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倍速視聴,ファスト映画,ネタバレ歓迎――“いま”をサバイヴするための必携書「本を読めなくなった人たち」(ゲーマーのためのブックガイド:第64回)
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印刷2026/06/11 21:30

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倍速視聴,ファスト映画,ネタバレ歓迎――“いま”をサバイヴするための必携書「本を読めなくなった人たち」(ゲーマーのためのブックガイド:第64回)

画像ギャラリー No.004のサムネイル画像 / 倍速視聴,ファスト映画,ネタバレ歓迎――“いま”をサバイヴするための必携書「本を読めなくなった人たち」(ゲーマーのためのブックガイド:第64回)

 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。

 本の紹介に,これほど絶望感を抱いたことがあったろうか。
 今回紹介する「本を読めなくなった人たち コスパとテキストメディアをめぐる現在形」は,ライターでコラムニストの稲田豊史氏による渾身のノンフィクションである。2022年に登場して話題を呼んだ,同著者による「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形」の続編でもあり,まとめて読めば事態の深刻さをより深く知ることができるだろう。

 タイトルは扇情的にも映るが,困ったことにこれが「現実(いま)」なのだ。「映画を早送りで観る若者」「AI依存」「非読化」などなど,キーワードだけでは一過性のように見える事象を,丹念なヒアリングと関係者への取材で追いかけたこの2冊で,筆者はここ20年で感じてきたジェネレーションギャップへの違和感が,すべて解消された。

 本書は,そんな「現実」を理解するのに欠かせない証言を集めたフィールドワークである。Z世代は分からんなどと言っている上の世代は,まずこれを読むべきだ。

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「本を読めなくなった人たち コスパとテキストメディアをめぐる現在形」

著者:稲田豊史
版元:中央公論新社
発行:2026年02月
価格:1100円(税別)
ISBN:978-4-12-150861-4

購入ページ:
Honya Club.com
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Amazon.co.jp
※Amazonアソシエイト


 結論から先に書くならば,本書が主張しているのはこういうことだ。
 失われた30年と呼ばれる日本の経済的衰退。それが回り道を認めない日本社会の閉塞性を加速し,その結果として子供たちへの圧力を高めた。そこにスマホとLINEの普及によりデジタルネイティブ化した環境が加わり,Z世代はサバイバルのために,映像の倍速視聴への順応と,非読AI適応に代表される進化を選んでいくことになったのだという。

 なるほど分かりやすい。
 Z世代とは1990年代後半から2000年代に生まれた世代を指す言葉だ。2026年現在では16歳から30歳前後ということになり,彼らは生まれたときからネットやスマホと共に育ってきた。そして平和でサブカルチャーが豊かであるのに,終わりのない不景気から脱せない,そんな閉塞感を常に感じてきたことになる。

 「いじめ」を回避するためにクラスのLINEグループに参加して,「話題に乗り遅れない」ために話題の動画を倍速でチェックする。上の世代から批判されがちな倍速視聴も,彼らにとっては環境に適応したものに過ぎない。話題に乗り遅れないことは,彼らにとってはリアルなサバイバルなのだから。

 しかし衝撃を受けるのは,これらを裏付ける証言のほうである。
 慣れれば倍速でも作品は理解できるし,つまらないシーンは10秒飛ばしで観たって構わない。本当に面白い作品は,最後まで飛ばし見したあと,ちゃんと鑑賞するのだから,好きなものは好きでいられる。メンタルコストを重視して,地雷は事前にチェックして回避する。だからネタバレも大歓迎だ。観るかどうかは,まず泣ける話かを確認してから決めたほうがコスパがいい。まず最終章を読んで,犯人を確認してから読めば推理小説は2倍楽しめる。

「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 こうした多数のグループヒアリングを通して,本書は現実を浮き彫りにしていく。優れたノンフィクションである。

 しかしこうした衝撃は,我々上の世代にとっての驚きに過ぎないに違いない。
 当のZ世代側からしたら,分かりきったことなのだ。いまさら「事実」を確認する必要はないし,それで自分の人生が変わるわけでもない。友人との会話のネタにもならないし,それより来週の「ワンピース」がどうなるかのほうが,はるかに重要である。
 マーケット関係の仕事をしていたら,言語化のために読むかな,という程度ではないだろうか。

 だから,この記事のこの文章も,ただ虚空に向かって叫んでいるに過ぎないのかもしれない。だが,それでも本書をゲーマーに勧めるのは,集合知に期待したいからだ。

 思うに,ゲーマーというのは環境の変化とその適応に慣れている。とくに競技性の高いゲームでは,数か月ごとに環境が変化するのが普通であり,いつの時代もそれにいち早く適応した若手が勝利を手にしてきた。
 これは筆者の場合,「マジック:ザ・ギャザリング」の競技シーンで感じた所感だが,おそらくほかのジャンル,競技タイトルでもそう違いはないだろう。

 本書が描き出した絶望的な現実に対しても,ゲーマーはきっとサバイバルの方法を見出すに違いない。
 まさに先日,Webメディアの「アナログゲームマガジン」で連載を持っているうめゆ氏が,このテーマの記事をnoteで有料公開していたので紹介しておくが,まさにそのとおり,現実を受け入れたうえでどう対応していくかが,これから文字を書く側に求められていくのだろう。

 著者である稲田氏も語っている。これは始まりなのだと。現状を認識したうえで,さらに何が始まるのか。筆者としては,それが我々ゲーマーにとって幸福な環境変化に落ち着くことに期待するばかりである。

「傀儡后」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 もちろん,これで読書は終わらない。
 まず,本書を読んで筆者が最初に思い出したのは牧野 修氏「傀儡后」である。隕石の落下で異形の地と化した20年後の未来が舞台のSF小説なのだが,この中で若者たちは「イヤコム」という常時接続型の音声コミュニケーションツールで連絡を取り合っている。昨今のオーディブルの流行や,スマホ環境とどこか通じるものがあり, 個人的にも再読したい一冊となっている。

 また,以前に紹介した「汝,暗君を愛せよ」の第3巻が先頃発売されたが,この中の一節に本書と共鳴する箇所があった。

「民は愚かだ。だが、民は賢い。(中略)
 彼らが“正しい方”を選ぶのだ。(中略)
 結局のところ、世界は彼らが選んだようにしかならない。私はそう思う」

 作品紹介は以前の記事に譲るが,ファンタジー世界を舞台にした内政系ライトノベルが,これほど現実と共鳴するとは。いや,「暗君」の価値はそこにあるのかもしれない。こうした共鳴こそが読書の悦楽である。いやはや,まだまだ読書は終わらないのだ。


朱鷺田祐介(ライター)
TRPGデザイン/翻訳を主戦場とするフリーライター。代表作に「深淵」「シャドウラン」「ザ・ループTRPG」など。最近のブームはスウェーデン産TRPGで,「MÖRK BORG」に触発された戦国ドゥーム・メタル・ファンタジー「信長の黒い城」を展開中。蜂蜜酒(ミード)について掘り下げた同人誌「MEAD-ZINE」は,BOOTHにて電子版が購入できる。
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