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[インタビュー]「三国志大戦」の西山泰弘氏が,セガを辞めて新天地で目指すものは何か―――ゲームのプロデュース集団として,業界に広く深く貢献したい
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印刷2024/07/03 12:00

インタビュー

[インタビュー]「三国志大戦」の西山泰弘氏が,セガを辞めて新天地で目指すものは何か―――ゲームのプロデュース集団として,業界に広く深く貢献したい

画像集 No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]「三国志大戦」の西山泰弘氏が,セガを辞めて新天地で目指すものは何か―――ゲームのプロデュース集団として,業界に広く深く貢献したい
 2023年のIVSで,スクエニの畑さんと一緒にお会いしてから,早1年近く。なぜかいつも暑いときにしか会わない西山泰弘氏だが,先ごろセガを辞めて「スゴロックス」という会社を設立した。

 普通のゲーム業界人が普通に辞めて普通に会社を興すなら「まぁあるかも」という感じだが,このあまり景気のよくないゲーム業界で(開発会社は今どこも結構苦しい),西山氏ほどの経験と実績がある人が,会社をスパっと辞めて新たに会社を興すというのは,なかなかの挑戦だ。それにしても,なぜこのタイミングで設立したんだろう。わざわざ茨の道を,歩まなくても。

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 6月末に京都で開催されていた「IVS 2023 Kyoto」には,ブロックチェーンゲームやNFTなどを扱うゲーム会社も多く参加していた。その中でも,NFTに真っ向から突っ込んでいったスクエニと,三国志大戦のブロックチェーンゲーム化を発表したセガに,いろいろと聞いてみよう。

[2023/07/27 12:00]

「スゴロックス」公式サイト


 セガAM1研の開発本部長だった西山氏の手掛けたタイトルといえば。「三国志大戦」シリーズや「コード・オブ・ジョーカー」,「ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド 4」。あと変わったところでは,コインゲーム「アミー漁」(あみーぎょ)などがある。また,12年も前にすでに「maimai」で音ゲーとSNS(?)を融合させたり,スマホで「チェインクロニクル」という作品も作っていたりしている。
 西山氏の基本生息地はアーケードだったので,コンシューマやPCのゲーマーだといまいちピンと来ないかもしれないが,割と万能型の人だ。そして,いつも何か「新しいもの」を求めてうろうろしている感じがある。

 アイデアマンともいえる氏が,それなりに上のほうにのぼっていたであろうセガをすっぱり辞めて新会社を興したのは,一体どういう理由だろう。それを聞くために,できて間もない蒲田オフィスにお邪魔してみた。

スゴロックス 代表取締役社長 西山泰弘氏
いつも最高にノリよくしゃべってくれるのはいいのだが,お互いにすぐ業界裏話ばかりしてしまい,記事には書けないことばかりなのが難点。このインタビューも,本当はこの3倍くらいのボリュームなのだが,書いたらなかなか大変なことになってしまう……
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グローバル市場を目指す,プロデュース集団としての位置づけ


4Gamer:
 さて……なんか急にセガを辞めてスゴロックスを設立しましたけど,その背景についてまずは聞かせてもらってもよいですか?

西山氏:
 うーん,なんか気付いたらそういう流れになってたというか。

4Gamer:
 辞めたことはまだしも,普通はこのタイミングで起業しないと思うんです。いま業界は結構厳しい狭間にいますし。

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西山氏:
 確かにそうですね。みんな知っていることですけど,日本のゲーム業界は全体的にかつてのような黄金時代じゃないわけです。世界のゲーム会社に結構やられています。
 でも僕は,今のゲーム業界で起業することについては,あんまりハードルが高いことだとは思っていないんです。「面白いものを作る」という大前提を徹底的に突き詰めれば,まだまだ世界のゲーム会社に負けないプロダクトを生み出せるはずだと信じています。
 それともうひとつ,セガを離れる前の数年間,投資や新規事業といったモノ作りからはちょっと離れた業界貢献という仕事に携わることができたんですね。

4Gamer:
 去年のIVSでもそんなことおっしゃってましたね。

西山氏:
 そういうことをやっていく中で,なんかちょっと違和感があるなと思っていて。
 それで,日本の会社が厳しくなっちゃった理由ってなんだろう,というのをずっと考えてたんですけど,ゲーム作りの現場から少し離れてゲーム業界全体を俯瞰することができたときに,「なんか変化してきているなぁ」と強く感じました。

4Gamer:
 その「違和感」の理由は何だとお考えですか?

