
イベント
「飯野賢治の気になること。2025」開催。今から55年前の5月5日に生まれた,夭折のクリエイターが我々に残したもの
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飯野賢治生誕55周年企画 特設ページ
飯野賢治生誕55周年記念イベント
「飯野賢治の気になること。2025」有料配信ページ
(2025年5月19日23:59まで視聴可能)
今回のイベントは2008年から2011年にかけて,アルファブロガーの草分け的存在であるヨシナガ氏と飯野氏が開催していたトークイベント「飯野賢治とヨシナガの、気になること。」の2025年版という位置づけでもある。会場に詰めかけたファンの顔ぶれは幅広く,1990年代の「Dの食卓」「エネミー・ゼロ」などのファンから,2000年代,2010年代のクリエイティブ(音楽,エッセイ,ブログなどの活動)に心を掴まれた人まで,多彩な文化背景をうかがわせた。飯野氏の多面的な魅力が,世代を越えて愛された証だろう。
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ステージには飯野氏とゆかりの深い人々が登壇した。司会はヨシナガ氏と由香氏が務め,ゲストには「電波少年」シリーズ(日本テレビ)のプロデューサーであり,萩本欽一さん主演のドキュメンタリー映画「We Love Television?」では“欽ちゃん”と“イノケン”を引き合わせた土屋敏男氏,飯野氏が参加していたバンド「NORWAY」のメンバーである音楽クリエイターのTaccs氏,そして飯野氏の著書「ゲーム」(講談社)の企画編集を担当し,文芸誌「ファウスト」の編集長や星海社の代表取締役社長を務める太田克史氏が名を連ねた。
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由香氏は,飯野氏の写真をスクリーンに投影しながら人生を振り返った。幼少期の無邪気な,しかし成長後の姿を思い出させる眼差し。小学校から中学校にかけての急激な成長ぶり。そして高校時代に撮影された3枚綴りの写真は,すでに「飯野賢治」のコアとなる部分が完成していたことを物語る。
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一方,バンタン電脳ゲーム学院(現バンタンゲームアカデミー)の講師を務めた頃から,20代後半にかけての写真は少ない。これは,氏が最も精力的にクリエイティブを追求していた時期だからかもしれない。
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交際中の由香氏とのツーショットや家族の写真は幸せそのもの。しかし由香氏によると,当初の飯野氏はクリエイターとして丸くなってしまうことを恐れ,家庭をあまり顧みない姿勢だったそうだ。
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ただ,第一子を育てたときの経験,第二子の出産に立ち会った際の医師との交流,由香氏のママ友に育児ぶりを褒められたことに「気を良くし」,次第に子煩悩な父親に変わっていった。
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そして晩年も,飯野氏のユーモアを愛する一面は変わらなかった。2010年頃,飯野氏は中華料理店で食事中に倒れ,日本赤十字社医療センターに運び込まれるが,奇跡的な要因が重なり,一命を取り留める。この出来事にインスピレーションを得た彼は「redcross」(赤十字のマークからRedCrossと言い換えた)という曲を発表するも,周囲の人々,とくに由香氏から大ヒンシュクを買ったらしい……。
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太田氏もまた「運良く助かったのだから生活習慣を改めるように」やんわりと伝えたそうだが,この一件で飯野氏は「自分はそう簡単に死なない」と考えたのか,それとも「拾った命だからこそ好きに生きよう」と思ったのか,その生活ぶりはあまり変わらなかったそうだ。そして2013年,心不全により42歳の若さでこの世を去った。
由香氏曰く,生前最後に発した言葉は「死ぬかも」だったそうで,飯野氏らしい楽観とユーモアが滲んでいるのがかえって切なくもある。
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太田氏は飯野氏との出会いを振り返り,「最初,グル(サンスクリット語で師を意味する)に折伏されるかと思った」と語っていた。飯野氏の独特なカリスマ性と,誰をも引きつける素直さが今も強く心に残っているという。
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土屋氏は,飯野氏の自由奔放なクリエイティブ精神に触れながら,現代のクリエイターが置かれた環境の厳しさにも言及する。当時は新しいこと,面白いことを追求すれば受け入れられる土壌があったが,今は新しい挑戦が炎上や批判の対象になりやすい。それでも飯野氏の枠にとらわれない発想は,現代のクリエイターにも大きなヒントになるだろうと述べた。
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ヨシナガ氏は17年ほど前,「気になること。」のイベントの立ち上げ時期に飯野氏と交わしたメールを一部披露し,イベント実現までのエピソードや,二十代半ばの自分にフラットに接してくれた飯野氏の人柄を懐かしんだ。
