッパーベルトといった国でも開催されるようになっている。
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それではなぜこうしたイベントが多く開催されるようになったのかというと,1つはUnityやUnreal Engineなどの普及により開発環境が充実し,小国でもゲーム開催が可能になったことが挙げられた。それに伴い,現地のゲームスタジオと大手企業やパブリッシャ,投資家とのマッチングのニーズが拡大している。
というのも,たとえばSteamでは年間1万8000本ものタイトルがリリースされるが,佐藤氏によると,販売数が多いタイトルの7〜8割はパブリッシャがついている。その一方でパブリッシャが存在する国や地域は限られている。そのためゲームイベントを開催し,他国のパブリッシャに来てもらい,契約の機会を得る必要があるというわけだ。
また,新興国における政府主導のゲーム産業振興策が拡大しているのも,ゲームイベントが増えている理由の1つだ。ゲーム関連のスタートアップ育成は,デジタル人材やクリエイティブ人材,グローバル人材の育成につながるため,新興国の政府は注力している。
そのため,政府事業として日本や欧米の大企業を誘致したり,専門家をスピーカーに呼んだりするケースが増加しているのである。
加えて新興国はもともと流通インフラが弱いため,デジタル流通が中心になっている現在,従来型のBtoCイベントの存在感が低下しているという。その一方でeスポーツイベントが拡大・多角化し,地元スポンサーや会場の確保がしやすくなっているそうだ。
海外のBtoCゲームイベントの規模感も,以下のスライドのとおり紹介された。Tier 1は当然重要だが,Tier 2は参加を要検討,Tier 3以下はそのマーケットにフォーカスするのであれば参加を考えてもいいくらいのイメージとのこと。
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複数の国や地域で展開しているゲームイベントブランドも紹介された。またどのイベントに出展するか迷う場合には,一度これらのイベントに足を運び,運営者と仲良くなるのがオススメだそうだ。というのも,運営者は複数の国や地域のスピーカーやスポンサーとコネクションを持っているからである。
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世界のゲームイベント情報をまとめたWebサイト「Game Conf Guide」が紹介された。2024年にルワンダで開催されたゲームイベントもしっかり掲載されていたという。また,佐藤氏も愛用しているという,BtoBイベントのグローバルスタンダードとされるマッチングサイト「MeetToMatch」も紹介された。
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良いイベント,悪いイベント(BtoBイベント編)
佐藤氏は最近,日本のゲーム会社と新興国のゲームイベントの運営者との間にトラブルが発生するケースをよく聞くそうだ。たとえばBtoBイベントだと,パブリッシャが思ったようなデベロッパに会えなかった,大手ゲーム会社が外注したらレベルが低すぎたといったケースがあるという。佐藤氏は,そうしたトラブルを避けるために,チェックすべきポイントを以下のように紹介した。
まず,現地のアワードなどにノミネートしている現地発の開発者のコンテンツをSteamやApp Storeなどでチェックしてみる。
前年開催のイベントに,どんな人物がスピーカーとして登壇しているかをチェックしてみるのも有効だ。なぜなら,ゲームイベントであるはずなのに,ゲーム業界の関係者がまったくいないなんてこともあり得るからである。当然,そういったイベントではマッチングに期待はできない。
また前年に開催が中止になっているイベントは,座組みや会場が大きく変わらない限り,今回も中止になる可能性が高いことも覚えておきたい。
前回開催時の登壇者に,運営者の人物像やイベントの様子などを確認するのもオススメとのこと。また特定のイベントでは,参加予定者がDiscordのチャンネルやWhatsAppのグループチャットで情報交換しているので,そこに入って話を聞いてみるのもいい。さらにオンライン参加が可能なイベントであれば,まずオンラインで様子を見るというのも1つの手である。
現地のゲーム業界団体が主催しているイベントの場合は,本当に現地の業界を代表しているかチェックする。たとえばある国の特定の民族を代表しているだけで,ほかの民族はまったく関わっていない,あるいはその国の首都の人達しか参加していないといったケースが実際にあるそうだ。
また,アウトソーシング企業が主催している場合はインディーゲーム系が,オンラインゲームの運営会社が主催している場合はライバル会社がまったく参加していないといったこともあるという。
最後に紹介されたのは,イベントのスピーカーを務めることである。新興国では,日本のゲーム業界のケーススタディが常に求められているので,スピーカーは会場を歩いているだけでもどんどん声をかけられるとのこと。ただし騙そうとする人もいるので,佐藤氏は多くの人とコネクションを作り,現地におけるそれぞれの評判をチェックしていると話していた。
良いイベント,悪いイベント(BtoCイベント編)