西山氏:
 なんと言うのかな,「空気の重さ」みたいな……。

4Gamer:
 業界の? 会社の?

西山氏:
 ミクロ的視点で言うなら会社ですね。例えば,新作ゲームの試作品をプレイして「あまり面白くない」と感じても,その場に忖度してしまって「これ面白くないね」とハッキリ言わない人が多くなってきている気がします。

4Gamer:
 それ,日本の社会全体の問題だと思うんですよね。仕事の結果や考え方に異を唱えると,なぜかそれが,個人を否定したことになってしまう。なのでそもそも議論にさえならないことが多いです。

西山氏:
 そう!その結果,面白くないものが面白くないまま世に出るわけです。「ダメなものをダメだと言えない空気感」が出来てしまっているのは本当によくないと思います。
 それは,自分たちの持っている未知の可能性にも自らフタをしてしまうことにもなって,とても惜しいことなんです。

4Gamer:
 変化を望んでないわけですからね。

西山氏:
 それこそ,テレビの業界に規制が多くなってつまんなくなったからネットに流れた……みたいな話がありますよね。今ではYouTubeをはじめとした様々なメディアがあるので,それぞれのクリエイターが自分に合ったところで活躍することができます。
 ゲーム業界にもそんなボーダレスな環境があってもいいのかと。

4Gamer:
 では西山さんは,スゴロックスをそういう会社にする?

西山氏:
 ちょっと近いですね。「ゲームのプロデュース集団」と書くのが一番シンプルかな。もちろん,プロデュース以外にもゲームに関わることならいろんなことやりますけど,コアな価値観については「プロデュース集団」という言葉が一番しっくりきます。
 企画やリソース,ファンドなども含めて,僕がこれまで培ってきた人脈を活かして,各社のお力になりたいと思っています。

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4Gamer:
 いわば,ゲーム業界のフィクサー的な。自分たちでゲームを作ったり売ったりする予定はないんですか?

西山氏:
 今すぐ自社パブリッシングする,という計画はないですね。ですが,スゴロックスとしてお受けしているプロデュースの案件の中で,例えば「開発のリソースが足りない」という状況だったら,スゴロックスのメンバーが調整しに行ったりとか,そういうパターンはあると思います。
 あとは,開発の工数が空いていて,案件を待っているベンダーに対して,僕がファンドに向けて企画を立てて,ファンドを口説き落としてお金出してもらい,それをベンダーに振ったりとか,そういったこともやりますよ。

4Gamer:
 「面白くない」ってちゃんと言ってくれる感じの。

西山氏:
 まあそんな感じのメンバーですね(笑)。
 一応真面目に答えておくと,名前とは裏腹に基本的にはグローバル前提の会社です。市場のトップランナーに,世界一に,なるために設立しました。

4Gamer:
 何をもって「世界一」を定義してます?

西山氏:
 んー例えば「VALORANT」かなぁ。

4Gamer:
 どういう意味合いでしょう。

西山氏:
 「Call of Duty」に対しての「VALORANT」,みたいな。今まで圧倒的にNo.1だったプロダクトに対して,後発でもいい勝負ができるプロダクト,と言えばいいですかね。そういうものを作れないと,世界一とは言えない気がしています。

4Gamer:
 なるほど,市場No.1を打ち倒す的な。それはまた……正直,割と大きく出ましたね。

西山氏:
 でしょう?(笑) でも僕自体は,企画だけじゃなくていろんな新しいテクノロジーも視野にいれています。「VALORANT」の勝負の仕方を,たぶん日本人はできないんじゃないかな。何か仕組みを変えたり,プラットフォームを変えたり,新しい価値を明確に提供したり。
 例えば,ゲーム内の面白さと直接的には関係ないかもしれないけれど,ゲームのコミュニティマネジメントなんかも,いまのテクノロジーを使えば,もう1段階レベルアップすることも十分可能だと思います。

