プレイレポート
[TGS 2019]稼いで散財!「くじ引きサイクル」は,バイトの楽しさとガラガラの面白さが人の心を狂わせていく高い中毒性を持ったゲームだ
「くじ引きサイクル」は,バイトとくじ引きに明け暮れるゲームだ。バイト用PCと,くじ引き用PC,そしてガラガラ型デバイスで構成されている。
まず,くじ引きの資金を稼ぐため,バイト用PCでマウスを使って働く。バイトの職場はケーキの工場。ボタンを押すと空箱がベルトコンベアー上を流れてくるので,トレイにあるマドレーヌ風のケーキをドラッグアンドドロップで詰めていく。箱は2分割されており,2個詰めが適切のようだが,実は入れたケーキの数が多いほどもらえる賃金の倍率が上がるため,なんとか4個くらい詰め込もう。蓋が閉まらないようにも見えるがまったく問題ない。
「バイトの賃金なのに“倍率”って何だ!?」と思う人もいるかもしれないが,本作を手がける“のへもん”氏曰く「この挙動は点数計算をループして何度も繰り返すバグなのだが,面白いので残した」とのこと。詳しくは後述するが,この倍率によるインフレは本作に中毒性をもたらしており,それがバグの産物であるというのが面白い。ケーキがなくなったらレバーを引こう。トレイにケーキが補充されてくるので,再び箱詰めに励むのだ。
そして,ある程度お金が貯まったら,今度は福引き用のガラガラデバイスをグルグルと回そう。結果はくじ引き用のPCに表示されるのだが,ガラガラデバイスの動きに同期して画面内のガラガラが回転,軽い振動とともに玉がポンポンと飛び出すのが心地いい。くじ引きには5種類の等級があり,最高の「大当たり」が出る確率はわずか0.1%。出ると画面が光って祝福されるのだが,ゲーム的には何の効果もないらしいのがシニカルだ。
ここまでなら,確率の面白さを表現するミニゲームという感じだが,くじ引きの景品にバイトの効率を上げるものがあるのが本作のポイントである。「バイト単価25円アップ」なら,箱詰めした際の単価が増額され,「生産数1個アップ」は,レバーを引いた際に補充されるケーキが1個増加する。
バイトに戻ると,効率がアップしたおかげで,これまでと比較にならないほど稼げるようになっている。手に入れた大金を持ってくじ引きに挑むと,景品が出てさらにバイトの効率がアップ。またまたバイトに戻るとさらにさらに稼げるようになっていて,またくじ引きをすると効率が上がって……というように,バイトとくじ引きをぐるぐると繰り返してしまうのだ。
同時に,バイトの効率化も楽しくなってくる。たくさんのケーキを手際よく詰め,1秒でも素早くレバーとボタンを操作してケーキを補充し,新しい箱を呼び出す……というミニマルな作業が楽しくなってくる。
筆者がしばらくプレイしていると,最初は100円だったバイトの単価も,1000円を越え,5000円を越え,ついには1万7000円に到達。ケーキを詰めるだけで1万7000円ももらえるなんて……。ケーキの多数詰めで倍率が上がるうえ,前述した効率化で手際よく作業が進みだすと,所持金がとてつもない勢いで増加していくのだ。
ちょっと仕事をすれば100万円くらいは簡単に稼げるようになり,脳内にいい感じの汁が湧き出てくる。
逆に,くじ引きの値段は1回100円で据え置きなので,ガラガラを回しても回しても所持金がなくならない。玉がポンポンと飛び出す感じはまさに散財という感じで楽しく,いくらでもくじ引きを引けるので,ハンドルを回す手にも力が入ってしまう。くじ引きPCの画面はガラガラから出た玉で一杯だ。「バイトヘル2000」のミニマルな面白さに「クッキークリッカー」のインフレ感を足した感じで,なかなかに中毒性が高い。
こうした面白さを増幅しているのが,2台のPCとガラガラ型デバイスの存在だ。極端な話,バイトとくじ引きの画面を切り替え式にすればPC1台でもゲームは成立するが,2台のPCを忙しそうに行き来して,バイトとくじ引きに励むのは妙に楽しく,いい意味で「俺,何やってるんだろう(笑)」感を覚える。これは画面切り替えだけでは味わえないものだ。そして,くじ引きの際にガラガラ型デバイスのハンドルを回すのは理屈抜きでワクワクと楽しさがある。
こうした直感的な面白さを表現するために,ちょっとした技術が使われているのも面白い。2台のPCはそれぞれWindows PCとMacintoshで,無線で接続されている。そして,オンラインゲームにも使われているphotonによって,所持金やバイト単価といったデータが同期されているのだ。
ガラガラ型デバイスの中に入っているのは,なんとNintendo SwitchのJoy-Con。角度を検知することによってガラガラが回ったかどうかを判断し,玉が出たらデバイスの基部にあるバスシェーカーに信号を送って振動させている。
本作は,もともとUnityを使って1週間でゲームを作るオンラインコンテスト「Unity 1週間ゲームジャム」に投稿されたもの。教師から聞いた「ケーキ屋で箱詰めをするバイトをした際,作業を効率化していくことが楽しくなっていった」という体験談を参考に,「バイトヘル2000」のバイトミニゲームの面白さと,「Papers Please」における,マウスを使ってバーチャルの用具を操作する楽しさを組み合わせ,バイトとくじ引きのサイクルが円滑に回ることを意識して制作されたという。
この時点では1台のPCでキーボードとマウスを使って遊ぶものだったが,ガラガラ型デバイスや2台のPCによる連携といった改良を加えた。TGS 2019の会場ではガラガラ型デバイスが何度も壊れてしまったものの,修理を繰り返しつつ展示を行ったそうだ。
ミニマルなゲームにガラガラ型デバイスを組み合わせ,インフレを楽しむというのは,大手ゲームメーカーからはまず出てくることのない発想と言えるだろう。
“のへもん”氏によれば,アプリ化が予定されているとのことで,気になる人は公式サイトやTwitterで情報をチェックしてみよう。
「のへ門」公式サイト
4Gamerの東京ゲームショウ2019特設サイト
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