欧米ゲーム業界で吹き荒れる歴史的なリストラの嵐は,実績のあるレジェンドたちの開発スタジオを直撃し,著名クリエイターさえも苦境や引退へと追い込んでいる。巨大資本によるゴールドラッシュまがいのビジネスモデルが崩壊し,中小規模開発の資金調達が不可能に近いレベルに達するなか,かつてない形の「共助のセーフティネット」が胎動し始めた。大ヒットを記録したインディーゲームの成功者たちが,同胞を救うべく立ち上がったのだ。
アタリショックよりも悲惨な現場の実情に喘ぐレジェンドたち
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「Doom」のゲームデザインで世界を席巻し,現代もアイルランドを拠点にRomero Gamesを率いる,ジョン・ロメロ(John Romero)氏とブレンダ・ロメロ(Brenda Romero)氏夫妻は,現在のゲーム業界を取り巻く冷え込みを,そう表現した。
前回の「第866回:ゲーム産業が急ぐ「力技の効率化」の正体と,思い出される岩田 聡氏の言葉」でも詳しく解説したが,現在の欧米ゲーム業界は,ゲーム開発のあまりの高コスト体質とリターンの悪化に耐えかね,歴史的なリストラの嵐が吹き荒れている。
新たに判明したところでは,その余波はFPSの歴史を築いた伝説的スタジオ,id Softwareも直撃した。テキサス州の労働局に提出された開示資料によると,id Softwareを傘下に置くXbox(Microsoft)部門のZeniMax Mediaが受けた人員削減により,id Softwareでは在籍していた約185名のうち136名が一挙に解雇された。
残されたスタッフは独自のゲームエンジン「id Tech」を維持する技術者を中心にした50名足らずであり,中規模なインディースタジオよりも小さなチームになってしまった。
巨大な資金力を持つテックジャイアントの傘下に入るか,資金提供を得られれば安泰であるという,コロナ以前の好景気時と,その直後に続いた巣ごもり需要で起きたゴールドラッシュの神話が,完全に崩壊したのだ。
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先述したロメロ氏の言葉は,彼がid Softwareの創設メンバーの一人であることからの嘆きだけではなく,Romero Games自身がその荒波を被ったからでもある。
Romero Gamesは,大手パブリッシャからの資金提供を受けて新規IPの開発を進めていたが,2025年夏に開発資金が突然打ち切られた。これは,Microsoftが進める大規模なXBOX事業のコスト削減策と重なるタイミングであり,実際にそのパブリッシャはMicrosoftだったとされている。
当時およそ110名ものスタッフが在籍していたRomero Gamesは,プロジェクトの中止と資金枯渇によって大幅なダウンサイジングを余儀なくされ,現在のチームメンバーはたった9名にまで減少した。
なんとかスタジオの閉鎖こそ免れているものの,ゲームの規模を大幅に縮小せざるを得なくなり,細々と開発を続けている。
もう一つ,この資金難の時代を象徴する出来事があった。「Dead Space」の生みの親であり,Sledgehammer Gamesで「Call of Duty」シリーズ3作に関わったのちに,近年では「The Callisto Protocol」を手がけたことで知られるグレン・スコフィールド(Glen Schofield)氏の引退宣言だ。
日本時間の7月15日にゲーム業界からの公式な引退をビデオメッセージという形で表明したことは,お伝えしたばかりだ。
過去のスコフィールド氏自身の発言を見ていくと,彼はこれまで新たなアイデアを持つホラーゲームのプロトタイプを制作し,アクションゲームの開発では決して多額ではない約1700万ドル(約27.5億円)の開発資金を求めて奔走していた。
しかし,提示されたのは「まず規模を1000万ドル以下に抑えろ」という厳しい要求であり,自らが思い描くクオリティのゲームを制作することが不可能だと悟ったスコフィールド氏は,プロジェクトを断念し,業界から去る決断を下したのだという。
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現在の市場でAAAやAA規模のオリジナルタイトルを立ち上げるための資金を得ることは,輝かしい実績を持つクリエイターであっても不可能に近いレベルに達している。人件費を含む開発コストが2015年以降で平均2倍,中規模以上では3倍に跳ね上がっている一方で,投資家やパブリッシャの財布の紐は固くなってしまった。
パブリッシャ側も「確実に大ヒットが狙える大規模プロジェクト」か,あるいは「最小限のコストで爆発的な利益を生む小規模インディー」の両極端にしか投資しなくなっており,これまで業界の多様性を支えていたインディースタジオの多くが,まさに生存の岐路に立たされている。
成功者が後発を救う,自助努力で立ち上がる「インディー・セーフティネット」