4Gamer:
 耳に聞こえのいい謎の企画を作って,ピッチでウケて数億集めて一か八かの一発勝負,みたいな感じではなさそうですね。

西山氏:
 まぁおじさん揃いなのでそういうのは(笑)。企画もリソースも,なんならファンドとかも,僕が培ってきた人脈が裏側にいっぱいあって,そういうところからも結構各社さんを助けにいくみたいな感じですね。

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ゲーム業界の現状と課題


4Gamer:
 ちなみに西山さんは,日本のゲーム業界の現状をどのように見てますか。

西山氏:
 さっき言ったように,日本のゲーム業界は全体的にかつてのような黄金時代ではありません。ですが,そもそもそれって,4Gamerさんにもたまに書いてありますけど,日本のゲーム業界が本気で世界を目指さないからなんですよね。

4Gamer:
 これも繰り返しの議論なんですが,国内である程度の規模のビジネスが出来ますからね。

西山氏:
 うん,そうですね。一方で例えば僕は,東南アジアとか東アジアを含めたアジアがやっぱり好きなんです。それらのマーケットは絶対これからもっと伸びるし,それをみんな分かってるのに,本腰いれて取り組んでいない。

4Gamer:
 「いまやることじゃないだろう」的な?

西山氏:
 短期的にP/Lヒットしない(=目先の利益がすぐあがらない)からですからね。だから本腰入れて取り組んでいないわけです。ですが,本腰いれて取り組まないと現地の市場が全然育たないし,そしてその国の市場は,また海外勢に全部持っていかれる。
 中国でもインドでもどこでもいいんですが,みんな全然実際に行ったりしないじゃないですか。実際に現地に行って初めて分かることもあるのに。

4Gamer:
 ゲーム業界で結構な重鎮の方でも,いまだに中国のイメージが昭和のままで「人民服で朝の自転車の大渋滞」みたいな人普通にいますよ。びっくりします。少なくとも都市部のインフラなんかは,もうとっくに日本を抜いてるんですけど,アップデートしないとそういうことになっちゃうんだなぁと。

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西山氏:
 ほんとにねえ。
 それで言うと,この間僕すごく怒られたところなんですけど,東南アジアってすごく大事ですよね。シンガポールはもちろんハブになるけど,マレーシアだってフィリピンだってタイだってベトナムだってみんな大事なんですよ。これからの市場だし。
 でも大事だって思ってて,実際にそう口で言ってる割には,なんかこう……日本で言うなら「中国地方と四国地方と九州地方」みたいな感覚になってたというのが正直なところなんです。

4Gamer:
 なんかちょっと分かる気はしますけど,そこまで近くはないのでは(笑)。

西山氏:
 いやホントその通りなんです。
 現地でサービスしてる人たちとお話する機会が先日あって,彼らが僕をめっちゃ怒ってくれたんです。「西山さんあなたバカですか」みたいな。「同じなわけないじゃないですか」と。

4Gamer:
 十把一絡げにしないで各国の違いをしっかり理解する必要がある,と。

西山氏:
 もちろん頭では理解はしてるんですよ。中国と四国くらいの違いでしょとか,そんなわけないことくらい分かってます。でも本当の意味で分かってなかったんですよね。確かに僕の考え方は失礼だなと思って。

4Gamer:
 ずいぶん昔にFuncomの人と話したときに「北欧3国ってすごく似たイメージがあります」って言ったら「そんなことないですよ(笑)」って諭してくれましたけど,あれも失礼でした……。いまなら分かります。結構違うんですよね,あの三国。

※ノルウェーのゲーム会社。1993年設立の老舗で,古いPCゲーマーには「Anarchy Online」「Conan」と言えば大体ピンとくるだろうか。最近では「Dune」なども手掛けている。

西山氏:
 しかも今はソフトウェアのイノベーションの時代じゃないですか。ハードのイノベーションの時に顕著でしたけど,日本人はハードが変わった時にそのハードを使いこなすのが,本当にとてもうまい。だからiPhoneが出た当初,世界で一番面白いゲームを作ってたのは,日本だったと思います。
 
4Gamer:
 遡るとガラケーなんかもそういうのだったのかもしれませんね。業界的に言うなら初代ゲームボーイとか。モノクロで160×144しかない画面だったのに!