佐藤氏によると,新興国のBtoCイベントはBtoBイベントよりも厳しい目でチェックする必要があるとのこと。そもそもゲームイベントで集客するには資金が必要だし,ブランドの構築にも時間がかかるため,イベントの運営者がまったくゲーム業界の経験がないケースもある。そういうイベントの1〜2年目は,当然避けたほうがいい。
過去の出展社のチェックも重要だ。とくにかつて大きなブースを出展していた有力な企業が,市場から撤退していないにもかかわらず,2年以上連続で参加していない場合は,何かがあったと捉えていい。
国内外の過去のイベント参加者からのヒアリングも有効である。パブリッシャならパブリッシャ,投資家なら投資家といったように同じ立場の参加者から話を聞くといいそうだ。
イベントの参加者数は重要だが,絶対ではないことも覚えておきたい。アプローチしたい顧客にリーチできなければ,数が多くともまったく意味がないからである。アメリカの例だが,PAX Eastの来場者はインディーゲームが目当てだが,PAX WestはAAAタイトルのファンの比率が大きいことが示された。
ほかの大型イベントの一環で開催しているゲームイベントの場合,内容は期待できないことが多い。佐藤氏によると,ほぼ例外がないと言っていいくらいとのこと。
ブロガーや実況者などローカルインフルエンサーにリーチすることも重要だ。逆に新興国では,ゲームメディアは欧米ほど存在感はないという。
タイトルの規模やターゲットによっては,既存のBtoCイベントに参加するよりも,現地のマーケティング専門家と組んでクローズドイベントや自社イベントを開催したほうが効果が高いケースもある。実際,中国のモバイルゲーム会社や欧米のコンシューマゲーム会社は,そうやってユーザーを集めているそうだ。
新興アジアのゲームショウと開発者カンファレンスの動向
東南アジアのゲームイベントとしては,まず2024年までシンガポールにて開催されていたgamescom asiaが紹介された。佐藤氏によるとBtoBイベントとしてはそこそこ機能していたが,BtoCイベントとしては少し弱いところがあったという。そのため2025年はThailand Game Showと合併して開催されるということで,注目を集めている。
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東南アジアのBtoBイベントとしては,インドネシアのIndonesia Game Developer Exchange(IGDX)とマレーシアのLEVEL UP KLが紹介された。後者はアニメイベントと併催されているが,きちんと切り分けられており,運営者もゲームに関する知識があって,それなりの人達を呼んでいる印象があるとのこと。マレーシアやインドネシアのインディーゲームや,トレイラーの外注先を探すにはオススメだという。
それを追いかけているのがIGDXで,前回までは参加しづらいという声もあったが,2025年からは改善されるそうだ。
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フィリピンのGameDev Summitは,例年2月に開催される。これにはアメリカ北部やヨーロッパ北部の厳冬期に,各国のゲーム開発者が集まり,南国のフィリピンでバカンスを楽しみつつ交流を深めようという意図がある。招聘するスピーカーは一流で,内容も充実しているという。またフィリピンはインディーゲーム開発者や,外注が得意な会社が多いことも示された。
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インドのBtoCイベントはあまり質が良くないそうだが,その中ではDreamHack HyderabadやComic Con Indiaが比較的いいという。後者に関しては,日本の漫画ファンの延長線上で日本のゲームファンも来るといった感じで,ユーザーにリーチするという意味での参加はアリだが,ゲームイベントとしてはまだまだ足りない部分が多いそうだ。
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一方,インドのBtoBイベントでは,India Game Developer Conference (IGDC) がオススメとのこと。一昔前は外注会社やモバイルゲームの会社が多かったが,最近はインディーゲームのブースも勢力を増し,いろんなニーズに応えられるイベントになっているという。
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インド政府が2025年5月に開催したWorld Audio Visual & Entertainment Summit(WAVES)は,ゲームだけでなく映画やアニメ,漫画などエンターテイメントコンテンツを扱ったカンファレンスだが,日本から参加した人の感想を聞く限りでは賛否あるとのこと。
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中央アジアのゲームイベントとしては,ウズベキスタン政府が開催するGame Festが紹介された。規模は小さいが,優れたスピーカーやヨーロッパ有数の投資家が訪れていたそうで,佐藤氏はいろんな人と密な関係を築けたと話していた。またキルギスで開催される予定のCentral Asia Game Showは,前回延期になったため2025年開催も怪しいという。