興味深いことに,パブリッシャのリストラ旋風と枯渇する投資資金という二重苦に喘ぐ独立系デベロッパたちを救うため,これまでになかった形の「セーフティネット」が機能し始めている。
それは,大ヒットを記録して潤沢な手元資金を得たインディーの「成功者たち」自らが,新たな投資家やパブリッシャとなって同胞を直接支援するという,新しいエコシステムだ。
この動きの先頭を走るのが,「Among Us」の爆発的ヒットで知られるInnerslothが設立した「Outersloth」である。Outerslothは厳密にはパブリッシャではなく,ゲーム開発のための資金提供専門部門であり,彼らが提供する条件は開発者に要求や圧力をかけないデベロッパ・フレンドリーなものだ。開発者が持続可能な形でスタジオを運営しながら,IP(知的財産)の所有権を維持できる仕組みを特徴としている。
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すでに「Dosa Divas」や「Battle Suit Aces」といった,尖ったゲームデザインを持つニッチなタイトルがOuterslothの支援を受けて世に送り出されている。
2026年4月には「Peak」や「Content Warning」を共同開発したスウェーデンのLandfallが,新たなパブリッシングおよび資金提供ブランド「Evil Landfall」を正式に発表した。
Evil Landfallは,1プロジェクトあたり最大100万ドルの資金と,マーケティングやコミュニティ運用のノウハウをセットで提供する。資金を出してもクリエイティブには余計な口を挟まないことを社是とし,すでに「R.E.P.O.」を開発するsemiworkなど,複数のスタジオへの投資実績を積み上げている。
大ヒットホラーゲーム「Phasmophobia」で知られるKinetic Gamesも,年に2〜3本のペースでほかのインディーゲームを資金面からバックアップするパブリッシング事業の計画を発表している。
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彼らがターゲットにするのは,リリースまでおよそ1年を切った,開発の最終段階で資金不足に陥りやすいタイトルだ。こうした「開発の最後の一押し」を救う支援は,過酷な資金調達環境においてゲームを無事にローンチさせるための貴重な救命具となる。
こうした潮流は,欧米だけに留まらない。「Palworld」の世界的大ヒットによって一躍その名を轟かせた日本のポケットペアも,得られた潤沢な資金をもとに独自のパブリッシング事業に乗り出している。自社がインディー開発者として苦労を重ねてきたからこそ,同じ目線に立って野心的なデベロッパのローンチやパブリッシングを支援する動きは,まさにこの共助のエコシステムがグローバル規模で拡大していることの証左だ。
もう1つ忘れてはならないのが,デベロッパ自身が共同所有者として名を連ねる協同組合的な新興パブリッシャであるKepler Interactiveの存在だ。
Kepler Interactiveは,参加する複数の開発スタジオがそれぞれ株式を保有し,共同で経営意思決定に関わるという極めてユニークな「開発者による,開発者のための」組織モデルを採用し,2021年の設立以来,「Sifu」,「Pacific Drive」,そして「Clair Obscur: Expedition 33」などを送り出すほど大きな影響力を誇っている。
この座組みでは,パブリッシャが一方的に有利にならない公平なレベニューシェア(収益分配)が実現するだけでなく,加盟スタジオ同士が技術やリソース,パブリッシングのノウハウを相互に融通し合える強力な共助体制も敷かれている。
現在の過酷な資金調達環境において,彼らの革新的なアプローチは,大手パブリッシャの資本から独立したまま中規模以上の野心的なプロジェクトを維持・創出するための,嵐に対しても実効性の高い「防波堤」として機能しているのだ。
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このようなビジネスモデルに共通している思想は,「締め切りや売上目標による理不尽なプレッシャーを開発チームにかけず,開発者自身が面白いと信じるゲームの核をじっくりと形にさせ,その過程に寄り添うこと」だろう。
伝統的なベンチャーキャピタルや大手金融機関がゲームスタジオの貸借対照表だけを見て投資の可否を決めるのとは異なり,彼らはデベロッパと同じゲーム制作者の目線で作品の本質的な価値を評価する。
大手パブリッシャによる契約破棄や,投資家による理不尽な予算削減要求によって多くのスタジオが崩壊へと追い込まれている現在の欧米ゲーム市場において,これら成功したデベロッパが後発を支援するというインディー開発者たちによる共助のセーフティネットは,かつてないほど重要な意味を持ち始めているのかもしれない。
※次回の掲載は2026年8月3日を予定しています
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。




