西山氏:
 そうそう! でも今ってなんていうかそういう突飛なハードウェアがないんですよ。

4Gamer:
 VRは?

西山氏:
 VRもいいんですが,ユーザーからのインプットは全然関係ないですよね。どこまでいっても描画の話であって,実質インプットがない。

4Gamer:
 なるほど。じゃあドラスティックと呼べるレベルでインプットに変更があったのはスマホが最後?

西山氏:
 そうかもしれません。だから僕も当時,スマホのタッチパネルを使った一番面白い遊びってどういうものかなといろいろ考えて「チェインクロニクル」iOS / Android)になったわけです。
 ですがいまお話した通り,最近はソフトウェアのイノベーションが顕著に起きていると思います。ブロックチェーンや生成AIがいい例ですね。こういった新しい技術やビジネスモデルへの対応も,喫緊の課題だと思っています。
 なので,生成AIだろうが,ブロックチェーンだろうが,手を動かして新しいイノベーションへの理解度を高めていくことは必要だと思うんです。でも大手,特に上場企業は,まだまだそういったことに取り組みづらい状況にありますよね。

4Gamer:
 そういうところはスゴロックスが埋めてくれる?

西山氏:
 そういうことです。


プロデューサーの役割と重要性


4Gamer:
 しかしゲーム業界の課題みたいな話でいつも思うんですが,ゲーム業界での「プロデューサーの立場」ってちょっと低くないですか?

西山氏:
 そう! ゲーム業界でプロデューサーの価値が低すぎるの,すごく嫌なんですよ。

4Gamer:
 低い……というかあまり重要視されてないというか。誰でも経験あればできるだろみたいなところがある。

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西山氏:
 エンタメは全般そんな感じがありますよね。まあでも音楽とかだと,プロデューサーは事務所レーベルとかとひも付いている部分があるので,一概には言えないのかもしれませんけど。

4Gamer:
 なるほど。

西山氏:
 ゲーム業界はそういうのないですね。デベロッパーとパブリッシャーみたいにして,関係を矮小化しますよね。本当はプロデューサーにも得意ジャンルとかがあって,そのプロデューサー自身が高く買われる世界があるべきだと思うんです。

4Gamer:
 クリエイターは割と重要視されてますけど,プロデューサーはまだまだですよねえ。

西山氏:
 そういう事例がたくさん出ないとダメですよね。これは売っちゃいけないとか売れるとか,そういうことをちゃんと見極められる人が,ゲーム業界にはいるんですよ。皆さんあんまり知らないと思いますが。

4Gamer:
 確かに仰る通りですね。

西山氏:
 まあでもプロデューサーだから,「会社で売ってもらってる」っていうのはありますよね。社内にそういうファンクションがあって,より効果的に動けて……みたいな。

4Gamer:
 それはそのとおりなんですが,「フリーの編集者」みたいなそういう立ち位置があってもいいと思うんですよね。一時的に会社に雇われて,一発ヒットタイトルを生み出して,やり遂げたら次の依頼主の所に行く,みたいな。

西山氏:
 そういうのは将来的にはいいかもですね。
 でも今の話で言うなら,僕はラインアップを会社に決められて売ってる気はさらさらなかったですよ。

4Gamer:
 まぁ西山さんは,そういうのあんまりなさそうです。

西山氏:
 コーエーテクモゲームスさんがどんだけ三国志IPで強くても,「出すべきだ」と決めたら「三国志大戦」を出すんですよ。あのタイミングでタワーディフェンスのゲームがどんだけたくさん出てても,あのタイミングで「セガがタワーディフェンスでRPGを出せば勝てる」と思ったから「チェインクロニクル」を出しました。

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関連記事:アーケードで大人気の対戦型カードゲーム「三国志大戦」はいかにして作られたか


