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[GDC 2025]“アツい”ブラジルゲーム産業の源泉は日本!? 盛り上がりのために奮闘するキーパーソンに話を聞いた
彼らは2021年ごろから急激に露出が増えた印象で,2023年のGDC 2023では取材を試みたし,gamescom 2023では国家パートナーとして大きなプレゼンスを示していた。東京ゲームショウ2023でもブースを出展していたことは,参加者なら覚えているかもしれない。
また,2024年からは同国内で最大のゲームイベントだったBIG Festivalが,gamescomとの提携により「gamescom latam」に変更された。66の国と地域から700社の大小ゲーム企業がブースを構え,前年イベントの2倍となる10万人の来場者をサンパウロに集結させる大成功も収めた。
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2023年に公開された報告書によると,事実,ブラジルのゲーム産業の成長はすさまじい。現在では国内で認知されているゲーム企業が1000社を超え,2020年から2022年までの3年間で2600作ものゲームがモバイル市場を中心にリリースされた。人材面も今では,1万2000人ほどの若いスタッフがゲーム開発に従事しているという。
現在の総人口の2億2100万人のうち,ゲームをプレイする人が1億300万人もいるといい,中南米で最大のゲーム市場も抱えていることは,産業の育成という点でも大きな追い風になっているのは間違いない。
そうした状況下で,アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコで開催されたGDC 2025の期間中,「Abragames」(Brazilian Game Developers Association / ブラジルデジタルゲーム開発者協会)のCEOであるロドリゴ・テラ(Rodrigo Terra)氏と,同組織の輸出プログラムを担当するエクスクルーシブ・マネージャーのパトリシア・サトウ(Patricia Sato)氏に話をうかがったので紹介しておこう。
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4Gamer:
まずは,Abragamesという組織について教えてください。
ロドリゴ・テラ氏(以下,テラ氏):
Abragamesは,ブラジルにおけるゲーム開発業界の強化を目指す非営利団体として,2004年に発足しました。
主な目標は,各社代表との対話を通じて業界を組織・調整・促進すること,業界への理解を深めること,イベントやパートナーシップを促進して国内ゲーム業界をさらに発展させることです。
20年ほど前に発足した当初は20社ほどしか集まらなかった,いや正確に言えばそれしかゲームスタジオが国内になかったのですが,今ではメンバーシップが1000社を超えるまでに成長しました。
4Gamer:
2000年以前は業界的にどのような状況だったのですか?
テラ氏:
ゲームデベロッパ自体は1980年代から存在しましたが,学べる場所も機会もない時代でしたから。そのころは大学のエンジニアやアーティストが独学し,ゲームを作っていた程度でした。
おかげでゲームを作りたいという意志がある人は,そもそもカリフォルニアだとかカナダのモントリオール,スウェーデンやフィンランドのようなゲーム開発が盛んな場所に流出してしまっていたのです。
4Gamer:
いわゆる頭脳流出の問題ですね(知的人材が外国に出稼ぎに行き,戻ってこない現象)。以前,ポーランドの開発者を訪ねたとき,彼らも同じ状況であったと聞いたことがあります。
テラ氏:
そうですね。実際,Abragamesも2004年の発足以降,しばらくして活動することもなくなり停滞してしまっていました。それから2012年に再興してあらためて企画したのが,「BIG Festival」(Best International Games Festival)だったのです。
このころになると,イベントにも170スタジオが参加するようになり,徐々に盛り上がりを体感できるようになりました。さらに時間を進めると,2023年にはgamescomとの提携によって,BIG Festivalは「gamescom latam」に生まれ変わります。
同じく2年前,AQUIRISという企業が買収されてEpic Games Brazilとなりましたし,次第に大きいスタジオや雇用先も生まれて,国内のエコシステムがどんどん成長してきたのを実感しています。
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4Gamer:
輸出プログラムはどのようにして生まれたのですか。
パトリシア・サトウ氏(サトウ氏):
当初は,組織を再興させた2012年に整備したプログラムですが,最大の目的は「国内企業が国際化するお手伝い」でした。ゲーム産業というものは,1つの国だけでは成立しないものだからです。
先ほどの話の続きになりますが,我々がイベントに出展すると学生たちが続々とやってきます。それは,アメリカやヨーロッパのGDCだとかgamescomのような場でも同じで,若い人たちが海外でゲーム作りを学んだり,就職を求めたりしている様子がうかがえます。
我々の目標も,彼らがブラジルで起業し,国内に仕事を呼び込んだり,海外へゲームを輸出したりできるような土壌を強化することなのです。
4Gamer:
なるほど。
テラ氏:
少し話は変わりますが,ブラジルのゲーム業界のルーツは,アメリカでもヨーロッパでもなく,日本にあると私は思っています。
1980年代にブラジルで育った子供たちは,日本のアニメを見たり,任天堂のゲームを遊んだりしてきました。もちろん,Electronic ArtsやActivision,Epic Gamesといった大手のゲームも今では人気が高いですが,産業としてゼロから始まったのではない我々のルーツをたどっていくと,やっぱりそれは日本にたどり着くのです。
4Gamer:
そんな歴史があったのですね。
テラ氏:
