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印刷2010/04/12 11:54

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奥谷海人のAccess Accepted / 第259回:歴史的作品「Call of Duty」シリーズの舞台裏

奥谷海人のAccess Accepted

 戦争モノFPSとして,世界的に大きな人気を誇る「Call of Duty」は,歴史ある作品というほど古いわけではないものの,今では我々日本人が考える“欧米産ゲーム”の筆頭に来るほどになっている。しかし今年の3月,販売元のActivision Blizzardと開発元のInfinity Wardの間に起こった問題が,我々ゲーマーの前に浮上してきた。今回は,まずCall of Dutyシリーズの歴史を振り返ったうえで,両社と同シリーズに絡む現状を総括してみよう。

第259回:歴史的作品「Call of Duty」シリーズの舞台裏

 

歴史に残る「Call of Duty」シリーズってそもそも何だ?
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Infinity Wardが手掛けたCall of Dutyシリーズは,7年の間に30億ドル(約2790億円)もの収益をもたらしたというモンスターシリーズに成長。とくにコンシューマ市場では,SF系FPSの「Halo」シリーズと双璧を成すほどの知名度を誇るに至っている。できれば,このパッケージデザインのような「買い手に向かって何か叫んでいる仲間」シリーズは続けてほしかったのだが……

「Call of Duty」(コール オブ デューティ)といえば,言わずと知れたActivisionの大人気シューティングゲームだ。音響やスクリプティングをうまく利用し,激しい戦場の様子を臨場感たっぷりに描き上げたことが大いに受け,シリーズの販売総計は5500万本を記録。こと,ここ数年の人気は凄まじく,もはや日本人にとっても,“欧米産ゲーム”の代名詞のような存在になっている。そんなCall of Dutyの第一作が発売されたのは,2003年のことである。
 そもそも,1990年代前半に発売されたid Softwareの「Wolfenstein 3D」(1992年)とともに誕生した「FPS」(ファースト・パーソン・シューティング)というジャンルは,「DOOM」や「Duke Nukem 3D」「Quake」「Unreal」そして「Half-Life」といった,サイエンスフィクションをテーマにしたビッグタイトルによって広がっていく。Call of Dutyのような“戦争モノFPS”は,「Tom Clancy’s Rainbow Six」(これは初期作品はFPS/TPSだったが)などが登場してはいたものの,この頃はまだ,どちらかといえばマイナーな存在でしかなかった。

 そんな戦争モノFPSに大きな転機をもたらしたのが,「D-デイ」として名高い“ノルマンディ上陸作戦”を映像化した,スティーブン・スピルバーグ監督の映画「プライベート・ライアン」(1998年)だったというのは,当時を知るゲーマーなら同意するところではないだろうか。
 2002年にElectronic Artsから発売された,2015開発による第二次世界大戦FPS「Medal of Honor: Allied Assault」には,プライベート・ライアンの上陸シーンを追体験できるかのような,オマハビーチの強烈なステージが収録されており,しかもスピルバーグ氏自身の名前がクレジットされていた。このあたりから戦争モノFPSは急増し,しかも上陸作戦の描写が定番化するようになっていた。
 どの開発チームも,「D-デイのゲーム化で,いかにプライベート・ライアンのような臨場感を達成できるか」という演出力を競い合っていたようにさえ映ったほどだ。

 そんな調子で,D-デイミッション(オマハビーチではなかったが)を含んでいた「Call of Duty」の第1作を開発したのが,2002年に設立されたInfinity Wardという開発会社だ。Infinity Wardは,もともとMedal of Honor: Allied Assaultを開発していた22人のメンバーが, 2015から独立して誕生した開発チームである。
 Infinity Ward設立の理由は,筆者が行った当時の取材で「まだ,自分達の考える第二次世界大戦のゲーム化が行えていないから」といったものであったと記憶している。当時,Medal of Honorシリーズの版権はElectronic Artsの手に渡ってしまっており,2015が次に開発していたものはベトナム戦争をテーマにした「Men of Valor: The Vietnam War」であった。
 そのため,第二次世界大戦へのこだわりを捨て切れなかったメンバーが独立してInfinity Wardを設立したというのは,見当違いではないはずだ。

 また,Call of Dutyがリリースされた2003年,Infinity WardはActivisionに買収されているので,筆者の推測の域は脱しないが,Infinity Wardの独立にはActivision援助があったのでは,とも考えられる。いずれにせよ,2015の路線であった「勇気あるアメリカ兵の活躍を体験」ではなく,「アメリカ兵/イギリス兵/ソ連兵という異なる視点から見たリアルな戦争」というコンセプトを持っていたInfinity WardのCall of Dutyシリーズは,ヨーロッパでも幅広い支持を得ることになった。

