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ウェールズに伝わる古い古い物語。文庫化を果たした「マビノギオン」で,アーサー王伝説の源流を辿る(ゲーマーのためのブックガイド:第60回)
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印刷2026/04/16 12:00

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ウェールズに伝わる古い古い物語。文庫化を果たした「マビノギオン」で,アーサー王伝説の源流を辿る(ゲーマーのためのブックガイド:第60回)

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 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。

 「マビノギオン」は,“グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国”――つまりは英国を構成する4つの国の一つ,ウェールズの古い物語集だ。
 本邦では2000年に,中野節子氏による完訳本がJULA出版局から出版されているが,その文庫版が2026年2月にちくま学芸文庫から発売されたので,今回はこの文庫版を紹介してみたい。

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「マビノギオン」

著者:不明
訳者:中野節子
版元:筑摩書房
発行:2026年2月
価格:1980円(税込)
ISBN:978-4-480-51341-0

購入ページ:
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 セントジョージ海峡を挟んでアイルランドを対岸に見据えるウェールズは,5世紀初頭に撤退したローマ帝国と入れ替わる形で,ゲルマン系のアングロ・サクソン人に追いやられたケルト系のブリトン人(ウェールズでは同胞の意で“カムリ”と呼ぶ)が逃れた土地であり,アイルランド・ケルト神話に似た独自の神話・民話が伝わっている。ゆえに「マビノギオン」の物語群は,その残滓をとどめたものとなっている。

「ヘルゲストの赤い本(Red Book of Hergest)」は,J・R・R・トールキーンの作中世界で,「ホビット」「指輪物語」などの物語の原典とされる架空の書物「西境の赤表紙本(Red Book of Westmarch)」の元ネタの一つでもある(リンクはAmazonアソシエイト)
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 「マビノギオン」の元となったのは,14世紀初頭に成立した「レゼルッフの白い本」(欠落が多い)と,14世紀の終わりから15世紀にかけて成立した「ヘルゲストの赤い本」と題される中世ウェールズ語写本に共通して収録された,11の散文物語である。
 この一部が18世紀の文法学者ウィリアム・オーウェン・ピューによって紹介され,さらに19世紀の翻訳家シャーロット・ゲストが,「白い本」の物語を現代英語に翻訳するにあたって,付けられたタイトルが「マビノギオン」であった。

 なお,シャーロット・ゲスト版の「マビノギオン」は,1988年に北村太郎訳(河出興産)で,2003年に井村君江訳(原書房)で,それぞれ日本語訳が刊行されているが,シャーロット・ゲストによるウェールズ語の英訳は感覚的な意訳が多く,原典に忠実とは言いがたかった。
 対して今回刊行された中野節子氏の翻訳は,中世ウェールズ語から直接邦訳されたものである。中野節子氏はかつてウェールズ大学留学中に,ウェールズ語の原本からの英訳にも携わったことのある専門家であり,翻訳の信頼性は随一と言えるだろう。

 ならば,ゲスト版には読む価値がないのかというと,決してそうではない。
 19世紀の刊行当時に英国でベストセラーになり,桂冠詩人アルフレッド・テニスン「国王牧歌」に着想を与えるなどの影響を文学界に与えたのは,この英訳されたゲスト版だったのだから。理想を言えば,同じ翻訳者による日本語訳を読み比べてみたいものだが,それはさすがにないものねだりというものだろう。

 なお,ゲスト版「マビノギオン」が英語圏で注目を集めた理由の一つには,英国人の精神的な支柱として根強い人気を集めているアーサー王(ウェールズではアルスル)にまつわるエピソードが,吟遊詩人(バルズ)が詠う古い物語として,そのままの形でいくつも収録されていたことにある。

 中でもアルスルの従兄弟キルッフと,巨人の長イスバザデンの娘オルウェンの結婚をめぐる物語「キルッフとオルウェン」はアーサー王にまつわる,現存する最古の物語と考えられている。エクスカリバーの原型と思しきアルスルの剣カレトヴルッフや,「Fate/Grand Order」に登場して知名度を上げた槍ロンゴミニアトなども,この物語に登場するのだ。

「Fate/Grand Order」に登場する聖槍・ロンゴミニアド(「ますますマンガで分かる!Fate/Grand Order」より)
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 現在の研究では,アーサー王のモチーフとなったのであろう実在の人物は,サクソン人の猛威に晒されるウェールズの軍事的な指導者の一人だとされている。実際,ベイドン山の戦いを含む12の戦いに勝利したという戦士長アルサルの名が,9世紀に編纂された著者不明の「ブリトン人史(ヒストリア・ブリットヌム)」や,ウェールズの歴史書「カンブリア年代記」に現れており,ウェールズを中心に伝説化が進んでいたことが窺える。