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そしてTaccs氏は,飯野氏との出会いが自身の人生を変えたと語る。サラリーマンとして働きながら,ノルウェー在住のクリエイターという体でニコニコ動画にYMOのカバー曲を投稿していたところ,飯野氏の目に留まり,バンド「NORWAY」が生まれるきっかけを作った。Taccs氏はこの出会いを機にサラリーマン生活を終え,クリエイターとしての道を歩み始めている。
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[インタビュー]“ゲーム界の風雲児”飯野賢治生誕55周年レコード発売記念,伝説のバンド「NORWAY」メンバーに,飯野氏との想い出を聞く
![[インタビュー]“ゲーム界の風雲児”飯野賢治生誕55周年レコード発売記念,伝説のバンド「NORWAY」メンバーに,飯野氏との想い出を聞く](/games/999/G999905/20250428036/TN/012.jpg)
42歳の若さで世を去った飯野賢治氏の生誕55周年を記念したアルバム「KENJI ENO 55」が,5月5日にデジタル配信される。このアルバムには,飯野氏の晩年に活動していたバンド「NORWAY(ノルウェイ)」の楽曲も収録されている。そこで今回,NORWAYのメンバーに飯野氏の思い出を語ってもらった。
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- ライター:たっつー
- カメラマン:中村ユタカ
イベントの終盤には,GLAYのHISASHI氏からのビデオレターが上映され,飯野氏との交流やNORWAYの思い出がまるで昨日のことのように語られた。また,飯野氏が小学生のときにマイコンで制作し,コンテストに入賞したゲームにも触れ,「データの記憶媒体がカセットテープだったことを利用し,テープの最後にエンディング曲を録音,クリア時に再生させる」という,常識の枠にとらわれないクリエイティブのエピソードを披露した。
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会場では,坂本龍一氏の名作「MERRY CHRISTMAS MR. LAWRENCE」をデヴィッド・シルヴィアン氏が歌った「Forbidden Colours」の,NORWAYによるカバーバージョンが先行公開された(同日YouTubeでも公開)。NORWAY版「Forbidden Colours」は,飯野氏がかつてアレンジした「MERRY CHRISTMAS MR. LAWRENCE」のデータを生かしつつ,NORWAYメンバーが新規にレコーディングしたもの。
なお,飯野氏版「MERRY CHRISTMAS MR. LAWRENCE」は,同氏が制作した55曲を厳選したアルバム「KENJI ENO 55」にも収録されている。
ゲームクリエイター飯野賢治氏が手がけた音楽作品の集大成となる「KENJI ENO 55」,5月5日にデジタル配信決定

2025年4月15日,フロムイエロートゥオレンジは,2013年に42歳の若さで逝去したゲームクリエイター,飯野賢治氏の生誕55周年を記念して,氏の音楽作品の集大成となるアルバム「KENJI ENO 55」を,5月5日に全世界にデジタル配信すると発表した。また,リリースに合わせてトークイベントも開催される。
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- 編集部:Chihiro
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「飯野賢治」の生き様はゲームクリエイター,ミュージシャン,エッセイスト,ブロガーといった枠を軽やかに越境する,それ自体がクリエイティブな表現だった。全編が3DCGムービーで構成された「Dの食卓」や,音声のみのアドベンチャー「リアルサウンド 風のリグレット」でゲームに新たな可能性をもたらしたあとも,多くの作品や人々に影響を残し続けた(筆者も影響を受けた1人だ)。
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2013年にこの世を去ったが,飯野氏のクリエイティブな魂は人々に受け継がれ,今も「気になること。」を追いかけ続けている。
昨今のゲームシーンでは,インディーゲームの隆盛が目立つ。氏の自由な精神,大手プラットフォーマーに対しても譲らなかった姿勢は,現代のクリエイターを勇気づけるものとして,今こそ顧みられるべきものではないかと思う。
筆者は「エネミー・ゼロ」や「リアルサウンド」シリーズ,「Dの食卓2」が制作されていた1990年代半ばから後半にかけて,その過程を追う記事を書くために飯野氏のもとをよく訪れていた。当時,飯野氏から直接,3DO用ソフト「SHORT WARP」をいただいた。
「SHORT WARP」。タイトルロゴはエンボス加工,手書きのシリアルナンバーが入っている
同作は飯野氏とWARP(当時の社名)のメンバーがリリースした3DO用ゲームをまとめて,おまけを加えた「短編集」だ。ジャケット中面の遊び心もすごく,変化球のように見えるが,どこか2000年代以降の活動にも通じるところがあり,多面的なクリエイティビティの本質を映している……かもしれない。
裏面。CEROレーティングの以前,プラットフォーム各社は独自の審査によりレーティング表示を行っていたが,3DOのそれをパロディにしている。いくらなんでも並べすぎ
エイズ予防の文脈でコンドームも封入されていた
飯野賢治生誕55周年企画 特設ページ
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(2025年5月19日23:59まで視聴可能)
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