 さらに,シリーズを重ねるごとにソフトウェアのテクノロジーが向上し,臨場感や緊迫感も増していったCall of Dutyの人気は,絶大かつ不動のものになっていった。現代の紛争へとテーマを変えた「Call of Duty 4: Modern Warfare」(2007年)は,1年半で1300万本も売れるという,世界的名作に成長する。
 2009年に発売された「Call of Duty: Modern Warfare 2」は,発売からたったの4か月でワールドワイドに1400万本を発売。初日だけで470万本,収益3億1000万ドル(約295億円)という記録は,2008年の「Grand Theft Auto IV」を抜き,歴代最高の座をかっさらった。Modern Warfare 2は現時点でも売れ続けているようで,オンラインでレジストしたユニークユーザーの数が2500万人に達したことが最近ニュースにもなっている。

 

販売元と開発者による,CoDシリーズを挟んだ泥仕合
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日本でも,スクウェア・エニックスからPC,PlayStation 3,Xbox 360向けにリリースされた「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2」。ファンから絶大な人気を誇る作品だが,その内部では金銭に絡む相当ドロドロしたものが蠢いていたようだ。Activisionは,2008年末にVivendi Gamesと合併してActivision Blizzardという社名に変更されたが,本稿では便宜上Activisionに統一している

 そんな歴史に残る大傑作となったCall of Dutyシリーズだが,ゲーマーを始めとする外部の人間には想像もつかなかった大問題が,今年の3月になって突然浮上してきた。
 その第一報となったのは,アメリカではゲーム専用のケーブル局を運営するG4TVのオンライン版サイトで,Infinity Ward内部から「今,会社の外に私服のバウンサー風の男達がウロウロしており,社員が話をしに行っても何も答えない。スタジオ幹部のジェイソン・ウェスト (Jason West)とヴィンス・ザンペラ (Vince Zampella)は,Activisionの役員と会いに行ったまま帰ってきていない」という通報があったという。
 バウンサーというのは,アメリカのバーやクラブの前でIDをチェックする警備員を指すときに使われる言葉だが,用心棒や暴漢という意味に近い。いずれにせよ,そんな私服の大男達がいきなりInfinity Wardに押し寄せてきたのだから,開発者達は「みんなビビッてる」状態だったようだ。

 しかも同日,Activisionは投資家に向けたプレスリリースを発行しており,それによると,Infinity Wardのシニアメンバー2人に「契約違反および反抗的行為が見られたため解雇処分にする」という報告を,アメリカ証券取引委員会に行ったという内容が書かれている。このシニアメンバー2人というのが,ウェスト/ザンペラ両氏だったのは間違いないようで,実際,翌日の3月2日には,ウェスト氏個人のFacebookプロフィールが「飲酒中,職なし」というものに差し変わっていたという。

 そして同3月2日,ActivisionはCall of Dutyシリーズの新戦略を発表。本誌でも詳しくニュースにしているので再度解説はしないが,ゲームの話題だけに限ると,

  • Treyarchによるコードネーム「CoD7」の年内リリース
  • Activision内に新設したSledgehammer Gamesによる,Call of Dutyシリーズのアクションアドベンチャーゲーム
  • アジア市場でのオンラインゲーム展開を見据えた協議をパートナーと継続中

 という三つの展開を発表。ここにInfinity Wardがどのように関わるのかは詳しく語られなかったが,ウェスト/ザンペラ両氏の後釜に,Activision幹部のスティーブ・ピアース (Steve Pearce)氏と,スティーブ・アクリッチ (Steve Ackrich)氏が着任することで,ActivisionはInfinity Wardを完全なコントロール下に置くことになった。

 これに対して反撃を繰り出したウェスト氏ならびにザンペラ氏は,3月3日になって両社が基盤を置くカリフォルニア州最高裁に訴状を提出。それによると,「契約違反および反抗的行為というActivisionの解雇理由はまったくのデタラメであり,Activisionはボーナスを支払いたくないために,我々を解雇したのだ」と訴えたのである。
 実際,大ヒットしたタイトルだけにボーナスは相当な額になると思われ,ウェスト氏らに追従する者がほとんどいないのは,ボーナスがもらえる前に辞職するというリスクを負いたくないからだという見方もあるようだ。
 また,提出された訴状には,契約上はInfinity Ward側にCall of Dutyの版権が残されており,上記のようなブランドの利用は,Activisionが勝手に行えるものではないことも記されているようで,それが本当ならば,今年6月のE3で発表され,10月には発売されるともいわれている“CoD 7”の先行きも不透明になったといえるかもしれない。

 先週,Steamを運営するValveは,Call of Duty: Modern Warfare 2のマルチプレイモードを,4月8日から11日までの期間限定で恒例の“Free Weekend”を開催した。つまり,Call of Duty: Modern Warfare 2を所有していない人にも遊んでもらい,潜在的購買者をさらに開拓しようというマーケティング戦略だ。ダウンロードコンテンツのリリースなどもあり,Modern Warfare 2は依然としてファンの間で盛り上がっている様子だ。
 そんなCall of Dutyシリーズが,開発元と販売元のいざこざによって,将来的な雲行きが怪しくなってきているのは残念なことである。Activision,ならびにウェスト/ザンペラ陣営の動きには,業界のみならず世界のゲーマー達も大きく注目しているのだ。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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