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中東のゲームショウと開発者カンファレンスの動向
サウジアラビアは政府主導でゲーム産業の育成に取り組んでおり,さまざまなゲームイベントが開催されている。ただBtoBイベントは少なく,BtoCイベント,とくにeスポーツ関連が多いそうだ。その中でも,エンターテイメントイベントのリヤド・シーズンでは,eスポーツワールドカップも開催される。
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BtoBイベントとしては,The New Global Sports Conferenceが紹介された。日本の大手企業のCEOなどが招待されるという。また数少ないBtoBカンファレンスとして,Alfaisal Gaming & Innovation Conferenceが紹介された。モバイルゲームのイベントでは,Pocket Gamer Connectsが,まあまあ手堅いとのこと。
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トルコのBtoCイベントの定番としては,Gaming Istanbulが紹介された。トルコ自体,ハイパーカジュアルゲームが盛んなので,ハイパーカジュアルタイトルを求める人はもちろん,アドテックや分析計の会社も集まってくるそうだ。その意味では,モバイルゲーム企業にとってWN Istanbulも面白いのではないかとの見解も示された。
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中南米のゲームショウと開発者カンファレンスの動向
ブラジルのゲームイベントとしてはgamescom latamと,Brazil Game Showが紹介された。前者はもともとBrazil's Independent Game Festivalというインディーゲームオンリーのイベントだったが,gamescomと合併することにより,BtoBとBtoCを扱う大きなイベントになったという。Brazil Game ShowはBtoCイベントで,それなりに集客力があるそうだ。
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スペイン語圏アメリカのうち,コロンビアやペルーで開催されているものはエンターテイメント全般やクリエイティブ全般の一部としてゲームを扱っている感じで,あまり効率は良くないという。一方チリのFestiGameは,BtoCイベントとのこと。
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アルゼンチンのEvaはBtoBイベントで,現地だけでなく周辺国のゲームが展示されており,集客もいいそうだ。とくにインディーゲームだけ見る場合は効率がいいという。またメキシコのGamacomはもともとBtoC要素が大きかったが,徐々にBtoBが入ってきて成長途上の感があるとの解説がなされた。
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アフリカのゲームショウと開発者カンファレンスの動向
モロッコ政府主導のMorocco Gaming Expoはeスポーツ要素とBtoBカンファレンス,BtoCが混ざってイベントの趣旨が分かりにくいという。また会場の動線もあまり良くないと佐藤氏は指摘していた。ちなみに2025年は,岡本吉起氏もスピーカーとして登壇した。
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Africa Games WeekはBtoB寄りのイベントで,その中でもシリアスゲーム寄りとのこと。これは社会問題の多いアフリカならではで,シリアスゲームに興味ある投資家などが集まっているという。Microsoftなど欧米の会社の人材も来ており,交流の質は高いそうだ。
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rAge Expoは南アフリカ最大のBtoCイベントで,LANパーティー要素が強いという。またPlaytopiaはインディーゲーム寄りのイベントでアートハウス的な展示が印象的とのこと。
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ナイジェリアのAfrica Comicadeや,ザンビアのZambia Game Developers Connectは,ワークショップに毛が生えた程度の内容だが,周辺国から人が集まってくるという。
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まとめ
セッションの終盤,佐藤氏は「新興国では,とくに優れたBtoBイベントが増えてきている」と語った。その国の市場が狙いではなくとも,欧米の一流のスピーカーと交流できることが大きなメリットになるとのこと。GDCやgamescomのような大きなイベントではなかなか会えなような人達にも,比較的簡単に会えるそうだ。またイベントの運営者や現地の業界団体とつながり,各地の産業や開発者の情報収集ができるようになることも有益だとも話していた。
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