4Gamer:
 そういうのってマーケターみたいな人があーだこーだ言うのとは全然違うレイヤーでの話ですよね,きっと。

西山氏:
 もちろんそうだし,上司が「やれ」って言ったわけでもないですよ(笑)。
 先ほどお話ししたように,僕はプロデューサーの立場が低すぎるのが嫌なんです。これは僕の目標の一つなんですが,プロデュースカンパニーを自称する,スゴロックスという会社が頑張って,「あ,プロデューサーがいるだけでこんなに変わるんだ」という成功体験を,色んな会社さんに感じ取ってもらいたいですね。
 そうすれば,僕らが勝ち続けている限り,「プロデューサーの価値は高いのだ」という空気感を作れるじゃないですか。

4Gamer:
 しかしそういう,西山さんがプロデューサーとして,何か意思決定をする時のルールは明文化されてるんですか?

2012年稼働の「maimai」。洗濯機みたいな独特の形状が,もうすでに人目を引く
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西山氏:
 ルールといえるかは分からないですが,「圧倒的一番」が存在するジャンルがいいとは,いつも考えていました。「一番」に喧嘩売って勝ったら,それはもう「圧倒的勝利」ですよね。
 「三国志大戦」を出そうとした時,市場にはコーエーさんの三国志しかなかったわけで,三国志というIPにおいてはコーエーさんが一番なんですよ。そこに並び立つゲームが作れれば,それはもう勝ちです。
 「maimai」を出そうとした時も,ゲーセンの音ゲーなら実質KONAMIさんしかなかったわけで,KONAMIさんと並び立つ存在を出せればそれはもう勝ちですよ。

4Gamer:
 なるほど。言葉で聞くと割と分かりやすいですね。実行できるかどうかはさておき。

西山氏:
 もうすでに誰かが思い付いて「どうせ勝てないからやりたくない」とか「コスパが悪い」とか,そういう理由で捨てたものでも,自分が思いついて「これはいけるな」と思ってやりたいんだったら,それにしがみついてでも必死にやれっていう話ですよ。


新しいゲーム開発に対するアプローチ


4Gamer:
 そういう「作る」ということに対するアプローチは分かるんですが,では「新しい時代のゲーム開発のアプローチ」についてはどう考えてますか? AIを始め急激に進化するIT関連についてどう向き合うか……という話だと捉えてもらってもいいです。

西山氏:
 んー,結局テクノロジーはずっと進化してるんですけど,それに呼応するハードウェアがないんですよね。僕は元がアーケード屋さんなので,どうしてもそこが(笑)。

4Gamer:
 さっきの話ですね。

西山氏:
 そう。要は,画期的なインプットデバイスがないということです。ゲームってやっぱりインプットデバイスが重要で,インプットがあってアウトプットがあって,そこに心が動かされるから,ゲームが成立したりするわけですよ。

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4Gamer:
 おっしゃることは分かります。

西山氏:
 それで,インプットデバイスで心が動くような,そういうことができるメディアがもうないんですよ。だから,アーケードなんかもそうですけど,そういうとこで食ってる人たちは厳しくて。

4Gamer:
 いままでは西山さんも,そういうところに主軸を置いてきた?

西山氏:
 例えば,Xboxのタイミングを狙って,Chihiroっていうアーケードゲーム用基板を作って,それで「ハウス・オブ・ザ・デッドIII」を出して……。

※セガとマイクロソフトが共同開発したアーケードゲーム用の基板。西山氏が触れているようにXboxがベースになっているので,この基板で作られたものはXboxへの移植が容易だという特徴がある。

4Gamer:
 懐かしい話が。

西山氏:
 そういうことは僕もやってることです。それこそ,スマホの「チェインクロニクル」なんかもそうですよね。
 ハードウェアのイノベーションに対して,どんな新しいエンターテインメントが提供できるか,ということをずっとやってるんですけど,今はそういった新しいハードウェアがないだけなんですよ。
 じゃあそれに代わるものをと考えたときに,それがブロックチェーンだとして,じゃあブロックチェーンがゲームを面白くするにはどうしたらいいんだろうとか,AIがゲームを面白くするにはどうしたらいいんだろうとか,ユーザーが楽しいと思える体験をどう作るんだろうとか,そういうことを真剣に考えればできるんじゃないかと思っています。

