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印刷2017/11/20 12:00

業界動向

Access Accepted第555回:欧米ゲーム業界の新たなキーワード「Games as a Service」

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 GaaS(Games as a Service)という言葉,日本では聞いたことがない人も多いかもしれないが,2017年のショッピングシーズンにおけるキーワードとして,欧米ゲームメーカーでは盛んに使われている。従来の売り切り型のビジネスから,「ゲームとは,継続したサービスのことである」という認識の転換が進んでいるのだが,今週は,そんなGaaSに関連した情報を紹介したい。


理論的にはメーカーとゲーマーの双方が得をする仕組み


 欧米ゲーム業界でよく聞かれるようになった「Games as a Service」(以下,GaaS/サービスとしてのゲーム)だが,大意としては「ゲームを売り切り型のプロダクトとして販売するのではなく,継続的にアップデートを繰り返すサービスとして提供する」となるだろう。必ずしも新しいコンセプトではなく,基本プレイ料金無料のMMORPGは最初からGaaSだったし,「拡張パック」によるコンテンツの追加も古くから行われていた。

GaaSはもともと,短い開発期間で厳しい競争を繰り広げるモバイルゲーム市場で使われ始めたワードで,開発しながら同時に運営も行っていくというサイクルを指すものだった。(画像はスペインのモバイルゲーム企業Social Pointのデータより)
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 GaaSという言葉がことさらに使われるようになったのは,モバイルゲームの過当競争によって無料化が進み,さらに欧米でもFree-to-Playタイトルが普通になった最近のことだろう。背景にはマイクロトランザクション,つまり「ゲーム内課金」あるいは「ゲーム内購入」の整備と一般化があり,すでに大手パブリッシャの大作タイトルでも普通に使われるようになっている。

 メーカーにとっては,定期的にアイテムや新規コンテンツを提供して収入を得,それを使って次のコンテンツを作成したり,サーバーをメンテナンスしたりしてサービスを継続するという,合理的なビジネスモデルだ。またプレイヤーにとっても,アイテムやDLCを購入することで,気に入ったゲームを長く遊べるというメリットがある。

 しかし,このGaaSが最近,欧米ゲーマーの不満の対象になっている。基本プレイ無料のモバイルゲームやFree-to-Playタイトルでは上記の流れが成立するが,彼らが不満を覚えるのは,60ドルもするパッケージ(ダウンロードでもいいが)タイトルが「サービスとしてのゲーム」を建前として,マイクロトランザクションを採用することに対してだ。
 よく話題になるのがElectronic Artsの「FIFA」シリーズで,有償のパックを購入することで良い選手が得られるため,これが“Pay-to-Win”(勝つために支払う)の典型だという。Warner Bros. Entertainmentの「シャドウ・オブ・ウォー」では,要塞を防御するのに役立つ強いオークが有料で手に入る(日本では行われていない)。

Pay-to-Winだと欧米のゲーマーに言われる「FIFA」シリーズだが,Electronic Artsにとっては,7億ドル近いセールスを挙げるビッグタイトルだ
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 こうしたゲーム内課金は現在,「Overwatch」「レインボーシックス シージ」「Forza Motorsport」「Call of Duty」シリーズなど,多くの人気ゲームで採用されている。新たな衣装など,ゲームの進行や勝敗に影響を与えない,熱心なファン向けのアイテムが多いとはいえ,「完成品」として定価でゲームを購入しているのに,追加の出費を求めるマイクロトランザクションに違和感を覚える,という欧米の消費者も少なくないのだ。


批判されるマイクロトランザクション


 大手eコマース企業であるDigital Riverは最近,「Defend Your Kingdom: What Game Publishers Need to Know About Monetization & Fraud」というレポートを配信し,その中で,欧米ゲーム業界が売り切り型からGaaSへシフトしたことで,市場価値が3倍に高まったと報告した(関連記事)。
 レポートによれば,2016年にリリースされた4200本を超えるPCタイトルのうち約4分の1が,定価での販売に加えてマイクロトランザクションによる何らかの追加販売を行っていたという。