 また,「マビノギオン」に登場するアルスル王の宮廷には,執事のカイ(ケイ)や献酌侍従のベドウィル(ベディヴィア),アーサーの甥であるグワルッフマイ(ガウェイン)など,後年,円卓の騎士に加わる勇士たちの名前が見受けられる。彼らはウェールズやブルターニュの別の物語の登場人物でもあり,元々は独立した英雄たちだったようだ。
 ファンタジーRPGなどを通してアーサー王物語に興味を抱いたゲーマーであれば,「マビノギオン」を読むことで,後世のものとは一味違う物語を楽しむことができるだろう。

 もちろん,「マビノギオン」に収められたウェールズの古い英雄物語は,アルスル王ものばかりではない。中でも「マビノーギ四枝」と呼ばれる4篇は,ウェールズの若き英雄たちにまつわる物語で,ダヴェド大公プイスと冥府の国アンヌウヴンの支配者アラウンの友情,乙女リアンノンとの恋愛と別離を描く「ダヴェドの大公プイス」や,アーサー王物語に登場する聖杯の原型のひとつと思しい死者蘇生の大釜が登場する「スィールの娘ブランウェン」など,ユニークなファンタジー英雄譚の宝庫である。

 最後に物語集のタイトルにもなっている「マビノギオン」という言葉について,なかなか興味深い背景があるので,かいつまんで解説しておこう。実を言えば,“マビノーギ”という言葉のはっきりとは分かっていない。
 由来としては,「マビノーギ四枝」のうち,「スィールの娘ブランウェン」「スィールの息子マナウィダン」「マソヌウイの息子マース」の末尾が,“これで、マビノーギのこの物語は終わりとなる”(中野節子訳)という決まり文句で締めくくられているので,これが元なのだが,最初の物語である「ダヴェドの大公プイス」のみ,“これで、マビノギオンのこの物語は終わりとなる”となっている。
 このため,“マビノーギ”はウェールズ語で「息子,若者」を意味する「mab」に由来する言葉で,「若者の物語」を意味するというのが通説ではある。

 シャーロット・ゲストは,この1箇所だけ出てくる“マビノギオン”を“マビノーギ”の複数形と解釈し,物語集のタイトルに据えたのだが,現在ではこれは写字生の書き間違いか何かで,“マビノーギ”自体が複数形だと考えられている。
 とはいえ,ゲストの「マビノギオン」の影響はあまりにも大きく,いまさら変えるわけにはいかないということで,今回紹介した原典訳でもこのタイトルが採用されているわけだ。

山田南平氏の「金色のマビノギオン‐アーサー王の妹姫‐」は,中世ブリテンにタイムスリップしてしまった高校生たちを主人公とした少女漫画だ。タイトルどおりアーサー王伝説を元にしているが,騎士道物語として洗練された後のアーサーではなく,より原典に近いウェールズ神話のアーサー像を描いている(リンクはAmazonアソシエイト)
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 「マビノギオン」におけるプイスとアラウン,リアンノンの物語は,Leaf(アクアプラス)が2005年に発売したシミュレーションRPG「Tears to Tiara」の下敷きとなり(作中ではプイスがアルサルに置き換えられている),源流にあるアイルランド神話の要素は,NEXONのMMORPG「マビノギ」でも大きくフィーチャーされ,我々ゲーマーを楽しませている。
 さらに,そのままズバリな「Tales from the Mabinogion」も開発中で,こちらはStevie Jay Gamesから2026年内に発売予定となっている。Steamによれば,日本語への対応も予定されているようなので,続報に期待したい。

 アーサー王物語や北欧神話に比べると,いまひとつマイナーな感のあるウェールズ神話だが,ジャンルへの影響は決して少なくない。せっかく廉価な文庫版が出たことだし,ファンタジー好きなら,この機会に基礎教養として押さえておくことで,ゲームをより豊かに楽しめるようになるだろう。

 なお,ちくま学芸文庫の原典翻訳は,早めに確保しておかないと店頭から消えてしまいがちなことでも知られている。さあ諸君,書店に急ぐのだ!


■■森瀬 繚(ライター)■■
フリーのライター,翻訳者。クトゥルー神話ジャンルにライフワーク的に取り組んでおり,「クトゥルー神話解体新書2」(コアマガジン),ラムジー・キャンベル作品集「グラーキの黙示3」(サウザンブックス社),「ラヴクラフト語辞典」(誠文堂新光社),「新訳クトゥルー神話コレクション6 狂気の山脈にて」(星海社)などの近著がある。シナリオ,設定考証系のお仕事は随時募集中。
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    マビノギ

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    Fate/Grand Order

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    Fate/Grand Order

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