4Gamer:
 なるほど。ブロックチェーンはそこにつながってくるんですね。

西山氏:
 繰り返しですが,今はソフトウェアのイノベーションの時代ですよね。ブロックチェーンやAI,Web3など,新しい技術をゲームにどう活かすかが重要になってきてます。

4Gamer:
 ブロックチェーンにも大きく絡むっぽいですよね。最近の噂では。

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西山氏:
 まぁ(笑)。でも,例えば僕がブロックチェーンを使ったゲームを開発するとして,単にトークンを発行するだけじゃあダメ。プレイヤーとメーカーの間の関係だけじゃなくて,外部からの資金流入を促すような仕組みが必要だと思うんですよ。

4Gamer:
 確かにそういうことを推進するようなゲームデザインはまだ見たことないですね。大体内部でなんとなく完結しちゃってて,それがゆえにすごく入りづらい。ほかにもなんか新しいアプローチってあります?

西山氏:
 もちろんAIの活用も考えてますよ。でもそれはイラスト書かせたりNPCにしゃべらせたりとかそんなことじゃなくて,例えば,対戦ゲームで新しいプレイヤーが上達する達成感を作るのにAIがあるといいかもしれないとかね。あとは,ユーザー参加型のゲームに絡めるとかかなぁ。

4Gamer:
 クラウドゲーミングは?

西山氏:
 みんなすぐ撤退したからなぁ……。
 クラウドゲームで,めちゃくちゃいろんなことができたはずなのに,みんなたぶん,短期的にコスパが悪いとかそういう理由で終わったんですよね。そのときに,食い下がってぶら下がってそういう技術を見続けるような習慣が,今なくなってるんですよね。昔は日本のゲーム業界にもたくさんあったのに。

4Gamer:
 コスパ言われると新しいことは何もできないですしねえ。というか,5G時代のいいコンテンツになるかなと思ってたんですけど。

西山氏:
 クラウドゲーミングネイティブのアプリケーションを作ってやるとかっていう話になるとコスパ悪いけど,例えばまず「いまあるゲームをクラウドにしよう」とか,やりようは結構あるのに。

4Gamer:
 Tencentなんかもそうやって動いてましたけど,やっぱりそっち方面ではうまくいってないですね。

西山氏:
 パケット量の問題とかトラフィック量の問題とか,重要な部分は全部コスト絡みですからね。

4Gamer:
 それで大体ビジネス化が諦められた節があります。

西山氏:
 逆に言うとそれは,どういう形だったら成立するのかとか,こっちの方がいいんじゃないかとか,考えればいいだけのことで。まぁ結局,何が起こったかというと,クラウドゲーミングは縮小傾向になってしまったわけです。

4Gamer:
 代わり……というわけじゃないでしょうけど,大手メーカー皆さん割とSteamにご執心ですね。

西山氏:
 まぁeスポーツの普及や,なにかしらの理由でハイスペックPCが増えたりとかしてて,PS5でなんか作るってなるとやっぱコスパ悪いなとなって,今はSteamに注目が集まっている感じがしますね。

4Gamer:
 ちょっと前までは,見向きもしなかったんですけどね。

西山氏:
 まあ何かしらみんなアレやれコレやれって言ってはいるんでしょうけど,ちゃんとその後を追っかけることはしないですね。使えないと思ったらやめ。
 うちみたいな小さい会社であれば,そういうのもちゃんと追い続けようとか,試しておこうとか,そういうことをやれるんですよ。そこは結構強いかも。


業界経験者による教育・メンタリングの必要性


4Gamer:
 スゴロックスではまだそこまで本格的に……というフェイズじゃないかもしれませんけど,最近よく話題に出る「ゲーム業界の人材育成」についてはどのように考えてますか。

西山氏:
 言うまでもなく,人材育成は業界の未来にとって非常に重要だと考えてます。特に若手クリエイターの育成に力を入れたいですね。

4Gamer:
 お,何か具体的な取り組みっていま考えてたりするんですか?

