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[GDC 2009#31]ゲームと同様,九死に一生を得た「Dead Space」プロジェクトの秘密に迫る
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印刷2009/03/28 21:01

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[GDC 2009#31]ゲームと同様,九死に一生を得た「Dead Space」プロジェクトの秘密に迫る

Electronic Arts Redwood Shoresシニアプロデューサー Chuck Beaver氏
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 Electronic Artsが2008年のハロウィンにリリースした「Dead Space」(日本未発売)は,不気味なモンスターが徘徊する巨大宇宙船に取り残されたプレイヤーが,脱出のために必死の戦いを繰り広げる三人称視点のアクションゲームだ。開発発表時はそれほど注目を集めてはいなかったが,情報公開が進むにつれて次第にゲーマーの期待が高まり,最終的にはかなりのヒットを飛ばした。メディアによる評価も高い作品である。
 個人的には,カジュアル路線を邁進していると思われたEAから,こんなコアゲーマー向きのバイオレンス度の高い作品が出てくることにも,面白さを感じたものだ。

 現地時間3月27日にGDC09で行われたのは,そんなDead Spaceの開発物語を紹介する「DEAD SPACE: How We Launched the Scariest New IP」(最高に怖いDead Spaceはどのようにローンチされたか)と題された講演。語るのは,Electronic Arts Redwood Shoresで本作のシニアプロデューサーを務めた,Chuck Beaver氏だ。


与えられた予算は最低限,期間は3か月
まさに背水の陣で開発スタート


 このBeaver氏も,Dead SpaceのエグゼクティブプロデューサーであるGlen Schofield氏も,ゲーム開発の経験はあるものの,007やシンプソンズといったライセンスタイトルばかりで,まったく新規のタイトルに挑む機会は,それまで与えられていなかった。

 Schofield氏は2006年,新しいIPを熱心に欲しがっていたEAにDead Spaceのアイデアを売り込んだのだが,上層部は納得せず,その時点では,ベテラン開発者を中心とする小規模なチームを編成することしか許されなかった。与えられた予算は3か月分で,それまでに何かしらモノにならない場合は,最悪クビになる可能性もあったという。
 身振り手振りに冗談を交えて早口で語るBeaver氏の話は軽妙で,深刻さはまったく感じられないが,なんにせよ,そうした時間も予算もないせっぱ詰まった状況で,Dead Spaceプロジェクトはスタートすることになったということだ。

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 Beaver氏らがまず決めたことは,「車輪の再発明はやめよう」ということ。つまり,すでにあるものをベースに,独自のイノベーションを加えていくことにしたわけだ。ただし,あまりにも新しすぎるものは理解されない可能性があるので,そこそこイノベーティブで,そこそこ親しみやすいものを,そこそこの数だけ実装することになった。
 つまり本作は,必ずしも野心に燃えた斬新なゲームを送り出そうという試みではなかったのである。

 ベースとするゲームシステムには,「三人称視点で,カメラはこれまでのTPSと同様の動きをする」「ヘルスパックを手に入れると体力が回復する」「倒した敵が弾薬やアイテムを落とす」,そして「スキルツリーがある」という,ゲーマーにとって馴染み深いものが採用された。
 ちなみに,Dead Spaceの開発スタッフが主にイメージしていた作品は,――お気づきの人も多いと思うが――カプコンの「Resident Evil 4」(邦題,バイオハザード4)とのこと。サバイバルホラーの金字塔として,見習うべきところが多いのだという。

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 これまでのゲームと差別化を図るべく追加する新要素は五つ。Beaver氏曰く,本作のビジュアルイメージであり,パッケージアートにもなっている「宇宙に浮かぶ,ちぎれた腕」の指の一つ一つがその新要素を暗示しているとのことだが,それはたぶん冗談だろう。
 というのも,新要素について具体的な説明を行うとき,まず最初に「Left 4 Dead」の画面写真が映し出され,Beaver氏が「おっと,間違えた。このタイトルは新要素が四つしかない」などと言って笑いを誘っていたからだ。
 それはともかく,彼らが考えたのは以下の五つだ。


・Hologram
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 プレイした人は知っていると思うが,本作の画面にはHUDがない。これは最近のちょっとした流行でもあるので,すごいというほどではないが,インベントリの中身やマップ,仲間との通信などのインタフェースはすべて“In-World HUD”,すなわちホログラムで行われる。
 このようにすることで,HUDがないことが自然になるし,「インベントリを開いているあいだ,ゲームがポーズする」こともなくなり,リアルタイム性を高められる。それになにより,未来っぽくてカッコいいというわけだ。