 この点について,GaaSの先端を行くElectronic Artsは,「すべてのタイトルがGaaSである」としたデジタル戦略を持っていることを発表している。また,Epic Gamesも「Paragon」「Fortnite」のリリースに伴い,同じ趣旨の戦略へとシフトし,Ubisoft Entertainmentは,収益の75%がデジタル販売によることを公式ブログ「UbiBlog」で明かしたうえで,GaaSへの転換を明らかにした。Square Enix,Bethesda Softworks, Take-Two Interactive,そしてMicrosoftなどの大手パブリッシャもそれに続く構えだ。

「Star Wars: バトルフロント II」は,アンロックに必要なクレジットの多さや,クレートシステムなどが批判された。Electronic Artsはローンチ直前に大きな変更を加えたが,現在「ゲーム内課金」は一時中止されている
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 こうした動きに対して,「ルートボックス」(いわゆる,ガチャのようなものだと言えば,分かりやすいだろうか)など,とくにランダム性の高いマイクロトランザクションに反発する欧米のゲーマーも少なくない。現在,彼らの話題の中心が「Star Wars バトルフロント II」だ。
 ゲームにはキャラクターにアビリティや装備を付加できる「スターカード」が用意されており,これは「クレート」(ルートボックス)を開けることで入手できる。だが,ファンが計算したところ,すべてのスターカードを手に入れるには4528時間プレイするか,有料のゲーム内通貨2100ドルぶんが必要であるという。これについて,コミュニティサイトRedditでの批判が相次いだのだ
 クレートには以前から,「ゲームの達成感を削ぐ」などといった否定的な意見が多かったが,とくにスターカードはプレイヤーキャラクターの能力に影響を与えるため,これがPay-to-Winにつながるというわけだ。

 マイクロトランザクションとは直接関係はないものの,ヒーローキャラクターのアンロックに必要なクレジットが高すぎるという批判も「Star Wars バトルフロント II」では起きていた。Redditのファンが計算したところ,1体につき約40時間プレイしてクレジットを貯める必要があるという。かくして現在,Redditの当該スレッドは炎上中だ。
 こうしたことを受けてElectronic Artsは発売のわずか2日前,すべてのヒーローのアンロックに必要なクレジットを75%オフし,平均10時間ほどのプレイで済むようにしたと発表した。さらにスターカードの中でもレベルの高い「エピック」は,継続したプレイでしか手に入らないように変更されたという。それでも騒動は収まらないようで,本原稿執筆時点で「Star Wars バトルフロント II」のゲーム内課金は一時的に中止されてしまった。

定価で販売するパッケージタイトルで安易にマイクロトランザクションのようなGaaSを導入すると,かえって短命に終わるケースもある
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 マイクロトランザクションと聞いて,筆者が思い出すのが,2015年2月に2Kがリリースした「EVOLVE」だ。課金の仕組みが非常に複雑で,製品の定価59.99ドルのほか,24.99ドルのシーズンパスが用意され,さらに特定のクラスのキャラクターをアンロックするために7.50ドルが必要になるなど,ディスクにすでに収められているコンテンツを楽しむために90ドルの追加料金を支払わなければならないことから,ネットで炎上してしまったのだ(現在は「Evolve Stage 2」として,基本プレイ無料でサービスされている)。


 こうしたことからは,欧米のゲーマーはGaaSを求めながらも,一方でパッケージタイトルのマイクロトランザクションには不満や拒否感を覚えていることが分かる。ゲームの制作本数が絞られ,大作化が進む中,発売した作品をできる限り長く遊んでほしいというコンセプトのGaaSだが,“サービス”とは何なのかについて,メーカーやゲーマーにさまざまなことを問いかけているように思える。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

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