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西山氏:
 そもそもの問題意識として,ゲーム業界にエントリーしてくれる人っていっぱいいるんですけど,昔に比べると「入ってみたらギャップがあった」とか「期待と違った」みたいな事例がすごくあるような気がしますね。

4Gamer:
 ギャップというのは?

西山氏:
 なんと言うか,「選考の段階や入社研修で会社側からいろいろ共有しておくべき」だと思うことがいっぱいあったんです。もちろん,入社研修やメンターを担当する人達も,全員が業界の事を知り尽くしているわけではないので,ある程度は仕方がないのかもしれないですが。
 なのでそのギャップ自体が問題というよりは,結局その「ギャップを感じた子たち」がゲーム業界を嫌いになったり,足を洗っちゃったりするでしょ。それがすごくイヤだった。
 業界に関わる人が減らなければ,業界そのものは底上げされていくはずなんですよ。なので業界全体のためにも,そういうところにも何かコミットしたいですね。

4Gamer:
 どの業界,どの会社でも起こりうる問題だし,とても深刻な問題であることは分かるんですが,どのような対処がいいと思います?

西山氏:
 ベテラン勢がメンターに付いたりとか,いろんな対処法があると思います。
 例えば専門学校とかで必要としていただけるようであったら,講義という形がいいのか,それこそ実験的なカリキュラムを作ってみたりとか,いろいろやってみたいですね。まさに最近,滋慶学園COMグループの教育顧問として参加させていただくことになりましたので,そこはもう絶対やりますよ。

4Gamer:
 レクチャーするということですか。

西山氏:
 はい。そうですね。たぶんご経験があると思いますけど,人に教えるということは,自分も教えられるということなんですよね。言語化することでやっと,自分の言いたいことが分かるというか。
 自分自身の成長のためにも,それがひいては業界全体の底上げへとつながっていくという気持ちで,やっていきますよ。

4Gamer:
 業界全体の底上げは今後ますます重要になると思うんですけど,西山さん的にはそのあたり,今後の教育以外での展望って何か具体的なものはありますか?

西山氏:
 具体的……と言われると難しいですが,業界貢献は今後もずっと続けていきたいと考えてますよ。で,僕が業界で通じなくなったら開拓地に行きます。

4Gamer:
 開拓地?

西山氏:
 場所変えですね。開拓地に行って新しい人材を育てて送り込むような感じで,業界貢献はずっとやっていくと思います。


対戦ゲームへの強いこだわり


4Gamer:
 そろそろお時間なんですが,最後にそれ言うかっていう感じですけど,西山さんって基本的には「対戦ゲームの人」ですよね。

西山氏:
 そうですね。僕のゲーム開発の根底にあるのは,常に対戦ゲームへのこだわりです。

4Gamer:
 対戦ゲームにこだわる理由は何でしょう?

西山氏:
 知ってます? 対戦ゲームって,運の要素が重要なんですよ。失敗したときに人のせいにできる。例えば「出目が悪かったから負けた」と言えるから,対戦ゲームは面白いんです。常に100%自分の実力で負けてるとなると,対戦ゲームってきついだけですからね。

4Gamer:
 なるほど運が重要……。でも格ゲーなんかはちょっと別な感じがしません? 己を突き詰めていく競技で偶然性がほとんどなさそうな。

西山氏:
 そう。すごく日本人らしいですよね。サムライ的。
 まぁ僕は常に新しいことにチャレンジし続けますよ。でも,一人用のゲームは絶対作りません!

4Gamer:
 ブレないですね。

西山氏:
 必ず人と人が関わるゲームを作ります。そして,そういう諸々を通じて日本のゲーム業界全体を活性化させて,世界で再び競争力を持てるようにしたいですね。
 そして50億円貯まったら自社パブリッシングもやって,世界一の対戦ゲームを作りたいと思っているので,ぜひぜひ今後ともよろしくおねがいいたします!

4Gamer:
 自社パブリッシング始める日を,楽しみにしてます。今日はありがとうございました!

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――――2024年6月7日
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