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 ホログラムで表現しにくい要素,つまり画面にいつも表示されていることが望ましい情報などについては,ちょっと苦労したそうだ。
 試行錯誤の末,主人公のヘルスバーは脊髄部分に表示することになり,状態を示すStasisメーターはその横,武器の弾数は武器そのものに,そして宇宙空間にいるときの酸素量はヘルスバーの上に置かれた。かくして,主人公Issac Clarkeはまるで「クリスマスツリーのようにキンキラになってしまった」(Beaver氏)。


・Weapon
 遠い未来の話なので,未来の武器が登場しなければならない。未来のピストルってのは,やはりレーザー系だろうか……という具合にアイデアを出し合い,ユニークだが,どこかレトロで親しみやすい雰囲気の残る武器をゲームに登場させたという。
 プラズマでワイヤーなどを切断するPlasma Cutter(プラズマカッター),岩石を粉砕するContact Beam(コンタクトビーム),ラフな表面を滑らかにするRipper(リッパー),そして隕石を処理するためのForce Gun(フォースガン)といったものだが,お気づきのように,これらは武器ではなく未来の工作機械だ。
 主人公の職業は無線技師という設定で,歴戦の兵士などというわけではない。ごく普通の人間が,ありふれた工作機械を使って戦うところも武器同様にユニークだし,恐怖感を高めるのに役立っているわけだ。この「恐怖」については,のちほどあらためて説明しよう。

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・Zero-Gravity
 製品がリリースされたあと,海外のレビュアー/プレイヤーを軽く驚かせたのが,本作が意外なほど正統的なハードSFだったところだ。ゲームのところどころで宇宙空間を浮遊するシーンが登場し,そこでは音も消える。そういう場所での戦闘は,無重力特有の動きを要求されることになる。また,無重力であることを利用したパズルなども出てくる。

・Spaceship
 ゲームの舞台となる宇宙船「USG Ishimura」は,小惑星に取り付いて資源を採取/精製する非常に巨大なマイニングシップだ。
 これがどのような外見になるのか,内部はどうなっているのか,資源をどうやって処理するのかなど,多くのコンセプトアートが描かれ詳細に検討された。
 未来だからといって,清潔で能率的な船内ではリアリティがない――実物がないのだから,なにが「リアル」なのかは意見の分かれるところだが,いずれにせよ,多くの労働者が暮らす生活感のあるグラフィックスが求められたのである。

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・Dismemberment
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 モンスターをやっつけるにはヘッドショット一発……というわけにはいかない。倒すためにはさまざまな方法で手足を切断しなければならず,それができなければ,敵はいつまでも攻撃してくるのだ。
 多少のダメージを受けてもおかまいなしに襲いかかってくるモンスターは,グロテスクでインパクトがある。そんなモンスターとの戦闘では,どの部位をどのように切断すれば効率的に倒せるかという,パズル的な戦術が求められる。
 本作では,なぜ手足を切り落とさなければ倒せないかについて,それらしい理由が用意されている。その理由ゆえ,通常の死体についても同様に,手足の切断が要求される。このような前提を用意することで,本作のバイオレンス度はさらに高められているのだ。


 以上のような要素を追加することで,Beaver氏らは,Dead Spaceをこれまでの三人称視点アクションゲームとは大きく異なる存在にしようとした。
 だがこのほかにも,本作には非常に重要なゲームコンセプトが用意されている。「恐怖」の演出だ。


恐怖の演出とは?