実際,任天堂がブラジルに投資し始めたのは時代的にかなり早く,90年代に支部を設立後,一度は撤退しましたが,Switchで再び盛り上がってきました。セガも1987年にTectoyというサンパウロにある電子機器メーカーと提携し,メガドライブの製造やサポートをつい最近(2017年)まで行っていましたしね。多くのブラジル人は,日本語と英語をメガドライブで学んだと言っても過言ではないです(笑)。
PlayStation 3もブラジルで中南米地域向けに一部生産されていましたから,日本のゲームビジネスとは関係が深いのは間違いありません。
4Gamer:
ブラジルでそれらの名機が人気だった話はよく聞きましたしね。
サトウ氏:
ちなみに,サンパウロがブラジルのゲーム産業の中心地となったのも,ブラジル最大の人口を持つ都市というだけでなく,日系人が多いため,そうした文化が育まれていった結果だと思います。
ポルトガル語に翻訳されていない,アメリカや日本から直接輸入した中古カートリッジを取り扱うショップなども多くありましたから。日系人じゃないブラジル人が,それらで日本のゲームを遊びたいのなら,日本語を勉強するしかなかったんです。
私もファミリーネーム(サトウ)で分かるように,おじいちゃんが日本人ですし,ブラジルのゲームシーンはつい最近まで,そうした文化が広がっていたわけですよ。
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4Gamer:
ほほう。最近だとモバイルゲーム市場が強いと聞きましたが。
テラ氏:
そうですね。ただし,近い将来にはPCゲームが主流になるかもしれません。ブラジルでは,ゲーム以外にも使えるという利便性からモバイルやパソコンでゲームを遊ぶ人が多く,それでいて昨今は家庭用ゲーム機よりもパソコンのほうが安価に入手できるというのが理由です。
しかし,プレミアムなゲーム体験を求めるユーザー層は確実に増えていて,そうした人たちは家庭用ゲーム機を求める環境ができあがってきているのも事実です。それに伴い,ゲーム業界を目指す若者も増えているので,国内でいいサイクルが生まれつつあるわけですね。
4Gamer:
ゲーム開発向けの教育やインフラなどは整っているのでしょうか。
テラ氏:
私は教壇にも立つ研究者でもあるのですが,ブラジルの公共教育システムはヨーロッパモデルをベースに幼児,基礎,中等までの14年の義務教育があり,そのうえに高等教育である大学があります。
ですが,カレッジ(専門学校)がないのでゲームに関して専門的に教える場所は存在しませんし,大学までコンピュータサイエンスを学べる仕組みがないのが実情です。そのぶん,現状は個人の情熱に頼っているという側面があると思います。
けれど,近年は教育も改革される機運にあり,STEMプラグラム(科学や数学関連の特化型教育)に移行しようという動きもあります。現在は禁止されているiPadの利用なども活発化させることで,貧しい地域での教育格差をなくそうという話し合いも進んでいるところです。
4Gamer:
人口も多いぶん,市場としての潜在能力は高そうですね。
サトウ氏:
若い人口が多いですからね。世界のゲーム市場としてはすでに10位,オンラインゲームにアクセスできるプレイヤーが1億300万人いるという環境も,世界で5位に数えられています。
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4Gamer:
スタンスとしても,gamescomのようなブランドイメージを持ち込むことは,ブラジルが「中南米地域におけるゲームビジネスの中心地である」と表明する意図があるのでしょうか?
サトウ氏:
輸出プログラムからの視点としては,gamescom latamを開催することは2つのメリットがあります。
1つは,GDCのような国外イベントに参加するのと同様に,ブラジル国内のデベロッパの国際的な露出を高めるということ。例えば,ドイツで開催されるgamescom本家や,今回のGDCでは国内スタジオ50社を審査して選ぶことで,彼らの開発中の新作ゲームであるとか,彼らがオファーできるサービスを交渉できる場を提供できるわけです。
しかし,50社というのは,1000社ある国内スタジオの20分の1に過ぎないわけで。gamescom latamで彼らがさらに前進するためにも,まずは国内での活動をとおして,もっと存在感を高めてあげたいです。
4Gamer:
私が初めてブラジル産ゲームに着目したのは,GDC 2013で見かけた「Knights of Pen & Paper」でした。
あのころは彼らが単体で来ていたかと思いますが。
サトウ氏:
Behold Studiosですね。彼らはまだがんばっていますよ。
それこそもう1つのメリットというのは,潜在的な投資家やパブリッシャにブラジルに来ていただき,そうした今はまだ小さくて発信力がないけれど,魅力的な商品やサービスを持つ国内メーカーに出会ってもらう機会を提供したいと考えているからです。
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4Gamer:
2025年4月30日から5月4日まで,2回目の「gamescom latam 2025」が開催されますが,なにを期待できるでしょうか。
テラ氏:
会場に,吉田修平さんが人生功労賞の受賞者として来場していただけることが決定し,私どもも非常に楽しみにしています。
また,会場規模も参加企業もすでに前年を上回っており,入場者数がさらに多くなることは間違いありません。
さらにブラジルパブリオンの展開も,4月の大阪万博でゲームウィークを開催し,8月のgamescom 2025,9月の東京ゲームショウ2025にもブースを出展する予定ですので,これからも日本のゲーム市場との交流が盛んになるよう,活動を続けていきたいと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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「Abragames」公式サイト(英語版)
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