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 開発スタッフは,上で説明した五つの要素を盛り込んだ簡単なプロトタイプを作成した。Beaver氏はプロトタイプを,大きな“ああ,なるほど!”であると説明。プロトタイプを作ることで,決定権を持つ上層部だけでなく,開発スタッフ自身も,どんなゲームであるかがイメージしやすくなるわけだ。

 プロトタイプを動かしてみて,Beaver氏らは,本作を形作るべき重要な要素である「恐怖」が欠けていることに気づいたそうだ。講演で実際に紹介されたプロトタイプを見る限り,当然ながら,ほかにもいろいろ欠けてはいたが,つい見た目にとらわれてしまうのは私がゲーム開発の素人だからだろう。
 というわけで,Beaver氏らはこのプロトタイプを元に,ゲームを磨き上げていく作業に移ったわけだ。Beaver氏はゲーム制作について,終わりのない反復作業であり,もちろん「プラン」は欠かせないが,考え続ける「プランニング」こそが必要不可欠であると説明していた。


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 説明を分かりやすくするため,Beaver氏は「Gears of War」を引き合いに出し,同作をはじめとするアクションゲームと,Dead Spaceのようなサバイバルホラーとの違いを説明した。
 Gears of Warの主人公マーカス・フェニックスは,男性ホルモン溢れるリーダーで,恐れを知らず,勇敢に仲間を助ける。自分自身を完璧にコントロールできる,ほぼ間違いなくプレイヤーよりも立派な人間として描かれている。
 それに対してサバイバルホラーの主人公は,異常な状況に置かれた普通の人間であることが多い。力は不十分で,恐怖心に圧倒されてしまうこともしばしば。おそらくプレイヤーと同等か,それ以上に弱い存在だ。Dead Spaceの主人公Issac Clarkeも,まさにそんな人間に設定されている。

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 Beaver氏らの分析によれば,恐怖の演出には3段階あり,それらを織り交ぜていくことで,ゲームが単調になることを避けられるという。
 一つめの「BOO」は,びっくり箱を開けたときのような驚きの演出。例えばドアを開けたらモンスターが飛び出してくるとか,頑丈に見えた壁を突き破って敵が現れるとかいった演出で,これは容易にゲームに盛り込める。

 次の「Dread」(不安感という感じか)。例えば,基地内を進んでいくと,いかにも何かが出てきそうな場所にたどり着き,よく見ると,ヘルスパックや武器がたくさん置かれているという演出。BGMも急に不安感をあおるものに変わったりして,ドキドキさせられた経験があるという人も多いのではないだろうか。
 この演出を盛り込むには,ストーリー作りやマップデザインなどに,それなりの技術やセンスが要求される。

 そして三つめは,こぶしが白くなるほど握りしめてしまうといった意味を持つ「White-knuckle Survival」。この演出は,死に対する本能的な恐怖をあおるものだが,これをより効果的なものにするには,プレイヤーを,ゲームに対して十分自己投影させておく必要がある。
 まあ,このあたりはかなり抽象的な話で,具体例を挙げるのは難しいが,ともあれ本作ではこうした理論に基づき,恐怖の演出が行われていったということだ。

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 ホログラムを使い,HUDをなくしているのも恐怖の演出の一つで,例えば窮地に追い込まれたとき,プレイヤーが「マップを開く」などのボタンを押し,ゲームを一時中断するのを防いでいるわけだ。
 もちろん,恐怖の演出にはBGMやライティングも重要だし,ストーリーが説得力のあるものでなければ,恐怖感は半減してしまうだろう。

 このように恐怖の演出にこだわったことで,Dead SpaceのプロトタイプはEAの上層部を納得させられるものに仕上がった。Dead Spaceのプロジェクトに対して正式なゴーサインが出て,Beaver氏らのクビもつながったわけだ。
 上で述べたように,かなりのヒットを飛ばした本作は,これまでのPC,Xbox 360,PLAYSTATION 3に加え,Wii向けに発売されることが決まっている。公式発表は行われていないが,続編の開発も行われているようだ。

 本作が世界のメディアに向けて公開されたのは,ロサンゼルスで開催された「E3 Media and Business Summit 2008」でのこと。それまではあまり話題になっていなかったが,会期が進むにつれ,多くのジャーナリストから「Dead Space,いいねえ」という声が聞こえてくるようになったと記憶している。
 面白い作品は,おのずから主張をするのだ――と言いたいところだが,実のところBeaver氏らは,ゴーサインが出たあと,ゲリラ的なアピール作戦をあちこちで展開していたらしい。

 ともあれ,少数のスタッフで限られた時間をやりくりし,知恵を絞ってプロジェクトのスターに漕ぎ着けたDead Space。講演が終了すると,Beaver氏は,十分とはいい難い環境でゲームを作っている人も多く含まれていたであろう,聴衆からの喝采を浴びていた。
 このような苦労話が聞けたりすることもまた,GDCの,ひいてはゲーム業界の面白さといったところだろう。
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